マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

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帰雲城の語られぬ会談

 長尾家と武田家の会談は、飛騨を挟み重臣をやり取りする形で予定された。

信濃では間に村上を挟んでしまったり、本願寺の縁が飛騨にあるのも大きいだろう。念の為に確認したが上野経由は武田側が嫌った為に、自然と飛騨を経由する予定になったのだ。ただし、予定は未定であり……決定では無かった。

 

「内ヶ島家は加賀の問題が起きた時、蓮如様と手を取り合いましてな」

「この度はその縁で、領内の寺をお貸しいただくという話だったのですが……」

「城ならば御両所が直接会談できるのではないかと、ご提案されたのです」

 調停を務める本願寺の高僧や坊官が話を切り出す。

どうしてこの場所になったのか、どうして両家の当主が直に来ることになったのかを順を追って説明している。本来は飛騨を挟んで重臣たちが代行する予定であったが、内ヶ島の当主である氏理が提案したのか、それとも本願寺がごり押ししたのか……。

 

あるいは面倒事を嫌い、時間を重視する景虎や晴信の性格からか直接会談に成ったのである。

 

「雪の問題もあるからな。まだるっこしい話は抜きだ。いつ攻める?」

「いつでも。こちらは板東に豪族たちを動員せぬ」

「ほう。手駒となる旗本と銭で雇った連中の身を使うと?」

「そうだ。伊勢が根をあげるまで何年でも板東に張り付けておく」

 今回、緊急会談で当主たちが出てくる理由が雪であった。

景虎が都に赴いていたのは春から夏にかけてだが、その後のゴタゴタで既に秋も半ばを過ぎている。間もなく冬であり、いつ雪が降ってもおかしくはなかった。その間に武田家は東信濃の佐久郡にも取り掛かっているというところだ。雪が降る前に併呑するか、他の地域に村上家の関心を割きたいのだろう。

 

そして両者がこれほどに焦る理由は、北国の冬は厳しいからだ。

一度雪が降れば国境線は封鎖されるも同じこと。例え断熱の呪文などで寒さに耐えるとしても、流石に狭い峠を抜けていくのは不可能だ。山育ちで歩きなれているとしても『可能ではある』と言うレベルで、少なくとも兵糧を運ぶ小荷駄は不可能になるだろう。

 

(頭がおかしいんじゃないか? 兵を置いたまま戦い続けるだと)

(オモシレー女だな……とか思われてる? んな訳ないよね。やっぱり出逢いはないのかな)

 一方、短いやり取りの中で二人の思いは交錯していた。

常備兵を使って年がら年中戦い続けて、経済的に追い詰めるなんて戦法は普通実行しない。やるとしてもその予算を使って、一万の兵を半年動かす方が確実なのだ。それを二千から三千だけの戦力のみで済ませるという事は、全方位での逆転を狙わず、特定の豪族が滅亡するまで戦い続けるという狙い討ち宣言に他ならない。

 

つまるところ、金を国力の代わりに換算して兵を調達。

相手の経済を破壊し、稲作に関わる耕作そのものをさせないという事でもあった。経済の概念自体が六角や斎藤など一部の大名にようやく理解され始めたばかりであり、経済破壊作戦など理解の外であろう。

 

「……では帰国後、即動いて村上を叩き潰す算段で間違いないか?」

「構わぬと言った。だが動員以上の事に対する代価はいただこう」

「我らとして村上が二度と攻めて来ぬのならば無理に滅亡させる必要はない」

「弾正少弼様のお言葉通りです。村上領を丸まる引き渡す理由が必要になりますな」

 正直な話、面倒が嫌いな景虎にとって無理に村上家が滅びる必要はないのだ。

滅びるまで戦ったら領土分配の話とか、そこで配下の豪族たちが分け前を寄こせと言って来る。だから長尾家と武田家で殴り倒して、二度と逆らわぬと誓紙を書かせるだけでも良かったのだ。それを滅亡させて領地を奪うというならば、それに代わるモノを要求するのは当然だろう。

 

なお、この辺りの機微を修正して、翻訳するのは直江神五郎景綱の役目である。

 

「まあ取り分といえば判らんでもない。高梨の領地を取り戻すだけではいかんのか?」

「こちらに付く北信濃の諸将を『高梨』に含めても良いなら考えよう」

「……そこは事前の話の続きだな。川中島の半ばを相談するという話だったか」

「必要なのは食料であろう? 土地の帰属はこちらでも良いはずだが」

 以前の高梨家は隆盛しており、北信濃の諸将を従えていた。

だが村上家に押される形であくまで中心人物でしかなくなっていたのだ。直接の配下ではないにしても、彼らが保護を求めて来たら手を貸すというところまでは自動的に繋がって居る話とも言えた。だが、それでは晴信が欲する穀倉地帯である川中島四群を手に入れられないのだ。

 

「産物を安価で提供すると? だが兵の動員もあるしな」

「……そうだな。取り分と判断するならば、戦いはこちら主体というのは?」

「既にその前提では? それに抑えるだけで村上家が逃げるとも思えませぬ。一当てするかと」

(やはり食い下がって来るか。しかし、積極的に獲ろうという気は見えんな。やはり越後を守る為だろうな……)

 大名にとって領地を増やすのは当然の目標だ。

ゆえに晴信は長尾家がゴネるのは想像していた。だが景虎の反応を見る限り、そこに固執しているとも思えなかった。むしろ部下である実綱の方が色々と口を出している様に思えたのだ。その辺りを勘案すると景虎の主観に合わせる方が計算し易いと言えた。

 

(狙うならこの女の考え次第か。さて、何が好みだ?)

(土地に興味はないが、金勘定は上手い。利益を金でのみ判断する)

(だが問題なのは勝敗や名誉にうるさい越後人そのものということか)

(下手に欲を出して噛みつかれると面倒だな。だがこのままでは下がれぬのも確かだ。確かめてみるか)

 晴信はこの時点で景虎が前世の影響で、土地よりも金を基準にしている事に気が付いた。

だが、それは価値観の基準であって、決して許容限界の話ではない。土地を奪えるだけ奪える交渉をした結果、逆鱗をつついて宣戦布告されたら『今』は割に合わないと言えた。やるとしたら限界を見定めて、騙し討ち一回だけで全てを済ませるべきだろう。

 

「では川中島をこちらの領地にする代わりに、北信濃は攻めぬという誓紙を出そう。必要ならば北信濃を落とせる位置に城を造らないと約定に加えても良い」

 晴信は必要ならば幾らでも約定を破る男だ。それはそれとして、騙し討ちは対面が悪い。

そこであたり触りのない内容をまず掲げて、景虎がそういった信義をどの程度で大切にしているのかを確認した。この時代で最高の権威を持つ誓紙は熊野誓紙であるが、それは神道系であって仏教である本願寺にはあまり縁が無い。敵対はして居ないので許容は出来るが、ソレを預けると言われても困るだろう。

 

「ならば信濃の中だけでも良い。関所を設けず商人の通行を自由としてもらおう」

「さすれば武田家が何か企んでおったら、商人を通じて我らも気が付けよう?」

(……む。これは忍びを潜ませる気だな。俺達が歩き巫女を使うなら奴らは商人か)

(せっかくだから、ここで楽市楽座の真似でもやってもらおうかな。利益が出るならうちでも真似できるし)

 これに対して景虎は余計な事を言わずに済ませた。

最初から誓紙などに期待しておらず、武田家は必ず動くという前提で考えたのだ。それならば陰者を潜ませ易く、同時に自国に取って利益のある方法を選んだに過ぎない。内政のことなど大して判らぬ景虎であるが、商売上のプロデュースくらいならば出来るのだ。

 

「そちらにも利がある話だ。悪くはあるまい?」

「その前に聞かせてもらおう。信濃を縦断してどうする? もしやそちらが攻める気か?」

「いいや? 今川家と商売をするつもりだ。買い付ける充ては多い方が良い」

(越後ってこの時代は湿地多くて駄目駄目なんだよね。だからお米を仕入れてお酒作るのさ! 小田原城を囲む時にも使えるしね)

 街道というものは軍道でもある。利益と脅威で越後における長尾家の制御力も増した。

そんなことを晴信が知らない訳が無いので、陰者を潜ませることに対する牽制としても尋ねてみたのだ。だが帰って来たのは思わぬ回答である。

 

(こいつ! 治部を利で釣る気か!)

(仮に伊勢と和睦させたとしても、商人の事は知らぬと言える)

(奪われた河東を取り返せば怨恨が晴れるかは分からぬし、そも伊勢を野放しにする理由も無い)

(同盟を組めば伊勢の脅威は無くなるが……長尾が末永く噛みつけば同じことだ。治部が乗る可能性は高い)

 この時代、同盟相手だからと言って優しい間柄にはならない。

何かあれば平然と裏切るのが戦国の世というものであり、縁戚関係であっても今川治部大輔義元は、武田信虎から晴信に切り替えたのだ。自分の都合の良い相手と懇意にするのが縁戚でもある。今の状況で野放しにして危険なのは、遠く離れた今川家にとって長尾家ではなく伊勢家の方であろう。河東さえ取り戻せば手打ちが出来るとしても、野放しにする必要はないのだ。

 

(治部はおそらく乗る。となれば補給も遣う金も随分と改善するはずだ)

(最初は正気を疑ったが……案外、本気で年中戦い続ける気やもしれんな)

(こうなれば豪族どもも子弟を送り込んで荒稼ぎするはずだ。決してこの女に逆らうまい)

「仕方ない。受けるとしよう。だが……三河には俺も呼ばれる可能性がある。向こうで商売の話に乗っても良いぞ」

 晴信は素早く計算すると通行権の話に乗った。

仮に越後と商人が往復するならば、通行税くらいは安い物だ。それに通行税の多くは関所を任せる豪族たちが得る物なので、領地に落ちる金や物は多くなるだろう。

 

そして何より、本願寺が居るこの場で話を切り出す必要があったのだ!

 

「武田が三河へ?」

「信濃から奥三河は存外近いからな。あちらの親族に頼まれごとをすることもあるだろう」

「弾正少弼様。これは良い勘案ではありませぬかな? もし人質が必要ならばこちらで出しましょうぞ」

「人質を他者が出すのは筋が違うておろう。それならば熊野誓紙を本願寺に預けても非礼と取らぬという言葉で良い。必要なのは誓紙そのものではなく、確であるのだからな」

 案の定、本願寺が派遣して来た坊官が食いついて来た。

証如あたりならば迂闊に乗らないのであろうが、あくまでこの辺りの僧をまとめる強面に過ぎない。加賀も含めればもう少し隠せる者も居るのだろうが、本山の派閥に属する者を優先したのだから仕方がない所だろう。

 

ともあれこれを契機に、同盟でこそないが商業に関して提携を組む三国協商がまとまった。それ以上に関係を深めるのか、それとも一時の気の迷いなのかは今のところ不明である。

 

「しかし、同じ攻めるならば美濃には行かぬのか?」

「あちらならば誰も咎めまいし、上手くすれば大樹様がお声を掛けように」

「さて? どちらの親類が声を掛けて来るのが早いか、親密度の差だからな」

「それを考えれば蝮のいる美濃は、迂闊に俺に声を掛けてはくまいよ。それに上洛と言っても簡単にはいかぬ」

 景虎は生前の知識と、自分が呼ばれたことで気が付いて居なかった。

この時代は上洛令が出てから赴く物で、勝手に目指すのは非礼なのだ。義元も世間で言われている通りに織田を上洛の為に攻めるなどとは言って居ない。あくまで戦争を仕掛ける織田への仕置きを行いつつ、併呑してしまう方向であったという。信玄も信長包囲網があればこそで、それまでは視野に入れてないのだ。この時点で信濃に王手を掛けた段階に過ぎない晴信が、危険なばかりの美濃へ手を出すはずも無かった。

 

「それはそうと、本山より茶々さまの越後入りに関してのお話が来ておりまして」

「景虎は稚児を人質に取ろうとは思うておらぬ。協定の為に越後入りするとしてもいずれじゃな」

「いえ。その話は承っております。新しく出ましたのは、その時の備えての良き寺を建てたいと」

(また、断り難い話をよりにもよって武田の前でしなくたってさ……空気読んでよー)

 この坊官は好意でこの話を切り出したので、景虎の反応には気づいていない。

本願寺の人質が越後に居れば、武田が攻めてくる可能性は殆どないのだ。また、武田とは三河攻めに関する話で後で交渉したいこともあって、今の内から関心を惹きたかったこともある。長尾家の為にもなり武田家の為にもなり、引いては一向宗の為と、まるで罪悪感を持っていなかったのだ。それが景虎をして、断り難い状況を作り出していたとも言える。

 

だが、全てを分ける言葉が飛び出すまでの話であった。

 

「法術を行使し易くするお堂を立てたいと思います。これは越後や甲斐の民を治療するのにも使えますぞ」

「なるほどな。それは拝聴に値する話であるが……どうかな?」

「ふむ。……では筋道を立てた後ならば良かろう」

「長尾家は林泉寺を菩提寺とし、景虎の旗揚げは瑞麟寺に良くしてもろうた。その二社に何らかの便宜を図った後。この景虎が筋目を立てた後で良ければ、越後に寺を建立する許可を出そう。土地も進呈する」

 晴信は治療もだが、一向宗とのパイプを求めて良い顔をした。

こうなっては景虎の方も断るわけにはいかない。だが、それより大きな関心は魔法を使い易くするというお堂の建設である。その技術を参考にして毘沙門堂を立てれば、彼女の魔法発動も視野に入るのではないかと思われたのだ。

 

こうして『聖戦』発動の時が来た!




 とりあえず提携は組みましたが、考えてることは別で狙いも別です。
転生者の景虎は経済圏を守り為に戦い、魔法発動強化が報酬。
リアリストの晴信は本願寺を味方に付け、信濃と三河への足掛かりをゲット。
本願寺は両者へのパイプを太くしてる感じですね。
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