マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】外伝開始   作:ノイラーテム

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推しへの転生、略して推し転

●我が為すことは我のみにて為す(わざ)にあらず

 転生した事、自分が後に上杉謙信となる存在であること。

その事を知り、この世界の誰もが受け取る神の加護がロマンに溢れていたこと。それらを全て理解した時、『彼女』は思わず喜びの野へ成仏し掛けた。

 

だが神は言っている、まだその時ではないと。

 

「虎千代殿。どうなされたのですかな?」

「和尚様……。御仏が、神様と共に私に語り掛けられたのです」

「ほう。ご助言と共に御仏の加護を授かったのですな」

「はい」

 長尾家の菩提寺である林泉寺に預けられた守護代の娘。虎千代が、神の加護を授かった。

転生者である『彼女』はその時に前世を思い出し、自分が推し武将に転生したこと、そして浪漫に溢れる力を授かったことを理解した。

 

この世界は剣と魔法の世界であり、誰もが神の加護を授かる。

だが、それが自分の理想に近い物であるとも便利な物とも限らず、『彼』の加護は即座に使いこなせないモノだったが理想に近い幸運な部類であったと言えよう。なお農民などは一生自分の加護を知らない者も居る程である。武将たちは勉学を学ぶため、そして加護を知るために、虎千代の様に寺に預けられることが多かったのだ。

 

「どんな悩みに対し御助言をいただきましたかな?」

「私は武家に生まれた者、寺に預けられて修行する者として悩んでいたのです」

「この世の中は無常、何より人々が争う世界。そんな中で私は何もせずとも良いのかと」

「それでどのような御言葉を?」

「汝の為したいように為すが良い。ただし、汝が為す(わざ)は汝のみにて為すに非ずと」

 授かった加護は最高ランクの神聖呪文を唱えるチャレンジが可能だという物。

最高ランクであるレベル10に二つしか呪文は存在せず、一つは使えば身の破滅を伴う呪文。ゆえに残るは一つきりなのだが……この呪文は群衆を強化する呪文であったのだ。まさしく自分だけでは成し遂げられない力を授かったと言えよう。

 

「御仏は、毘沙門天様は、私に自分だけでは成し遂げられない、人と共にあらねばならぬ加護を授けられたのです」

「精進なさい。それが全ての第一歩です」

「はい」

 林泉寺の天室和尚は虎千代に修業を促した。

この世界の魔法は難易度性なので、1レベルで10レベル魔法など成功する可能性すらない。まともに使おうと思えばせめて7レベル、儀式を交えるとしても5レベルは必要だ。そのこともあり転生者であると自覚した彼女は以後、子供らしからぬペースで修行を始めるのであった。それは大人たちですら驚き、たじろぐ熱心な修業であったという。

 

●時にはメタな私情を交えて

(推しの謙信様に転生とかサイコーなんですけど!

数ある戦国武将の中でも推しに転生できるだなんて! いやーマジヘブンに逝きかけたわ)

 虎千代は修行三昧の日々を送っております、ナウ!

座禅を組み、寺の用事を片付け、座禅を組み、仏典を学び文字や計算を学び、座禅を組んで、剣を振り槍を振るっては体を鍛えて、また座禅を組む。いとも素晴らしき計算し尽くされたルーティーンなの、です!

 

「虎千代様。どうしてそのように身を削って修業為されるのですか?」

「とうてい子供の為される事ではありませんぞ」

「それが御仏の御意思だからじゃ」

 お付きの小姓たちが不思議そうに尋ねるんだけどさ。もらった加護はチャレンジ可能なだけ。

問題なのはさ~。この世界では難易度式でレベルが十分に高くないと発動率が下がる世界なのです。調べてみると、呪文を詠唱できるようになる加護は幾つかあったんだけど……。授かったのは『最高ランクの呪文を唱えられる権利だけ』でこのままでは使用できないんだよね。もっと便利な……『呪文一つに限り、無条件で使える加護』もあるそうだけど流石に御仏も神々もくれなかった模様。ザンネン!

 

「せめて雑事などは我らに」

「弥三郎、弥七郎。今は放っておいてくれ」

 経験値入手のチャンスを譲るなんてとんでもない!

この世界の魔法は難易度発動式でもあるけど、累積熟練度式でもあるのですね。下位呪文から延々と唱えて熟練度を溜めねばいけなんだけど、熟練度を溜めるのに便利な呪文は再使用可能なクールタイムが存在するんだこれが。だから小姓たちの申し出はありがたいのだけど、私頑張るよ!

 

聖戦(ジハド)の魔法を唱えるチャレンジができる能力。これこそが神が私にくれたお力! これを唱えるために今は修業しなくっちゃ)

 ちなみに、毘沙門天の特殊信仰呪文は戦神なので偏っているの。

1レベルでは『多聞宝塔』、老師たち……コー●ーで言えば『居るだけ軍師』がちょっとした事を教えてくれるくらいなのだけど……いろんな分野で試せるのがすっごくありがたい。何を聞いても熟練度をくれるので、おじいちゃんたちには足を向けて眠れないよね。4レベルでは三叉戟で7レベルでは毘沙門アーマーで防御を固め、どっちも修正値の大きな武具召喚魔法。10レベルでは聖戦の呪文を行使できるというんだけど……。

 

聖戦の呪文について知りたい? 私も説明したいから教えてあげるね♪

この魔法は同じ宗派の人の戦闘力を2レベル引き上げる大呪文なのです。自分一人では意味がなく、しかも宗派が同じじゃないと意味がない。でも私は上杉謙信に転生した……この事が全てを答えに導いてくれました。戦国最強の謙信軍団作ればOKだもんね。こんな素晴らしい呪文をありがとうございます、神様仏様毘沙門天様!

 

(そういえば弥七の名前は宇佐美じゃなくて枇杷島なんだよね。弥七のパパはなんで宇佐美定行じゃないのかな)

 そういえば雑事をこなしてると、ふとこの世界にについて考える事がある。

この世界は魔法が存在するためか、歴史がちょっとずつ違っているのだ。判り易い例で、強い加護を持って居れば女性や少年でも武将に成れる。能力値強化や天性の技能は良くある加護で種類も豊富だから、屈強な能力や魔法が使える加護なら女性や少年でも強かったりするのだ。だいたい、私も女の子だから、この世界の謙信様女の子なんですけどー!?

 

そんな世界でも名前が同じことが多いのは、環境のせいなのだろう。

例えば『諱』(いみな)を貰って名前を変える場合、主君から一字を貰って名前を付ける。これに通字という家ごとの名前があり、長尾家ならば『景』を主君が持ち、部下に与えて褒美とするわけ。与えたその武将の家でも一字を使い回すことが多いので、二つの文字を合わせれば、必然的に同じ名前になるのだろう。むしろ宇佐美家の様に苗字が違う方が珍しいんじゃないかな。

 

(違う部分は、魔法がある世界だし細かい戦で勝ったり負けたりして歴史がズレてるせい……? この世界じゃ鉄砲とか作る意味も薄いだろうしね。ま、私が覚えてる日本史なんてごく一部の推し中心も良いトコだけどさ!)

 この世界では武将の性別が違っていたり、年齢がおかしいのは良くあること。

ポっと出のスナイパーに生き残るはずの武将が殺されたり、逆に死ぬはずの武将が回復呪文や防御呪文のお陰で生き延びたりしている。鎮西八郎の弓が船を沈め、ホンダムが無傷なのが本当でもおかしくはない末世。一ヒャッハーで村が一つ燃えてもおかしくないんだってさ。




ネタでしかありませんが、書き始めてみました。
行ける所まで行きますが、一番タイトル詐欺なのは魔法少女ではないことです。

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