子連れの怪物   作:ラスキル

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最近の好きな映画は「ミスト」です。あの救われない感じが良い…

よければご感想や評価など頂けたら嬉しいです♪


第二話

【怪物】

 

「穿て!!」

 

そして、賽は投げられた

 

「——————待ちなさい、アーチャー!」

 

...かに思えたが、それを制する声に邪魔をされる。

ビルの上からだというのに、透き通るように響く声。

声の主は怒気を孕みながらアーチャーと呼んだ男の側に降り立つ。

 

「アンタ、なに勝手な行動してくれてんのよ!」

 

少女はアーチャーに詰め寄る。

 

「勝手、とはこれは異なことを言う。敵を排除しろというのが君の指示ではなかったかね?」

 

「そうよ、確かにそう言ったわ。でもね、敵であるアサシンを仕留めた以上、これ以上の戦闘は行わず帰ってこいって命令したわよね、わたし」

 

アーチャーの態度に苛立ちを隠せない少女。

 

「そうだな。

 だが、そこの()()()()()()()()()()も、私の敵であることには変わりない。排除すべき対象が目の前にいるのに、君は背を向けて帰ってこいとでも言うのかね?」

 

少女の視線がこちらを向く。

 

「...酷い言われようだ。どっからどう見たって、善良な一般市民にしか見えないと思うんだけど」

 

「良く言うよ。

 お前のような輩は嫌と言うほど相手にしてきた。その中でも、比べ物にならないほどの脅威を感じる。

 本来、私の役目はそういった者達の排除でね。今だけは私情を優先したいのさ」

 

「話にならないなあ。まだやってもない罪を被された気分だよ」

 

眉間に皺をよせる女。

依然として、武具の展開は解いていない。少しでも動きを見せるのであれば少女ごと撃ち抜けばいい。

 

お互いに譲らない膠着状態を見かねた少女はため息を吐き。

 

「アーチャー、貴方の主は誰?」

 

と、問う。

 

「いま答える必要性はないと思うが「いいから答えて」...君だ。マスターである君だよ凛」

 

「そうよね。分かってるならいいわ。

 なら、今は黙っていて。貴方が喧嘩腰のままじゃお互い得もしないから」

 

そう言われてしまってはアーチャーも従うしかない。

サーヴァントである限りマスターの意向は優先しなければならない。

凛はアーチャーに向かって剣を下ろせという仕草をした。

しかし、納得はいっていないようで少しでもマスターである凛を傷つければただでは済ませない、という意思を含んだ視線が送られてくる。

向こうが武器を下げるのであればこちらも合わせる。単純な力比べであれば、絶対に女の方が強い。だが、それも一人であればの話。

優先事項を間違えてはいけない。交戦の必要がないのであれば願ったり叶ったりだ。

 

「で、一体何者なの貴方?」

 

凛は女を見た。

一見するとただの母親とその子供にしか見えない。実際、子供にはなんら魔力は備わっておらず言葉通り、ただの一市民にすぎないのだろう。

問題は母親と思わしきこの女だ。

どう考えても異常だ。

そう感じてしまう程の何かがある。言い表すなら、少しでも隙を見せれば一口で食べられてしまう、それほどの悪寒。

これは、人間ではない。

女の背後の影が、醜い何かへと変わっていく。

 

「......」

 

女は少し悩んでいるようだった。

正体を話したところで、自身に利点があるとは思えず、さりとて黙って見逃してくれるはずもなし。

アーチャーの言う通り、女は人間の敵であることには変わりない。今は、その気がないだけ。

それを分かってもらうには、正直に答えるしかない。

 

(...再び交戦することになれば、町ごと吹き飛ばしてしまおう。後処理は知ったこっちゃじゃない)

 

何秒間か考えたのち、女は口を開いた。

 

「今は()()()()という名があるが....そうだな、通りの良い名は確か、

 ———『黒き怪物』。

 人はワタシをそう呼んで畏れる。」

 

と怪物は、なるべく笑顔で言った。

言った...のだが、その名を聞いた途端、凛の顔はみるみるうちに青白くなっていき、

 

「な、な、な...なんたってアンタみたいなのがここに居るのよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

悲痛な叫び声を上げるのだった。

 

「あ、アーチャー! お願い、後ろに隠れさせて!」

 

「あの、できれば大きな声は...」

 

「ヒッ! こ、こっち来ないでよ!」

 

凛はアーチャーの背後にしがみ付くように隠れてしまう。

怪物としては慣れた反応なので、気分がどん底に落ち込み涙目になるだけで済むが、問題はそこではない。

そんなに大きな声で騒がれると、

 

「...う、うぅぅん...ん〜、お父さん?」

 

ほら、起きてしまった。

目を擦りながら、娘が周囲をキョロキョロと見渡す。

 

「ここどこ? お家でねんねしてたのに」

 

「...ちょっと散歩中なんだ。ごめんね、起こしちゃったね」

 

不安にさせないように、優しく怪物は答える。

そして、凛に向かって“これ以上騒ぐな“と人差し指を口に当てながら視線を送る。

 

「なんで、お家燃えてるの?」

 

「さあ、どうしてだろうね。火事か、地震でもあったのかもしれない。

 ...そうだ、立香。火事の時はどうすればいいんだっけ?」

 

まるで、遊びのように問いかける。

娘である立香は、しばらく頭を悩ませたがパッと顔をあげ、

 

「安全なところに避難します!!」

 

「よくできましたー。

 ...そういうことだから、ね?」

 

手をパチパチを鳴らしながら、再び凛の方を見る。

 

「な、なによ」

 

「安全なとこ、連れてってくれる?」

 

“断ったら食べちゃうぞ?“と意味を含ませながらの脅迫。

それにブンブンと首を振ることしか凛はできなかった。

 




メンタル弱者。
立香ちゃんに嫌いって言われたら泣きます。
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