エロゲの悪役に転生した俺、勃起中はステータス爆上がりのスキルで破滅を回避する。童貞だけど 作:ゼフィガルド
「何故、負けているんだ」
意識を取り戻した時、真っ先に聞こえて来たのはエレクの声だった。
スキルの使用後に訪れる空間だが、今回は勝利してのことではない。無理矢理使わされた挙句に敗北した。
「そうか。俺は、負けたのか」
全身から力が抜けていくようだった。皆の期待を散々背負って、裏切った。
だけど、何処かホッとしたような感覚もあった。もう、頑張ったり苦しんだりする必要も無いのだと。最初から俺には無理だったんだ。
「諦めるのか」
「俺には無理だったんだ。自分の人生も諦めていた奴が、世界を救える訳が無かったんだ」
「お前、思い出したのか」
だとしたら、あの記憶は事実な訳で。俺の過去も未来も閉ざされていることには変わりない。散々、綺麗ごとを吐いていたが、周りに乗せられた調子に乗っていたガキでしかなかった。
「もういい。後はお前が表に出て好きにやってくれ。今なら名誉も仲間も何もかもが揃っているぞ」
これ以上、頑張りたくはない。エレクと同じ様に、意識の最下層で泥の様に沈んで何も考えたくはない。
自分の主導権を差し出す様な弱音を前に歓喜の声が聞こえて来るか、あるいは怒りの声が飛んで来るかと思ったが、どちらでも無かった。隣にエレクが座った様な気がした。
「俺はこの世界に来てからずっとお前のことを見ていた。嫉妬していた」
以前にも聞いた話だ。そして、自分の戻る場所が無くなったことに絶望して俺に主導権を渡して来た。奇しくも、あの時とシチュエーションは似通っていた。ただ、あの時と違ってエレクの言葉が続いた。
「俺はお前みたいに誰かの為に動けなかった。見返りが欲しかった。愛して欲しかった。どうして、お前はそんなにも動けるんだ?」
「大した理由がある訳じゃない。俺には欲しい物すら思い浮かばなかった。俺には何もなかったんだ」
安寧や名誉。金や女が欲しかった訳でもない。死にたくなかったから動いていただけに過ぎなかった。今や、生存本能すら失って本当に何もない。
このまま全てが終わるならば、それでもいいと思った。無責任だけれど何も感じなくなるなら救いのようにも思えた。
「そんなことはない。この世界には、お前が救って来た物が沢山あるだろう」
不意に外の様子が見えた。傷だらけの天雅が周囲の瓦礫を呑み込んで、自らの体を広げて俺とセレンを守っていた。
「ダメ。死なないで!!」
セレンは体裁も気にせずに、半裸になりながら必死に呪文を唱えていた。
自分に回す分も全て俺に回して、グッタリと萎びている俺の分身を必死に扱いている。アレだけ素手で触るのを嫌がっていたのに。でも、出し尽くしたから立つ訳もない。
「天雅、セレン」
傷付きながらも戦っている。どれだけ差が絶望的でも打ちひしがれずに、必死に運命に抗っている。
「俺もお前みたいになりたかった。誰かを思って、誰かに思って貰えるような人間に!!」
ヘラの攻撃は激しさを増していく。天雅が耐えきれずに弾けるかと思われたが、彼の体が急速に再生されて行く。高位の回復術だった。
「天雅くん! セレンさん!」
「ミーディさん!? それに……」
「預けた護符が弾けたので居てもたってもいられませんでしたのでね」
ミーディだけではない。控えていたイアスや女冒険者と仲間達。ケイローまで駆けつけていた。
「雑魚共が! 何匹現れようと同じことだ!」
ヘラの背後に質量を持った影が出現した。カリドーンやケリュアー、今まで倒して来たボス達だったが、誰も逃げ出そうとはしていなかった。イアスが高らかに叫んだ。
「今度は、私達がエレク様を守る番です!!」
全員が咆えた。誰も怯みはせず、傷付くことを恐れずに勇敢に立ち向かう。この国を守る為、そして。俺を守る為。
「そうか、俺の歩んで来た軌跡は」
良い様に利用されていたハズが無かった。自分が守り、紡いできた物が確かにあった。何もないなんて馬鹿なことを考えていた。
萎えていた心が立ち上がる。背中をバンと叩かれた気がした。そこで、俺は始めてエレクの笑顔を見た。
「行ってこい。皆が待っている」
「いや、俺だけじゃない」
送り出そうとしてくれたエレクに手を差し伸べた。信じられないような表情で俺のことを見ている。
「いや、俺は……」
「俺みたいになりたかったんだろう? だったら、一緒に来いよ。俺達がエレクなんだ。お前も一緒に、戦ってくれ!」
少し迷った後、差し出した手は固く握られた。周囲の靄が晴れて行く。今はただ、皆の想いに。自分が歩んで来た軌跡に応えたい。
「名前。お前の名前を教えて欲しい」
「家守。俺の名前は家守っていうんだ」
2人して駆け出していく。過去に過ちがあった。未来も閉ざされているかもしれない。現在は困窮の真っただ中で、乗り越えるべき壁は果てしなく高い。
だが、止まっている場合ではない。今奮い立たせた心に従って突き進むだけだ。落ちていた意識が浮上していく、魂に火が入った様な気がした。