エロゲの悪役に転生した俺、勃起中はステータス爆上がりのスキルで破滅を回避する。童貞だけど   作:ゼフィガルド

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第17話:過去と未来

 

 ダンジョンの攻略は進む。持ち帰って来るボスドロップ品を前に、評判が覆って行く。この国を救うのはエレクしかいないと。畳み掛ける様にして、イアス達がルーカスの非道を糾弾した。

 

「彼は! 国王からの支援を受けながらも! 成果に目が眩み、共に国を救う同志を囮にしてダンジョンを進んでいると騙っていた! 魔物達の欲望の捌け口にされた勇士の中には、私の恋人もいた! 彼女らを救ったのは誰か!そう! 今や皆も知っての通り、真の勇者。エレク氏である!」

 

 イアス商会を通じての宣伝は抜群だった。元より、侯爵家長男と言う恵まれた立場もあって権威は十分だった。加えて、イアスはここに悪魔の文言を付け加えた。

 

「国王も不幸だった! ルーカスと言う非道の本性を見抜けなかったのだから! 娘を攫われた父の胸中を利用した卑劣な男の罠にハマってしまったのです! 目覚めるべき時は今です!」

 

 共倒れの可能性からルーカスを切ることの出来なかった国王に逃げ道を与えたのだ。しかも、理由も十分に市民の同情を誘える物であり、乗らない訳が無かった。

 

「どうやら、私も目を覚ますときが来たようだ。エレクよ、今までの我が無礼を許して欲しい! そして、この国と王女を救って欲しい!」

 

 トントン拍子とはこのことか。嫌われ者のエレクはあっと言う間に英雄に祭り上げられていた。一方で、ルーカスは人々を陥れる犯罪者となり果てていた。もはや、表に出て来ることも適わないだろう。

 

「なんか。嘘みたいですよね」

「この間までは、アレだけ嫌われていたのにな」

「みぎゅ!」

 

 街の人達からは歓迎のムードを受けている。屋台で受け取った串焼きを天雅に食わせつつ、すれ違う人達からは期待に満ちた眼差しと声援が送られながらセレンの家へと向かっていた。

 

「あら、セレン。それに隣の方は……」

「エレクだ。娘さんが世話になっている」

「まぁ! 貴方が!」

 

 セレンの茶髪のくせっ毛は母親譲りなのだと思った。年老いて、目尻にも皺が刻まれた分。彼女よりも優しい感じがした。

病人と言うには顔色も良く、食事もちゃんと食べていた。順調に快復している様だった。

 

「お母さん。あまり大声を出しちゃ駄目だよ?」

「大丈夫よ。イアス商会の人達やミーディさんのお陰で調子が良いんだから」

「ならば、よかった」

 

 エリクサに頼らずとも治せるなら、それが良い。彼女達の幸先の良さを見れば、心残りなことは何もなかった。後は、魔王を倒せばいい。

 

「何時も娘から話は聞いています。とても勇敢で頼りがいのある人だとか。その上、娘と恋仲にあるだとか」

「お母さん!? 何言っているの!?」

「え? だって、貴方はこの方と……」

 

 慌てて母親の冗談を取り繕う光景は微笑ましい物だった。一体この方と……の先は何を言おうとしていたんだろうか? 気にはなるが、聞いてみたら将来まで決まってしまいそうなので、話題を逸らすことにした。

 

「セレンはダンジョンを攻略した後は、どうするつもりだ?」

「そうですね。ミーディ様の下で回復術や薬学を勉強して、病気や怪我で苦しんでいる人達を助けたいんです!」

 

 素晴らしい目標だ。彼女にはダンジョンを攻略した後の未来も見えている。きっと、沢山の人達を助けてくれることだろう。

 

「良い目的だと思う」

「エレク様にも何かあるんですか?」

「暫くは考えてみる。まずは、国を救わないとな」

 

 本当はしたいことなんてない。だけど、焦る必要はない。ダンジョンを制覇した後は時間もたっぷりと出来るだろう。何時かは生きる目的も見つかるだろうと自分に言い聞かせる。

 

「(そもそも、どうなるかなんて俺にも分からない)」

 

 胸中に沸いた不安を掻き消す様にして、俺はセレンと彼女の母親の会話を楽しんでいた。彼女との出会いから振り返って話をしていると、気づけば日も傾き始めていた。

 

「すまない。楽しくて話し込んでいた様だ」

「私もです。エレク様と出会ってから、沢山のことがありました」

 

 カリドーンの救出劇から始まり、本当の自分を打ち明け、ダンジョンの攻略を進め、色々な人達を助けて、ルーカスに代わって国を救おうとしている。

 以前の世界で生きていた頃には考えられない程に充実した日々だった。エンディングはもう、目の前まで来ている。

 

「そうだな。最後まで頼むぞ」

「はい!」

「セレン。貴方はエレク様を支えて上げるんだよ」

「勿論です!」

 

 母親からの奨励にも元気に応える彼女を見て、俺は暖かな気持ちになっていた。彼女達に別れを告げて、帰路に付こうとした俺の前に1人の女性が現れた。

 みすぼらしい姿をしていた。俺に声を掛けて来た乞食か娼婦の類かと思った。彼女が口を開いた。

 

「お久しぶりです。エレク様、私のことを覚えていますか? かつて、貴方の館で働いていたメイドです」

 

 心臓が跳ねた。思い出した。彼女はエレクの記憶の中にあった、暴行されていたメイドだった。俺を強請りにでも来たのだろうか?

 

「なんだ? 恐喝でもしに来たのか?」

「いいえ。私は貴方に知って欲しいんですよ。付いて来て下さい」

 

 彼女を放置することも出来たが、罪悪感に駆られて後を付いて行く。

 活気付いている表通りから離れて、裏路地へと進んでいく。物乞いや浮浪者が蔓延り、少し前まで向けられていた視線を向けられるようになった。

 怒り、軽蔑、嫌悪。最近、忘れていた負の感情だ。俺が守ろうとしている社会から捨てられた者達。作中で描写はされていないが、居ない訳がない。

 

「着きました」

 

 彼女が指差した先にある光景を見て、俺は息を呑んだ。

 辺り一帯は異臭に満ちていた。小汚い男達が薄汚れた女と交わっている。彼女達は一様に口の端から涎を垂らし、衣服を開けさせていた。ここには人間の尊厳が存在していなかった。

 

「これはまさか、エレクの」

 

エレクが暴行して来た者達の末路だった。館を追い出された彼女達がどうなったかなんて考えたことは無かったが、答えがあった。

 

「貴方が国を救おうとも。罪は消えない」

 

 今まで、俺が頻りに口にしていたことだ。分かっているつもりで、俺は何も分かっていなかった。エレクは、幾多もの尊厳と人生を破壊して来た罪の形が目の前にある。

 

「俺に。どうしろと言うんだ」

「私達も救え。今の貴方は英雄なんでしょう? じゃなきゃ、許さない」

 

 ギョロリと。幾つもの胡乱な瞳が俺を見る。責めるように、助けを求めるように。

 彼女達が此処にいるのは、本来のエレクが犯して来た所業に拠るものだ。俺には関係ない。なんて言える訳が無かった。

 

「(俺はエレクなんだ)」

 

 残りの人生は彼女達の贖罪へと捧げなくてはならないのだろうか? だが、この存在を切り捨てることなんて出来る訳がなかった。

 

「分かった」

 

 約束する以外の道は無かった。セレンと話しながら見えた僅かな未来と希望は、罪の清算という暗闇で閉ざされて行くのを感じていた。

 


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