魔法少女の居る世界で美少女にTS転生したけど、美少女要素がまるで活かせてない件 作:魔法少女(フル武装)
今回の話は視点切り替え多めです。
オレには、幼稚園からずっと一緒だった幼馴染が居る。
「……おはよう、
「おはよう、
「おっはー。日向、昨日は楽しかったね」
紫の髪をポニーテールにした、パーカー姿の大人しい女の子が、
「ああ、機会があれば遊ぼうな」
「日向君、は、いつも、クール」
「そう言う紫苑ちゃんは不思議ちゃんだよね」
2人は女で、オレは男。そのせいで昔から揶揄われる事もあったけど、2人はずっとオレの幼馴染で居てくれた。口には出せないが、その、大切な友達だ。
「……今日は、昼休み、何して、遊ぶ? 人間観察?」
「紫苑ちゃん、渋すぎるよそれ」
「じゃあ、ドッジ」
「3人じゃ無理だろ」
「リアルおままごと……」
『それはやめろ(て)』
そんなオレの幼馴染達は、結構、いや、かなり男子から人気がある。時雨は自覚してそうだけど、紫苑は何を考えているのか分からない。けどラブレターを受け取ったらきっちり断りに行く辺り、根は真面目なんだろう、とオレは思う。
「なら、別に何もしなくて良いだろ」
「……じゃあ、3人で日向ぼっこしよ! 日向、だけに」
「上手い、こと、言うね」
「それ程でも」
春の日差しは嫌いじゃない。オレは2人に合わせて首を縦に振った。
キンコンカンコン、とチャイムが鳴る。給食を食べ終えた人が急いでグラウンドへ飛び出している。先生は廊下を走らない様に言っているが、聞く耳なんてアイツらは持ってないだろう。
「じゃあ、ボクがオススメの日向ぼっこスポットに案内したげるよ!」
「お〜」
「……本当に大丈夫か?」
そんなオレの不安をよそに、時雨はグラウンドとは真逆──屋上へ向かってオレたちを連れて行った。
「おい、屋上は鍵掛かってんだぞ?」
確かに、屋上は日当たりが良いが、普段は鍵が掛かっていて出て行けない筈だ。鍵は職員室にあるし、どうやって。
「ふっふ、甘い、甘いよ日向」
「まさか、先生を、脅し、た?」
「な、何でバレたの?!」
「そう言う事かよ……」
時雨の母は新聞記者だ。そのせいか、時雨は他人の秘密に鼻がきく。先公の誰かの弱みを握って、鍵を融通する様にしたんだろう。オレ、良くこんな奴と友達続けられてるな。オレだって何度か
「じゃあ、問題、ない、ね」
「問題しかねえだろ!」
「これで君達もボクの共犯者だね!」
「どこで覚えたんだよその手口と言葉!」
けど、滅多に出来ない経験である事は確か。俺もジジィからよく経験を積めってボコボコにされるし、これも経験って奴か。
「お〜い、ぼーっとしてないでさ!」
「来れ、わかもの、よ」
っ、アイツらいつの間に。俺も2人の後を追って屋上に出る。
──空が近い。雲が流れていくのがよく見える。
「久しぶり、空、見るの」
「えぇ? 毎日見てるでしょ〜」
「そう言う年頃なんだろ、チューニビョーって奴」
「断じて、違う、が?」
やる事も無いから、3人で歪な三角になって空を見上げている。こんなにも無駄な時間もないだろう。……ここ最近、色々あって疲れてたんだろうな、オレ。
魔法が飛び交う事も、剣が振り下される事も、血を見る事もない。静かな時間だった。
「──平和だな」
オレがそう言った。
……そう言ったのが不味かったんだろうか。
──ガガドガンッ!
校舎が、揺れた。
「オレ、忘れ物あったんだ」
「日向!? こんな時に何言って……!」
『ヒュウガ、早く来い! 魔物が来てるぞ!』
──分かってる。けど、今は皆んなが居て無理だ!
頭の中に呼びかける声と、時雨の声が重なる。校舎に居た生徒はグラウンドへ避難しているが、まだ逃げ遅れた奴が居るかもしれない。
あの時の校舎の揺れは、単なる地震とかじゃない。頭の中の声がそう教えてくれる。だから、行かないと。その為には、2人と別れないといけない。
「すぐ帰るから、先行ってくれ!」
「ちょっと、待っ──」
「行こう、時雨ちゃん」
「紫苑? 何で!」
紫苑が叫ぶ紫苑を引き摺っていく。普段は時雨の方がしっかりしている様に見えるが、いざと言う時には紫苑の方がずっと冷静で頼もしい。時々、同い年に見えない時がある。……じゃなかった、早く教室に行かないと。
──『来たか! ヒュウガ!』
「……ああ、行くぞ」
頭の中で、
まさか、教室の中でこんな事をするなんて思いもしなかった。
「旧き竜よ、来れ!」
──『あまねく命に光あれ』
オレは、
火が視界から消え失せた時、オレの視界は少しだけ高くなっていた。初めての瞬間から覚えていた違和感は、ずっと消えない。寧ろ、消えてくれない方が良い。だって──
──『もはや慣れたものだな?』
「慣れてたまるか!」
視界の端に映る程長い赤の髪。
甘ったるい、アニメみたいな声。
オレが……オレが、こんな
「──隊長からはここで見張れって言われたが、何でここなんだ?」
「外は魔法使いに見つかる可能性があるってよ」
2人の
手には剣と盾。背丈は天井に届きそうな程はあり、身体の厚みも相応だ。到底子供が敵う筈もない。だからこそこの場所に、この人員が派遣されたのだ。将来敵となり得る存在を刈り取る為に。
「──なに、あれ」
「っ、静かに、して」
そして、獲物は見つかった。
「居た」
「ああ、居たな」
2人の蜥蜴人が見た先には、階段。その陰に目を見開き驚きの声を上げる子供と、その口を急ぎ塞ぐ子供の姿。彼らは目で見た訳ではない。その子供2人の体温で彼女達の姿を捉えたのである。彼らの種族的特性だ。
「隊長が言うには、好きにしろ、だとよ」
「はっ、狩りの時間ってか」
蜥蜴人が近付いて来た事を悟った少女達は、急いで階段の裏にある非常口へ向かう。だが、彼らは嗤う。舌をチロチロと揺らして。
「無駄無駄、入り口には魔法使いの出入りすら封じる結界があるんだよ──」
そう言って蜥蜴人は、慌てふためく少女達の姿を予想するが、予想外にも1人の少女はあっさりとドアの外へ抜け出した。彼らは直接見ていない故に、何が起きたか分からなかった。
「っあぁ?! どう言う事だよオイ!」
「この魔道具、不良品か?!」
1人の蜥蜴人がもう1人へ睨み付けるが、彼らが身に付ける革鎧の下から取り出されたペンダントは煌々と赤く光り輝いていた。何も問題はない、と言う風に。
「クソ、急ぐぞ!」
「あ、ああ!」
彼らは任務を果たせない事を恐れ、少女達が隠れていた階段の裏へ向かう。ものの数秒、蜥蜴人は階段裏の非常口をまず目撃するが、そこには結界が機能している証左たる赤い光の膜がドア一面に張っている事が分かる。だが『ではなぜ』と言う疑問よりも先に、蜥蜴人は階段裏に置かれた掃除用のロッカーに目を向ける。
中の箒や塵取りは外にぶちまけられ、いかにも急いで中に入ったと言う様子だ。2人は先程の邪悪な笑みを浮かべた。灰色で縦長のロッカーに隠れてはいるが、その中には確かに熱を持った何かが居ると2人は気付いている。剣先がロッカーへ向けられた。
「どっちが開ける?」
「俺が行く」
一歩、一歩と近付く。中で今、1人の少女は震えているのだろうと根拠のない予想、否、妄想を繰り広げながら。
そして、ロッカーの扉に手をかけると、引き剥がす様に戸を開いた。
「見ぃつけた……あ?」
見れば、灰色ではなく、一面の銀色。
「イヤーン……なんてな。女の着替えを覗くなんて、教育がなってないぞ?」
その時、彼は気付くべきだったのだ。
ドアを力強く開いても、ロッカーがビクともしなかった事に。
……微かに、ロッカーが膨らんでいた事に。
──ロッカーの中には、銀の騎士が居た。ギチギチに詰まっている銀騎士が。
騎士が腰に付けた拳を一層強く握り込む。
その瞬間、廊下のコンセントから照明に至るまでがスパークし、銀騎士の居るロッカーに雷光が大挙する。寄り集まった文明の光は黄色の魔法陣を作り、銀騎士の身体を通り抜けた。
「『サンダライガ』雷を纏え──変態野郎は、鉄拳制裁ッ! 紫電ッ、一閃!」
『銀騎士ぃぁぁぁァァァぁあァァあああっ!?』
その景色が、彼らの最期だった。
──スラグよ。今回蛇王様から与えられた任務は、人間の子供が集まる学校を襲撃する事だ。多くの魔法使いは、あの様な場所から排出されると言う。戦闘員となるのは少女だ。出来る限り排除しろ。出来るな?
「チッ、予想より訓練されてんだな、あのガキ共」
1人の
「上もやるなら向こうの文化を理解してからやれってんだ。ガラガラの場所に殴り込むなんて馬鹿、やらずに済んだのによ。それに、明らかに人気がねえ、魔法使い共に先手を打たれたか。……撤退も視野に入れねえとな。他の連中は、最悪切り捨てだ」
真っ赤で硬質の鱗に覆われた蜥蜴人スラグは、校舎の2階を探索していた。だが、休み時間の最中であった事、緊急時には2階以上からでも脱出する為の屋外滑り台が用意されていた事、校舎の構造を蜥蜴人達が把握していなかった事で、既に大多数の子供は屋外に居たのだ。目標達成は不可能だと、スラグは薄々勘付いていた。
しかし、ここには1人の少女が居た。
「……ん?」
「そこまでだ、魔物め」
「ああ、お前が件の魔法使い、って奴か」
緋色の髪を鈴の髪飾りでサイドテールにした少女。ミニスカートのドレスの様にも巫女服の様にも見える装束に、一本の紅い刀。彼女は気炎に満ちた紫紺の瞳で、敵を見据える。
「生意気な目だ。俺の若い頃の目にそっくりだ」
「オレは蛇の目なんかしてねえ!」
鈴の音すらかき消す勢いで怒鳴り声を上げた少女は、床スレスレに踏み込み、蜥蜴人の懐から鋭い切り上げを放つ。一瞬の事だったが、蜥蜴人は一歩下がるのみでこれを回避する。
タンタンタン。一撃目を外した少女は、素早く下駄を床に打ち鳴らして後方へ退く。両者は改めて睨み合った。
「へぇ、随分冷静じゃねえか。指示役がいるのかねえ」
蜥蜴人は2振の斧を身体の外側に構えて、戦いの意思を見せる。
「そんなの、知るかよ!」
刃を上に向けた霞の構えを赤色の少女は取る。
──ここに、もう一つの戦いの幕が上がった。
先天的TS & 後天的TS