マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

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北条包囲網

 景虎は言動を一致させ、春となく夏となく平然と農繁期に戦い続けた。

武蔵の豪族たちが篭城すると、封鎖して上野に続く大街道を作らせる。他人の領地であるとか誰が次に統治するとかへったくれもなく、ただ次に攻める時に面倒だからと言う理由である。

 

そして夏の終わりに差し掛かり、実に高貴なる御客人と再会することになった。以前に上杉憲政から『武田に上野介をやったら危険かのう?』と聞かれて『そういえば上野守を授けられた方を見たことがありませぬな』と無学を晒してしまったことに起因する。憲政は何やら別の事を考えたらしいのだが……。

 

「これはこれは近衛様。まさか内の大臣が上野まで下向なされるとは」

「関東管領による要望もあるが、とある方の文を届けに参ったのだよ」

「しかしそなたが作った道があったため、それほど苦労はせなんだ」

「畠山の所で道中に聞いたのだが、能登の上質な塩が上野や信濃にまで入っているそうではないか。実に先見の明よのう」

 なんと内大臣である近衛晴嗣が上野の平井城までやって来たのだ。

合わせて武田晴信も挨拶に向かっているらしいが、あちらへの街道は話し合い段階なのでそれほど進んでいない。こちらで色々と話が終わった後で、晴嗣次第で会う事もあるかもしれない程度であった。

 

「まずは上杉憲政。そなたに佐渡守と上野介を授ける」

「ははあ。佐渡守は長尾弾正少弼景虎に、上野介は武田大膳大夫晴信へ補任いたしまする」

 改めて晴嗣は城主であり、山内上杉家の当主である憲政に色々と渡した。

官位に関しては一度、憲政が受け取る為に守護には成れないはずの景虎でも受け取る事が出来た。地位はしかるべき手続きを経れば配下に渡すことも出来、長尾家と武田家が上杉家の傘下として動いている事を内外に示すためであったのだ。

 

「うむ。それで良い。して、こちらは令旨となる。上手く使えよ」

「これで武田の野心を抑えられまする。誠にありがたく」

「弾正殿。聞いての通りだ。そなたの案通り、上野守である親王様よりお言葉を戴いたぞ」

「場合によっては親王様が下向され、直接統治されるやもしれぬ。ゆえにそれまで任せたという内容じゃな」

 晴嗣と憲政が人の悪い笑顔で笑い合う。

上野の国は親王任国であり、上野守とは親王その人となる。親王任国といっても本来は親王様が直接統治などしないので、上野介が長官と言う訳だ。そして令旨とは皇家の者が出す命令であり、基本的には上の格の方が出すことになっている。憲政は裏取引をすることで、晴嗣に上位の親王様が一時的にでも上野守に就くことを要請したのである。

 

「いえ。そこまで考えておったわけではありません」

「ただ、これで上野の国が安定し、その力で隣国も安定するとなれば重畳」

「内の大臣の御足労、親王様が心を割いてくださること。弾正、平伏して御礼申し上げまする」

(ヤッベ! 上野って親王様が統治されるってことだったんだー!? 全然気が付いてなかったよ!? 上洛した時に言わなくて良かった~。同じミスしないように、似たような場所が無いか後で調べとかないと)

 これに慌てたのは景虎である。現代でもマイナーな知識だがこの当時では常識。

憲政の『晴信を上野介にしたら実権奪わない?』という懸念に『親王任国だから大丈夫でしょ』とアイデアとして提示しただけで、何かあったら親王様の令旨でコントロールするとかそこまで深い使い方までは思い付かなかったよ……と慌てて誤魔化すことにしたのだ。もちろん言い訳であるので冷たい汗をかくことしきりであったとか。

 

「しかし、内の大臣がただの使者というのはいかにも大仰」

「公家の御一人、あるいはこちらの使者に折り返させればよろしかったのでは?」

「ふむ……そなたにならば申しても良いか。弾正は大膳や治部と盟を結んだであろ」

「あれで都の東が安定した。都はその事をかなり評価しておるのよ。そして大樹と協議した結果、ここは動くべきじゃと判断いたした」

 景虎が恥隠しに話題を変えると、帰って来たのは三国協商に関する話であった。

武田や今川と結んだのはあくまで経済同盟である。しかし一度利益が出始め、商人や旅人を介して安全であることが周知されると欲が出て来る。こちらの方面はこのまま平和裏に収めて、戦いをするとしても他の方面に出た方が良いのではないか? その方がそれぞれの家としても領土を獲得できるのでは無いかと言う判断である。

 

結果として能登・加賀・越中・越後・信濃・甲斐・遠江・駿河の七か国が安定。

それに押される形で、美濃(飛騨)・三河(尾張)で迂闊に動けぬ状況に陥ったのだ。武田家と今川家が今にも攻めて来るかもしれないのに、他の方面へ戦う余裕などなくなってしまうと言えた。経済が先行した事で彼らの元に朝廷への献金による工作も視野に入ったのだから。仮に今動かずとも数年後には大規模な戦いが考慮された。

 

「内の大臣。まさか大樹様や朝廷が武家に介入なさると申されるのですか?」

「管領殿よ安心するがよい。そこまでする気はない。見知った顔にはある程度は勘案しようがな」

(もっとも、治部に頼まれて伊勢との間を取り持ってくれと言われて居る。それを黙っておるのだから、介入せぬとはとても言えぬがなあ……)

 憲政が気色ばんだのは朝廷は武家に介入しないという不文律からだ。

その言葉を否定しはするものの、見知った相手に加減する程度ならば良いと憲政や景虎に歩み寄って見せた。しかし晴嗣としても全てを晒す訳ではない。あくまで配慮して意味がある部分ならばする可能性を見せただけだ。現に景虎が組んだ経済同盟に関して言及はしても、今川家より頼まれた伊勢家との仲裁案や、それを関東へどう派生させるかという提案などには沈黙を守って居る。

 

都と言う伏魔殿で育った晴嗣にとって、武家との絆とはその程度の扱いでしかなかった。

逆に言えば史実と違って景虎と熱く語らって居ない彼は、介入してまで大勢に影響を与えようなどとは思わないのである。

 

(京から内大臣の近衛さんがやって来たのは助かったかな。思わず育成中のお酒を開けちったい)

 景虎は正直、同じことの繰り返しで飽きて来た。

久しぶりの再会に砂糖と蒸留酒で梅の実を漬けた……梅酒を酒宴に出す程度には気分が滅入っていたと言える。

 

(それにしても……モフモフだぁ!)

(久しぶりのワンコ! 今日はたっぷり吸うぞお~)

 あれから武蔵の真ん中や、東方面を行ったり来たり。

滅びた扇谷上杉家勢力の残党から救援要請があった。その時に連絡役として使われたのが、なんと頭の良い犬を鍛えた初歩的な軍用犬であった。街道を少しずつ大きくしているとはいえ、伝令犬だったら直ぐに駆けつけて来れるし、そもそもサイズや敏捷性から見つからないというのは有用だろう。

 

「弾正様は犬がお好きですかの?」

「犬は人を裏切りませんし判らんでもないですが……」

「良ければ一匹、お譲りいたしましょうか?」

「止めておけ三楽斎。手塩に育てた犬を取り上げるのは不憫よ。それに飼うのであれば八頭は飼いたいな。金でよければ幾らでも出すゆえ、育ててくれればありがたい」

 この犬を連れて来たのは太田三楽斎資正である。

犬と会話でも通じる呪文でもあるのか単にブリーダーなのか沢山の犬達を飼っており、イザとなれば伝令に使ってるのだという。これが忍犬すら育てているのならば『相も変らぬ恐ろしき犬使いよ』とか言って驚くところであろう。

 

「八頭ですかの? なんというか多過ぎず少な過ぎず……ふむ」

「質問させていただきたいのですが、何処まで行かせたいとお思いで?」

「南総だな。やはり犬と言えば里見八犬……いや、何でもない」

(むむ、やはり! これは関八州の諸大名と連絡を取れるようにせよという事か!)

 内政なんかどうでも良い軍神と、人間嫌いの智将がここで交錯する。

これは伝令の使い方として、敵に捕らえられても良いように多頭型の使い方をするのか、それとも一頭を鍛え上げ確実に届くように育てるのかで差が出るからだ。景虎に転生した女はただ転生前のネタを思い出しただけであるが、三楽斎からみればどちらの使い道なのか判らなかったからである。そして鍛えた犬を八頭も用意する必要は無く、必然的に八か所と自在に連絡が取れるようにしたいとしか思えなかったのである。

 

「関東の諸大名と連絡を取り会えるとしていかがされまするか?」

「ん? そうだな。まずは山の手で環状線を作りたいな。掛かる時間が違おう」

「関八州を繋ぐ環のような道と! ……しかし諸大名、何処へ集わせるには場所も重要で」

「ならば江戸で良かろう。あそこならば丁度良い」

 三楽斎は景虎の言葉を、いずれ関東の諸大名を集めて伊勢を攻めるためと考えた。

ゆえに集結地を尋ねたのだが、前世知識と照らし合わせてしまったために実にスムーズな回答であった。軍道であり経済を発展させる道を関八州に通し、彼らの軍勢を武蔵南部に呼び集めるのだ。何より都合が良いのは伊勢の本拠である相模と適度に離れており、海岸沿いゆえに他所から食料を運び込むことも可能。先ほどの話に合った里見氏と協力して、海賊衆や水軍そのものを駐留させることも可能であろう。

 

「江戸でありますか? あそこは……」

「太田道灌の建てた城であろう? ああ、そなたの祖先であったな」

「ご存じでしたか!? しかし、あそこは既に廃城。何もありませんぞ?」

「なおさら都合が良いではないか。そなたが好きな様にできる」

 そして……江戸城を最初に建てたのは太田道灌だ。

三楽斎は祖先が立てた城を自分が再建し、関八州に号令を掛けるための城とすることに、運命的なモノを感じたのである。景虎に戦国武将めいた人間臭さが無い事もあり、三楽斎は人知れず彼女を生涯の主に定めたという。

 

(なんと壮大な城獲りか。小田原が巨大な城とてこれならばなんとでもなろう)

(今やっておられるように、江戸を拠点に相模へ出撃する事も容易くなる)

(これだけ離れて居れば風魔が武蔵に侵入しようとも、兵糧を蓄えて置けるでな)

(しかし、それほどの城。流石に弾正殿の推挙と言えど我らが扇谷上杉家には大き過ぎよう。城主は管領殿の手か、ことによったら弾正殿で無ければ務まらぬやもしれぬな)

 通常、城の攻略には二つのモノが重要になる。

それは相手よりも多数の兵士を集めること、そしてそれらを運用するための大量の兵糧である。そして相手の援軍を倒しながら、兵糧切れを待つか力攻めで押し切る必要があった。その点、江戸を拠点に精鋭部隊を出撃させ援軍を蹴散らすことも、食料を少しずつ集めて備蓄する事も出来るだろう。現在は上野南部の平井城を拠点にしているが、江戸ならば水軍を使える分だけ相当な利便性を確保できる。

 

こうして江戸に補給拠点を兼ねた大きな城を立てるという計画が持ち上がる。

それは関八州を繋ぐ道を作り、関東管領が先に大名を手助けし、その例として伊勢を攻めるという大掛かりな計画と共に、上杉憲政へと伝えられたのである。近衛晴嗣がその話を知ったのはしばらく後の事。今後にどうなるのかは依然として不明であった。




 と言う訳で、北条家の勢力に困ってる大名と協力してレイド戦。
景虎ちゃんは上杉謙信の関東攻めに関して、そうなってるからやるんでしょ?
後は江戸城を立てる事だけ知ってて、環状線とか街道とかうろ覚え。
その辺をテキトーにつなぎ合わせて答えているだけです。
聞いたら答えられるけど、自分からはあんまり思いつかない感じですね。

まあ史実ではこんなことをしなくても、普通に戦力集まって来るので特にチートと言う訳でもないのですが。
武田の介入がない分だけ、少しマシになっている模様です。
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