エロゲの悪役に転生した俺、勃起中はステータス爆上がりのスキルで破滅を回避する。童貞だけど   作:ゼフィガルド

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最終話:勃・起・夢・想

 目を覚ました俺は病室に居た。色々な機器に囲まれていて、どう言う状況かも分からなかった。

 

「先生! 先生!」

 

 部屋に入って来た看護士が、俺を見るや驚いた。間もなくして色々な人がやって来て、事情を説明してくれた。

 俺が自殺を図ったこと。幸いなことに早めに発見され病院に運ばれたが、今まで目を覚まさなかったこと。声を発することも難しかったが、彼らの指示に従って治療を進めていく。やがて、喋れるようになった頃に尋ねた。

 

「どうして、俺は早期に発見されたんですか?」

「なんでも、君の部屋に流れていたゲームの音量がうるさいからって注意しに来た時に気付いたそうよ」

 

 行動が衝動的だったこともあり、ゲームを閉じることも忘れていたらしい。

 直前まで何をプレイしていたかを思い出すと、奇しくも『迷宮エレクチオン』のエレクの凌辱ルートだった。まさか、アイツに助けられるとは思っていなかった。

 

「ハハッ。こんな偶然もあるんだな」

 

 回復が進んでいくとやがて親もやって来た。学友や先生も見舞いに来てくれて、自分は1人じゃないことを思い知った。早く皆に会いたいと思いながら、両親が持って来てくれたPCを触っていた。

 

「……久々に起動してみるか」

 

 今まで避けていたが、俺は迷宮エレクチオンを起動した。セレンや皆を見ると、あの日々を思い出して辛くなるだろうと思っていた。

 会社のコールと共にゲームが起動した。だが、トップ画面には見慣れない選択肢が増えていた。

 

「『それから』?」

 

 こんなルートは見たことが無い。気になってネットでも調べてみたが、パッチが出た訳でも追加ルートが配布されている訳でも無かった。

 運命の導きを感じずにはいられなかった。震える手でマウスカーソルを動かして、クリックした。

 

『ダンジョンを制覇し、王女を救ったエレクは受け取った報酬を贖罪に費やした』

 

 描写されていたのはルーカスの話ではなかった。俺が居なくなった後、彼らがどの様に生きていたかが綴られていた。

 

『ケイローは大往生だった。最期まで、エレク達に仕えた。彼の葬儀には弟子だった者達が大勢駆け付けた』

 

 1枚絵で表示されただけだったが、葬儀に訪れた人達を見ればどれだけ慕われていたかも分かる。あの世界で、初めて俺に気を使ってくれたのはケイローだった。

 

『イアスはダンジョンから持ち帰った秘宝の数々を用いて、増々商会を大きくした。また、ミーディと共に衛生の概念を普及させ、人々の暮らしを豊かにした』

 

 ケイローの弟子であり、商会の主でもあった。ダンジョンの攻略を始めとして色々と世話になった。アレからもきっと、美味く商いを続けて行ったのだろう。

 他にも王女や女冒険者達がどうなったかも説明されていた。ルーカスと国王は行方不明になったそうだが、アイツらのことはどうでも良い。心臓が早鐘を打つ。場面が切り替わる。とある家屋にて、老夫婦が取材を受けていた。足元にはプルプルと動き回るスライムがいる。

 

「(天雅だ)」

『エレクさん。何が貴方を変えたのですか?』

 

 若い新聞記者はよく勉強をしていたのだろう。エレクがどの様な過ちを犯して来た、国を救って来たのかも知っていた。その上で質問していた。

 

『友との出会いだ。私達は素晴らしい友人に出会った。彼のお陰で、私はここまで変われたのだ』

『その方は、今何処に?』

『さぁな。きっと、もう二度と会うことも無いだろう。もしも、私達の友人が迷い、悩み、苦しんでいる時はこの言葉を伝えたい』

 

 隣にいる老婆は、何時かに見たセレンの母親とソックリだった。

 会いたい。という一抹の憧憬と寂しさが過ったがグッと堪えた。彼らとは時間の流れも住む世界も違うのだ。だから、奇跡の様に許された一言一句聞き逃すまいと姿勢を正した。

 

『勃起!!』

 

 パァンと股間を叩いた。取材をしている青年は疑問符を浮かべていた。セレンが深く皺の刻まれた顔で薄く微笑み、エレクが笑い声をあげた。

 

『こっちでは元気にやっているぞ。これも皆、お前が運命に立ち向かってくれたからだ。辛いこと、苦しいことがあっても、俺達を思い出して、勃て! お前もエレクなのだから。俺達の勃起無双なのだから』

 

 浮かんでいた涙を堪えることが出来なかった。でも、悲しむ必要は無かった。ディスプレイ越しに届くように願いながら、俺は笑った。

 

「バカ野郎。本当に約束を守りやがって」

 

 自分の息子を眺める。長らく、ご無沙汰していたこともあって天に向かっていた。何時までも落ち込んでいては彼らに申し訳が立たない。

 勃起。異世界にて友と交わした約束とあの世界での冒険を忘れない様、愚息と共に顔を上げた。―—これは1人の少年の心が勃きあがるまでの話。

 


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