子連れの怪物   作:ラスキル

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よければ前作の【悪役を押し付けられた者】を読んで頂いたら嬉しいです。
今作の怪物は少しだけ辿った√が違った感じで行かせてもらいます。

では、どうぞ



第一話【子連れの怪物】

【プロローグ】

 

それは誰もが寝静まる夜に始まった。

 

突如、窓ガラスを砕く轟音が鳴り響き、眠りについていた住民たちを飛び起きさせる。

"災害か、事故か、脳裏に憶測が浮かぶ。ならば避難すべきか?、いや防災アラームのように危険を知らせる物の反応はない。"

だが、戸惑っている時間はなかった。

もう一度、轟音が鳴り響いたかと思うと街全体を激しい炎が包み込んだのだから。

 

燃え盛る町を赤子を抱え走る女がいた。

人一倍早く危険を察知し、子供を抱き抱え外に飛び出したは良いもの、もう既に火の手は回っていた。

辺りは炎に包まれ逃げ場は無い。それでも構わず、女は走り続けた。

 

瓦礫の山を飛び越え、町の出口へと向かう。

倒壊した建物の下敷きになった人々が助けを求めているが、そんな余裕はない。

もとより自分の物以外どうでも良いというのがこの女の信条なのだ。

 

“助けて“、“どうかこの子だけでも“、“お願い、お願いします“と嘆きの声が聞こえる。

 

『チッ』

 

声はどうにも煩わしい。

耳を塞いでしまえば声は無視できる。なにより足を止めている暇はない。今、自分が優先すべきことは娘と共に逃げ出すことなのだ。

 

だから指を走らせた。

 

空中に『ᛉ』の刻印が浮かび上がる。

この行為は声を鎮めるため、決して助けようなどとしたわけではない。

 

ゴゴゴッと、倒壊した建物を押し上げるように無数の大樹が生えてくる。

人が抜け出せるほどの空間があき、動けるものは必死の形相で這い出ようとする。それで助かるか、死ぬかは当人達の努力次第だろう。たとえ建物の倒壊から逃げ出したとしても辺りを包み込む炎は誰一人として逃すつもりはないのだから。

 

 

数十分後。

女は走り続け、やがて気づいた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

なんど外に通じる道を走り抜けても、いつの間にか数百メートル前へと戻されていた。

そうして、女は走るのをやめた。

 

『引き返すか...いや、そう悠長なことはできない。

 せめて、この結界を張っている者を見つけなければ』

 

思考を巡らすこと数秒、女は視線に気づく。

それは背後のビル、その屋上から向けられていた。

 

屋上の影は自身が発見されたと悟る。

彼ら暗殺者にとって相手に目撃されるということは失敗を意味する。ならば一度撤退し、再度機会を狙うのが定石だが。

 

「..........」

 

暗殺者もまた、時間の猶予がなかった。

もう間も無く暗殺者はこの世界から消える。自身を召喚した主人は既にいない。確認をしたわけではないが、令呪を介しての念話ができない以上そういうことなのだろう。

何もしなければ得られる物なくこの世界から退去することになる。

否、それは容認できない。

願いを叶えるために願望機に手を伸ばしたのだ。

現界するための魔力を得られれば、まだチャンスはある。どこかの陣営に取り入りのも良いだろう。最後に出し抜きさえすれば、願いは叶う。

 

幸い、アテは見つかった。

眼下からこちらを見上げる女は、常人にはあり得ぬほどの魔力を有している。

好都合だ、と暗殺者は口角をあげた。

例えあの女が魔術師の類だとしても彼らにとって造作もないこと。

 

『ただいま———にて火災が発生いたしました。 危険は——————が安全の為、———へ避難してください。 ———へ避難して下さい。 ———に従って慌てずに避難して下さい』

 

市内に響き渡る警告音。

町中に敢えて人間の不安を呼び起こすサイレンがけたたましく鳴り響く。

 

一瞬、女の意識が逸れる。

 

それを合図に暗殺者は飛び出した。

 

生身の人間如きに小細工はいらない。

英霊といて聖杯に呼ばれた彼らには、生半可な魔術、銃器等の武器は通用しない。

瞬時に距離を詰め、首を掻っ切る。気配を遮断し生前のように、ただ当たり前のように殺す。

 

あと3歩。

疾風の如き速さで距離を詰めた暗殺者は女の方に視線を向けた。

見た目は二十代前半から後半。

腕には眠り続ける子供の姿。

あと2歩。

だが、ここで違和感が生じる。

ここまで近づいてようやく理解した。

 

———この気配...こいつは人間なのか...?

 

あと1歩。

女と目が合う。

その目は、恐怖に染まっているのではなく、獲物を捉えた蛇のように鋭い物。人間とは思えないほど紅く、血の如き染まっている。

暗殺者は戸惑う。

追い詰めたはずなのに、なぜこの女を恐る。なぜ、自分こそが獲物なのだと認識してしまうのか、と。

いや、そもそも

 

———なぜ、目が合うのだ...?

 

暗殺者は目前で飛び上がり、女の背後にまわる。

その様子を口角を吊り上げ女は見ている。

関係ない。

その首を取れば、それで終わりなのだ。

 

女が何かを口にする。

 

(アンサズ) (ソウェル)———、

 

———なっ

 

女の腕が暗殺者に向けられる。

 

(イングズ)

 

大気を疾る、劫火の導火線。

刻印(ルーン)は空中に浮かぶ人体に刻まれ、コンマ数秒で炎を巻き起こした。

 

「!?———、!!?」

 

内部からの魔術抵抗は意味をなさない。

ルーンは対象を燃やしたのではなく、対象を炎で包み込んだのだから。

 

悲鳴をあげて地面に転げ回る襲撃者。

苦悶に荒れ狂う体、助けを乞うように掲げられる手は、死にかけの虫が蠢くようで、ただただ見苦しい。

転がり回ろうと炎は消えず、暗殺者は息絶えるまで炙られ続ける。

 

「————————————」

 

女の視線は、すでに周りのビル群に向けられている。

生き急ぎの燃えカスなど始めから興味がない。

 

敵は一人ではない。

 

最初に視線を感じた時から女はそれを判断していた。

 

“チッ、まとめて掛かってくれば焼き払えたのに....“

 

腹立たしげに舌打ちしつつ、女は腕を振るう。

 

(エイワズ)!」

 

周囲数百メートル、女を中心にルーンの刻印が刻まれる。

退去(エイワズ)のルーンで彼らの気配遮断スキルを解除し、再びルーンを刻む用意をする。

 

“げっ“

 

顔を顰める。

複数人いるのは判っていた。しかし、これは余りにも多い。多すぎる。

目視で確認しただけでも、ざっと四十人弱。

彼らはそれぞれの暗器を構え、一斉に女を目指して襲いかかる。

 

女は指を振るうが、いかんせん数が多い。

そのため、防御に徹することを選ぶ。これ以上火力を上げてしまえば腕の中で眠るこの娘が危険だ。

女の周りを、ルーンの障壁が覆う。

 

暗殺者たちは百の貌を冠する教団の頂点。

“個にして群、群にして個“、その名に恥じぬ力を以って獲物を捉えた。

 

その時、

 

「———、ガッ」

 

その内の一人が、矢に撃ち抜かれた。

いや、一人どころではない。女を仕留めるために飛び出した暗殺者たちは次々に撃ち抜かれていく。

 

「まさか、アーチャーか!? おのれ、卑怯なっ!」

 

飛来する矢は、正確無比に暗殺者たちの霊核を打ち抜き消滅させていく。

これは堪らないと、運よく矢を避けれた暗殺者たちは退避しようとするが、

 

「———逃すわけ、ないでしょう...!」

「なっ!?キ、キサマ」

 

散らばった個体であれば十分にルーンを刻み込むことができる。八つ当たり気味に“一人一人丁寧に燃やしてやる“、と女は笑った。

 

 

(誰だか知らないけど、腕のいい弓兵ね)

 

あらかた燃やし尽くし、あたりに暗殺者の気配がないことを確認すると、女は名も知らぬ弓兵を探した。

友好的であるのならば、この機を逃すわけにもいかない。

 

「とはいえ、厄介なことに巻き込まれたな」

 

ため息混じりに愚痴を溢す。

暮らしていた家は燃え、サーヴァントには襲われるし、まさに踏んだり蹴ったりと言ったところだろう。

女は弓兵を探すべく、しばらく歩くことにした。

 

「あの弓兵が友好的な人だと有難いんだけど。

 とにかく、お前が安全に寝れるところをみつけなくっちゃね」

 

娘の呑気な寝顔を見ながら女は歩く。

コレは自分の命よりも大事なものだ。決して傷つけさせはしない。

 

と、

 

「呑気なものだ。戦場でよそ見など」

 

背後からの突然の殺気。

 

「っ——————!」

 

振り返る暇もなく、女の首に短剣が振るわれる。

それをしゃがみ込むことでなんとか回避する。

 

「しっ——————」

 

その行動を読んでいたように、容赦なく二対の短剣が女を切り裂くべく叩きつけられる。

それを自身の血液を使用して創り出した盾で防ぐ。

短剣を振るうのは赤い外套の男。

男はしたり顔で言った。

 

「ここまで踏み込めば、ルーンを使うこともできまい」

「!...そうか、お前がさっきの弓兵か」

 

眉間に迫った短剣を弾き、女は忌々しげに口を開く。

弓兵が言った通り、この距離ではルーンを使うことは憚れる。娘を巻き込んでしまうのだ。それだけは避けねばならない。

片手が塞がっている女では彼が振るう短剣を弾くことが精一杯。

打ち崩されて仕舞えば、そこで勝負はつく。

女は少し距離をとり、大地を踏みしめた。

 

「ふっ——————」

 

弓兵が踏み込み、剣を繰り出す。

それを、

 

「なにっ....!」

 

突如、地面から飛び出した無数の剣が弓兵の剣を砕く。

見れば、女が踏みしめた大地からは次々に“宝具“とも呼べるほどの武具が創り出されている。

それは奥の手。

この数千年もの間、女が必要とすらしなかった手である。

武具は女の背後に展開し、敵を捉える。

娘を庇うように体を向け、弓兵に叫ぶ。

 

「弓兵なら弓使いなさいよ弓を、出鱈目にも程があるってのっ!」

 

なにが、友好的だったらだ。英霊に期待などするべきではなかったと、心の中で悪態をつく。

 

弓兵は苦笑し、

 

「それはお互い様、と言っておこう。

 ...いつもの案件だと思っていたんだがね、これは少しばかり骨が折れそうだ」

 

「ちっ」

 

(厄介なもんに目を付けられた)

 

弓兵の背後にも女と同じように、無数の剣が映し出されていく。

それは魔術による投影。

馬鹿げた話だ。この弓兵は弓ではなく剣を取り、あまつさえ魔術を行使するというのだ。

 

無数の宝具が向かい合う。

もはや衝突は避けれず、純粋な力勝負に持ち込まれた。

 

「穿て!!」

「投影、開始。

 装填——」

 

そして、賽は投げられた。




試しに投稿みたいな感じで…

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