魔法少女の居る世界で美少女にTS転生したけど、美少女要素がまるで活かせてない件 作:魔法少女(フル武装)
俺達は今、食卓で2on1の真っ最中であった。白い軍服を解除し、カッターシャツとズボンだけになったアッ君と、パジャマ姿の俺が並んで親父と三者面談をしている。
男を連れ込んだ娘に対し、親父の眼鏡はピカピカ輝いてた。ビームでも出るんじゃないかって位輝いてた。怖すぎなんよ。
「……
「お父さん、それは、ちょっと」
「──君の父上は魔法の事を知らないのではないか」
耳元で囁くなイケメン、こそばゆいぞ。そして返答はNOだ。首を横に振れば、アッ君は驚いていた。俺も最初は驚いたぞ。親父は結構天然だが、やたら聡い所がある。そうじゃなきゃ自分で言うのもアレだが、多感な一人娘を一人で育てていけないだろうからな。
「……父さんは世界の危機なんて本の中でしか知らない。紫苑に比べれば現実を知らないんだろう。でもこんな、こんな明らかにイイ男を連れ込むなんて早過ぎるんじゃないのか?!」
「ち、ちがう、そう言う関係じゃ、ない! 痛みを、分け合った、仲!」
「それは何か意味合いが違うのでは!?」
いや、俺達の関係を示すにはこれしかない。俺とアッ君は既に友人だ。友人を親父に紹介する事の何が恥か。寧ろここで赤面してしどろもどろになっていたら、この友情を裏切る事になる。
「分かって、くれない、なら……また、アレ、する?」
「そうか、紫苑がそこまで言うのなら仕方ない、僕も鬼になるよ」
「待って下さい、俺の為にその様な事を──」
親父と俺は足並みを揃えてリビングへ向かい、ローテーブルの下からゲーム機を取り出す。虚空に手を伸ばしたアッ君は目を丸くしていたが、何を考えたのやら。流石に親と子で殴り合いに発展する訳はないだろう、ましてや父と娘で……いや、アッ君の
「永コンと、バグ技で、ハメ倒す」
「お父さん、紫苑にそんな下品な言葉を教えたつもりはないんだけどね。……矯正してあげようじゃないか」
俺と親父の戦いは常にルール無用のデスマッチ、唯一の禁則事項はリアルファイトだけだ。ある意味、普段の魔法少女としての戦いよりもヒリつくバトルだ。激るぜ。
「ど、どう言う流れなのですか、これは?」
「見てれば、分かる」
「見ても分からないから言っているのだが……」
ゲームの電源を入れ、緊張感を高めるロード画面の群を抜けた先に待つのは、決戦の舞台だ。3Dの格闘ゲーム。バランスが終わり過ぎて逆にバランスが取れているとまで言われた伝説のクソ神ゲー。
「これは一体?」
「アッシュ君は知らないのかい? これはテレビゲームと言って、娯楽の一つさ」
「テレビ、ゲーム。まさか、その箱にこの世界を創り出す仕組みが?」
「気になる、のは、分かるけど、触らない、で」
全キャラに初撃が入れば相手の体力を削り切るまで繋がる十割コンボが存在し、そのコンボの完遂難度によってキャラのランクが決まると言う異次元がまかり通る世界の中は、より一層の異次元、深淵とすら呼ばれた底無し沼。『十割正道、グリッチ外道』と言う標語はこのゲームから生まれた地獄の煮凝りだ。
「こ、これは一体、どう言ったゲームだ?」
「知らない、ほうが、いい」
「……なるほど、これは地球の重要機密と言う事か」
ソワソワしてたアッ君が何か面倒な勘違いをしているが、今は放っておく。後でこの家のルール位は叩き込まないとな。
俺はいつも通りキャラランク最高位、全攻撃に十割コンボのルートが存在するバグキャラを選び、親父は最低ランクのキャラを選ぶ。一見親父は拘り派かと思うかもしれないが、そんな事はない。俺は外道、親父も外道だ。
つまり──
「……これは、一体?」
「一体って、これはどう見ても格闘ゲームじゃないか」
「か、格闘? 俺には、画面一杯に光線が飛んでいる様に見えるのだが」
──これは格ゲーなどではない。シューティングゲームだ。
あるバグ技により、このゲームでは飛び道具がスパン無しで連射出来るのだ。誰が言ったか核ゲー、ゲームを破綻させる核の如き要素が大量にある事で逆に核抑止の如き様相を呈すのだ。
ただこのバグ技には人知を逸した連打が必要で、少しでも気を抜けば終わる。
「っ、掠った」
「紫苑、連射が甘いね」
「連コン、頼り、め」
親父は連コンを使うが、それは他の動作に影響を与える為、俺は使わない。それが差となって俺を追い詰めるが、いざ距離を詰めればそれが仇となる。
「──今」
「ジャストガードで強引に距離を詰めるだって!?」
「何が起きているんだ……?」
連コンによる誤操作、それが俺の狙いだ。
後は上手くハメ倒して──
──✳︎──
「負け、ました」
「僕に勝つには百年早いね」
「……まさか、彼女に勝つとは」
クソッ、懐に潜り込んだ瞬間連コンの機能切りやがって……。大人気ないとかそう言うレベル超越してるぞ、俺が年相応だったらギャン泣きして家出してたわ。ハードウェアチートからの十割コンとか人格破綻者の誹りも免れないだろ……。
「しかし、あの攻防においての思考のやり取り、読み合い。アレは実戦に通じる物がある。もしかして、君が行っていたテレビゲームと言うのは、戦闘訓練用に開発された物なのか?」
白い肌を興奮混じりに赤らめアッ君は俺に聞いて来る。側から見ればクソゲー極まってたと思うが、それでも何か興味をそそる物があったのだろう。決してクソゲーマニアへの道を歩み出したとか思いたくはない。
「ねえ、アッシュ君。君もこの子のこと、紫苑って呼んであげてよ」
「……良いのですか?」
「この子、しっかりしてるけどあまり友達とか作らないタイプだから。多分、魔法少女ってのをやってるからだろう? 紫苑」
俺は敗者の責務としてゲーム機を片付けながら、何も言わずに頷いた。
「君が敵だったとして、今紫苑が友達だって言うなら構わないよ」
「父上」
「あと、僕の事は
「分かりました、康太殿とお呼びします」
「まだ硬いけど、まあいっか」
俺は背後で聴こえてくる二人のやり取りに笑みを溢す。なんとか乗り切った。これで明日からは認識阻害使いたい放題……。
「──申し訳ありません。康太殿」
「ん?」
「こうして頂ける事は、嬉しく思います。ですが俺は、友達、などと呼べる人物ではありません。俺は紫苑殿を、貴方の娘を決闘を楯に妻にしようとした人物です。紫苑殿が、斯様な少女である事にも気付かず」
慌てて振り返ると、そこには親父に首を差し出す様に頭を下げるアッ君の姿があった。親父は、眼鏡の奥で何かを考える様に目を閉じていた。
「僕はね。小説家なんだ」
「……物書き、と言う事でしょうか」
「ああ。そうだね。ところで、物語を書くのに必要な物って何だと思う?」
親父は、怒るでもなく、諭す様に頭を下げるアッ君に語る。一人娘に疾しい事をしようとした男に対する態度じゃないよアレ。……やっぱり遠い背中だな、親父って言うのは。前世も来世も。
「話の骨子、始まり、盛り上がり、そして終わり方、でしょうか」
「う〜ん、それもあるし、正直人それぞれなんだけど。僕はね、人物だと思ってるんだ」
「人物?」
「人や動物、物や景色。語るとも語らずとも、そこには過ぎ去った時があって経験がある。だから一通りじゃなくて、物語が生まれる。太陽と北風とかね。だから僕は人物の生き方をまず考える」
親父は、頭を下げるアッ君を覗き込む様にしゃがみ、アッ君は慌てて頭を地面に擦り付けた。
「だから、僕は君の事をざっと考えてた。もしかしなくても君って貴族なんじゃないのかな? 何か理由に迫られて奥さんが必要だった、飛び切り
「……それは、御二方に聞かせる様な内容でもありません」
「まあ、想像はつくよ。無理に暴く内容じゃないから言わないけど」
「ご配慮、痛み入ります」
正直、俺にはさっぱりだ。かと言って親父が言う様に無理に聞き出す内容ではないんだろう。例えば家から与えられた縁に不満があったとか。まあ、そんじょそこらの女じゃこの美少女たる俺には敵わない、程度の自負はある。面で選ぶ様な奴でもないんだろうけど。
「正直言うとね。僕は嬉しいんだ、将来の婿候補が来てくれて」
「ちょっと、お父さん!?」
親父は早くに妻を亡くした。俺もその顔は遺影とアルバムでしか見た事がない。俺の生写しの様な人だった。
「僕は今でも思う。僕みたいな木端の小説家と一緒に過ごして幸せだったのか、って。笑顔が子供みたいで、ゲームが好きな、僕には勿体ない人だった」
「康太殿……」
「君は誠実そうだし、いざと言う時には守る力がある。だから紫苑を許嫁にしちゃいなよ!」
「康太殿?!」
この子にして親あり。血は繋がっているが、魂すらも繋がっている気すらする。いや、本当にそうなのかも知れない。途中からマジな空気に耐えられなくてアッ君をイジる事にシフトしたよこの親父。サムズアップに満面の笑みだ。
「話、これ位に、しよ」
「ふふっ、そうだな、紫苑」
俺はしまいかけて居たゲーム機を卓上に再び置いて居た。何故かって?
「アッ君、指、疼いてる」
「あっ、こ、これは違っ」
「僕らの戦いを見てて、やりたくなったんだよね。分かるよ。僕だってゲームに興味を持ったのは、ゲーセンに居た妻を見てたからだし」
「また、惚気」
「良いじゃん減るもんじゃなし」
「娘の、メンタル、
「上手いこと言うね」
俺と親父は阿吽の呼吸でアッ君をゲーム機の前に拉致する。ゴツゴツとした指先を一本一本絡め取り、コントローラーにセットして、最後に座り込んだアッ君の腰に俺が座る。
「し、紫苑殿!?」
「これは、正式な、決闘の、スタイル」
「──決闘」
アッ君の目の色が変わる。俺はニヤリと笑った、親父は背後から夜更かしし過ぎない様にと声をかけて来る。ああ良いぜ、この一戦に全てを賭けてやる。
──さあ勝負だ。
※この後、紫苑はボロ勝ちしました。