「北米を占領しているのはジオン公国の王、デギン・ザビの子息、ガルマ・ザビ、ほぅ、王子自ら出向いているのか、面白いな」
「人手不足なんだろうな」
「それにこいつ、ハンジさんの情報によると現地の町長の娘と婚姻関係にあるらしい」
「……おいコニー、これから戦うってのにそんな情報教えてどうする、ただ戦いづらくするだけだろ」
「すまねぇ……」
「……」
(……もし、ガルマ・ザビを戦いの中で殺したら……どうなる?)
「ったく、思い詰めてんじゃねぇよグリュック、相手は同胞すら虐殺した国家なんだぞ?」
「……でも」
グリュックは夜、コア・ファイターを無断で使用し、ニューヤーク基地へと向かった。
「ホワイトベースに正規軍人なんてほぼ居ないからな、こんなことやっても罰なんて受けないだろ」
ある種楽観的とも言える考えを持ちながら、速度をあげる。
「それにしてもコア・ファイターってよくこの大きさで飛べるよな……俺達の時代だったら……あれ?」
グリュックはシートの後ろに人の気配を感じ、慌てて自動操縦に切りかえコクピット内を確認する。
「な、ナナバさん!? な、ななななんで!? いつの間に!?」
「あはっ、来ちゃった」
「じゃないですよ!! これから行くのは敵の拠点なんですよ!? 何があるか分からない!! あなたを失えば俺は……」
「そんな時は君が守ってくれるだろう?」
「そっ、それに……」
「なんだい?」
「いや……なんでもないです。って、降りますよ!」
比較的離れている森林に機体を降ろし、隊服を着替えてそこから徒歩でニューヤーク基地まで向かった2人。
「流石にここまで来て詫びの品とか無かったら怒られるだろうからな、なんか買って帰ろうか」
「そうだね〜、あ! あれとかどうだろう、アムロって子、機械いじりが好きみたいだからさ、ああいうの喜ぶんじゃない?」
そう言ってナナバが指差したのは少しお高めの工具用品。
「でもそれよりもな〜」
「?」
「やっぱブライトさんに渡さないと……」
「あぁ! まぁ上司だからね〜」
しかしブライトの趣味嗜好なんて知らない為どうしたらいいか悩む2人。
「う〜ん……まぁこれでいっか」
先程の工具と当たり障りの無いストレスを軽減させる薬を買った2人は、何かを食べようということでピザ屋に足を運んだ。
「っていうかさ……コロニー落としたのはジオンで、ここ地球なのにやけに治安良くない?」
「確かに……しかも見たところヒィズル────んっ、日本人っぽい人もいるから圧力って感じもしないし……」
「おっと、チーズが口に付いてるよ、おっちょこちょいなんだから」
そう言うとナナバはグリュックの口に付いたチーズを指で絡め取り、自分の口に入れる。
「ぁあ……! もうナナバさん!」
そうやって敵陣の真っ只中とは思えないやり取りをしていると前の椅子に1人の男性が座った。
「君、ここは初めてか?」
「え……だ、誰、ですか……?」
「ギルザ・ガビだ、すまない。自己紹介を忘れていたよ」
訝しげに見つめていた2人だったが、自己紹介をされたことによってそれは解消される。
「ど、どうも……えぇ……まぁ初めてですけど……」
「どうだ、いい町だろう?」
「いい景色だと……思いますけど。あ、それと料理が美味しいです!」
「ふっ、そうか、料理が美味しい……か。君になら、話してもいいかもな」
「ん? どうしたんですか?」
「いや……初対面の君にだからこそ話せることというか……私には婚約者がいてな、だが私と彼女の立場上、結婚してしまうのははばかられることなんだ」
(え……なに急に)
(私に聞くな)
「私は彼女の為なら何もかもを投げ捨てて逃げてもいいと思っている。……しかし、私が逃げたらそれのよる不利益を被るものが大勢いるんだ」
そう話しているギルザの背後の物陰に怪しく光る銃口があった。
「危ないっ!」
グリュックは机にあった残りのピザなんてお構い無しにギルザを押し倒し、銃弾から避けさせる。そして上体を起こすと護身用に持っていた銃を撃ってきた男に撃ち返す。
「ジオンは宇宙に帰れ!!」
「待て!!」
(って、ジオン!?)
男を追いかけようとするグリュックをギルザは引き止め、ピザで服を汚してしまったということを名目に自らの屋敷へと招いた。
「すまないね、偽名まで使ってしまって、改めて名乗らせて頂こう、私はガルマ・ザビだ」
「え……え……!?」
(何が……どうなってる!?)
「ところで君は、銃の扱いに長けていたようだったが、何か訓練などしていたのか?」
「いや……別に……」
「はっは、大体察しは付くさ2人は────連邦軍なんだろう?」
「え……」
「まぁまぁ、緊張するな、茶でも飲め」
「……」
「毒など入っていないさ」
(いや……そういうことじゃなくてだな……)
「まぁ、君たちをどうこうしようとするわけではないさ、見ただろう? この綺麗な町を」
「確かに……」
「私はこの町が好きでね、だから恐怖政治なんてやり方で支配はしたくなかったんだ」
「……」
「ガルマ・ザビ大佐、イセリナ・エッシェンバッハ様がお待ちです」
入口の扉が開いて、顔上半分をマスクで覆った謎の男がガルマを呼んだ。
「え……誰」
「私の親友さ、すまないなシャア、今行くよ。君たちは入口にあるジープでこの町を出るんだ」
そう言って部屋を出ていったガルマ、そして2人は入口に備えられたジープを駆り、コア・ファイターの場所へと向かった。
「……来なければ、良かったな」
「いや……私は……そう、だな……」
ナナバもそれに同意する。帰りのコア・ファイターの中は、沈黙の空気が漂っていた。
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「通信機器、反応、途絶いたしました!」
「……やはりそうか」
ジープに備えられた位置情報を表す機械はある森林で途絶えており、ホワイトベースの居場所は未だ掴めずにいたのであった。ガルマは続けて言う。
「しかし……無事に帰っているといいが」
「え?」
「いや……なんでもないさ」
部下の反応に、彼は髪を弄りながらそう答えるのであった。