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【怪物】
「穿て!!」
そして、賽は投げられた
「——————待ちなさい、アーチャー!」
...かに思えたが、それを制する声に邪魔をされる。
ビルの上からだというのに、透き通るように響く声。
声の主は怒気を孕みながらアーチャーと呼んだ男の側に降り立つ。
「アンタ、なに勝手な行動してくれてんのよ!」
少女はアーチャーに詰め寄る。
「勝手、とはこれは異なことを言う。敵を排除しろというのが君の指示ではなかったかね?」
「そうよ、確かにそう言ったわ。でもね、敵であるアサシンを仕留めた以上、これ以上の戦闘は行わず帰ってこいって命令したわよね、わたし」
アーチャーの態度に苛立ちを隠せない少女。
「そうだな。
だが、そこの
少女の視線がこちらを向く。
「...酷い言われようだ。どっからどう見たって、善良な一般市民にしか見えないと思うんだけど」
「良く言うよ。
お前のような輩は嫌と言うほど相手にしてきた。その中でも、比べ物にならないほどの脅威を感じる。
本来、私の役目はそういった者達の排除でね。今だけは私情を優先したいのさ」
「話にならないなあ。まだやってもない罪を被された気分だよ」
眉間に皺をよせる女。
依然として、武具の展開は解いていない。少しでも動きを見せるのであれば少女ごと撃ち抜けばいい。
お互いに譲らない膠着状態を見かねた少女はため息を吐き。
「アーチャー、貴方の主は誰?」
と、問う。
「いま答える必要性はないと思うが「いいから答えて」...君だ。マスターである君だよ凛」
「そうよね。分かってるならいいわ。
なら、今は黙っていて。貴方が喧嘩腰のままじゃお互い得もしないから」
そう言われてしまってはアーチャーも従うしかない。
サーヴァントである限りマスターの意向は優先しなければならない。
凛はアーチャーに向かって剣を下ろせという仕草をした。
しかし、納得はいっていないようで少しでもマスターである凛を傷つければただでは済ませない、という意思を含んだ視線が送られてくる。
向こうが武器を下げるのであればこちらも合わせる。単純な力比べであれば、絶対に女の方が強い。だが、それも一人であればの話。
優先事項を間違えてはいけない。交戦の必要がないのであれば願ったり叶ったりだ。
「で、一体何者なの貴方?」
凛は女を見た。
一見するとただの母親とその子供にしか見えない。実際、子供にはなんら魔力は備わっておらず言葉通り、ただの一市民にすぎないのだろう。
問題は母親と思わしきこの女だ。
どう考えても異常だ。
そう感じてしまう程の何かがある。言い表すなら、少しでも隙を見せれば一口で食べられてしまう、それほどの悪寒。
これは、人間ではない。
女の背後の影が、醜い何かへと変わっていく。
「......」
女は少し悩んでいるようだった。
正体を話したところで、自身に利点があるとは思えず、さりとて黙って見逃してくれるはずもなし。
アーチャーの言う通り、女は人間の敵であることには変わりない。今は、その気がないだけ。
それを分かってもらうには、正直に答えるしかない。
(...再び交戦することになれば、町ごと吹き飛ばしてしまおう。後処理は知ったこっちゃじゃない)
何秒間か考えたのち、女は口を開いた。
「今は
———『黒き怪物』。
人はワタシをそう呼んで畏れる。」
と怪物は、なるべく笑顔で言った。
言った...のだが、その名を聞いた途端、凛の顔はみるみるうちに青白くなっていき、
「な、な、な...なんたってアンタみたいなのがここに居るのよぉぉぉぉぉぉ!!!」
悲痛な叫び声を上げるのだった。
「あ、アーチャー! お願い、後ろに隠れさせて!」
「あの、できれば大きな声は...」
「ヒッ! こ、こっち来ないでよ!」
凛はアーチャーの背後にしがみ付くように隠れてしまう。
怪物としては慣れた反応なので、気分がどん底に落ち込み涙目になるだけで済むが、問題はそこではない。
そんなに大きな声で騒がれると、
「...う、うぅぅん...ん〜、お父さん?」
ほら、起きてしまった。
目を擦りながら、娘が周囲をキョロキョロと見渡す。
「ここどこ? お家でねんねしてたのに」
「...ちょっと散歩中なんだ。ごめんね、起こしちゃったね」
不安にさせないように、優しく怪物は答える。
そして、凛に向かって“これ以上騒ぐな“と人差し指を口に当てながら視線を送る。
「なんで、お家燃えてるの?」
「さあ、どうしてだろうね。火事か、地震でもあったのかもしれない。
...そうだ、立香。火事の時はどうすればいいんだっけ?」
まるで、遊びのように問いかける。
娘である立香は、しばらく頭を悩ませたがパッと顔をあげ、
「安全なところに避難します!!」
「よくできましたー。
...そういうことだから、ね?」
手をパチパチを鳴らしながら、再び凛の方を見る。
「な、なによ」
「安全なとこ、連れてってくれる?」
“断ったら食べちゃうぞ?“と意味を含ませながらの脅迫。
それにブンブンと首を振ることしか凛はできなかった。
メンタル弱者。
立香ちゃんに嫌いって言われたら泣きます。