マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

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関東決戦!

 天文二十二年、秋。南武蔵において上杉勢と北条勢の激戦があったとされる。

その年の夏の終わりから、長尾景虎は協力を申し出た諸将と共に小田原城へ出陣。北条勢の心胆寒からしめた後、道中にあった玉縄城ほかの住民たちを江戸周辺まで引き連れて行ったことで、北条勢が退くに退けないところまで追い詰められてしまう。これを見逃せば、大名として信頼されぬからだ。

 

江戸城が建設されては小田原城の攻略も視座に入り、下総の古河公方も風前の灯火。

北条は今川に対して大幅な譲歩することで後方の安全を確保。総力を挙げて江戸を目指し一万二千が、同時に下総からも八千が江戸を目指したという。

 

「ほう、古河の動きは遅いと」

「弾正様を恐れておるのでしょうな。この城の包囲が始まったならば挟めば良いと思うておるのでしょう」

「ならば秘かに出撃するとしよう。一日、それだけあれば先に伊勢を叩き潰せる」

「篝火の数はいつも通りにして、秘かに出発せよ」

 太田三楽斎資正が操る軍用犬で北条勢の動きは即座に伝わったという。

現代戦で言えばレーダーとは言わぬが、ドローンによって相手の進撃速度を確認したようなものだ。景虎は即座に出陣を諸将に命じ、夜半より徐々に進撃を始めた。

 

「直江実綱、甘粕景持。そなたらに二千を預ける。この城を使って下総勢を抑えよ」

「勝てぬとあれば撤退しても構わぬが、時は稼いでおけ。城を自ら焼いてはならぬ」

「「はっ!」」

 景虎はまず足の遅い者を含む部隊を残存させた。

直江・甘粕両名に部隊を預け江戸城の守備を任せる。これは時間稼ぎと言う意味もあるが、最も信用する事務方の彼らを残すことで、関東の諸将に江戸城に残す者を見捨てないし、撤退する時は命を惜しんでも良いと言い残すためである。

 

「足の早い者だけで優位地形を抑えておき、戦場で合流を果たす」

「陣形は魚鱗とするが、気力の限界を感じた者は下がって再編をせよ」

「一の陣が破られたら、混乱せぬうちに仲間を連れて後方へ下がれ」

「二の陣、三の陣とこれに続かせる。残りの者とこの弾正が率いる本陣で支えるのだ。最後は柿崎隊を投入して戦を終わらせる」

 戦技や魔法を使った者は気力体力を消耗していずれ役に立たなくなる。

そこで景虎は激戦に備えて二つの策を用意した。一つ目は消費し尽くして戦えなくなった者をさっさと下げ、後方に待機させて再編中に少しでも気力を回復させること。そして膠着状態に陥った所で、最後まで戦わずに温存した柿崎隊を使う事で、一気にトドメを刺すという二段構えの策である。

 

 

(んー。やっぱ車掛かりの陣って無理なんじゃない?)

(そー思っていた時もありました! いやー攻撃が無理なら防御に使えば良いのよね!)

(MP回復しながら戦ってもらって、元気一杯の人たちで決着付ければ良いんだもんね!)

(霧が無いのが残念だけど、援軍来るまで一日は掛かるだろうし……これって川中島リベンジって奴かな!?)

 景虎に転生した女は、名高き車掛かりの陣を再現しようとしていた。

だがどう考えても回転しながら突撃とか無理なので、防御用の陣形として捉えなおしたのである。そして兵士たちはともかく、諸将の中で戦技や魔法が使える者にはポーションを渡しておくなど、可能な限りの代替手段を用意して今回の戦いに備えていた。

 

なお、これを端的に言うならば車掛かりの陣ではなく……。

斜線陣を改良したフレデリック大王の戦術の方が近いだろう。ちなみに相手の領土で補給を兼ねた略奪を繰り返し、挑発して時間差決戦に持ち込むのはエドワード黒太子の騎行戦術が近いかもしれない。ついでに言うと黒太子は騎士道狂いだったとも言われ、もし後世の歴史家が知って居たら景虎の事をどう評するか見物であった。

 

「弾正様。間もなく戦いが始まりますが、術で壁を作りましょう」

「要らん。諸将もそんな物には頼っておるまい」

「それになんだ。大規模な法術があれば壁など紙切れ同然よ」

「ならばこのまま視界を良くしておこうぞ。先発隊のおかげで十分に良い場所に陣取っておるではないか」

 常備兵を作ると決めて、早い段階での中で魔法の素質がある者は育てていた。

ゆえにちょっとした丘陵があれば、土壁や穴を使って簡易的な塹壕を作る事も、本陣だけならば難しくはなかった。壁など邪魔だと言って観戦モードであるような口調だが、本人としては上杉謙信を見習って突撃する気マンマンの景虎であったという。

 

「敵前衛、その先鋒が来ます!」

「消耗を恐れるな。弓矢も法術も要るだけ叩き込め!」

「撃ち崩してから受ければ良い。目の前に来てから斬れば良い!」

「「おお!!」

 防御陣形を組みながら、むしろ積極的に戦技や魔法を使った。

さながら受けたこちらが突撃側である様な大盤振る舞いで、北条勢の先鋒はたちまちのうちに打ち崩されていく。本来ならば長丁場で消耗し尽くすのを恐れる筈だが、二の陣・三の陣と交代するつもりであることから、、一の陣は遠慮なく消耗を始めたのである。

 

「何時までもあのような大盤振る舞いは続かぬぞ!」

「殺された父を、兄を、弟を思い出せ!」

「正義だなんだのと口にしながらも、平然と外道働きするあの小娘を討ちとるのだ!」

「ここで引いてはただの滅亡、父祖に顔向けできぬぞ!」

 北条勢一万二千の内、先鋒を務めるのは殲滅の憂き目にあった国人たちの残党だ。

景虎は仕方のない寝返りは許したが、風見鶏として平然と顔色を変える国人は許さなかった。時に北条に、時に上杉にと必要に合わせて主人を変える連中を滅ぼしたのだが、それで全滅するわけではない。遠方に出ていたり、景虎が征伐に来ると最初から逃げていた連中が集っていたのだ。いかに風見鶏がみっともないとしても、それは生きるために必要だったから。それを平然と殺されて、恨みに思わぬ訳が無いだろう。

 

「こちらのお味方、壊滅。しかし敵の第一陣を崩しました!」

「それで良い! 逃げ越しで生き残って居ても迷惑なだけよ」

「最後まで戦い続けた者のみを我が北条に取り立てようぞ!」

「続けて三の手、四の手を送り込め!」

 北条側の前衛を統括する北条綱成は、血の涙を流すほどに景虎を恨んでいた。

城を囲まれている間に、城下の住民のことごとくを連れ攫われてはこうもなろう。だが、それでも北条の宿将として頭だけは冷静に判断していたのだ。何時裏切るか判らぬ国人たちを使い潰しつつ、自らの精鋭をぶつけて景虎の軍勢を可能な限りすり減らすつもりでいた。そもそもが一万二千と八千の勝負である。まともに削りあえばそれだけで本来は勝てる筈なのだ。

 

「ご覧ください! 第二陣を突破いたしましたぞ」

「こちらもですが、あくまで国人どもです。我らが突入する頃には勝てましょうぞ!」

「そうだな。敵は何とか立て直そうとしておるようだが、戦場で再編など不可能!」

「勝ち戦ばかりでこういった戦いに慣れておらんと見える。この戦い勝ったぞ! 突入の準備を始めろ!」

 命を的にした遮二無二な戦いで北条勢は優勢にあった。

その理由は崩された陣形を後方で再編など、通常は不可能な事だ。それをやるには将が優れている事も当然ながら、兵士たちが一心不乱に戦い続ける練度が必要だった。綱成は経験で雑兵にそんな事は不可能であることを知っていたのだ。彼とて全ての兵士が手勢だけならば可能だと信じているが、五色八幡以外の精鋭では無理だと思う程である。景虎が絵に描いた餅を喰らおうと、お行儀のよい防衛戦をしていると判断したのである。

 

だが、ここで聖戦の呪文が覿面に効果を発揮する。

いや、正確にはこれまで戦い抜き、景虎の元でならば勝てる。あの采配の元でならば勝ち切れると信じた事が、聖戦の呪文の効果に兵士たちが浴する事が出来たのである。あくまでこの呪文は、同じ陣営に属するだけではなく信仰をともにせねばならないのだから。

 

「戦の気配が動いたのが判る! あの敵を迎え討て」

「いや、こちらから打って出るぞ! 彼奴等がこの戦を最後を飾るに相応しい」

「彼奴等を壊乱させれば、伊勢の軍勢でもはや戦おうと思うものはおるまい」

「誰ぞ、馬を引け! 我らが彼奴等を受ければ、柿崎勢が横から喰らうぞ!」

 ここにきて景虎は判断を変えた。

前衛を率いる綱成の動きに、戦を支配する流れの大本を見たのだ。よくよく考えれば北条氏康は統治者である面が強く、戦でも強いが、自分より強い綱成に全幅の信頼をしていたからだ。それを理解した景虎は、全軍に作戦変更と突撃を命じた。

 

本来ならば、これはありえないミスだろう。そんなに早く命令が伝達される訳がない。

だが景虎は常日頃からコントロールしきれる少数のみの把握を好んだ。そして何より、三楽斎がいる事で、軍用犬による連絡で高速の命令伝達が可能だったのも大きいだろう。

 

「総反撃だ!」

「全軍……突撃ぃぃ!」

「「「おおおおお!!」」」

 景虎の直衛が綱成の直衛と激突する!

前衛を預かるに過ぎない綱成に対して、景虎はその本陣を移動させて総攻撃をぶつけたのである。彼らは常備軍の中でも精鋭であり、聖戦の呪文の効果もあって、その全員が生まれた時から後継ぎとして訓練された武将たちに匹敵する戦闘力と士気を見せたのである。

 

「馬鹿な……全員が儂に向かって来るだと?」

「血迷ったか小娘! 彼奴らは余力を失った、これで我らの勝ちじゃ!」

「死ねい、死ねい、者どもここで死ねい! 我らの勝ちぞ笑って死ねい!」

「我らが死んで御殿が生き残れば我らが勝利ぞ!」

 所詮は自分が前衛を預かるに過ぎないと知る綱成は判断を間違えなかった。

自分ごときを殺しても、北条の家は滅びないと。景虎がここで全力を使い果たして動きを止めれば、残る本軍が確実に勝てると理解していたのだ。それゆえに全力を奮って景虎たちとぶつかることになる。あえて言うならば……。

 

常識人であり、この期に及んで冷静さを保っていたことが、彼の敗因に繋がった。

上杉勢の主力となる越後の者たちは、景虎に率いられ戦い慣れた集団である。元が強い上に、聖戦の呪文で戦闘力が上がっているのだ。まともにぶつかって尋常の部隊が耐えられるはずもない。そして、自軍最強と信じていた地黄八幡が無残に滅びる様子を見て、残る北条家の軍勢が士気を保てるとは限るまい!

 

「馬鹿な! 綱成が討ち取られただと……!?」

「いや、違う。……この戦、綱成を殺すためだけに仕組んだのか!」

「長期戦を想定し、諸将を選んで殺し、城を築き、その上で綱成を殺すためだけの戦だと!」

「信じられん……。奴は、長尾景虎は何を考えているのだ……」

 その光景を見ていた北条左京大夫氏康は愕然とした。

突然の作戦変更など普通はあり得ない。天性の才能でカン働きを見せる将が居ても、ここまで鮮やかな変説は珍しいからだ。むしろ玉縄城から小田原へ至る道筋で、住民を浚って挑発し、綱成を殺すためだけに最初から予定したとした思えないではないか。

 

現に綱成は強硬派の武将ともども討ち取られ、残る兵士たちも浮足立っている。

戦って消耗戦になれば『この場』は勝てるかもしれないが、関東の諸将を呼び集め、小田原攻めを行われたら勝てるとも思えなかった。

 

「敵の追撃を防げ。消耗戦にもつれ込ませると見せかけて撤退する」

「そうすればあちらも警戒しようし、越後勢はともかく他の諸将は討ち取れよう」

(こうなれば仕方あるまい。内の大臣が言葉に従って和睦を結ぶほかないだろう)

(古河様は隠居。儂は管領の地位を返上……いや、最初から無かったものとして扱うというところか……。後は武蔵の断念……)

 氏康は現実的に物事を考えるタイプである。

ここで無理に勝利を目指しても意味が無い事を悟り、自分に従う諸将を可能な限り生かして撤退する事を目標とした。そして可能な限り北条家の勢力を残し、小田原城での篭城も合わせ、上杉憲政に有利な条件で和睦するしかないと悟ったのである。業腹ではあるがここから逆転するのは不可能だ。だが同時に近衛晴嗣の斡旋を受ければ、無事に撤退して小田原で粘れば……条件付きの和睦で済ませられると踏んでいたのである。

 

(暫くは山内上杉家に従うしかあるまいな)

(だがこのままでは済まさぬぞ長尾景虎!)

(あれほどの将でありながら、使えるモノは何でも利用する卑劣漢め!)

(憲政とて奴を警戒しておろう。その仲を裂き、必ずや報復してくれるぞ!)

 氏康は関東を徐々に切り取っていった北条家だけに、憲政らの脆弱ぶりを知って居た。

景虎が持つ天性の性格とは反りが合わず、何処かで破綻すると見抜いて、捲土重来の為に臥薪嘗胆の日々を受け入れたのである。

 

やがて時が過ぎ、晴嗣の元で山内上杉家と北条家の和睦が成立。

その日を境に伊勢家は正式に北条家として諸将に認められ、公式文章でも北条の名前が使われるようになっていく。

 

なお……領土欲がサッパリない景虎は和睦と同時に越後へと引き上げた。

関東への国替えを承知し、領地を返上した一部の豪族が持つ領地を直轄領に編入。建設中の江戸城城主としての地位のみを名残に、関東への関与を縮小したという。




 と言う訳で北条氏との戦いが終了しました。
関東はグダグダするかもしれませんが、史実よりは人死にが少ないでしょう。
ここで第一部完! とするか、それとも他の地方に行くかは悩む所ではあります。
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