とある龍の軌跡   作:紅のかっぱー

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会話

 

 

 不思議なことに神獣に近づくにつれ、魔物が居なくなっていく。何故だろうと思い、魔物の感情に絞って探知をすると、面白いくらいにビビっていた。

 あの神獣は強く、魔物の本能でその強さを恐れているのだろうと思ったが、それでもやはり腑に落ちない。

 確かに魔物は本能で危機を察知するが、それでも危機管理の薄い個体もいる。魔物の全部が全部、びびっているのはおかしいだろう。

 ああでも確か、『威圧』というスキルがあったな。それだと鈍感な魔物でも、強制的に恐怖を植え付けることができる。恐らくそれをあの神獣は使っているのだろう。

 …私には効いていないな。じゃあ『威圧』のスキルは対象を選ぶことができるんだな。なるほど、初めて知った。頭の片隅にでも入れておこう。

 よって、神獣の元へ向かう私を邪魔する魔物はいないから、楽々進むことができた。

 本当に楽だな、今度『威圧』のスキルでも取ってみるか。

 

 

 

 そしてようやく神獣とご対面。神獣というにはかなり禍々しい、だいたい人と同じくらいのサイズのデカい蜘蛛である。しかも、前足が鎌になっていて完全に戦闘型の蜘蛛である。私の勘は正しかった。

 

 それはともかく、

 私は、人と会話する時に大事なのは相手との距離だと思っている。

 例えば、初対面の人と肩を組みながら会話する人はいないだろう。

 何故か、『落ち着かないから』だ。友達や家族、恋人だったらその距離感でも平気だという人は多くなるが、初対面でそんなことをするのは、少なくとも現代日本では「はぁ?」と言われてしまう。そしてコイツは空気が読めないと、周囲から人が遠ざかっていくだろう。初対面で話す時は、1メートルは距離を空けて話す。それが『落ち着くから』である。

 それぞれの関係性によって、会話する時に“落ち着く距離”というものもそれぞれ異なってくるものなのだ。そしてそれを見極めることが良好な人間関係を保つコツなのである。

 

 なので、ゆっくりと、自然に、蜘蛛と私の距離感を測って、近づいてみる。

 …2メートルくらいだな。これ以上進むと警戒心が一気に高まってしまう。多少強引に近づいて、関係性を一気に深めるという手段もあるが、これはダメだ。本気で嫌がられてしまう。

 蜘蛛の方が強いのだし、下手なことをしないのが無難だろう。

 

 

 さて、向こうも私のことを待っていたようだし、どう出て来るかな。

 

 ……。

 ………?

 …向こうから何かアクションがあるかと思って待っていたら、何もなく、ただ互いを見つめるだけの謎の時間が発生。転生者ではないとしても、知能は絶対備えているはずなので鑑定くらいはふっかけてくるかと思っていた。

 ……どうしよう、もう少し待ってみるか。

 ……。

 !!

 次の瞬間、突如身体を弄られるような不快感。

 なるほど、これが鑑定された不快感か。

 そりゃあ、誰でも個人情報を覗き込まれてプライバシーズタズタにしてくるようなものは嫌だよな。

 

 そして、鑑定を仕掛けてきたということは、スキルレベルが低くても私の名前くらいは見えているはずだ。

 私の名前の欄は

 

 

名前 アテナ(竜田 仁美)

 

 

 となっている。

 今の名前と、そして前世での名前が書いてあるのだ。

 転生者で、しかも元クラスメイトなら流石に名前くらいは覚えていてくれていると思う。

 そうでなくとも、名前が完全に日本人でこの世界ではあり得ないため、私が転生者であることは一目瞭然だろう。

 

 さて、もし同じ転生者ならば『念話』を飛ばして来るか、何らかの行動を示してくれるはず。

 

 この蜘蛛は、どう動く?

 

 

 

 

 …と思ったら何も起きずにまた見つめ合う謎の時間が発生。どうしたんだ、この蜘蛛。あなたの方が強いんだぞ。

 心なしか蜘蛛はオタオタと、焦っているように思える。突如話しかけられたコミュ障のような反応だ。感情が読み取りにくいから、ほぼほぼ勘だけど。

 私よりこの蜘蛛の方が圧倒的にステータスが高く、探知も効きづらいため、先ほどの魔物のように感情を読み取るとは難しいのだ。蜘蛛の行動や仕草がどんな感情を表すのかも、私は知らないし。

 

 

 

 

 ……。

 ……?

 ……う、うーん?ええと、…。

 …あれ?ここまで反応がないということは、もしかして転生者ではない?ここまできて?

 

 

 …こちらから何か仕掛けてみるか。私の方がステータスは低いし、多少リスキーだが仕方がない。

 

 …えー…、こちらも鑑定を使う?

 …いや、却下。それは悪手。鑑定の不快感に逆上して襲いかかってきたら面倒だ。

 うん、ここは別のアクションを取ろう。

 

 私は手頃な木の棒を手に取り、地面に日本語で「こんばんは」と書く。

 器用さに関してはまだかなり未熟なため、少し歪になってしまったが、自他共に認める字が下手な男子中学生よりかはマシだろう。

 下手だけど、日本人だったら多分、伝わる、…はず!

 

 これでどうだ?と思い蜘蛛を見つめる。

 蜘蛛は地面に書いた文字とこちらを何回か交互に見て、少し考え込むそぶりをした。

 そして、おもむろに自身の前足の鎌を片方持ち上げ、鎌の先端でカリカリと、そしてゆっくり地面を削って

 

 

「こんばんは、仁美さん」

 

 

 と、日本語で書いた。

 その綺麗で澱みないひらがなと漢字は、付け焼き刃では決して出せないだろう。

 

 間違いなく日本からの転生者だ。

 

 

 

 

 さて、転生者と分かったところで果たしてクラスメイトなのかどうなのか。その後は何も書かないままなので、わからない。

 そして、喋らないのか喋れないのか。

 わからないが、取り敢えず筆談する気はあるようなので、このまま地面に文字を書いて質問しつつ会話を続けて、情報を得よう。

 

 

「平進高校を知っていますか?」

「はい」

「そこの生徒でしたか?」

「はい」

「転生しちゃいましたね」

「そうですね」

「何の授業中に死んだかは覚えていますか?」

「古典です」

「もしかして、担任は岡崎先生でしたか?」

「そうです」

「やっぱり、同じクラスでしたね。知っていると思いますが、私の前世の名前は“竜田仁美”です。あなたの前世の名前はなんですか?」

 

 

 同じ教室にいたクラスメイトか。やっぱり、クラス全員転生しているのだろうか、そうすると死因は教室全体に起因するものなのか、そして何故転生したのだろうか。と言うことを悶々と考えながら筆談を続けていると、

 

 一瞬、蜘蛛の手が止まった。

 

 多少のぎこちなさはあったもののテンポよく進んでいたので、少々不自然である。

 前世の名前を明かしたくない?それとも他の何かが地雷だったか?と思ったが、次の瞬間には蜘蛛の手が動いていた。

 まあ、あまり気にしないでおこう。

 

 それよりも、クラスメイトの誰だったかを知るため私は、鎌の先を目で追った。

 

 

「若葉姫色」

 

 

 …若葉、姫色……。若葉姫色…!?嘘だろ!!??

 

 

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