とある龍の軌跡   作:紅のかっぱー

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出会い

 

 

 

 私の朝は早い、というか私の活動時間はほとんど深夜から早朝だ。生後約一年で活動時間もクソもないとか言わない。

 産業がまだ発展していない、地球でいう中世くらいの技術力なので街頭などはないし、灯りをつけるのも勿体ないので日が沈むと街の全員が寝静まる。

 つまり、日が落ちたら自由に外を歩けるということ。赤ん坊が昼間から動き回っていたらホラーだから、そもそも外に出られなくなる。よって、活動時間は自然と限られてくる。

 

 勿論、夜は盗賊などのならず者達は居るがルートを考えれば問題ない。周辺が分かる探知、というスキルを使えば楽々突破出来る。

 それに、万が一見つかったとしてもスキルを駆使すれば逃げられるし、戦っても多分勝てる。

 種族のせいかスキルレベルのせいか分からないが、そこらの人たちよりかステータスが高いのだ。継続は力なり、である。

 まぁ、囲まれてリンチにされたら終わりだし、怪我は出来るだけしたくないし、戦闘系のスキルは少ないし、戦闘するとなると時間を食うので逃げるに限るが。面倒臭いことはできる限りしたくない。

 

 

 さて、私がわざわざ外に出て何をしているかというとズバリ、食料調達である。

 

 地球基準で一年近く過ごしてきたが、親はもう亡くなっているらしい。いつも面倒をみてくれる人もいなくなったので実質的に一歳にしてぼっちである。

 ああ、そうそう、そういえば。生まれたばかりの時に私を抱えていた女性は母の友人で、親切心で世話をしてくれた娼婦だったようだ。その人は商人の愛人になったとかで私を気にかけながらも出て行った。月一の頻度で会いにくるがその度に綺麗になっている。ここの娼館ボロいからなぁ。むしろこの環境であそこまで美しかったのが驚きだ。

 

 その人が言うには一応両親については、私の母は娼婦だったらしい。が、仕事で致すことになった父との間に子供ができ、何か訳ありで父の元から逃げ出し、友人のいるここの娼館で私を産んだ。元々、母は病弱だったらしい。私を産んでまもなく体調を崩し、死んだと。

 

 赤ん坊の私に語りかけてくれた、所々やんわりと言ってくれた話をまとめるとこんな感じだ。訳ありというのが少々気になるが、恐らく私の称号にある「神子」に何か関係があるのだろう。今の私に直接関係ないので、正直どうでもいいが。

 

 そんな訳で私はボロい娼館に住んでいるわけだが待遇が酷い。ご飯はほぼ出ないし衛生面も悪いし、娼婦の人に八つ当たりに地面に叩きつけられることもある。娼館の人曰く、この子を育てて娼婦にしてやるー、感謝しろよー、などと言っていたがその前に普通の子供なら死んでいるところだ。真面目に私を娼婦に育てる気はあるのだろうか。

 母の友人は私を引き取ろうとしているようだが、お金足りないと嘆いていた。相場はわからないが、赤ん坊がそこまで高い訳ないので、恐らくここの店長が金を釣り上げているのだろう。

 「あと三年で引き取れるからー!」と言っていたが、正直間に合わない。

 特に食べ物が深刻だ。私の種族のせいか、普通の赤ん坊よりも大量の栄養を必要とするのだ。母の友人が出来る限りの食べ物を持ってきてくれるが、それでも足りず、ガリガリになっちまうレベルで絶食状態が続くこともあった。ネズミを捕まえて食べたこともあったが、正直腹の足しにもならなかった。

 

 

 よって食料がない状態を解決するために街を魔物から守るため囲っている壁を越える。

 

 この世界の魔物と呼ばれるものはこの世界の産業の基盤らしく、食料や装備品、服、武器などと様々なものへと加工できる。しかし、同時に人族の生活を脅かす脅威でもある。だからこうして高い壁で街を覆っているわけだが…。

 魔法があるとはいえ建築費がかかりそうだな。高いだけじゃなく厚みもある。地球でもガッツリ戦争用の物じゃないとこれだけの厚みは無いだろう。街一つをわざわざこの規模の壁で覆っているということは、それだけ魔物の存在は大きいということ。

 そんな大事な壁を越えるなんて何考えているんだ、と普通の人なら思うだろう。しかし、先程言ったように魔物は食べ物にもなるのだ。そして食料不足。だから危険を犯してでも魔物を得るために壁を越えるのだ。

 当初は食料なんて盗めばいいんじゃないか?と思ったのだが、そうすると『奪取』というスキルが出てくるらしく、このスキルを持っている者は見事盗賊認定。鑑定石なるものもあり、使われたら一発アウト。盗賊認定は嫌、というか今後に支障が出る可能性があるのでこの策は泣く泣く諦めた。

 

 

 さて、壁を越えたので魔物を探す。狙い目はもう死んでいる魔物である。

 と、ウロチョロしていると早速探知に引っかかる物が。イノシシ型の魔物が食べかけで残ってるな。早速その場所に行くと、やはりいた。結構残っている、当たりだ。もう血は抜かれているため空間魔法を発動。そのまま空間収納に放り込む。

 捌いてる間が一番危険だし、ここにいる時間を減らすためにも全部持ち帰った方が良いから持ち帰る。時間がある時はこの後安全な場所で捌いて肉を焼く。空間収納の中は時を止めることが出来るからそこで保存して、いつでも取り出して食べることができるのだ。

 空間収納がなかった頃は、肉だけ切り取って持ち帰っていたが何度か魔物に襲われて死にかけた。まだ探知を上手く扱えておらず出力を絞っていたとしても、なぜか会うのは私より圧倒的に強い魔物だけ。こんなに強い魔物は普段は居ないはずなんだけど。その度に逃げたが、少なくない怪我を負うことになった。

 

 また、魔物に出会っては怪我をして逃げてを繰り返すうちに、戦闘もしてないのに戦闘系のスキルが伸びた。

 そして効率よく食料を集めるため、探知を手助けする「演算処理」や「並列思考」などといったスキルを取得。明け方ギリギリまで外で走り込みなどの修行をし、空間収納が出来る空間魔法、怪我を治せる治療魔法を主に、魔法を取得して徹底的に鍛えた。

 

 特に、魔法の鍛錬はとても面白かった。いつもテンションが上がってMPをギリギリまで使うくらい面白かった。切れたらやばいと私の勘が訴えてきたので使い切ってはないが。

 前世のクラスメイトに重度の凝り性と言われたほど好きなものにはとことん熱中するタイプのため、暇さえあれば魔法を使うようになった。他の訓練と同時並行で使い、寝ながらでも魔法が使えるか実験してみて、威力を増大する方法をひたすら研究した。楽しかった。将来は魔法使い的な職業に就こうと思う。

 しかし改めて考えると魔法の属性があるのは意味不明である。魔法を使う時に自動的に出る模様、いわゆる魔法陣を調べてみた結果、本質的な部分、例えば火魔法だとその本質は火を出すところであるが、それが魔法陣の中では情報量としては少なく、他の付加的に付け加えられている部分が多すぎる、という印象だった。また、魔法系のスキルはレベルが一つ上がるごとに、その系統の使える魔法の技が一つ増える、というシステムなのだか、これにも何とまあ作為的なものを感じる。本当に誰かが、作ったかのような……、

 …それはまだ、考えなくても、大丈夫だ。

 

 閑話休題。

 そのおかげで今では私は一度も魔物に会うことなく次々と近くの魔物の死骸を回収できるほど強くなった。

 これほど強くなったらそこらの魔物を狩った方が遥かに楽だと思うが、生きている魔物はいくらステータスがあるといえど狩るのに時間がかかるし、新鮮な血の匂いはどうしても周囲の魔物を呼び寄せてしまうし、何よりも私には血抜きの知識がない。やってもいいが、正直とてもめんどくさい。そして、周囲には割と魔物の死骸がある。死んでる魔物は血抜きはセルフでされてあって、とても楽である。

 そんな感じで生きている魔物と出会ったら速攻で逃げているので、魔物を倒し経験値を手に入れ上げていく基本のレベルは1のままである。

 そのうち経験値も手に入れてレベルアップしたい。特にMPの総量を上げて使える魔法の幅を増やしたい。しかし鑑定で見るにはステータスアップ系のスキルレベルを上げてからの方が効率が良さそうなので、そうだな、この調子だと………、大体5、6歳から狩りを始めよう。うん、そうしよう。

 

 …また話が逸れた。私は肉を取りつつ、食べられそうな果物や草などを鑑定を駆使して次々と取っていく。栄養が偏ると成長に悪い、と思う。

 …本当なら母乳を飲む年頃だ。もう既に成長に悪い気しかしていないが……。きっと竜人は強いから大丈夫だ。私は信じてる。

 ちなみに、取った草はそのまま食べる。鍋で煮込んで美味しくいただきたいところだが、生憎鍋も、この赤ん坊ボディで料理ができるような器用さも得ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神獣様が現れたんだって!」

 

 今日は月に一度、お姉さんが来る日である。ちなみに母の友人であるこの人のことはお姉さんと呼ぶことにした。名前は知らないから。鑑定で調べようと思えば出来るが、鑑定を使われると不快感が襲ってくるらしいのだ。

 私が今までに鑑定してきた人、盗賊だが、私が鑑定した途端焦ったように周りを見渡し、「この不快感、鑑定だ!」と、周囲の仲間に注意を促したことでわかった。その後も何人かに実験してみて、そして全員が違和感を感じたかのような反応を見せた。ほぼ確定だろう。それから私は人に鑑定を使うのは控えている。

 まあ別に鑑定する意味もない。探知で人の居場所は分かるし、名前もお姉さんで通せるし。

 

 因みに私が人間じゃなくてある程度の知識と人格を持っているということを唯一知ってる人だ。聡い人なので、私の普段の行動や仕草で何となく察したらしい。

 

 それはともかく。

 神獣様とは何なんだ。詳しく、と訴えるため地面をバンバンと叩く。『念話』というスキルがあり、一応取れるのだが…まだ困ってないしスキルポイントが減るのも嫌だと思って取っていない。現にこうして伝わってるわけだし。

 お姉さんは「あら?続きを話して欲しいの?」と言ってコロコロと笑い、手にいっぱいの食料を置いて、この部屋に一つしかない椅子に腰掛けた。ギシッと不穏な音がしたが、椅子がオンボロなだけでお姉さんの体重が重いということではない。あとで修理しておこう。

 

「えーとね、小耳に挟んだんだけど公爵夫人サマが話していたらしくて………

 女神教って蜘蛛が神獣と呼ばれてるんだよ?不思議だなぁ。で、蜘蛛型の魔物が出たんだってぇ。それも公爵夫人サマが盗賊に襲われている時に。

 …でね!その蜘蛛、何したと思う?ズバリ盗賊を撃退!そして怪我をしていた護衛の治療!スゴイねぇ。あ!信用できないと思った?じゃあこれも話しちゃおーう!

 エルロー大迷宮に入った冒険者、その人たちもどうやら蜘蛛型の魔物に助けられた挙句回復魔法をかけてもらったらしいの。まぁおんなじ蜘蛛だろうねぇ。こんなお人好しの蜘蛛多分二匹も居ないでしょー。あ、この話は本当に信用できるから安心して。なんてったって私の元お仕事関連で入ってきたから」

 

 元お仕事関連というと娼婦の伝で入ってきたやつか。このお姉さんは娼婦のなかでもかなりうえのほうにいた人である。そして上の方へ行けば行くほど信頼というものが大切になってくるため、信用できるのだ。

 …なるほど、割とビッグニュースだ。間違いなくその魔物は人を助けようと行動している。魔物が人を助けただけでなく、その上治療魔法を使える?特殊個体にも程があるだろう。

 もしかして………、いや、まだ決めつけるには早いか。ただの気まぐれでそういうことをする、知能を有した魔物いるかもしれない。

 …これからの動きを少々みるか。外に出るのも一時休止だな。そうでないと判断ができない。それなりに強い魔物っぽいし、人を助けたといえど魔物なので安心は出来ないし、下手に刺激して薮蛇になりたくないし。

 

 

 

 という話をしたのも数日前、街で大々的に神獣様としてその蜘蛛は崇められるようになった。これは五感強化で聴力を強化して聞いた話だが、果物が好物でお供物をしたら代わりに治療してくれるそうだ。老若男女問わずどんな人でも、そしてどんな病気や怪我でも治療。なるほど、神獣様と崇められるのも納得だ。

 …やっぱり転生者か?だったらこの魔物らしからぬ行動にも納得できる。私も人族ではない竜人族に転生したし、蜘蛛に転生した人がいる可能性はゼロじゃない。

 

 …会いに行ってみるか。希望的観測にはなるが、人を襲わないらしいので…、安全と言えるだろう。万が一戦闘になったとしても、逃げるくらいなら出来るはず。

 そして転生者であるのなら、出来ることなら話がしたいなと思う。

 

 

 ということで夜、人がいない間神獣がいる森にやってきた。神獣はこの森で過ごして、基本的にここを動かないそうだ。

 まあ、念の為に探ってみるか。

 …やはりと言うべきか、探知でも強い反応が引っかかってる。多分この反応が神獣だろう。

 …絶対敵には回したくないな。この気配。第六感とでも言うのだろうか、探知の気配とともに私の中の危険察知機能が警報を鳴らしてくる。回復能力だけではなく戦闘能力も高いのだろう。いや、勘を信じるのならばむしろ戦闘能力のほうが高い。

 正直、回復魔法のスキルレベルが非常に高いと思われるので、戦闘はからきしかなと考えてはいたのだが…、少し舐めすぎてたな。

 これはかの龍種に匹敵するのではないか?龍種に会ったことはないから憶測でしかないけど、最早龍種を飛び越えて神話級と呼ばれてもおかしくないと、そう思ってしまう。

 おっと、向こうも私に気がついたな。探知でこちらに身体を向けて見つめている蜘蛛の姿がわかる。

 

 …ここまで来たのだから、可能性に賭けてみる。もし転生者じゃなかったこととしても問答無用で殺しに来るようなことは、噂を聞く限りないだろう。

 そして何より、殺す気があるのならもう既に私は殺されている。ここまでの格差があると肌で感じられるのだから、一瞬で私の元に来て殺すことくらい訳ないだろう。

 まあ、死んだとしてもそれも私の人生。いや、今世は竜人だから竜人生か?どうでもいいことを考えながら、私は一歩、神獣に近づいた。

 

 

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