エロゲの悪役に転生した俺、勃起中はステータス爆上がりのスキルで破滅を回避する。童貞だけど   作:ゼフィガルド

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エロゲの悪役に転生

「エレク様!」

 

 誰のことを指しているか分からない声で目を覚ました。

 周りは見たことが無い景色で、見知らぬ執事服を着た男性が心配そうに俺のことを見ている。妙に体が重かったので下腹部を見れば、付けた覚えのない贅肉がたっぷりと備わっていた。

 

「もう、皆さまはダンジョンの方に向かわれています。早く、お召し物を……」

 

 訳も分からないまま着替えさせられている間、部屋にあった鏡を見れば醜悪な男が映し出されていた。ブクブクに肥えた顔面、首周り、二の腕、腹部に至るまでだらしなく蓄えた脂肪。それと汚い尻。

 ソイツは俺の反応に連動する様にしてコロコロと表情を変えていた。認めたくはないが、この豚の中に俺が入っているらしい。一体、何が起きているのか? 緊張した表情で着替えさせている男性に尋ねる。

 

「確認するが。俺はなんの為にダンジョンに行くんだったか」

「ま、魔王にさらわれたリーミア様をお救いする為です」

「(エレク、ダンジョン、リーミア。そして、この汚い尻……。そうか)」

 

 俄かに信じがたいが、ひょっとして。ここは自分がプレイしていたゲーム『迷宮エレクチオン』の世界ではないのだろうか?

『迷宮エレクチオン』。ファンキーなタイトルから分かる様にして、ダンジョン物のエロゲ―である。

 国を滅ぼそうとする好色の魔王に攫われた王女を始めとしたヒロイン達を助け出し、最後には彼女らと結ばれるというシナリオだ。ただし、主人公はルーカスと言う青年である。

 

「(俺が。あの『エレク』に!?)」

 

 では、エレクが何者かと言うと。有体に言ってしまえば竿役である。

 侯爵家の長男でありながら性根は腐っており、ウザイ位にテンションが高いわ、使用人に手を出すわ、権力を盾にやりたい放題するわ、身の程も知らずに王女であるリーミアのことを好いているわ、主人公の邪魔ばかりして来るわ…。

 好かれる要素が何一つとして無く、その中で最も原因として挙げられるのはこの汚い尻である。

 

「どうしたんですか? エレク様。急に自分の臀部を叩き出しましてからに」

 

 竿役らしくヒロインと合意なく致すシーンもあるが、大体CGの中心にエレクが描かれており、彼の汚い尻を何度も拝む羽目になる為。ユーザーからは某嵐を呼ぶ園児に託けて『ぶりぶり貴族』等と呼ばれていた。

 

「(不味い。本当に俺がエレクになっているのだとしたら)」

 

 だが、シナリオ的にも実用面的にも不興を買ったエレクは最終的に殺されてしまう。これは夢かもしれないし、現実かどうかも怪しいが、このままでは死と言う運命に向かって突き進んでしまう。

 かと言って、何もせずに静観していれば国を滅ぼされてしまうかもしれない。生き残る為には勇者ルーカスを出し抜き、俺が魔王を倒すしかない。

 

「(しかし、どうやって?)」

「エレク様。準備が出来ました。表に馬車も停めております」

 

 今から逃げ出した所で、自分がどうにか出来るとは思えない。それならば、むしろ。エレクと言う悪役が持っている可能性に賭けた方が可能性はある様な気がした。

 

「(そうだ。エレクには何度もルーカスに立ちはだかれるだけの能力があるじゃないか。あの鬱陶しい『スキル』が)」

 

 執事に案内され馬車へと乗り込む。目的地へと向かうまでの間に、俺は小さく呟いた。

 

「ステータスオープン」

 

【名前】:エレク

【年齢】:20

【職業】:侯爵家嫡男

【レベル】:1

【体力】:10

【魔力】:00

【攻撃力】:05

【防御力】:12

【俊敏性】:03

【固有スキル】:勃起無双

 

 ポン。と、目の前にステータスが表記されたウィンドゥが表示された。普段は無駄な動作とローディングが入る鬱陶しい挙動だと思っていたが、世界観に馴染ませるような造りをしてくれていたことに感謝する外ない。

 能力を表す様に並べられた数値は、初期時点のルーカスと比べても低すぎる位だった。だが、俺はガッツポーズを取っていた。

 

「(あった。頼みのスキル【勃起無双】が!)」

 

 これこそが、ピザデブでしかないエレクを敵として成り立たせていた要のスキルであった。だが、本当に発動してくれるのだろうか? 

 チラリと横目で執事の方を見た。俺の視線に気づいたのか、執事は溜め息を吐きながら、飽き飽きした様子で優しく説明してくれた。

 

「エレク様。スキルを理由にメイドを雇うことは出来ませんので。旦那様からも固く禁じられております」

「分かっている。荷物が揃っているか、再度チェックしておけ」

 

 その反応を見て、俺は自身がエレクになってしまったんだと認識した。メイドを雇えない理由は考えるまでもない。

 何故、よりによって嫌われ者の竿役なのか。本来の俺はどうなってしまったのか。どうすれば殺されずに済むのか。考えるべき問題は山積みだった。

 

~~

 

 目的地であるダンジョンの前には、既に人集りが出来ていた。一獲千金や名声を求める者達、彼らに向けて商売を始める商人達。その中でも燦然とした存在感を放っている者がいた。

 端正な顔立ちに、短く切り揃えられた黒髪。エレクとは比べるのもおこがましい程に鍛え上げられた肉体。勇者とはかくあるべしを体現したかのような存在だ。傍にいる執事ですら溜息を漏らしていた。

 

「やはり、ルーカス様は存在感が違いますね」

「(CG通りの見た目だな)」

 

 原作では、ここで初めてエレクと絡む。だけど、俺は面倒ごとを起こしたくはない。一瞬視線が合ったが直ぐにスルーをした所、向こうからやって来た。

 ゲーム内では、普段はクールながらもいざという時には熱い男。今の時点では此方と面識がない筈だと言うのに、一体何の用なのか。

 

「アンタがエレクか?」

「えぇ、その通りです。ルーカス様に名前を憶えて貰っているとは、光栄ですね」

 

 憶えている限り、エレクの喋り方を再現してみた。だが、元から好感度が低いのかルーカスの眉間には皺が刻まれたままだ。

 

「リーミアから話は聞いていたが、身を張る程度の甲斐性はあるんだな」

「ほぅ、私の話をしてくれていたとは、光栄ですね。どの様に話されていたのでしょうか?」

「身の程も知らんデブ。皮袋に詰まった性欲。汚尻。侯爵家の長男だから調子に乗っているようだが、それもここまでだ。俺が彼女を救い出した暁にはお前の悪行も全て表に曝け出してやる。覚悟しておくんだな」

 

 吐き捨てるように言ってから、彼はダンジョンへと進んで行った。隣では気まずそうにしている執事がいたが、気になることがあったので尋ねた。

 

「おい。なんで、リーミアは俺のことを汚尻なんて言うんだ」

「それは、そのぅ。エレク様が尻を見せたからでは……」

 

 自分から見せていくのか…。ひょっとして、CGでアレだけ強調されていたのは単純にエレクと言う人物の性癖を強調したかったからかもしれない。

 俺も遅れを取るわけには行かない。執事から道具一式を受け取り、入り口に立っている衛兵達に声を掛けた。

 

「おい、俺は侯爵家の長男エレクだぞ。通さないか」

 

 ルーカスと言う勇者を見送った後で汚物を目に入れたのが不快だったのか、慇懃無礼な対応を取られたが、俺はダンジョンへと潜って行った。


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