マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

41 / 62
酒肴

 凄まじきは錦の御旗、あるいは銀の魔力か?

輝虎はその猛威をいかんなく奮い、若狭から但馬までの道を強引に開通させた。正確には事前調査で畑の移動に同意する村や、町の改良を許可する国人たちに首を縦に降らせてから現地入りしたのである。

 

そして山名家に何度目かの訪問をした際の事。輝虎は三つの進物を持って現れた。

一つは生野の銀を使った交易用の棒銀。一つは越前にやって来た中国船が置いて行った粗末な茶碗。最後の一つは最近になって可能になった色ガラスによる夜光杯である。

 

「山名殿。良いものが仕上がったのでこれをお渡ししたい」

「何故……このような物が……ここに……」

「なぜも何も山名殿が描かせた図案でしょうに。仕上がればお見せするのが妥当かと」

「いや、儂が……それがしが預けたのはつい先日の話で……」

 山名右衛門督祐豊は思わず二度見した。

棒銀は判る。三好修理大夫長慶が棒銀の形状を統一して交易をやり易くしたいと言ったからだ。同意して色々と注文を付けたのはこの間であるが、サンプルが有ったので調整自体は早かろう。茶器も事前に仕入れておけば簡単だ。しかし……ガラスの盃は絶対に無理だ、自分が『家紋を元にこのような図案を入れてくれ』と言ったのだ。それから十日も経過して居ない。

 

日本ではガラスの色は上手く出せなかった。

それを最新の窯と魔法による補正により、最近になって可能に成った技術だと聞く。ようやく始まった魔法学園での成果であり、但馬の砂を使った特産品はどうかと輝虎が熱心に勧めて来たのだ。祐豊は成り上がり者めがと対抗心を燃やして、肝いりで城下の絵師に具体的な例を描かせたばかりなのだ。どうしてそんなものが此処にあるのか?

 

「もしや一色殿に頼んで丹後にも工房を?」

「いえ? 窯をもそっと改良せなば、法術抜きには無理です」

「今のところは京の都でしか無理ですな」

「法術師が山ほど育ってあちこちに職務いたさば別ですが。ひとまず広げている最中の大街道を通して運ばせたのですよ」

 やがて祐豊は宙を見つめる猫の様になった。

人間、理解が及ばなくなった時、考えることを放棄する者がいる。図案をガラスに採用する方式は既にあった物としよう、躊躇なく試作……いや十器くらいまとめて焼いて、一番良い物を持って来たのだとしよう。だが、それらを三日ほどでやったとして……一週間で都と往復したというのだろうか? こんな割れ易い物を抱えて?

 

もしかして、城下の絵師は既に買収されている? あるいは一色義幸は既に輝虎の傘下に加わり、秘かに窯を作っていたのか? ああ、その場合は窯とやらに専念できるという魔法使いも必要だろう。

 

「せっかくです。これで酒宴でもいかがですかな?」

「憚りながらこの弾正、酒がことのほか好きでしてな」

「越後の清き澄み渡る酒のほか、色々と酒を用意させたのですよ」

「はは……ははは。それは結構ですな。儂も……いえ、それがしもお相伴に預からせていただきましょうかな」

 この辺りで祐豊の許容範囲を軽く超えた。

最初に会った時は運良く成功して将軍たちを味方につけただけの成り上がりかと思ったし、代価を大して要求しなかったときは金持ち風を吹かせやがって……と思った。大街道を速攻で作るために銀を積み上げたと言う時は、糞ったれな成金女郎だとすら思った。しかし、これは駄目だ。祐豊の理解を越えている。

 

どう考えても雑に見せつけられて居るソレは機密の結果にしか見えない。

もし寝室に天井まで金銀を積み上げたら城を譲ると言ったら、本当に人間よりも高く積み上げかねないところがある。もし浄土に行きたいので湯船に酒を満たしてくれと言ったら、嬉々としてやるだろうという確信があった。こういう人間を真面に相手にしてはいけない。どうにもならない存在は、敬して遠ざけよ。昔の人は良い事を言ったと祐豊は名門ゆえの知恵に感謝することにした。

 

 この時期の輝虎は見事にすることが無い。

頼まれたのは後詰であり、山名家の安全保障と発展性の担保でしかないのだ。抜け駆けするような性格では無いし、やったら大問題になるだろう。では何もしなかったかと言えばそうでもない。

 

転生者にとって退屈は天敵だからだ。

 

「おや。この地に温泉があるのは知っておりましたが、何時の間に」

「せっかく長逗留するのです。一から宿を拵えようかと思いましてな」

「露天の風呂とは別に、この東屋には足湯が用意してあるのです」

「さて。ゆるりと酒でも呑むとしましょう」

 まずは現代風の温泉宿である。防御? そんな物は要らない。

足湯に露天風呂に室内温泉と、至れり尽くせりやり過ぎの気配がある。もし輝虎が引き揚げたら祐豊も接収して保養地にするかもしれない。だが現時点でそんな事は微塵も匂わせたりしないのが歴戦の大名という者。『温泉ライフを邪魔する者には死を!』という気配を感じ取って大人しくしている。

 

それはそれとして、足湯と言う物はリラックスできて良いなと思う祐豊にも気になる事があった。もちろんテーブルの下ではしたなくしている輝虎のおみ足ではない。

 

「その、ところで……あの灯りはなんですかな?」

「ああ。あれは夜間行軍訓練ですよ。法術師の学び舎で予科の者にやらせております」

「本科は法術の腕を伸ばし、研究が本文。しかし、予科の者は武芸が本道です」

「長距離行軍訓練を行わせたり、夜間にも行っているのですよ。優秀な班には余禄もあります」

 遠目にポツリと浮かぶ夜間の灯火。

戦争の為の移動と言うにはあまりにも少なく、旅人と言うには夜に動くのは不自然であった。輝虎に聞いたところ魔法学校の生徒だという。どうやら生徒の一部を連れて来て、訓練しているらしい。

 

なお本科と予科は区分は簡単だ。

有力者の子弟やらが加護や能力値バランスの適性を見ながら、ジックリ自分に見合った魔法を覚えたり、将来は研究性となるのが本科。商人やら名前を挙げた傭兵が自分の役に立ちそうな魔法を、選んで集中的に覚えるために訪れるのが予科である。

 

「班と言う事は、個人単位ではないのですな」

「本科ならば数も少ないですが、予科は多いですからな」

「それに武家の子や大商人の息子などもおります」

「人を効率的に使い、あるいは使われる訓練を行うための集団行動と言えるでしょう。体を鍛える訓練であると同時に、少人数を率いらせたり、優秀者には大人数を率いらせるのです」

 当然ながら本科生はみな京都にいる。

陰陽師の他に貴族やら大名の子弟もおり、伸び伸びと魔法の腕を伸ばし、コネを結ぶためだけにいると言っても良い。極論を言えば、彼らは有用な魔法使いになるのが目的であり、後の世に良い魔法を伝えるのが役目でもあった。

 

逆に予科生の連中は戦うために居る者たちだ。

最新式の訓練として行軍訓練を行い、自分が覚えたい魔法の授業にだけ顔を出している。中には燈明持ちも覚えて居る持続光や、水作成・着火といった日常でも便利な呪文だけ1つか2つ覚えたら、後は卒業と言う者も少なくは無かった。但馬くんだりまで連れ出しても、全く問題はないと言えるだろう。

 

「しかし歩くだけで訓練になるので?」

「歩くのは泳ぐのと並んで全身を鍛えることができるのですよ」

「長距離行軍訓練では十里を歩くだけですが……」

「夜間行軍訓練では一里から二里の過程で幾つかの案件を果たさせます。間者ではないので、あくまで落ち着いて考えられるか……の課題になりますかな。半兵衛と源五郎、そなたらも考案した課題を持って参れ」

 輝虎は一分野につき一チートしか導入する気はない。

なので国策は街道、軍事に関しては常備兵である。その一環として導入する訓練なので、基本的には歩くことだけしかやらせてなかったと言える。歩くことが全身運動だというのは、丁度良い言い訳でもあった。

 

なお、長距離行軍訓練は30kmを歩くだけだが様々なバリエーションがある。

可能な限り急いでも一人も脱落者を出さぬ訓練、逆に可能な限り疲れぬ訓練、ゆっくり歩くだけだか整列して綺麗に動く訓練、別動隊と時間を図って合流する訓練などがある。基本的には面倒くさがりだが退屈を持て余した輝虎が飽きない様に色々と工夫が凝らされていた。

 

「失礼いたしまする。此処に酒と酒肴を用意いたしました」

「酒は三種、酒肴は七種ありまするが全て風味が違うのです」

「そこで一晩に三か所で酒宴を開くとして、程よい塩梅にご賞味ください」

「ふむ。将としてどう見切るか、どこで消費するか、念の為に備えるかと言ったところかのう? むむ……これは悩むわい」

 半兵衛が持って来たのは大き目の盆である。

布を取ると清酒・どぶろく・蒸留酒とあり、酒肴も干した魚や貝柱の他、焼いた物に酢で和えた物などが色々とあった。祐豊は特にチャレンジする必要などないのだが、酒宴に酒とあって笑いながら吟味していく。

 

「当然、酒の肴は足の早い物が最初じゃな。干した物は逆となるか」

「清み澄み渡る酒はここぞと言うべき場所で呑むべきじゃろう」

「呑むべき順番は簡単じゃの。最初にいつもの酒、途中の名所で清き酒。この荒き酒は気付けに使うとして、不要であれば最後に飲んでしまえば良い。となれば残りの肴も必然的にこうなるか」

 所詮はお遊びなので酒が入った頭でもクリア可能だ。

祐豊は頭の体操として、何度か試す試験問題の一つを攻略した。回答までの時間制限があったり、酒肴に布が被せられて難しくなるのだが、ひとまずはこんな物であろう。そんな訓練に何の意味か……については半兵衛は語らない。ここで培われるのは、魔法学園の予科で自分の部隊に何の魔法があれば便利なのかを学ぶ訓練でもあるからだ。行く先々を考えるための第一歩である。

 

「まだ早いとは思いまするが、次は定番の肴をお持ちいたしました」

「この地図と共に読み解きながら退屈を紛らわせてください」

「ほう……これは但馬の地図じゃな。そして、何処で何が獲れるかか」

「しかし肴の方は戦勝と引っかけた験担ぎのモノが多いが……幾らか欠けておるのう。しかし、地図には載っておる……。おう! そうか、これは足らぬモノを集めさせる遊びじゃな」

 最初の試験をクリアして、暇に成った所で源五郎が『次』を用意した。

盆に乗って居るのは干したアワビに昆布などの酒肴である。これらは出陣に際し、『敵に打ち勝ち、喜ぶ』という言葉に引っかけた物である。他にも塩や味噌が乗せられているが、中央にある膳としては『栗』がかけており、地図の方には但馬で栗が採れる場所が記載してあるのだ。

 

祐豊は見事正解であろうと上機嫌だが、源五郎は微笑むだけである。

実際には出先で補充可能な薪やら買い付けた米・味噌などがあると仮定して、調達できない物をみんなで運んで食事したりする。要するにそれらの計画性を見る訓練である。もし足らない物があればどうするか? あるいは……何を省けば、他の物を用意できるかの思考テストである。

 

「しかし弾正殿。将を鍛えることにはなろう」

「じゃが……別に法術の学び舎で教わる事でもないのでは?」

「ははは。鍛錬法自体はそうですな。ではここで座興を一つ」

「源五郎、そこの松明を。半兵衛はその後じゃ」

 祐豊は愚かではないので酒が入って居てもその程度の事は判る。

特に輝虎に隠す様子が無いため、思い切って聞いてみることにした。もしかしなくても、酒が入って気が大きく成った為だろう。せっかくの先祖の入れ知恵も、酔っ払い始めては意味をなさない。まあこの当時の酒は甘くてアルコール分が低いのに、輝虎が持ち込んだ酒を吞んだらこうなるよね……という良い例であった。

 

もし祐豊が女子大生で、輝虎がヤリサーのチャラ男だったら大変なことになったかもしれない。まあ輝虎なら女を放っておいて酒呑んでそうな気もするけどね。

 

「では、仕りまする。さん……に……いち」

「暗幕よ!」

「光よ!」

「お……おお!?」

 源五郎は暗幕という、闇の呪文を改良したものを唱えた。

松明が消えて暗闇なった所で、半兵衛がテーブルの上に持続光の呪文を唱える。するとテーブルの周囲だけが明るく輝き、急に訪れた闇の恐怖は消え去っていく。そして周囲が暗いからこそ……足湯の暖かさが身に染みるではないか。

 

「この夜光盃をご覧あれ。実に見事ではないですか」

「た……確かに。幽玄とは違いまするが、光り輝く姿も見事ですな」

「さて。余興を愉しんでいただけたところで、弾正からも問いが」

「二人の用意した問い。あれらをこなしていくと仮定して……、どんな法術があれば楽になりまするかな? そして小姓の一人・二人だけではなく、どれほど居れば行軍そのものが楽になりまするでしょうか?」

 明かりを消し、闇を呼び込んだのは呪文に対して想起させる為である。

持続光の呪文があれば夜間行軍がグっと楽になるし、水作成であったり着火の呪文も同様だ。もし夜間での遭遇戦を考えるならば暗視の呪文があれば自分たちだけが有利になるだろう。もし闇や静寂の呪文もあれば奇襲攻撃だって可能かもしれない。

 

そして一人・二人ではなく何十人も居たらどうだろうか?

それこそ三百~五百程度の小部隊を好き勝手に動かせるだろう。砦へ救援へ行くとして、夜間を徹して行軍を行い、しかも水の補給なども要らないので食料だけ持って行けば良い。それこそ魔力の限界まで水作成の呪文を使えば、砦に籠る兵士たちは何カ月でも戦い抜けるだろう。もちろん奇襲して、敵部隊の後方を突くなんてとても簡単なのだ。

 

それら軍事的に有利となれる貴重な情報。

輝虎が平然と口にして隠しもしなかった時……。そこに捕食者が居る事を思い出した。キュアポイズンの呪文ををかけてもらったわけでもないのに、すっかり酔いが醒めて胃が痛むのを感じる祐豊であった。まあ塩とか味噌を舐めながらアルコールをカパカパ呑む輝虎の方がおかしいんだけどね。




 とりあえず京都では魔法学園が動き出しました。
研究成果としてレジストファイアーを掛けた窯が動き出します。
色ガラスとか鋼鉄が作れるのですが、輝虎ちゃんにはガラスコップ!

『本科生』
 加護やら能力適性を調べ、様々な呪文系統がある事を学ぶために通う。
各種魔法の中で自分が何を得意としているかを見定めてから学習する。
基本的には寺に放り込まれていたお偉いさんの子弟が、じっくり学ぶ。
現在はただのデータサンプルであるが、将来的には研究性になる予定。

例えば解毒の呪文を鉱物毒・植物毒・動物毒に分割できるかを研究。
次に呪文を簡単にするのか、専門化で効きを良くするか議論したりする。

『予科性』
 必要な呪文を覚えることを前提に、習得を効率的に行うために通う。
燈明持ちなら「持続光」一直線で、拡大魔法による強化範囲のみを習う。
もちろん兵士として雇われる場合や、街中で幾ら稼げるかも習いはする。
しかし本科の様に加護やら適性能力なんかどうでも良いと考える人たち。

武将の子弟なら戦力に期待される者で、強化呪文や付与呪文を習得する。
その時に体力が高ければ闘気魔法のオーラパワーを覚えるように教えられ
知恵が高いならば物質操作系のエンチャント、知覚力ならば精霊系を指導されヒートウエポンを習う程度。
ただし脳筋の闘気魔法でオーラを学ぶものはともかく、精霊魔法などは水作成などを覚えられるので、お勧めされる事も無くはないとか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。