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江戸城建設計画が全ての流れを変えた。
そこを拠点に出撃されては伊勢家の動きが激しく制限される。何よりも下総との連携を絶たれてしまう位置というのが問題であった。下総には古河公方が居り、伊勢家が史実よりも隆盛していた為、古河の本流は伊勢側に付いていたのだ。
伊勢にとって明確な味方は古河公方のみで後は風見鶏ばかり。
そんな状況で江戸城が建設されたら大変なことになってしまう。連携が絶たれるばかりか、弱みを見せた方から先に潰されてしまう可能性もあったからだ。古河公方を助けなければならない状況であり、これを見逃せば誰も伊勢家には味方しないであろう。
「冷凍を行う倉と、加工用の部屋でありますか?」
「うむ。せっかく法術を使える者を広く集めるのだ。戦いよりもそちらの方が有益であろう」
(そうか! 食料を集めても腐っては意味がない。だが腐らないならばどうだ?)
(何年でも掛けて小田原を落とせるだけの兵糧を集めれば良いではないか! この三楽斎、一生の不覚! 目の前の利益に固執し過ぎておったわ!)
景虎に転生した女が築地市場と冷蔵庫を要求した時……。
優れた戦術家であり、人間不信の塊である太田三楽斎資正は別の事を考えていた。現代人特有の美食だとか飽食なんか想像もつかないこともあるだろう。美味しい物を肴に、愉快にお酒飲みたいという景虎の希望などサッパリ理解できなかったのだ。
(何が武蔵に十年、相模に三十年だ……どうして儂はそれに同意したのか……)
(それは最低限の数字! この方は既に、籠城戦と言う概念を根底から崩されておられたのだ)
(二万の兵が小田原に籠ったら勝てぬ? ならば五万で何年でも囲めば良いではないか!)
(江戸に大規模な食糧庫を置き、関東の諸大名が交代で包囲し続ければ絶対に落ちるのに!)
三楽斎は上杉憲政が景虎より聞いた計画を聞いた時、当初肯定していた。
総構えという構造で、城どころかその外延すら守って居る巨大な構造。内部では畑や井戸もあり、相模周辺の兵力を二年は暮らさせることも可能だという事を、その見識で理解していたからである。だが、長期戦を最初から前提として、一番のネックである『食料は集め過ぎても腐る』という問題を解決されては絶句するしか無かったと言えるだろう。
「しかしこれだけの大規模な普請であります」
「術者は何とかするにしても人足が……。越後の常備兵も今は街道を作っておりますし」
「それならば移住させれば良かろう。江戸城の周囲に大きな街を、東京を作ろうではないか」
(伊勢から調達……その手があったか。確かに奴らから領民を奪い、江戸で働かせれば一石二鳥。領民たちもこれから何度も攻められるであろう伊勢の元にいるよりは、大きくなる街で暮らす方が良いではないか)
なお、この当時の人々に移住の自由は無く、強制移住させろと自動的に翻訳された。
敵地で逆らう村人を連れ去り、敵将に協力したという罪を強制労働で払わせるのだ。身代金を払って解放するとか、親族に贖わせるのは何処でもやって居ることだ。悪辣な例としては史実の武田晴信は始めた当初の慣れない鉱山経営へ、戦利品代わりの民衆を送り込んで大層恨まれたという。
もし三楽斎が上野入りの前に段階でこの話を聞いたら意図を疑ったし抗議もしただろう。
だが武蔵に十年、そこから二十年かけて相模と戦うという構想を聞いた後では話が変わって来る。故郷に近い事もあり、伊勢との決着が速やかに付けば帰還することも出来る江戸への移住は慈悲深いとすら言えた。世の中には西国や外国へ奴隷として売られる人もいるのだから。
「……なるほど。これほど壮大な街……伊勢が黙っておりますまいな」
「もしやするとこの江戸まで不利を承知で攻め立てて来るやもしれませぬ」
「それこそ望む所だな。野戦に出てくれさえすれば良い」
「何なら小田原まで攻め入り、来年の春と夏はあちらで過ごそうではないか」
三楽斎はその優れた頭脳で素早く計算した。
同盟者である古河公方と寸断され、自らに忠誠を誓う領民たちが残らず連れ去られてしまうことに伊勢が耐えられるか? これを見逃せば明らかに諸将の気持ちは離れ、滅亡していく未来しか見えないだろう。転生者の景虎と違ってキッチリその辺りのリスクを勘案できる現地民が協力したことが、大規模な戦いに備える事につながったという。
こうしてアンチな検索サイトに燦然と輝く、『オダーラ黒土返し』という必殺技が炸裂することになった。悪い奴に味方すると毘沙門天様が連れて行ってしまうよ……と後の人々は大いに恐れたという。
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なんてこった! 決戦だぜウェ~イ!
最初から話を聞いてても良く分からないんだけど、『なにがどうしてこうなったっ!』って感じかな。気が付いたら伊勢家に挟まれて、二万の軍勢に半分の戦力で戦う事になってるのね。
「に、二万の軍勢とは……」
「いかがいたしましょう。城は完成しておらず、我らは一万しかおりませぬ」
「このままでは不利です。速やかに撤退すべきでは?」
「そうですぞ。何処かの城に籠って、佐竹や里見の援軍が来るまで待ちましょうぞ」
うちが有利に成ったと思ってやって来た諸将はそりゃ浮足ってるよね。
そりゃ二倍の敵に囲まれたらとーぜんかー。まあしょーが無いよね。佐竹さんとか里見さんとか諸大名の中には援軍を約束してくれた人もいるんだけどさ、予算の問題で断ってるんだよねー。援軍いらないから地元を固めて欲しい、代わりに余った食料を買い取ってあげるねって声かけてたんだ。
「うろたえるな小童共!」
「この程度の不利、幾らでもあったわ! 何時の間に腑抜けおったか!」
「それに此度の事は計算通りよ。弾正様のお言葉を待つが良い!」
出ました、ワンコ大好き三楽斎のおじちゃん!
この人って犬使いの加護でもあるのか、ワンコ引き連れてて羨ましいのよね。今回の件でも、早い段階から伝令ワンコで判ってたみたい。その頃には全然余裕だし、援軍要らない要らないって返してたから、今でもずっとそう思ってるのかな。まあ関ヶ原で本陣目掛けて突撃した島津さんちに比べたら、この程度のピンチはピンチでもないんだけどね。
「阿・頼・耶・識……」
「私はそう思った事がある。この世の生死はただの裏表ではないかと」
「ゆえに思ったのだ。この景虎に授けられた『最高位の術を唱える加護』の使い道をな」
「ずっと神威降臨で小田原を消し去るしか、板東に平安をもたらす方法は無いのではないかと考えておったのだ」
いやー、マジで飽きて来たんだよね。
ずっとモグラ叩きみたいに、言い訳して反乱起こす人たち倒して行くのってマジで罰ゲーム。戦おうとしても城に籠るし、じゃあ攻め潰そうとしたら管領さんから止められるのよね。ずっとウダウダやってて、面倒くささ極まってて、でも私にはコールゴットできるだけの能力があんのよね。でも、それを使っちゃうと私、死んじゃうじゃない? 流石にそれはカンベンかなーって思ってました。
「神の降臨……ですと?」
「まさか本物の毘沙門天をお呼び為されると……」
「うむ。可能と言えば可能ゆえ、小田原城を塩の柱にでも変えようかと思っておったのだ」
「だが、此度の件で私は思い知った。御仏は言っておられる。まだ死ぬ時ではないと。……伊勢が如き戦いで叩き潰せ。景虎の命の使い道はここではないのだと言っておられるのだ」
そう言えばさー、むかし、親戚のオジサンがゲームしてたのよね。
京都の凄く偉い方に、物凄いお金を献金したら官位もらえる他に、地震カミナリ火事親父でお城とか軍勢を叩き潰せるゲームがあるって。ハラキリだかバンザイだかそんな名前のゲームだったけど、小田原城をコールゴットで何とかしたら、誰も逆らう者はいなくなるじゃない? 私が居なくなって、それで平和に成るならワンチャンありかなーとか思う事もあったわけよね。
だから、今回の事で私は反省しました。
御仏は言っている。まだ死ぬ時ではないと。とりあえず最高の状態で的にぶつかって、それでも駄目なら何とかするでよいじゃない? だいたい、伊勢家というか北条家を倒しても、まだ桶狭間も本能寺も始まってないくらいだかんね。使うとしても黒船とかGHQが攻めて来てからでも遅くはないんじゃないかなって思ったのさ。
「伊勢に合流の動きがあり次第、全軍をあげて正面の敵を討つ」
「聞け、諸将よ。討つべきは二万の軍勢でも伊勢でもない」
「板東の地を乱そうという心なのだ! 伊勢の諸将が直接率いる二千か三千ほどを残らず討ち取ればそれで済む!」
と言う訳で狙うべきは敵将である北条氏康ただ一人!
彼を守ろうとする諸将と、その部下何百人かずつをまとめて倒しちゃえば済む話なのよね。相模の人たちに加えて、武蔵とか下総のみんなを倒そうとするからややっこしくなるわけで……。みんながもう『伊勢家に従うのはヤダー!』とか泣き寝入りをしなくても良いなら、別に構わないんじゃないかな。
「三楽斎。山吉兄弟と相談して、天候の変化に備えよ。無くても攻め入るがあれば予定を変える」
「はっ! いかなる変化も見逃しませぬぞ!」
「柿崎和泉! 敵の勢いは私が受け止める。息切れした所を突き崩せ!」
「受け止める役目こそ、あたしだと思うんですがねぇ。まあいいや、上泉の爺さんともども突撃掛けて、戦いを終わらせるとしましょうかね」
毘沙門天様に力を借りる以上は、投げっぱが一番駄目なんだよね。
普通にやっても勝てる手段を考えて、最後の一押しに使うのが一番良いんだって段々と経験で判ってきた感じ? 今回の作戦だと、お互いに全力でぶつかり合うじゃない? 絶対にどっちも上手くいかないと思うんだよね。だから、その後でこっちだけが余裕シャクシャク屁の河童みたいな人たちが居れば、勝てるんじゃないかな?
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景虎の話を聞いた諸将は震えあがった。
コールゴットによって小田原城を消し去るつもりだったと聞いて驚かない者は居なかった。
その日のうちにこの情報は下総や南武蔵の諸将……伊勢に付いた親族に届けられる。
景虎が出陣すれば後ろを突くはずの諸将が、この時点で足を止めたと言っても過言ではない。景虎が我が身を犠牲にする覚悟さえあれば、何時だって逆転可能なのだ。誰がそんな相手と戦いたいだろうか? もし顕現してしまえば、明日からその者は塩の柱であろう。
「何が神だ! 何が仏だ! 毘沙門天が敵であろうと何ほどの事が有ろうか!」
「神だというならば、仏だというならば! 我が領民を帰せ! 田を帰せ畑を帰せ!」
「我が玉縄の領民全てを! 我が元に帰して見せよ! それが平等、それが正義ではないのか!」
「親族を討ち取られ、故郷を殲滅されたという諸将は此処に集え! 我らが恨みをあの小娘に叩きつけてやろうぞ!」
この話を伝え聞いた北条綱成は血の涙を流したという。
そして景虎たちに恨みを持つ者を集めた。そう、諸大名とて風見鶏の様な国人たちを笑ってみていたわけではない。平然と裏切る彼らを苦々しく思いながらも、殲滅までやったら残った者が怨み骨髄で死ぬまで歯向かって来ると知って居て見逃していたのである。
こうして関東の命運を決めるために、退くに退けぬ戦いの幕が切って落とされようとしていた。
と言う訳で次回は決戦です。
景虎ちゃんは味方を増やしながら敵対した人を殲滅してたのですが……。
北条・古河公方の連合が、間に江戸城作られたら分断される。と気が付き、そして殲滅された人々の生き残りが集合した感じになります。
『神威召喚』
最高レベルにあるもう一つの呪文。
最初の頃に『二つあるけどもう一つは使えないも同然』と言っていたのは
コールゴットしたら99%の人間は魂が砕けて死んでしまうからである。
使ったら最後、術者は死ぬし奇跡で敵対者も居なくなるので、名前だけ存在する呪文である。
景虎ちゃんの加護は『最高ランクの呪文チャレンジできる』なので、一応この呪文もチャレンジ可能。
●ハラキリ
PC88に存在したいわくつきのゲーム。
三船徳川とか武田に上杉だけではなく、時代の違う頼朝・尊氏など諸勢力と戦う。
恥がたまったら勝手に腹切りして武将が死ぬとか、忍者合戦で情報を奪うとか、ペリーが元寇が訪れるという奇妙なゲームである。後の世代のゲームには受け継がれないが、朝廷に献金すると天変地異を起こせる。
●オダーラ黒土返し
ほぼ史実という悪夢の必殺技、怒りを込めて地黄八幡を呼ぶぜ!
史実ではそれでも小田原に籠るのだが、今回は江戸城建設の話があるので出撃して居ます。