魔法少女の居る世界で美少女にTS転生したけど、美少女要素がまるで活かせてない件 作:魔法少女(フル武装)
不意打ちからの一撃必殺。本来ならルーティンを挟まないと不可能な雷魔法も、既に雷がそこにあるのならすぐさま発動出来る。が、今の一撃でブレーカーが落ちてしまったらしい。昼間だからそれ程問題じゃないが、使い所には気をつけないとな。
「『フルブロウ』風よ吹け」
俺は東の窓を開き風を通す。灰になった蜥蜴達の亡骸を魔法で散り散りに吹き飛ばした。痕跡を残すのは不味いしな。
ひと仕事終えて、辺りを見渡し傷の類が無いかを探す。見つけたとして、その辺のプリントをばら撒いて誤魔化す位だが。こう言う時、土魔法は便利そうなんだが、どうも俺には使えないらしい。他の魔法の様に、火花や微風や水飛沫なんて小物からでも魔法は使えるのに、この広い大地相手には何も出来ないなんて、不思議なもんだ。
そんな隠蔽作業の最中、2階へ続く階段から甲高い音が響いて来た。キンと耳をつん裂くのは恐らく金属と金属が激突する音だろう。
「……上にもかよ」
さっきのは下っ端だったのだろうか。道理で反応が遅い訳だ。俺もリザードマンの相手をするのは初めてだ。そのくせサキュバスなんかとは既に戦っていたりもする。魔法の類を弱める鎧のおかげで魅了もへったくれもなかったが。
急ごう、誰かが戦っているのには間違いない。俺は全身フルプレート、身バレのリスクは他の顔出し魔法少女よりは低い。だから俺は魔法少女と見たなら基本的に手を貸していく。
──だから騎士様なんて呼ばれて追っかけが出て来たりする訳だ。俺はヅカの男役じゃないロリの美少女なんだがなあ。
「──ぅぁぁああっ!」
そうして2階に上がった瞬間。廊下の奥からめでたい色合いの何かがすっ飛んで来たのでまず受け止めた。
ヘソだし脇出しミニスカ巫女服とか言う如何わしい衣装の少女、間違いなく魔法少女だ。
「っと、大丈夫? お嬢さん」
「悪い、助かった──って何だよこの体勢!」
受け止めたついでにお姫様抱っこをしていたら、腕の中の少女は真っ白な肌を怒りか羞恥で赤くして今にも爆発しそうな表情をする。
そして視線を前に向ければ、赤いリザードマンが口一杯に火を溜めている。こっちの方が不味いって。
「まずはアッチ! 『フルバーン』火よ猛れ!」
そう唱えると、俺の身体から僅かに力が抜ける。次の瞬間、赤いリザードマンが口に蓄えた火はその眼前で赤い魔法陣となり、逆にリザードマンへ炎を噴射する。
俺の魔法に必要なのは、魔力じゃなく体力、即ちタフネスだ。命、と言う程直接的ではないが、体力を削る事、そしてその魔法の呼び水となる物がある事で俺は魔法を使う事が出来る。
「っ! 銀騎士ってのは伊達じゃねえな」
炎の中から現れた赤いリザードマンはほぼ無傷だった。これで倒れるなら、この子……
「今の、何したんだよ?」
「相手の魔法を別の魔法に置き換えた」
一見面倒な条件の魔法だが、その分やれる事は多い。特に
俺の鎧に掛かっている他者からの魔法の影響を弱める能力もそうだが、俺はどうも、
「……か、かっけえ」
「だろ?」
俺は彼を降ろし、腰に佩いたブロードソードを抜く。
彼は両手でスカートをパンパンと叩き、一緒に飛ばされていた刀を拾い上げ、素人目にもしっかりとした構えを取る。……ちょっとだけ体に引っ張られないかい君。
「俺が前衛! 君は隙を突いてくれ!」
「分かった!」
鎧とは盾だ。それでいて盾を振り回すよりも無駄なく攻撃を捌ける。
今の環境は室内でありながら雨模様。それもその筈、さっきの炎で火災報知器が鳴り出し、スプリンクラーが作動しているから。
火は効かなかった、なら水責めだ。
「『アクアスイマ』水を纏え!」
剣に水が纏わりつき蠢動する。こうして使う場合は、剣として使う事はない。
俺は水を
「邪魔な技を!」
「小細工は嫌いかい?」
廊下と言う一本道は射程がある方がシンプルに優位に立てる。そして仲間が魔法少女であれば、奇抜なアンブッシュも思いのまま。
「よそ見すんなよ!」
「っ! 認識阻害?!」
彼はリザードマンの背後、何も無い場所から陽炎の様に揺らぎながら滲み出た。認識阻害に無詠唱とは、羨ましい限りだ。
「嘗めるなよ!」
「っ!」
だが、リザードマンは俺達の挟撃に対し、背後から迫る刀に尻尾を盾にした。当然突き刺さるが、刀の一撃は奴の命に届かない。そして俺に集中する事で不確かな水の鞭の動きを見切り、2振りの斧で逸らす様に往なしてみせた。
「蜥蜴の尻尾切り、いや、切れてないか」
「まずはお前からだ!」
先にリザードマンは彼を潰しに掛かるが、彼は既に消えていた。その隙に俺は水の鞭で窓と言う窓を開く。風を取り込む為だ。
「邪魔だ!」
「こっちの台詞だ! 『ブロウフロウ』風を纏え!」
潤沢な水と風がこれで揃う。危険な複合属性だが、有効打にはなる筈だ。その属性の名は──
「──『コラプハイプ』
瞬間。漂う錆の匂い。錆に覆われ赤茶けたこの刃は腐敗の力を纏っている。触れる物全てを風化させ、腐食する力だ。
「……おい、それ何だよ」
「触るなよ、手が腐り落ちるぞ」
「何てもん出してんだ!」
いつの間にか隣にいた彼に俺は注意して、剣先をリザードマンに向ける。俺はそのまま走り出した。彼もまた、時間をおいて陽炎の様に消えていく。また奇襲を仕掛けるつもりだろう。
俺が振り下ろす剣に、リザードマンは咄嗟に斧をクロスさせるが、たったの一合で斧に入った傷から腐食が進み、刃の部分をボトリと床に落とす。
「クソッタレ! 貧乏クジだこれじゃあよ!」
貧乏クジを引いたと思ってるなら大人しく諦めつけてくれれば楽だが、そんな様子はまるで無い。まあ、分かっちゃいたが、どっちかが倒れるまで、か。
……いや、もう終わりだな。
今度は武器を失ったリザードマンの正面に、刀の切っ先を向けながら陽炎として滲み出た彼が突っ込んでいく。
「嘗めやがって!」
「コッチのセリフだ!」
単純な突撃、けれどそれは見せかけなんだろう。俺はもしもに備え、追撃の準備に入る。
彼が鈴を鳴らして踏み込んだその一瞬。彼が握る刀が脈打つ様に赤く輝いたかと思えば、次には目の眩む様な光を放つ。緊迫した状況から放つ目潰し、これ程効果のあるものはない。
「一文字切りッ!」
光の中、少女の叫びがこだました。
そして眩い光が収まった瞬間、そこに居たのは、縦に真っ二つの赤いリザードマンと、袖で刀に付いた血を拭う彼の姿。どうやら決着はついたらしい。彼の勝利と言う形で。
リザードマンは灰に成る。それをまた俺は風に流した。血の跡は水で洗い流す。証拠は限りなくゼロにした上で、俺は彼に話しかけてみる。
「……お疲れ、よく頑張ったな」
「いつもの事だし」
「素直じゃない奴だな。ほら、頭撫でてやるぞ〜?」
「馬鹿にしてんのか?」
彼はその愛くるしい見目に反した荒っぽい口調でガルルガルル獣みたいに威嚇して俺にガンを飛ばしてくる。俺も結構ガラ悪いし、気にする事でもない。無視して頭を撫でてみる。だって丁度いい所にあったし。
「魔法少女は慈善事業じゃねえんだ、素直に貰えるもんは貰おう、な?」
「……撫で方が雑なんだよ」
そう言いながら、彼は頭を手に押し付けてくる。ツンデレか? 口をツンと尖らせて、不満げなのか満足なのか分からない顔をして。
「じゃ、これで」
「あっ……」
「可愛らしいお嬢さん、また会える日までさよならだ」
「かわっ?! おいオレは!」
彼も普段は割と落ち着いてるのに、こうなると随分口数が増える。そして知り合いの女体化を見ても心が凪いでるのは、俺も同類だからか、はたまた精神の年齢に差があるからか。
後、スカートの裾を掴みながら怒るのは完全に女子入っちゃってないかい君?
「……おっと間違えた。最後の一撃格好良かったぞ、
「っな!?」
「これにて失礼」
認識阻害魔法も無いので、俺は走って現場を後にする。向かう先はあのロッカーだ。
今日は学校が襲撃されるなんて珍しい事もあったが、魔法少女として俺がした事はいつも通り。魔物か軍服姿の奴をぶっ飛ばし、魔法少女に力を貸す。
こうして思うに、俺は魔法少女じゃなくてタ◯シード仮面とかその類のポジションな気がする。そんな今日この頃であった。
あの後、この一件は超局所的な地震と言う事で片付けられた。明らかに誰かしらの介入があった様に思うが、事態が露見しない分マシだと思う。
ただ、事態の露見よりも恐ろしい事は──
「──バカバカバカ! 2人とも大バカだよ!」
「……おい
「校舎から、
泣きそうな、いや泣いている幼馴染に怒られることである。
「まさか、紫苑も……いや、何でもない」
魔法少女の正体を知られてはならないと言うルールは存在しない。しかし不文律としてそこにある。アニメだろうと特撮だろうと好き好んで正体をバラすヒーローやヒロインは少ないだろう。現実問題、正体がバレる事により生ずる不都合の方が多い筈だ。だから魔法少女の正体を詮索するのはタブーなのである。
「緊急時に、忘れ物、取りに、行く、バカじゃ、ない」
「ちっげぇよ!」
「ふ〜ん?」
けど、さっきは先輩の魔法少女として。今度は、いち生徒として。彼の労をねぎらいたかった。それ位は良いだろう。
「でも、日向君も、無事でよかった、よ」
俺は、そう言って彼に抱き着き、耳元で囁いた。
「……学校、守って、くれて、ありがとう、ね?」
「っ〜!?」
「しーっ」
何か言いそうになった彼の唇を人差し指で押さえる。美少女の労いだ、今の俺が出せる最大限のモノさ。彼は顔を赤くして目を見開いている。
「ちょ、ちょっと紫苑! 大胆過ぎるよ!」
「じゃあ、時雨、も、抱き付け、ば?」
「そう言う問題じゃなぁぁいっ!」
それから俺達は、午後の授業を待たずに下校する事となり、他の生徒は親兄弟に迎えられ次第帰って行く。
そして俺にも迎えが来た。
生徒達はその姿を見て、特に女子達が沸き立った。俺もあの姿を見るのは初めてだが、グレーのシャツとジーパン一枚だと言うのに中々様になっているのには、流石イケメンと言わざるを得ない。
「紫苑ど……。紫苑、迎えに来たぞ」
「
勿論偽名だ。今の彼は
「……なぜ皆俺を見ているんだ」
「そりゃ、顔が、良い、から」
「そんな事言われたのは初めてだが……」
恐らく向こうの世界は、美醜より強弱が尊ばれるのだと今の一言で分かった。ただ、今まで相手して来た奴らは皆美形だったから、向こうの平均レベルが高いだけかも知れない。
「こちら、お友達」
「──あ、初めまして、ボクは時雨って言います」
「オレは
そうして、俺はイケメンの運転するママチャリで帰宅した。最後、日向君がアッ君をジッと見つめていたのが気になるが──まあ、いつか聞いてみるか。
「──天地」
その名前が頭の中でぐるぐる回っていた。紫苑の近くに降って沸いた見知らぬ男。悪い奴じゃなさそうだった。顔も有名人みたいに格好良かったし。背も高い。
「アイツと紫苑、どんな関係なんだ?」
そんな言葉が、ふっと出て来る。兄妹の様な関係か、それとも──いや、ないない。
『ヒュウガ、まだ
そんな事を考える内に、お母さんが迎えに来てくれた。でも学校を出ても、頭の中のモヤは晴れなかった。