「布瑠部、由良由良(ふるべゆらゆら)」
愛里沙はそう呟く。何故こんなことを口走ったのかは愛里沙自身にも分からない。こんな言葉を言ったって何もかわらない筈だ。
だが、その道理に反してその式神は顕現した。
【八握剣異戒神将魔虚羅】
歴代の十種影法術の使い手が、ただ一人として調伏出来なかった最強の式神である。
「何!?」
伏黒甚爾は驚愕した。眼の前の子供が二つ目の術式を使ったことに。その術式がよりにもよって十種影法術であったことに。そして恐怖した。魔虚羅を、その圧倒的力を知っていたが故に。
(全力でいって天逆鉾で一発で仕留める以外、勝算はねぇ。というか、この負傷の時点で詰みだな)
「――ハハッ。碌でもねえ人生だった」
次の瞬間、魔虚羅の剣で伏黒甚爾は死亡した。
魔虚羅は止まらない。最後の儀式参加者を殺すまで。愛里沙の前までやって来て、拳を振るう。頭を殴られて吹き飛ぶ愛里沙。微かに息はあるが、本人の意識は既にない。魔虚羅がとどめの一撃を振り下ろし―――
「ハハハハハッ! コレ、どういう状況!?」
五条悟がその一撃を止めた。
「あれ? アイツ死んでんじゃん。せっかく俺が殺してやろうと思ってたのによぉ!!」
何処か狂気染みた顔でそんなことを言う五条悟。
そんな五条悟に対し、魔虚羅が攻撃を仕掛ける。当たらない。背後の法陣が回る。
「なるほどね。事象への適応か。イイね! お前、実験台決定!! ――【術式反転 赫】」
瞬間、魔虚羅が吹き飛ぶ。すぐさま追い付き、蹴りを放つ。地面に叩きつけられる魔虚羅。
「行くぜ【虚式 茈】」
魔虚羅の対処法―適応していない攻撃で一撃で殺す。
五条悟には、簡単なことだった。
◇◆◇◆◇
目が覚めた。
起き上がると、見慣れた顔が。
「おっ。漸く起きたか」
「……五条さん。ここは?」
「高専の医務室。待ってろ、皆呼んでくるから」
そう言い残し、部屋を出ていく五条さん。
段々と頭がはっきりしてきた。と同時に、あることに気づく。
「思い出せない……。」
原作の記憶が、詳しく言えば前世の記憶が、渋谷事変の冒頭部分を読んだ後から抜け落ちている。その後何が起こったか、自分はその後どういう人生を送ったのか、どうやって死んだのか、0巻の内容もだ。0巻を買ったのはもっと後だったようだ。今ある記憶は、メカ丸が死ぬまでの原作内容の記憶と今世の記憶のみ。どうやら
「目が覚めたって聞いて来たよ、愛里沙。無事で良かった」
夏油さんが入ってきた。
「愛里沙!!」
その次に、天内さんが入ってきて私に抱きついてくる。
「よかった、本当によかった。ありがとう!ありがとう!!」
「こちらこそ、天内さんが生きてて良かったですよ」
本当に良かった。私は、原作を変える事に成功したのだ。
「ちょっといいか?」
「なんですか?五条さん。今、感動の再会なんですけど。」
空気読めないなこの人。
「今の内に聞いておこうと思ってな。お前、自分に術式が二つある理由、分かるか?」
……やっぱりか。
「術式が二つ? どういうことだ悟」
「そのままの意味だよ。愛里沙に、二つ目の術式が刻まれてる。しかも二つ目の術式は十種影法術だ」
「それは、禪院家の!?」
「それで? どうなんだ?」
「……分かりません。」
「………まぁそーだよなぁ。普通、あり得ない事だ。一応お前の血筋を調べたら昔禪院家と繋がりがあったから、十種影法術が刻まれるのは分からなくもないんだが……」
と言われた。
だが、実は私は理由らしきものに心当たりがある。今の私の状況は、受肉した呪霊に近いと思う。体に魂が2つある。もしくは既に二つ目の魂が消えている状態だ。仮に私、つまり転生した魂に光操呪法、肉体の魂に十種影法術が備わっていたなら、この状態にも説明がつく。
まぁちょっとこじつけ臭いけど、それしかこの状態を説明出来ない。受肉した宿儺が自身の術式を使えるのに近いだろうか。多分これが理由だと思う。……というか、
「私の血筋勝手に調べたんですか?」
「イヤ仕方ないだろ……って、
「何ですか?私、何か変な事でも……。」
って
私は体は女でも精神は男の筈なのに!
男を異性として見ることなんて無かった筈なのに!
「ん? どうした?」
「い、いや、なんでもないです。少し、一人称変えて見よっかなー、なんて思いまして。イメチェン?みたいな?」
「そうか。別に何でもいいけど」
「私はそっちのほうが可愛くて良いと思う。絶対にそっちのほうが良いよ愛里沙!」
なんかずっとハイテンションな天内さん。
「愛里沙。皆無事で理子ちゃんも嬉しいんだ、分かってやってくれ。」
基本的には気遣いができる夏油さん。
「そういえば、天元様はどうなったんですか?」
渋谷事変前までの原作の記憶では、天内さんが死んだ後、天元様は安定していたが、ここでは天内さんは死んでない。大丈夫なのだろうか?
「代わりが居たのか何なのか、上からは安定しているとしか伝えられなかった。」
夏油さんが肩を竦める。
「私はいらなかったってことじゃない! まったく、癇に障る!」
「言葉遣い、素に戻したんですね。」
「もうする意味もないしね。これで愛里沙とお揃いだね!」
「あのぉー、どうして私とお揃いになりたがるんですか?」
「だって愛里沙カワイイもん」
「……キャラ変わり過ぎじゃないですか?」
「コレが素」
この後、私達は色々なことをしばらく話して解散したのだった。
主人公、順調に精神が体に引っ張られてきています。その内誰かとラブコメ展開が……あるのか?