魔法少女の居る世界で美少女にTS転生したけど、美少女要素がまるで活かせてない件 作:魔法少女(フル武装)
さて、クイズだ。
今ここに、身長190弱体重65+25の騎士と、岩の様にと言うか岩そのものな大男が睨み合っている。
これから一体何が起きるか、1、2、3はい時間切れ。
答えは戦いだ。
周りを見れば人っ子1人も居ない河川敷が広がっている。いっそ青春の1ページとでもしてしまえるならどれ程平和か。
『破壊、破壊、破壊、破壊……』
だが
「……お〜怖い怖い。ご近所さんも怖がるからその辺にしたらどうだい?」
『破壊、破壊、破壊!』
壊れたラジカセと会話した事はないけど、多分今みたいな感覚なんだろうと思う。暖簾に腕押し、取りつく島なし、話し合いの余地もなし。
「話せば分かる? 大体は問答無用なのよね、悲しいなあ」
破壊破壊とそんなに破壊が好きなら仕方ない。俺は腰の無骨極まる鈍色のブロードソードを引き抜き、鋼の籠手で軽く刃を引く。舞い散る火花を呼び水に、魔法を行使する準備だ。
「『グレンバーン』火を纏え」
赤い魔法陣を空に浮かべ、剣で中心をひと突きすれば、刃が熱したかの様に赤く染まる。エンチャント・ファイアと言う奴だ。特別な1発より、重ねて強くなる強化魔法や付与魔法にはロマンがあると俺は思っている。
「『ブロウフロウ』風を纏え」
赤熱した風を帯びた剣の完成だ。風は空気を逃さず渦を巻き、その内側には超高温の空間が誕生する。熱され過ぎた空気はほんのちょっとのアクションで軽く発火する。例えば剣を振れば──
「喰らえ炎撃!」
炎の刃が岩男の方へ殺到する。無論岩であるらして、
「──良いのが来た!」
複合属性、火やら風やらの基本属性を混ぜこぜすればそれは成る。河川敷を真っ直ぐ吹き抜ける追い風は、俺にとって吉兆だ。炎撃を繰り返し高まった周囲の熱と、今来た風、これらをより強い触媒として、複合属性を纏わせる。
「『ザンダライガ』雷を纏え」
火はプラズマであり、風はやがて嵐を呼ぶ。二つが合わされば、天災さながらの雷となる。ここで大事なのは、認識である。胡乱でも理屈の伴う認識があれば、魔法は成る。実際にはもっと厳密にした方が強力な筈だが。
岩に電気、と聞くと納得いかないかもしれないが、俺がやりたいのはそんな相手の弱点を探る様な真似じゃない。圧倒的な力で相手が悟る前に潰す、それこそが理想だ。
俺は今、鋼の鎧を全身に纏っている。今この剣に満ちた雷を媒介に、全身に雷を渦を巻く様に流せば──電・磁・力でお馴染み、コイルの理論のお出ましだ。
電気で磁力を作り、それによって鋼の甲冑を超加速させる。
「行くぞ──『ブロウフープ』風よ輪となれ」
風は尚もコントロール下にある。風を集めて俺と相手を直線上に閉じ込めるトンネル兼バレルを作り、超高電圧で電気を送るレールとする。
青白い雷光が、剣先から迸り宙を駆ける。さながら隼が如く。
身体の加速、鎧の加速、剣の加速、重ねた力で乾坤一擲の一撃を放つ。その名も──
「──紫電ッ! 一閃!」
強い相手は圧倒的な力でねじ伏せる。面倒な奴も、硬い奴も、搦手を使う奴も。そう、今ここにある、
1番厚みが薄そうな腰の辺りを狙ったが、予想よりも簡単に切れてしまった。威力が過剰過ぎたか。いや、そんな事はない。いつかはこの過剰威力も役に立つ筈。
……ああ、後ここまで聞いたなら察しは付くだろうが、俺は魔法使いである。ただ、他の魔法使いもとい
「……後始末は他の人に任せるか」
その場を離れ、人気のない通りに来て俺は変身を解除する。甲冑が消え、一瞬だけ紫陽花色の髪を靡かせる全裸のレディの姿が露わになり、次に光が瞬くと、俺はいつも通りの
足元の水溜まりを見れば、ため息が出る。
目はパッチリ、目の下には子供らしからぬ色気の泣き黒子、整った鼻や顔のラインは将来美人間違い無しと町内会で持て囃された程だ。
だが、折角の美少女フェイスに魔法まで使えるのに、行き着いた先が強制フルプレートの魔法
巷の魔法少女達の間で俺は魔法騎士と呼ばれている。ただこの名が非常に厄介なモノで──
「──騎士さ〜ん! どこですか〜?」
厄介なファンが着いてくる訳だ。ヅカの男役はこんな気分なのだろうかと、若干現実逃避したくなったが、意を決して通りを出る。
「騎士さん……じゃないですね。貴女はこんな所で何を?」
「私、散歩、してる」
普段の俺は、かなり喋りに
「危ないですよ。貴女みたいな可愛い女の子がこんな場所を歩いていたら。悪い人に襲われちゃいます」
さて、目の前に居る女の子を観察してみる。至って普通のポニーテールの茶髪少女だ。制服はこの辺りの中学校のモノ、俺を追って来た以上、九割がたは魔法少女なのだろうが。
「あなただって、可愛い、よ?」
一応、一般人の体で此方も答える。実際に彼女は可愛らしい。嘘もおべっかもありはしない。首をこてんと傾げながら見上げれば、僅かに頬を緩ませた少女の姿。眼福だ。
「わ、私なんか可愛げが無いってよく言われるし、男の子っぽいって言われたりするし」
たったひと言でこの慌てよう。何だろうか、魔法少女には我が強い人が多いが、彼女は例外らしい。謙虚さの塊か?
「それは、見る目、ない」
「そう、かな?」
「そーそー」
「適当言ってない?!」
いやいやお嬢さん、可愛らしいと思うよ俺は。それに良い相手も居るんじゃないの。ほら、学生カバンの中で呼んでる人が居る。と、俺はカバンに指を指す。
「ん、スマホ鳴ってる」
「あっ、ありがと!」
そうして画面を見た彼女の顔は、気合いを入れた女の顔。臨戦体制と言う感じで、んっんっと声を高くした彼女が電話に出るのを見やる俺。
──邪魔しちゃ悪いね。さっさと帰って、親父が俺の為に撮り溜めた教育番組でも見とくか。たまごボーロを野菜ジュースのツマミにして、晩酌と洒落込もうじゃないの。
俺は少女の意識が少しだけ離れた隙をつき、真っ直ぐ家へと帰って行った。でも、あの子には悪い事したかな。と、少しだけ思わなくもない。
「まだ『銀騎士』の正体は掴めないの?」
『マァ、ソウダナ』
「日本人みたいな誤魔化し方して、キミも随分染まって来たんじゃないの?」
『ウルサイゾ』
途方もない砂漠のど真ん中。数多の砂色に1つの白。
白磁のテーブルに椅子1つその身1つ。真っ白な少女は、テーブルにしなだれて薬指に嵌められた真っ黒な指輪と会話している。
「第一、190近くの女の子なんて目立って仕方ないと思うんだけど」
『アレハ、
「分かってるけど、そうなったら190以下の女の子、以外の情報が無くなるんだよ? そんなの当てはまる人の方が多いに決まってるじゃん!」
純粋無垢、と言った様子の少女はため息をつく。指先を空に泳がせて、その赤色の目はまるで恋焦がれている様に潤っていた。
『モシクハ、
「そうだったら、見つからない理由もわかるけど。誰であったとしても……私はただお礼が言いたいんだよ」
『ナラ、クビニプラカードデモカケタラドウダ?』
「貴方にお礼が言いたいです、って? 馬鹿よそれ!」
『ナラオマエハ
「キミ、毒舌過ぎない?」
『オマエノガウツッタ』
少女は急いでいた。今、この世界は危機に瀕している。口では礼を言うと言っても、その内心には誰か共に戦う仲間を求めている。
青く輝く星、地球。この星には別次元の侵略者達の魔の手が迫っていた。だがその競争率の高さ故、侵略者同士が睨み合い、手を出せない状態が保たれていた。
しかし、ある時その均衡は崩れた。人、獣に至るまで魔力を宿した者がほぼ全てを占める灰魔界、魔法の力量を絶対の階級と定める軍事国家が支配する皇魔界が手を組み、地球への侵攻を開始した。
二者の目論みによれば、それは瞬く間に終わる筈だった。事実、その強大な力を持った二つの次元の力があれば、地球がある次元へ入った時点で勝負はついただろう。
「グラウンド・ゼロ。あの日から私達魔法少女の戦いは始まった」
あの日とは、二つの次元から地球へ繋がる大規模なテレポーターが破壊された日の事である。
2つの世界を1つの世界に繋げる橋頭堡とも呼べるそれを破壊し、その侵攻を頓挫させたのがかの『銀騎士』であった。これにより二者は、電撃戦の望みを絶たれ、中長期的な持久戦へ舵を切らざるを得なかった。
そしてその後に誕生した存在こそ、今地球を守る魔法少女達だった。グラウンド・ゼロと呼ばれるその日から、次元の均衡を守る守護者と、地球が二者に総取りされる事を恐れた侵略者が地球に手を貸し、その結果誕生した存在である。
『アノ『ギンキシ』ハ、トックニタタカッテイタガナ』
「それが不思議なんだよねえ」
少女の指先で語るこの指輪もまた、侵略者達が寄越した遣いの1人だ。
「派閥争いの延長線で誕生した魔法少女。そうじゃなく、他者からの手助けなく最初から魔法に選ばれていた生粋の魔法少女。彼女は、この戦いを終わらせるキッカケになるのかもしれない」
そう言い終えると、彼女は目を閉じる。砂色の世界が解けていく。
『ジカンダナ』
指輪は言った、夢から醒める時間だと。
只人にとっては24時間の世界。彼女だけは、26時間の世界で生きている。人より2時間長く生きる彼女の名は『
彼女もまた、銀騎士の影を追う者であった。
「くちゅん!」
「どうした
「誰か、自分のこと、ウワサ、してる」
「そんな古典的なネタを今時ぃ?」
「父さんの、小説も、古典的、でしょ」
「ぐふっ!」
その影が、こんな存在であるとも知らずに。