マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

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戦わない為の戦闘準備

 ある日、馬車タイプの網代車を使った連絡網が作られることになった。

ハブとなる拠点が越後なのが微妙だが、それは輝虎主体で始める以上は仕方がない事だ。一応は京との往復を目的にしているが、テスト期間中は但馬になる。これは治安の問題で都に直通できないのと、暇を持てあました輝虎が情報を欲しているからである。

 

では、なんでこんなことを始めたかと言うと複雑どころか馬鹿馬鹿しい事情がある。

 

「まさか格落ちした者の中で身を持ち崩した者が出ようとはな」

「大抵は郷里に戻って錦を飾るなり、どこぞに士官すると思うていたのだが」

「なんぞ聞いておるか景持? 聞いておるなら構わぬから話せ」

「御館様の精鋭として刀を振るう日々を送っていたのです。気位から言っても、俸禄から言ってもそう折り合う物ではありませぬ」

 輝虎は国元で詳しく調べて来た甘粕景持に確認をとった。

常備軍の第一軍はランキング方式である。最大千名を上限として、追い抜かされたものは格落ちすることになっていた。これまでその制度の問題が顕在化していなかったのは、国人たちの子弟が普通に強かったからである。身分制度がある世界では代々の食事による栄養累積で体格が違うし、余った時間に刀を振るって鍛えることができる。だからこれまでは入れ替わり式で落ちることは無かったのである。

 

だがしかし、都に来て名声が上がると立場が変わって来た。

将軍家の覚えめでたい最強軍団であり、よく聞いてみれば阿呆かと思う様な現金収入を貰っているのだ。浪人している連中や、腕に覚えのある剣術家や有用な加護持ちが目指さぬはずが無い。当然ながら格落ちが発生し、その全員が故郷に戻ったり何処かに士官出来るわけではないのだ。

 

「その点、此度の計画では腕前と馬術の経験が必要です」

「さらに都と府内を往復する巡検士とも言えますし、名誉と信用が両立しております」

「故郷に戻って部屋住みになるよりは、よほど遣り甲斐があるでしょう」

「まあ剣術以外に馬術を鍛えるようになっただけとも言えるしのう。気分は判らんでもないか」

 地方の人間は都に昇って見識を身に着け、故郷に戻れば箔が付く。

しかし有力な国人の子弟が全員そう扱われる訳では無いし、格落ちする者は何人も現れたのだ。上位に戻れると期待できる連中はまだ都に残ったり、戦争が起きれば空いたランクへ返り咲けるだろう。だが、明らかに二桁の差が出た者で、都の知識も文化も全く知らない者は、流石に兄のスペアでしかない部屋住みには戻り難いのだろう。

 

そう言った理由もあり、国人出身層のメンバー向けの仕事として馬車の護衛隊が組織されたのである。彼らは剣も槍も弓も出来るし、当然の様に馬術を覚えている。長距離を右往左往する苦労はあるが、遣り甲斐のある仕事として受け入れたのであった。もちろん信用と護衛としての格がないと貴人には付けられないので、輝虎たちも高禄を払っている。

 

「しかし越後や江戸との往復はともかく、信濃路や海道筋はそうもいくまい」

「その辺りは我らの成果を見て、武田や今川でも組織するかと」

「網代車そのものには、早速注文が入ってきております」

「領国ゆえに我らには立ち入るなと言っておりますが、治安が良くなり、都が近くなれば彼の家にも利益はありますゆえ」

 当たり前だが天下御免の越後勢に噛みつく山賊はいない。

ひとまず月一と決めた網代車のキャラバンや、それとは別に鍛錬を兼ねて行っている往復で大街道は安全に成ったという。定期的に設けた駅もあり、周囲では宿場町に商人たちも賑わっているそうだ。金さえ出せば商人も網代車に乗れるのだが、今のところは大商人以外は乗る馬車の余裕が無いという。

 

ちなみにこの計画に関心を示したのは意外にも武田大膳大輔晴信である。

港を何とか手に入れたものの、海そのものは隣接して居ない。そこで収益を増やし、街道や治水の件でアピールする為にも、上野から美濃を越える横ルートと、越後府内から駿河へ向かう縦のルート。この二つを整えて領国の安定を図ったという。これが史実には無い武田騎馬軍団の、この世界での始まりであるとか。

 

「そういう事ならば、大きな催しを行うとするか」

「江戸から府内を経由して、この但馬まで競争させよ」

「まずは馬のみで直通する試みを行う」

「それを繰り返して網代車で休ませる場合や、あるいは途中で流鏑馬などを披露させる。ただ撃つだけではなく、同じ場所に十も的を用意し、武者ならば十点で徒歩ならば一、間違えて女子供の的を当てたら減点とするのじゃ」

 調子に乗った輝虎は、ル・マンやら何やらを混ぜた企画を思いついた。

この無茶苦茶な提案に対し、家臣たちは実現に苦労するものの何とか計画に載せたという。だがその準備……特に長丁場では替えの馬が必要な当時である。四年か五年に一度の大会にしてくれと、輝虎に提案することになる。なお初代チャンピオンは国を追われた小笠原長時であったという。

 

 レースや寝台馬車の運営はただの趣味だが、馬車運営の全てが趣味ではない。

輝虎にも治安維持に利用しようとするちゃんとした考えがあり、ファンタジーに付き物の盗賊対策などもその一環だ。もちろんもっと重要で、日本の為になる試みも一応は計画しているのであった。

 

例えば貴人が越後や東国に移動して居ても、おかしくない状況である。

 

「景綱。必要も無いのに越後に下向したがる公家は減ったそうだな?」

「だが居なくなったわけでもないし、何名かずつ冬の前に連れて行くが良い」

「そして春を過ぎ雪がのうなったら京に戻すのだ。それで良ければ連れて行くと伝えよ」

「越後の冬の厳しさを教え、同時に逃れる事が可能であると示すのですな」

 直江実綱は長年の功績と、宮中への出入り込みで景の一文字を与えられた。

よって直江蔵人景綱という名前に成り、次席であった景持は同じ名前で名門ながら絶えていた甘粕家を継いでナンバー2として確かな格を与えられる。文官のトップ2の体制がここに固まったのである。普請の功績で昇進した斎藤修理大属朝信や留守居役の柿崎和泉守景家を含めて、いずれ四家老と呼ばれることになるだろう。

 

そして蔵人になったことで、彼は公家から無茶な頼みを聞くことが多くなった。

それが安定した越後へ亡命同然で下向し、安楽にそして裕福に暮らすことである。田舎である越後の格は上がるし、公家が多く住むことで北の京都と呼ばれるから良いだろう? と断り難い頼み方をされたのだ。もっとも輝虎が平穏を維持し献金を続けることでその数は減っていくのだが。

 

「そうだ。そのまま府内であろうと江戸であろうと気軽に赴けると周知する」

「大江山や生野の道は遠いとされるが、もはや近いのだと誰もが知るようにせよ」

「越後や東国が豊かになるだけではない。イザとなれば東の京として逃げ込めるようにしておく」

「さすれば京の街並みを焼き払い、将軍家や朝廷をどうにかしようとする者も減るであろう。実際に逃げ出す事はないであろうが、そう思えることは皆の平穏に繋がろうて」

 極論だが、臨時政府が安全地帯に移動できるとしたらどうだろう?

京都に攻め上って言う事を利かせようなんて連中は現れなくなるだろう。仮に三好家が二万か三万の兵力を率いたり、あるいは暗殺で将軍を殺したとしても、その労力に見合わなくなるのだ。足利義輝に弟はもう一人いるし、義秋と共にスペアが東西に居るならば何の問題も無くなる。

 

公家や側近も移動するとしたら、謀反を起こす意味自体が無くなると言えた。

これは以前に『将軍家が勢力を立て直すとしたら?』という問答で、東国や西国から再スタートを切る為のネタを考えた事に起因している。当時は義輝ではなく義藤であった頃にはそんな決断はしなかったし、まだ生きていた義晴も同意はしなかったのだが、その考えそのものが悪いと思った事は無い。

 

「実際に公家を連れて行くと、大内家が困ったように莫大な出費ですので良き思案かと」

「しかし、我らが囲い込むと懸念を抱かれませぬか? 実際に囲わぬのであれば……」

「計画だけなら別に我らの手持ちである必要もあるまい。他の大名にも用意を促そう」

「仮に東京計画として、第一候補は江戸。第二の東京候補は甲斐……は腸満の病があるか。信濃の松本あたりとして、第三東京は駿河なり箱根で良かろう」

 あくまで政府が逃げ出せる体制作りが必要なだけだ。

周囲がそう思うだけで十分であり、攻めるつもりのある大名から見て無駄になるリスクがあるから止めておこうと思えば良いのである。それゆえに大都市化計画が持ち上がっている場所を挙げてみた。

 

信濃では武田家が支配力を高めようと、史実で言う海津城の代わりに統治用の松本城を建てて居るとか。そして今川家の駿河は当然のことながら、領地が狭まった北条家でも防備用と経済発展を兼ねて箱根に町を拡充しているそうだ。越後ではなくこれらの都市であっても、計画自体には支障が無いように思われたのである。それこそ既に公家が多く在住する駿河などは、臨時政府が成り立っても問題ないように思われるのだから。

 

「景持。これらの計画に合わせて宿と駅に置く食料を少しずつ増やせ」

「廃棄前に民に配る食料が多くなる分には構わぬ」

「一朝、事あらば越後より三万の軍勢が即座に動ける体制もまた重要なのだ」

「ぬかりありまぬ。飛騨路には既に準備を始めておりますし、本願寺は快く受けております。畠山様や朝倉様に話が通らば、そちらにも用意する所存にございます」

 大街道各地に倉があり、そこに食糧が蓄えられ始めている。

平坦な場所ばかりではないが、以前よりもはるかに整備された道だ。馬車ほどではないが素早く移動することができるだろう。大荷駄により食糧輸送や軽鎧の輸送が簡便化したことにより、国元やら友好関係にある大名から食料が送られる準備体制ができつつあった。その一環として、移動途中で回収できるように各地の倉を拡充することにしたのである。

 

加賀の一向宗たちは当初、統治の仕方も知らずに困って居た。

そこで本願寺と友好関係を結んだ越後勢が助け舟を出し、早い段階で統治法やら開墾の方法を教授していたのだ。加賀を通る北陸路でも同様の備蓄が行われ、金は輝虎が供出し余る度に民衆へ振舞うという態勢が敷かれていたのである。この状況で彼らが輝虎を裏切るとも思えず、本願寺と敵対しない間は問題ないだろう。

 

「それは重畳。……例の計画は?」

「問題ありませぬ。僧房を用意して本願寺を含めた様々な寺に寄進いたしております」

「緊急の使者を派遣する場合、そこで法力による回復を行うことが可能かと」

「よし。各家にはこちらで話を通しておく。土産話を含めて少しずつ伝わる様にしておけ」

 連絡網としての駅の中に、一定距離で僧侶の宿坊を用意していた。

各地を巡礼して回ったりする場合に使ってくれと理由は付けているが、要するに魔力提供やら気力回復を行う場所である。韋駄天や身体強化の魔法で移動する場合に、そこに立ち寄ることで急行できるように改良したのである。もちろん夜間には暗視の魔法が使える者が選ばれるであろうし、夜を徹して一昼夜もあれば第一報くらいは届けられるだろう。

 

「後は朝信の報告か。賀茂川の改修は終わったのだな?」

「はっ。既に分線と蛇行は終わっております」

「夏の間に浚渫と土手を増すつもりですが、そちらは民衆たちが協力してくれるでしょう」

「どちらかと言えば、法術師の学び舎に拵えた水練場で問題が出まして……いえ、直接の問題ではないのですが……」

 普請の責任者である朝信は大属に昇進したこともあり、もっぱら京で動いていた。但馬への街道を通すだけならば他の者でも良いので、諸将やら公家の顔を見ながら陰陽師を交えて工事するのが任務であった。

 

「朝信が言いよどむとは珍しいな。何があった?」

「その……水練場が物珍しいらしく……」

「摂関家の方や裕福な下の家の方が我が屋敷にもと」

「京の都は水浴びをせねばならぬほどに暑くは無かったと思うがな。ひとまず陰陽寮を経由してもう一度頼ませよ。水辺を迂闊に弄るのはならぬとな。その上で、という話ならばどこぞに迎賓館でも立てるとしようか」

 魔法学園には鍛錬上の脱落用だけではなく、ちゃんとしたプールも用意している。

貴族の御庭にあるような浅い物ではなく、体を鍛えるために少なくとも水深1m以上は用意して、25m・50m・100mと段々型で川に面していたのだ。魔法使いの候補生である本科の者はあまり触らないが、予科生たちは体を鍛えるために泳ぐこともあるという。

 

そして朝信が困って居たのは、川で水浴びするのではなく、競泳込みで練習するプールが珍しいからだったという。京都は海辺ではないので、深くて広い水というものが珍しいのだろう。

 

(あーでも迎賓館かあ。西洋式とは言わないけど動き易い易い建物はどうかな)

(お庭は薔薇園とか葡萄園で南からの西向きの日当たりが良い感じで―)

(プールは南向きの一番暖かい場所に……作る感じ。あとはそこに流れ込む川かな)

(となると大きなお風呂を北向きに欲しいかも。何だったらサウナでも良いかなあ。場合によってはその蒸気を巡らせる、冬用の庭があっても良いかも。地下にパイプを巡らせて、一見地獄みたいな感じにするのさ)

 なお、この機に人生をエンジョイしようとする輝虎が居たという。

この迎賓館は後に南蛮人が協力することでガラス細工なども充実し、西洋様式を木造で再現した南蛮寺と呼ぶことになったという。




 と言う訳で未来に起きるである戦争対策です。

●サーキット・ライダー
失業した越後組の人たちを長距離バスの護衛にして簡単に往復可能に。
遠国に言った経験の近衛さん山科さんとかは「便利に成ったでおじゃる」とか言うかと。
前回出て来た夜盗組が走るのが得意な忍者向けならば、今回のは騎馬が得意な国人向けですね。
ちなみに国人たちは出身階層的にかなり恵まれてるので、真面目に訓練すればまずランキング内。成人時にはファイター2レベルとか当たり前の人たち。
しかし加護自体は誰もが持つものであり、極まれに戦闘面で役立つ籠の人も居ます。そういう人たちが真面目に訓練すると、ランキングで簡単に上に言っちゃう感じですね。これまでは大したことのない人数でしたが、都に行った事で甲子園常連校の球児が、超高校級とかプロ級の才能を見てしまった感じ。

●トーキョー・エグソダス計画
・いつでも脱出して東京(仮称)に臨時政府が作れる。
・いつでも越後から大軍団がやって来れる。
・いつでもスペアの将軍を立てることができる(別に今川でも良い)。
・ダミーの馬車自体は毎月一回キャラバンが構成されている。
 謀反を起こす常陸から見れば、悪夢のような計画。

●賀茂迎賓館
京都の北に作られた西洋建築に近い迎賓館。
屋根瓦とかは特になく、みんなただの砦であると思っていた。
しかし甲州葡萄を手に入れて植えていたり、サウナがあったり、プールがあったりとかなり無茶なつくりをしている。なお実際の見た目と事前申告よりもサイズが大きく、キャットウォークや隠し扉があってが忍者の人たちが平然とうろついているそうな。
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