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大和半国の件が効いているのか、輝虎の行動は朝廷・幕府の区別なく伝わった。
同時に大和で広まっている根も葉も無い噂も何故か伝わり、どれだけ冷静にボールを投げ返したのか、戦力を制限してでも正面から殴り返したいと思った輝虎の心意気も正しく伝わったのである。
都合の良い『財布』に徹している輝虎とて我慢の限界がある事。
そして沸点が高く普段は怒らないタイプの日本人を怒らせたら、どれだけ面倒なことになるかも同時に知れ渡ったという。
「まったく。大和の件はもう少し穏当に収まると思うたのだがな」
「だが、そなたならば大事はあるまいと皆、信じておる」
「そして、今度ばかりはそなたにも褒美を。今上と共に用意したぞ」
「今上並びに大樹様のありがたいお心、この輝虎。誠に感じ入っております」
足利義輝が当初抱いた構想では、大和を輝虎に任せるつもりであった。
そして長尾家を従来の越後上杉家のポジションに置き、輝虎自身は上方に据えて幕府の守護者にしようとしていたのだ。大和・志摩・西美濃を合わせれば五十万石を優に超えることから、豪族に任せる土地を除いても根拠地には十分。越後を切り離すことで、分割管理させることでコントロールし易くしようとしていたのである。
これが大和半国を御料地とする提案で二転。
更に今回の興福寺との抗争で三転することになった。義輝のみならずとも計画の練り直しに苦笑せざるを得なかった。
(輝虎を長慶と共に管領に据えようかと思ったが、ままならぬものよ)
(だが斯波家に続いて細川家も凋落し、関東公方は無いも同然な事を考えれば……)
(いつまでも旧来の仕組みに固執することもないか)
(征夷大将軍や六波羅探題に長門探題。そして鎌倉府へと必要に合わせて変わっていった故な。……いっそ作り直すとして、では残すべきモノと作り変えるモノはなんだ?)
義輝は基本的に室町幕府を立て直すだけの心算であった。
それゆえに特に力を持ち将軍としても無視できない三好長慶、そして心強い味方であり豊かな金を持つ輝虎を新たな管領に据えようとしていたのだ。だが近畿に根拠地を持たぬのであれば管領として扱うのは少し躊躇われる。今のままならば関東管領でも継がせていた方が、コントロールし難い東国を従えられるのではないかと思う程である。
これは本質的に室町幕府や朝廷が考える『日の本』の領域が狭いからである。
美濃(岐阜)よりも東や、備前(岡山)よりも西は本当の意味での日本ではないと考えているくらいに思えば判り易いだろうか? 輝虎と長慶の扱いさえ上手く操れれば、義輝たちの考える領域ではほぼ問題が無くなるのだ。両サイドの問題は適当に鎌倉公方などに任せれば良いというのが、この当時の将軍の考えであった。
しかし、それもまた過去の事だと義輝は認識し始める。
破天荒な輝虎や、実質的な天下人である長慶の策謀で少しずつ意識変化させられていたとも言えるだろう。
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義輝が組織編制という、深く果てしない産みの苦しみに捉われていた頃……。
輝虎は心強い味方を迎えて、能天気にストレス発散に向かっていた。日ごろから溜まって居る鬱憤を晴らすため、そして特大の皮肉をくれた興福寺を叩きのめすために大人げない対応をしていたとも言える。
「キャッキャッキャ! きょーうは何人殺れるっかな!」
「たのしいなー! たのしいな! 坊主はみ~んな皆ごっろし!」
「坊! 洛中で迂闊な事はよさぬか。お嬢! 坊主もそこに居るのだぞ!」
「よいよい。わっぱの頃はこの位、元気が無くてはのう」
まずは妖怪変化もかくやという、みずぼらしい姿の者共。
好々爺の周囲ではしゃぎまわる子供たちとお目付け役らしき荒武者。羽毛を連ね皮に鉄を縫い込んだ外套をまとい現れた者共、それぞれ得物だけが異様な程に『格』を主張していた。
「すまぬのう伊勢守。預かった子ゆえ躾が行き届いておらぬ」
「いえ。塚原殿が加わってくださるならば千兵に値しましょう」
「雲林院殿にも無理を言うてすまなんだな」
「お家存続に力を貸してもろうたのだ。師に声を掛けるくらいならばなんとでも。後は師が戦見物に参ろうと言われただけよ」
やって来たのは塚原卜伝とその弟子たちである。
雲林院松軒の家が滅ぼされそうになった時、旧知である上泉伊勢守信綱を頼ったのだ。当初は悩んでいた信綱であるが、卜伝への伝手もあり骨を折って居たという訳である。
「こらー! 無視するなー!」
「するなー! あちしたちも強いんだぞー!」
「七つの小童が喚いたところで無いも同然。悔しければ百人の首を……」
「雲林院殿……。こたびは一応、加減をする事に成っていもうす。策を聞いた話を鑑みると、切り捨てられた方が本人の為で御座ろうな」
クソガキとメスガキのコンビに関しては割愛。
共に卜伝の弟子ではあるが、強力な加護持ちゆえか慢心することしきりである。この後で生きているかは判らないので、雲林院殿も紹介するのを止めた。
「策じゃと? それは構わんが殺してはならぬのか?」
「一太刀入れて足手まといにせよとのことだ」
「それで死んだら?」
「事故」
元から常備軍では兜首を必要としていない。
一年で幾ら、一戦闘に付き幾らのボーナスと決まっている。首を獲るような時間を掛けないからこそ、余計に強いのだが……。この日はそれに加えて辛辣なる作戦が加わったのである。
この話を聞いた時、卜伝一行はHAHAHA! と笑ったそうな。
「時に、そちらの御坊達は?」
「本願寺より参りました」
「弾正様に縁ある者が、邪教と呼ばれては詮方なし」
「我ら一党、弾正様に与力して疑いを晴らす者。また景教の別派とやらが邪悪か見定める者であります」
次に加わったのは本願寺が派遣した豪傑であった。
こちらは武芸者というよりは、武将の中で武芸や魔法が得意な者となる。本山に居る腕利きであったり、雑賀衆や根来衆など紀伊出身の坊官も居たという。そういった背景からどちらかといえば興福寺への対抗心であり、その後へ影響を与えるためと言う面が強いだろう。
「事情はともあれ心強い。では弾正殿の元に案内いたしましょう」
「それはお手数をかけ致します。ですが珍しいですな」
「押しかけた拙僧らはともかく、あの方は客人を自ら出迎えると」
「ああ……。既に祈祷所に籠られておるのですよ。興福寺より日時や戦力に関しての返書が届きましてな」
ミーハーでもある輝虎は有名人がアポイントメントを取ると大抵は自分で出迎えた。
この当時に律義に先触れを送って来るような奴は大抵が有名人であるが、塚原卜伝ほどの男が来るのに出てこなかったのには理由がある。いみじくも信綱が口にしたように興福寺からの返書が来たこと。その内容が『手加減なんているかバーカ! いつでも掛かって来い!』みたいな内容だったので激怒するも止む無しである。
そしていきなり祈祷所に籠ったのはある種、未熟さの発露であったと言えよう。
今でも暇を見つけてレベル上げをしているが、なんとか6レベルというところでしかも専門職ではない。発動率はそれほど高い訳ではなく、マジックアイテムやら祈祷所での儀式魔法を使ってようやく何回かに一回成功する程度に過ぎなかったのだ。公式記録では手紙が届いて三日後には京から大和に到着したというが、出兵準備だけならその日の内に終了していた。翌日にようやく成功したので、三日後の到着と成ったのである。
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都雀のヨタ話では九人の戦鬼が颯爽と大和の大通りを闊歩したという。
その行く先々には屍山血河、興福寺の生臭坊主がゴミの様に転がって居たとされるのだが……。実際には千五百程の精鋭部隊が進軍していた。残る二千程が二日遅れ、あまりの進軍速度に驚いた三好勢の援軍は一週間以上後であったという。
北伊勢で何が起きたか門徒より手紙をもらった興福寺が知らぬはずがない。
だが小勢と侮ったのか、それとも大人げない手紙のやり取りで退けなくなったのか、止せば良いのに野戦を挑んでしまったのだ。哀れなのは興福寺の強い呼びかけで集まらざるを得なかった大和の豪族たちである。特に哀れなのが越智家で、筒井家が日寄ったこともあり(義輝が義藤時代に名前を貰っていた)モロにその武威の餌食に成ってしまったのだ。
「……くそっ! だがこれしきに傷ならば戦える!」
「噂に聞いた越後の武者などこの程度か!」
「わ、若。周りをご覧ください……ここは危険でございます」
「何? 殆ど倒されてはおらぬではないか。む? 何故だ、なぜ下がる! なぜ最後まで仏敵と戦わぬ!」
この戦いに参加した国人の一人は、突撃して早々に斬り伏せられた。
だが彼は幸運なことに、鎧下を切裂かれたわけではない。普通に戦えるし、味方の方が数倍の数なので楽勝だと思っていたのだ。だが、彼に付いていた目付け役から見ればたまったものではなかった。偶然にも大したことが無かったということは、偶然死んでいた可能性もあるのだ。事実、目の前では周囲が朱に染まっていたのだから。
若者が見た光景は、同じような国人やらそれらに付き従う兜を被った組頭たちが後退していく姿である。旗持ちたちが居ないのが奇妙であるが……。
「良くご覧ください。みな切られてほうほうの態で逃げておるのです」
「なんだと? ……確かに担がれて居る者も居るな。だが傷ついただけではないか」
「切られて存分に戦える者はそうはおりませぬ。それに殆どの者が一撃ですぞ」
「若の様に数合戦えて、しかも切られて無事な者はおりませぬ。此処は退くべきですぞ」
当たり前の話だが、当主あっての部下である。
そして兜を被った組頭たちにも、部下はいる。それらにとって主人は誰よりも大切な者であり、自分の家族を含めて一族郎党を支える存在なのだ。容易く切られて何時までも戦場に残って欲しい訳があるまい。ボヤボヤしていると後ろからバッサリだ。
この時、老爺は主人を持ち上げることで事なきを得た。
一撃で切られて倒される者が多いのに、数合戦える、怪我が少ないというのは勇者だと言う事でプライドを刺激したのである。皆が戦っているならば奮起しただろうが、仲間が次々と倒されていくこともあり、若者もやがて撤退に同意するだろう。そうなれば動員されただけの雑兵たちも後退するのが当然である。
「弾正様! 唐沢玄蕃より符丁がありました!」
「越智勢は壊乱! 十市勢は後退しつつあると!」
「よろしい! 本陣を前に出す! 興福寺の奴ばらめを……」
「あいや暫く! 暫く! 暫しお待ちくだされ!」
この日、輝虎は車掛かりの防衛陣に改良を施していた。
高所に陣取らせた唐沢玄蕃ら忍者を使い、上から下を見下ろさせて戦況を観察していたのだ。そして相手の陣営が崩れたところを見計らい、本陣を使って興福寺勢が打てる手を潰そうとしたのである。
だが、ここで静止を掛ける者たちが居た。
「弾正様、まずは我らにお任せを!」
「我ら大和の民。皆が皆、弾正様に叛意はございませぬ」
「我らが尖槍として相対しますので、蹴散らすまでお留まりください」
「うぬらだけでか? 面白い。やってみせるが良い」
それは中御門胤栄と柳生新次郎宗厳ら大和出身者であった。
彼らは親族を中心に手紙を送り、どれほど無謀な事かを言い含めていたのだ。それでもこの戦いが止まらなかった為、自分たちが矢面に立つことで、総突撃で決着がつく前に犠牲者を減らそうと思ったのである。
その決意は固く、元から坊官である胤栄はともかく、宗厳たちまでもが頭を剃り上げてその覚悟を示したという。
「何じゃ貴様らは!」
「禿頭の行者が仏敵に味方する気か!」
「やかましい! 俺達の苦労も知らずに吼えるな!」
「何が仏敵だ! 弾正様には御仏の加護があるぞ! 疑うならば掛かって来い! 大和が国にて指南と名高き胤栄と宗厳これにあり! 見知った者ならば、我らがどれほど強くなったか知れようぞ!」
二人を始めとして大和出身者は必死であった。
ここで引いては故郷の人間が死んでいく。もちろん乱世であり気を抜けば同郷で合っても殺し合うのが定めだ。しかし虐殺と言うのは後味が悪い。普段温厚で大人しい人間ほど怒らせては行けないことを二人は良く知って居た。酒さえあればご機嫌の輝虎が激怒していると聞けば、この後に起きる悲劇に気が付こうものだ。
ゆえに彼らは命を賭けて、目の前の者だけではなく後ろにいる味方を足止めしていたのである。
「何を! この不信心者め……が!?」
「弱過ぎる! 次!」
「何を! このっ……」
「だからお前らが一人で前に出るな! まとめて掛かってこんか! 頼むから真面目に戦え!」
胤栄たちは指南役だったので、8レベルくらいだと思って欲しい。
つまり他の連中はレベルが高くても7レベル位だ。それでも数が居れば話になるのだが……。今の彼らは聖戦の効果でプラス2レベル。カンスト組である信綱や卜伝と同じレベルで戦えた。その辺りの武芸者や、腕に覚えのある国人ごときではまるで相手にならなかったのである。
「きっきき。あいつらやられたら次はオレたちが行こーぜー」
「何人倒せるか競争しよ! モゲたら減点ね!」
「ジャリ共は黙っとけ! ワシらの戦いぶりを見とくんじゃの!」
「来るなよ! 来るなよ! ここは俺達の戦場だからな!」
胤栄と宗厳は必死であった。手加減を忘れる大人はまだしも、子供は残酷だ。
あんな奴らを前に出せば、殺し殺されて戦線が急拡大するとしか思えなかったのである。だが、あえて言うならば彼らもまた興福寺の本気を舐めていたのかもしれない。ここに来て寺の方もまともに精鋭を投入し始めたのだ。できるならばさっさとやれ、先にガキ共を疲弊させてから自分たちが止めに入りたかったところであろう。
ただ、それは胤栄たちによる見方とも言える。
興福寺は興福寺で研究しており、強化魔法や付与魔法の集中投入であると予測していたのだ。そこで序盤は豪族たちを宛てて消耗を誘い、こちらが疲弊した所で精鋭部隊を投入する予定であったのである。奇しくも輝虎が本隊投入で決着を付けようとしていたのに似ているとも言える。
「我ら八部が仏弟子の名前を借りる者成り!」
「仏敵、上杉輝虎に仏罰を当てよ!」
「天魔覆滅! 悪鬼退散!」
「仏敵を滅せよ!」
魔法のノウハウであれば興福寺側にもある。
母体になる数も多いため、坊官の中でも魔法であったり特殊能力的な加護を持った者たちは、寺の中でもエリートとして育てられていた。中には胤栄が教えた者の中でも、能力を使えば苦戦を免れない、数で攻められたら必死という者たちも居たのだ。
それらがまとまって襲い掛かって来るのだから、本来ならば窮地であっただろう。
「……馬鹿が。お前らが一緒に出てきてどうする」
「なっ!? 乾闥婆と緊那羅が瞬時に!」
「俺達は回復役は最初に潰せ、異常役も次点と教えられている」
「おのれ仏敵に従う不信心者めらが!」
魔法のノウハウだけならば彼らの方が上であっただろう。
だが、そこから戦いに際しての試行錯誤に関しては全く違った。転生者のゲーム脳ならば、たとえ記憶に残って居なくとも同じ結論に至る者だ。輝虎は常備軍を鍛え、そしてメンバーの入れ替わりが始める事までには戦いにおけるイロハを色々と考え付いていたのである。ゲームにあったアレコレは、どうするべきだったか? 攻城戦など暇な時に幾らでも考える余地があったのだから。
胤栄たちは真っ先に回復役と状態異常役を気絶させた。
急いだのでそのままお亡くなりになりかねない勢いであったが、そこは自業自得である。武芸者や豪傑同士の戦いになれば手を抜いている余裕などは無い。それぞれ仏像の面を付けていたが一人は面を割られて額から血を流し、もう一人は膝を折ってしゃがんだままだ。
「そろそろ混ざっても良かろう。一番強いのはどいつじゃ?」
「天王と竜王の面を付けた者ですが、塚原様が出るほどのことはありませんぞ」
「我らで余裕を持って勝てますからな」
「なにを小癪な!! いつもは境内を血に染めぬためと思い出すが良い!」
ここで厄介な闖入者が参加。卜伝一行が遊びにやって来たのだ。
鼻歌を歌いそうなノリでやって来る好々爺に、八部衆の名前を借りた集団が一時に襲い掛かる。その間に強いと言われていた二人は胤栄と宗厳に勝負を挑み押し勝とうとした。
「馬鹿な! 何故だ! 今では互角の筈……」
「我らは普段は使わぬ全力を用いておるのだぞ!」
「そりゃ当然であろう。お前が手を抜いていたならばワシらも」
「それに輝虎殿を介して我らにも毘沙門天の加護があるからな」
闘気魔法や付与魔法を用いて、重複不可ではない重ね掛け。
それら強化状態で戦い、さらに武技を用いるところまでは同じであった。しかし修行の旅に出ている二人は指南などに使わない
「オレ流、一の太刀!」
「あちし流、一の太刀!」
「おのれ! クソガキが!」
「わっぱと侮るな! こやつら、やるぞ! この槍を見よ! へし折られておる」
右から左に抜ける変幻自在の一撃、そして重量溢れる猛墜!
それぞれに自分の加護に合わせた一の太刀が繰り出された。軽妙なる一撃をあえて受け止めることで防いだ畢婆迦羅の面が激高し、鳩槃荼の面が掲げた大槍を見せて冷静さを促した。
「だっさ、受けられてやんのー!」
「そっちこそ軽傷じゃん!」
「オレは次、急所狙うって!」
「あちしも次はあてるもん!」
ただ得意げでもクソガキはクソガキ。
即座に追撃して切り殺すのではなく、自分の成果がどうの、次はどうしようかと修業の延長であるかのようだ。
「ふざけるなよクソガキ共が! あれをやるぞ!」
「仕方がない。ぬおおおりゃ!」
「ほう……同調か。実戦でやるのは珍しい」
「坊! お嬢! 手は出さぬ。死ぬならばそれまでよ!」
激昂した法師たちは腕を組み合わせてスクラムを組んだ。
そして儀式魔法などで使用する同調による魔法強化を開始したのである。もし攻撃魔法か何かであれば危険な筈だが、雲林院と呼ばれたお目付け役は平然と見ている。もしかしたらこの男もまたクソガキ共には困って居たのかもしれない。
「奔身! 二倍……」
「いや三倍だ!」
「「はやっ!?」」
突如として法師たちの動きが加速した。
動いている自分にすらダメージを追う超加速。オーラ魔法により肉体を活性化させ、筋肉の動きをいきなりマックスにする奥の手である。秘儀などではないが難易度が高く、自傷ダメージの問題で一騎打ちくらいにしか使われない魔法である。
装備を付けての移動や振りかぶりの問題があるとはいえ、三倍の加速があれば常人が二倍で動くのに匹敵しよう!
「ツエ! ツエ! ツエ!」
「どりゃ! どりゃどりゃ!!」
「ずっこい! けど……」
「速いだけであんたらが強くなったわけじゃねえ!」
怒涛の勢いで槍を振り、拳で強打していく法師たち。
もし二人の師匠が塚原卜伝でなければクソガキたちは絶望し、実力差を判らされていただろう。だが絶対的な強さを持つ剣豪にぶちのめされる続ける訓練をしている二人にとっては、攻撃回数が多いだけで普通の腕前なのだ。決してカウンターを浴びせたり、落ち着いて攻撃する事が出来ない訳でもなかった。そして負傷しているのに自傷ダメージを追えば逆転するのは難しくないだろう。
「さて……向こうも終わりそうじゃが、おぬしらはこんのかの?」
「悪いが足止めさせてもらおう。我らは所詮、足止めに過ぎぬ!」
「腕利きの武芸者がおらねば仏敵、輝虎を葬るのも容易いわ!」
「くく……くくくかかかか!! おろか、ほんに愚かよ!
どうやら八部衆を名乗る連中は、ここにいる連中がアタッカーとして見ているらしい。
同時に仕掛けるのは兵法として当然なので、本隊に向かっている一団が全てを片付けるつもりなのだろう。だが、それは甘いとしか言いようが無かった。
「何がおかしい!」
「確かに儂らは強いがな。……誰が儂らにだけ加護があると言ったのだ?」
「本陣には信綱や黄門に推薦された者共がおる。毘沙門天の加護は皆の上に等しく注がれて居るわ」
「「「はっ?」」」
ハッキリ言うと勘違いも甚だしい。
カンストしているのは上泉信綱も同じだし、興福寺側の武芸者と同ランクの者は山ほど居るのだ。それらが全て聖戦の魔法の影響下にあるとすれば(中には輝虎を信じていない者もいるはずだが)、全員が剣術指南相当の腕前になって居たと言える。
「興が削がれたわ。受けてみい」
「もし無事ならばその時点で印可をくれてやる」
「なっ!? 避けろ!」
つまらない戦いに終止符を打ったのは、卜伝の放った剣圧である。
戦技の中に剣圧を放つものがあるが、基本的には隙だらけなので雑魚にしか普通は使わない。だが、放つは伝説の大剣豪! まるで嵐が全てを吹き飛ばすかのように蹴散らしていったのであった。
「御師さま。時に手加減は?」
「おお、そんなものもあったのう。まあ生きておるじゃろうよ」
「速く! 治療師を連れてこい!」
「急げ! 手遅れになるぞ!」
こうして興福寺を叩きのめした輝虎は、本当に阿修羅像を回収して立ち去った。
都雀たちが囁いて曰く。意地を張らずに最初から最大の兵を集めていれば、一万には達したであろうから負けなかったはず。少なくとも篭城する時間が稼げたはずであり、何もかも興福寺が悪いとみな噂し合ったという。
と言う訳で興福寺は降伏。
バビロン虜囚とかカノッサの屈辱とは言いませんが阿修羅像は物質に。
剣豪オールキャストにする必要は無かったのですが、時系列的にネタで参加。
愉快な仲間達を紹介するぜ!
『塚原卜伝』
言わずと知れた大剣豪。一の太刀で有名。
加護は武器の重量を無視するというもので、3mの飾り太刀を振り回し
あるいは普通の太刀を右手から左手に放り投げて戦える。
『クソガキ』
天文十九年生まれ。普通は筋力と器用の平均で剣を振うのだが……。
こいつは敏捷と知覚の平均で使用でき、回避と同じ能力値で行ける。
その内に巨大手裏剣の上に乗る忍者と戦ったりするかもしれない。
生涯性格は治らず、生きていたら鬼と伝えられる。
『メスガキ』
天文十九年生まれ。純粋に人並外れた剛力の加護で、身の丈よりも巨大な太刀を使う。
後に金剛棒に持ち替え、ゴリ押し戦闘して周囲から鬼と呼ばれる。
後に『判らせ』にあってお淑やかになり、立派な戦国武将(性別は女)になったそうな。
『雲林院松軒』
今週の胃痛枠。北伊勢での混乱に巻き込まれ酷い目にあった。
現在はクソガキたちの面倒を見ているが、普通にる良い剣豪である。
加護は魔力と気力の境が無く、魔力で戦技を使用したり、気力で魔法が使用できる地味だけど有用な加護である。
なお、この加護が一番活かせるのは武将なのだが、この後に武将には成らずに剣豪として生きていくそうな。
『本願寺の人たち』
下間とか鈴木とか言う名前をした人たち。
面倒くさいのでみんなCVイメージが山寺さんのレインボーボイスで良いだろうという集団。
今回は顔繋ぎなのであんまり活躍してません。
『天竜八部衆』
天王とか竜王とかの面を被った興福寺側の精鋭。
念動で楽器が弾けるとか、毒草の効果を受けないので周囲に振りまけるとか、戦闘中のペナルティを受けないとか、それぞれに有用な加護を持っている。今回は強い人たちにバフが掛かって居て可哀そうな目に合う。