夏油さんが呪詛師となった。
どれほど時間を重ねても、私はその事実から立ち直れずにいた。
五条さんが夜蛾先生に報告を終えて戻って来る。
「休暇を与えるから休めってよ」
「……そうですか」
正直、休暇を貰っても、今の私は喜ぶ事が出来なかった。美々子と菜々子の二人とも、今の精神状態では上手く付き合える気がしない。
気を紛らわす為に、部屋に籠もって最近始めた呪具の研究でもしようか。そんな事を考えながら帰路についた。
◇◆◇◆◇
「愛里沙ー。ちょっと来れる?」
私が呪具の研究をしていると五条さんからお呼び出しを受けた。正直乗り気ではないが、行くことにする。
呼ばれた場所につくと、美々子と菜々子、五条さん、そして知っている顔が二人。
「天内さん!! 黒井さん!!」
「お久しぶりです愛里沙さん。お元気……とは言い難いようですが、会えて良かったです。」
「久しぶり、愛里沙!! ……最近寝てないの? 大丈夫?」
二人が私の心配をしてくれる。私は最近ろくに眠れておらず、生活習慣も最悪なため、酷い様子となっていたからだ。
「大丈夫です。で? 今日はどんな用事何ですか? 五条さん。」
私は五条さんに尋ねる。
「いやー、せっかくの休暇だから遊びに行こうと思って。あ、お前に拒否権ナシね。」
来るんじゃ無かった。
◇◆◇◆◇
それから、私は五条さん達に連れられて、色々な場所を巡った。通常であれば楽しい時間になっただろうに、今の私は何も感じなかった。
「……アイツが、呪詛師になったそうね」
休憩に立ち寄った飲食店で天内さんがそう切り出す。
「……はい」
「それで、そこまで落ち込んでいるの? アイツは、アイツの意志で呪詛師になったんでしょ?」
「――天内さんは!悲しく無いんですか!? 夏油さんが、あの人が、無実の人を殺す人殺しになってしまったんですよ!?」
堪えきれなくなって、私は叫ぶ。
「……悲しいよ」
天内さんが言う。辛そうな顔で。
「悲しいし、辛いよ。でも、コレはアイツの意志よ。私達にはアイツの意志を変えられる力は無い。アイツ自身が悪へ逃げてしまった以上、私達は何もできることは無かった。だから、前を向くしかないんだよ」
「助けられたかもしれない!!」
私はついに本音をこぼした。
「私は、夏油さんが苦しんでるのを知っていた!近くで見てきた!夏油さんが相談してくれるのを受け身で待つ事以外にも、できることはたくさんあった!!なのに、私は夏油さんを止められなかった!!あの人が、堕ちるのを止められなかった!!」
枯れた筈の涙が溢れる。
「――おい」
今まで口を閉ざしていた五条さんが急に声を上げた。
「自惚れんな」
「―――え?」
「お前よりも賢くてお前よりも何倍も付き合いの長い俺が出来なかった事を、お前ができる訳ねぇだろ。たかだかその程度の事にクヨクヨしてんじゃねえよ」
五条さんは続ける。
「お前はまだガキだ。ガキが解決出来る程度の問題で傑があんなザマになる訳がねぇ。お前が責任を感じるのはお門違いってもんだ」
「それは……」
「お前が出来ることはこれからの事だけだ。お前はガキだ。だからこそ未来の可能性がある。出来なかった事に躓く暇があったら自分にできることをしろ。夏油みたいなやつを生み出さない為に。アイツの元の願いが叶うように。自分をいつか許せるように。その為だけに生きろ。それが、お前が自分自身にかけるべき呪いだ」
五条さんは、言いたいことは終わったとばかりに飲み物を取りに行く。私は、また涙を流した。しかし、私の目はもう光を取り戻していた。
その後は、思いっきり皆で遊んで帰った。
◇◆◇◆◇
あれからしばらく経った。
今日、私は禪院家に来ている。なんでも、私の遠い親戚であるため、法的になんちゃらこうちゃらあり、世間的には親も引き取り先も無い為に高専の預かりになっていた私を、現当主が義理の娘として決定したとの事だ。
もう既に義理の息子が居ると聞いていたのだが、特級であり、五条悟とも渡り合える実力をもつ私を取り入れる事で、五条家との力関係を変えるつもりのようだ。
そして幼い私に拒否権は無く、今日正式に禪院の子にされた。私はこれまで通り高専で暮らすし、五条さんとの関係も変わらないし、禪院の言う事を聞くこともない。あくまで向こうが勝手に私を〈禪院愛里沙〉にしてきただけだ。
さっさと帰ろうと思っていたのだが、思わぬ人物に出会った。
「お前が禪院愛里沙か?」
こちらに敵意丸出しの男の子から尋ねられる。
「そうだよ。今日から君の義理の姉になる。よろしく、
そう。私の介入により、伏黒パパが五条さんに恵君の事を伝えなかったので、恵君は禪院家にそのまま売られた。十種影法術を持つ恵君にとってはそこまで悪い環境ではなかったけど、伏黒姉こと伏黒津美紀は別。術式も使えない次期当主最有力候補の姉という肩書により、禪院家では酷い扱いを受けているそうだ。だから、禪院家を津美紀の暮らしやすい場所にする、と言って禪院家の当主になる為に恵君は努力してきた。
だが、そこに現れたのが私。私にそんな気は無いが、今までは恵君が当主最有力候補だったのが、私は恵君よりスペック的に優れているし、家を出たろくでなしの子よりも私の方がいいという訳で私が当主最有力候補になってしまったのだ。
だから私は、恵君にとって目的の最も高い壁という事だ。
「お前とよろしくするつもりはない。当主になるのは俺だ」
「そうかい?私は別に当主とかどうでもいいから、君と仲良くしたいんだけどなぁ」
「じゃあなんで禪院家に来た?」
「無理矢理だよ。ほら、ここの人達結構強引なとこあるから」
「……俺は絶対に当主にならないといけないんだ。お前が一番の障害である以上は、お前は俺の敵だ。」
「私は君の敵になるつもりは無いんだよ?何なら、もし君が当主になれなかった時、私が津美記さんを守ってあげてもいい」
「! ……信用できないな。」
「じゃあ信用できるか知る為にも私と仲良くしてくれるかい?」
「……お前を見張るってことなら」
いまいち納得してなさそうではあるが、これで恵君と繋がりができた。思わぬ収穫だ。良かった。
ついでにこの後真衣さんと真希さんにあって、なんだかんだあって仲良くなった。上手く仲を取り持てれば良いんだけど。
◇◆◇◆◇
私は15歳になった。段々と体が成長してきたのだが、些か胸と足周りに栄養が偏ってる気がする。外に居ると、よく視線を感じる事が多くなった。男だった頃ならこのナイスバディは刺激が強過ぎて鼻血すら出たかもしれない。
だから胸や下半身辺りを見てくる男の人の気持ちは分からなくもない。だが、正直気持ちが良いとは言えないので、やめてもらいたいのが本音だ。
最近は何故かわざわざ京都からやって来る東堂君と模擬戦をすることが多い。東堂君は私が気に入ったようで、かなりの頻度でやって来る。
目があうたびに顔が赤くなるので、私の事が好きなのでは? と思ったこともあったが、原作を考えると高田ちゃん一筋だと思うので多分違うと考え直した。ただ、東堂君とのバトルは普通に楽しいし時々一緒に来る他の京都校の人達と話せたりするので普通に来てくれるのは嬉しい。しばらくはこんな平和が続いてほしいものだ。
今日もたっぷりバトッた。
そして五条さんの激励の言葉を貰って11年後、私はついに、呪術高専へと入学する。