マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

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不要者たちの挽歌

 輝虎は花の御所再建に力を貸した。

資金を惜しげも無く投入し、ひとまず専門的な部分へ戦闘工兵を送り込んで片付ける。そうすれば後は元から再建に携わっている者たちで可能だし、作業全般を手伝うには、自分の所でやってる迎賓館がまだ完成して居ないのだから。そして明け透けに作られた東屋で、茶を愉しむと言う理由で暫しの会見が設定された。

 

「この度は弾正様の御協力に感謝いたします」

「いえいえ。山名殿には但馬でお世話になっております。お気になさらず」

「お世話になっておるのは叔父の方だと何度も言っておりました」

「因幡を取り返さばますますご厄介になりますし、その事を考えれば、感謝してもしきれませぬ」

 花の御所と呼ばれる妙心寺を再建して居たのは山名宮内少輔元豊である。

彼は但馬で輝虎が協力していた山名右衛門督祐豊の甥にあたり、山名家から派遣されて幕政に協力していた。そしてその一環として、花の御所を中心とした一角の造営に関わっていたのである。本来は因幡の領地を守る為に父と共に動くべきであったが、今は幕政への関与と輝虎へのアピールが重要であると送り込まれていたのもあるだろう。

 

要するに山名家は現在の力関係を正確に判断して居たと言える。

余計なプライドで関係をこじらせるよりは、協力し合うことで、両家が近づく為の実績作りに励んでいたと言えるだろう。彼の言葉通り、因幡を制圧する作業は実行中。取り返したとして、復興の一環として大街道開通は既定の事実なのだから。

 

「妙心寺は花の御所と呼ばれた範囲に多くの別房を持ちます」

「我が東林院にもお越しくだされば歓待できると自負しておりますよ」

「おお。それは楽しみにしております。いずれ機会があればゆっくりと酒宴でも……」

「いえ、寺ではそうもいきますまいか。茶の湯でも楽しむと致しましょうぞ」

 東林院というのは細川家由来の別房である。

その血が山名家に入った段階で管理と後援が移っており、元豊はそこを宿にして周辺の再建を行っていたのだろう。輝虎は酒を持って行くまでは確定として、流石に昼間から酒宴はできまいと残念がったのである。そして茶の湯と言えば有名人が居る。

 

「その茶の湯を持ってまいりましたぞ。ごゆるりと楽しまれませ」

「久秀の腕はともかく、道具ばかりは良い物を誂えさせていただきました」

「亡き宗滴殿が扱われた物ですね。これは懐かしい。それと、もしやあれは……」

「はい。我が秘蔵になりますぞ。いや、これ以上は道具自慢になりますかな」

 松永弾正少弼久秀は朝倉宗滴の九十九髪茄子を入手していた。

没する前に質に入れて朝倉家の軍資金を増やすために行われたのだが、それを買い取ったのが久秀になる。金貸しの元締めでもある輝虎は購入を持ち掛けられてその事を知っていたが……酒はともかく茶の湯にはあまり興味が無いので放っていたのだ。そして茶入れが九十九であるならば、茶釜は平蜘蛛。共に松永弾正の所有する名物として知られていた。

 

「しかし、この東屋も面白い物ですな。一日限りとはいえまさか移動可能とは」

「賀茂の迎賓館と往復するという話をしたら、誰ぞが拵えまして」

「おそらくは誰ぞが街道普請の管理用に思いついたのでしょう」

「工兵を集め育てたのはこの輝虎ですが、放っておいても育つもの。時の移り変わりの早さに驚くばかりです」

 この東屋はプレハブ工程に近い物だった。

骨組みの上に畳を張った床を用意し、その上に別の建物で覆っている。完全なプレハブでもないのだが、簡単に輸送できることと、必要に合わせて内部施設を増やせるのが特徴的であった。一から輝虎が指示すればもっと別の物になるだろうし、茶の為の機能は適当に付け足されたので粗末な物である。

 

しかし花の御所として再建中の敷地を眺めながら飲める茶は丁度良かった。

話を進めながら茶が飲めるし、興味が無い時は建物や植えられつつある植物を眺めておけば良いのだから。

 

「工兵と言えば大規模農業というのは面白いですな」

「全員で効率よく作業して、細かい所を好きに調整する」

「あれも弾正様が御考案されたので?」

「いえ。街道整備に貸し出して居ったら何時の間に始まっておったのです。輝虎が口を出したのは細部で研究したい作物を個人で管理するところですね。おそらくは手法自体は昔からあり、実現したいと思った誰かが取り入れたのでしょう」

 久秀は主人の三好修理大夫長慶の影響で大規模農法に目を付けていた。

四角四面の田を作り、そこに綺麗に苗を植えていくという手法である。いかにも転生者である輝虎が主導したかのような内容なのだが……実はこれも越後で貸し出した工兵が考案した手法なのだという。なお……まるで美談の様に言っているがそうでもない。

 

街道整備の為に真っ直ぐな棒道を作り、強制的に種蒔きを終えた田を移動させた。

その時に工兵が一気に終わらせるために行動し、同時にまばらに生えていた苗を移動させ、一列に並べたことが原因であるとか。ただ育てた苗を綺麗に植えた方が効率的なこと自体は、理論であったらしいのでその影響もあるのだろう。この当時の種蒔きは米を適当に投げるので、一か所に集中したりあちこちにバラバラだったりするので、対策自体は練られていたらしい(忙しいから誰もやらないけど)。

 

「なるほどなるほど。それは面白いですなあ」

「この久秀も鈴虫の育て方やらいろいろと研究しましたが工夫のし甲斐はあるもので」

「苦労はあるようですが、いよいよ乱世が収まるならば領地は増えませぬ」

「同じ田畑でどこまで作付けを増やせるのか考えてみるのも一興ですな」

 久秀は凝り性で様々な研究を行っていた。

鈴虫を飼って大きくしたり、どこまで寿命が増やせるのか試してみたのだ。上手く育てた虫をストレスなく飼えば、野に生きる虫の五倍は生きるとデータを残している。他にも男女の夜の営みに関してハウトゥー本を残しており、エロティックな方面にも知識が深い。決して天才ではないが、策士としての才能はこうやって培われたのかもしれない。

 

 和やかな話題から腹の探り合いに関しての話題に。

この時点で山名家の面々はその場を辞しており、既に担当区画の視察に向かっていた。残る二人で会談というかヒソヒソ話というところである。これで弾正台としての監視業務に限らないのが皮肉なのだが。

 

「阿修羅像に関しては興福寺に戻すと決められたそうです」

「三原殿が儀式には参加されますが、緊張を避けるために兵は最低限にするとか」

「ではこちらも兵は下げておきましょう。信綱たちが居れば何とでもなりますしね」

「そうしていただけると幸いです。大樹様や修理大夫様もそれぞれ精鋭をお連れになりますし、滅多な事には成りますまい。無論、興福寺の悪僧共には監視を付けております」

 義秋経由で戻すという形式自体は変わらないが、無理に鞆には送らない。

そういう話し合いが終っただけのことだが、距離を考えれば当然のことなので特に不審な点はなかった。また興福寺の僧侶がモメ事を起こすかもしれないので、義秋側についている小早川家は遠慮して兵士を減らしたそうだ。となれば少数精鋭の勝負に成り、剣聖である上泉信綱ほかカンスト組を連れている輝虎の優位は揺るがなかった。

 

そこまで用意した上で、久秀は興福寺の僧兵たちを監視していた。

大和で僧房に居る千から二千程の兵ほか、坊官たちの中で剣豪であったり高レベルの使い手である八部衆達を常にスパイ経由で見張っていたのである。

 

「後はそうですな。そうそう、九十九と言えば朝倉様」

「何やら大男の集団を召し抱えて鍛え上げられたとか」

「その話を聞いた大樹様は、相撲でも取らせようかとおっしゃったそうです」

「そういえばそんな話を輝虎も聞き及びました。確か義の一字を授けられたという話のついででしたか。いや、その後だったか」

 朝倉延景は将軍である義輝から、将軍家の通字である『義』の字を受けている。

輝の文字を貰った輝虎よりも格上扱いだが、長年の忠節と近さを考えればそんなものであろう。輝虎もその内に謙信と名乗るつもりだったので、特に気にして居ないと返したような気がする。

 

それはそれとして大男の軍団と言う物のインパクトは凄い。

この当時は江戸時代ほどに身長が減ってはいないが、それでも180cmもあれば大男間違いないのだが、そんな兵士は中々いないのだ。妙な方向での気合の入れように笑みがこぼれた。輝虎よりも何歳か年下なので、対抗心でもあったのかもしれない。なお、史実に準拠して居るので嫉妬心ではないのじゃよ。史実で信長に対抗心があってやったのかは不明。

 

「しかし朝倉殿も参られるという事はかなり大掛かりとなりますね」

「はっはっは。阿修羅像を持ち込んだ時も大掛かりでしたぞ」

「弾正様はまったく、御自分のなされた大業を小さく捉え過ぎておられまする」

「長らく続いたこの乱世。ようやく終わるのです。そこに参加して天下の偉業に自らの名前を刻みたいと申すのも当然ではありませぬか。はばかりながら、この久秀も修理大夫様のもとで名前を為そうと思わぬでもありあせぬ」

 なお、輝虎は当然の様に自分がやったことを偉業などと思ってはいなかった。

織田信長は十万の兵を動員したというし、豊臣秀吉は天下の大阪城とその金蔵に巨万の富を築いたのだ。また徳川家康に至っては、江戸時代数百年の平穏を成し遂げた大人物。三英傑を知る転生者にとって、自分の功績など出来て当たり前、彼らに比べたら小さなものなのだと考えていたのである。

 

だからこそ……輝虎は人の気持ちが判らないと言われるのだ。

彼女の足跡にただの敵対者として刻まれた者たち、まるで経験値の様に無造作に摘み取られた命と尊厳。人生全てを掛けても名前一つも上がる事はなく、ただの盆暗として歴史に埋没する者たちの事など何一つ考慮に無かったのである。

 

 結局、花の御所造営自体は間に合った。

当初の予定期間では不可能であったが、思ったよりも出席を希望する諸将が増えたのである。また大街道を主導したことになっている将軍足利義輝のデモンストレーション目的もあった。朝倉・北畠・六角と言った畿内の大名以外に遠方の使者も訪れるという。

 

関東管領である山内上杉憲政が派遣した将たちもまたその一人だ。

流石に遠方ゆえに数は多くないが、それでも格式の問題で北畠家や六角家が寄こした文官・武官と同じ程度には兵を送り出すと言って来た。この予定に合わせてセレモニーを延長した為、落成が間に合ったという訳である。だがセレモニーは開かれることはなかった。妙心寺が襲撃されたからである。

 

「御謀反! 御謀反にございます!」

「ですが興福寺の悪僧共も北条家の兵も動いておりませぬ」

「御所に詰めている兵はこちらの味方の方が多いくらいですが……」

「まさか自分たちが不利な状況で仕掛けて来るとは。この松永久秀、油断いたしました」

 弘治の変と呼ばれる襲撃は、防御側が遥かに有利な状況で始まった。

ただし、その全軍が全て利用できるならば、あるいは信用が置けるならば……という前提が付く。用水路を兼ねた水堀と壮麗な壁を随所に導入したことで、味方と味方が分断されているのである。しかもこちらの味方であるはずの兵の一部が反乱側に加わっており、いまいち信用が置けないという問題があった。

 

こうなった理由の遠因は、単純に時期としても兵数としても不適切であったからだ。

危険分子である『敵』は全て監視され、その動向が掴めているので数万どころか数千であっても事前に見つけ出すことができる。そうなれば賀茂川の迎賓館で工事している戦闘工兵も含めて、千か二千居れば圧倒的戦力で叩き潰せるのだ。

 

「久秀一生の不覚。御屋形様、責任はいかようにでも」

「それを今言っても仕方あるまいて。それよりも状況を整理せよ」

「謀反と聞き及んだが、それだけでは何が何やら分からぬ」

「謀反人めの目論見を看破し、大樹様を守らねばこの長慶、死んでも死に切れぬ。どうせ死ぬならばこの乱世を治めずして死ねまいぞ」

 この襲撃が上手くいってしまった原因の一つは、第一にセレモニーがまだ先であること。

それゆえに将軍である義輝以下、三好修理大夫長慶や久秀らが準備に勤しんでいたのだ。もちろん兵は十分に詰めているし、敵になり得る連中は兵力と言うほどの勢力ですらなかった。いや、儀式の最中に攻めたら油断などすまい、圧倒的な兵力で守ってしまうからだ。

 

おそらくは絶対的に有利な状況であり、同時に幕府側が警戒している獅子身中の虫である三好勢を巻き込むことで、強引に成功させたのである。

 

「攻め立てている連中は、『長尾景虎』と名乗っております」

「同時に『景虎謀反を聞きつけ、討伐に参った』と一色様や伊勢様が……」

「待て、義幸が儂に謀反だと!? それに貞孝めが……いや、あやつの不正に気付いたからか」

「でしょうな。おそらくは長らく政所を支配した伊勢家排除を試みた事が凶行に走った一因かと。それと伊勢の分家は関東で弾正殿に痛い目に合わされております。弾正殿をかつての名前で呼んで居るのが何よりの証拠でしょう」

 伊勢貞孝は政所を支配する家柄で、いわば側近の筆頭とも言える。

しかし幕府へと献金された資金の一部を着服し、また持ち込まれた裁定を自分が都合の良いように扱っていた事が発覚している。めでたい席ゆえに大事に至らない様に排除の準備に回っていたことが、どこかで嗅ぎつけられたのだろう。史実よりも早い問題発覚と、それゆえの謀反であったのかもしれない。

 

ただ、判らないのは一色義幸の方である。

伊勢家は幕臣ゆえに金はあっても兵力はさほど持っていない。それゆえに主力は一色家が連れて来た兵であろうが、彼が謀反に加わる理由が無いように思えたのだ。

 

「貞孝はまだ判る。父上の代から色々とおかしいと探っておったのだ」

「晴嗣殿から献金総額の話を聞き、一万貫文の取り分を詳細に決めたことも不満に思っておった」

「だが義幸が謀反に加わる? 丹後は取り戻せるし幕府も元に戻る。これからではないか」

「……おそらくはその後に居場所が見いだせなかったのではありませぬかな? ……ああ、阿修羅像を持ち込む際に彼の不手際を大樹様が御留めになりました。不手際自体がなかったことになりましたが、交易権ももらえませなんだし、怨みかはともかくとして少なくとも重用されぬと思うておるやもしれませぬ」

 輝虎は最初に上洛した際に三千貫を献金している。

その時にまだ存命であった義晴を通すことで、他の大名に連名の名義貸しを行ったり、伊勢家の頭越しに資金援助を始めたのだ。その辺りから徐々に献金の差額がおかしいと発覚し始め、伊勢家の早期排除が念頭にあったのは間違いが無い。

 

それはそれとして今回、阿修羅像を返すことが儀式の一環である。

しかし持ち込んだ時に彼を公衆の前で叱りつけたのは間違いがなく、将軍家にいったん預けると言われた中国との貿易権を与えないことで罰の代わりにした。それまでの義輝であれば、喜んで一色家に協力させたであろう。確かに不満に思う要素はあった可能性はある。

 

「言われてみればそのような気もするが、貞孝と違って罪はないのだぞ?」

「名家と言う物は何よりも体面を重視いたします。それに無役なのも確か」

「このところ彼奴に何も命じておらんが……それを申せば誰も彼もそうだぞ?」

「いえ。同じ身の上の山名殿はこの妙心寺の造営を行っております。但馬のほかに因幡も取り返すことは必定。生野の銀山の事を忘れれば、自分だけが置いて行かれたと思うのではありますまいか?」

 名門なのに役目が無いからと言って、それを不服と言うにはおかしな話だ。

幕政の重要部分は殆ど三好家が握っているし、毛利家との折衝なども同様である。同じ名門では赤松家などは早くから居場所を無くし、細川晴元と三好長慶との戦いに巻き込まれて播磨を守るために動けないでいるのだ。

 

しかし、ここで同様の山名家が再び浮上し始めた。

一色家以上の名門であっても尼子家に押されて山名家は滅びかけていた。だからこそ虎の子の生野銀山を放出するとまで言ったのだが、義輝からの命令と輝虎の好意で但馬の奪還と領国整備までやっている状態だ。因幡まで取り返せるとしたら、その運命は大きく変わろう。一色家が丹後を取り戻せるだけなのに、だ!

 

「人の心は必ずしも効率的ではありませぬ」

「他者と比較されれば焦りも憤りもするもの。この長慶も余計な戦をしたことがあり申す」

「誰もが弾正殿の様に、自分の心を切り離して専念などできませぬぞ」

「おうっ! その弾正を忘れておった。あやつならばこの危機など容易く乗り越えよう。何をしておるのだ?」

 ここで上層部が悠長に真相解明をしていられるのは当然輝虎の影響である。

彼女が居れば現時点での問題など無いも同然。一騎当千の剣士たちが全て神兵へと変わり、数百居ようと数千居ようと瞬く間に蹴散らせる。少なくとも封鎖されている門を越えて、鞍馬山や賀茂に居る越後勢と合流するなど息をするよりも簡単なのだ。

 

「弾正様ならば、『輝虎は謀反などせぬ。ひとまず武器を置いて下がれ』と命じられ……」

「そのまま祈祷所に向かわれました。おそらくは多少強引にでも攻囲を破る御つもりでしょう」

「相も変わらぬ電光石火よ。儂への説明まで余計と切り捨てるのも小憎らしい」

「左様ですな。このままいけば他愛なく……。いえ、これはいけませぬな。連中の目的は最初から弾正殿。自らの上に立つべき者を、君側の奸として除くのは常の事ですので」

 ここで詳細を確認していた久秀が口を出した。

本当に謀反したと思われても困るので、方々に待機を命じたのだろう。信じられる味方ばかりとは限らないし、聖戦の呪文の影響を受ける数十名だけで戦おうと思われる。実際にそれで勝ててしまうのだから冗談のようなのだが……。ここで長慶は真相に至った。

 

現時点で上層部が手出しされて居ないのはどうしてか?

御所の各地を孤立させ、必要な相手だけを倒そうとしているのは明らかだ。それゆえに逆賊扱いされそうな上、別に殺したい相手でもない義輝たちは後回しにしているだけのことである。

 

「なに? どういうことだ? 意味が分からぬぞ」

「ああ、大樹様にはお分かりになりませぬか?」

「一色殿が不満に思った原因は? 伊勢家が没落する遠因は?」

「それは弾正殿です。この長慶だけならまだしも、上位者がもう一人おっては彼らも立ちいきますまい。しかし、だとすればもう一人、黒幕が居りますな。今となっては弾正殿が目障りな御仁がもう一人……。我らが弾正殿を京の都から遠ざける為の場所の主です」

 義輝が一色家の謀反を信じるまで時間が掛かった。

それは彼から見れば大して侮辱したつもりはないし、取りなしてやったからプラマイゼロと言う相手でしかないからだ。将軍から見ればそれで十分に慈悲と言える。だが輝虎に対する一色義幸のスタンスは少し違う。全ての遠因なのだ。彼女が居なければ丹波は取り返せなかったかもしれないが、少なくとも三好家にすり寄れば問題をやり過ごせる。

 

また輝虎が居たことで面目を無くし、これから地位を無くす者がもう一人いる。

そう、関東管領である山内上杉憲政だ。彼は自分が失いそうになるに際して、何もかもを女に救われたと侮蔑され、今も彼女の手下を借りて関東で地位を守っている。諸将は彼の事を居ないも同然に考えており、輝虎が恐ろしいから従っている者が殆ど。プライドを誰かに刺激されたら動いても仕方あるまい。少なくともかつての仇敵である北条家はむしろ協力的なのだから。

 

それだけならば反乱に加わらなかった可能性はあるだろう。

だが、義輝たちが輝虎を遠ざける方法として、関東管領に付けることを企図していると知ったら? 憲政自身は彼女のご機嫌を取るためにその『可能性』を述べたが、彼としては可能性だけを仄めかしてそのつもりはなかったのだ。精々が我が子に繋ぐための一時的な代行。しかし義輝たちがその気ならば、完全に関東管領家を入れ替えるのも可能なのだから……。

 

そして憲政が敵ならば問題が幾つかある。

例えば輝虎の元に援軍として兵を送り込み物資を送り込むことが容易い事。何よりも信頼している上泉信綱たちもまた敵に回る可能性があったのである……。




 と言う訳で陰謀の『弘治の変』になります。
正直な話、戦争で勝つとか正気ではないので。
「磯野~戦争しようぜ」と誰かが言ったら
子供まで「はーい!」と言って参戦して最低2レベル。
まあ正面から戦いませんよね。

●その時、歴史が動いた。
「今回の件、黒幕候補が三人居られます」
「一色、伊勢、そして山内上杉さんです!」
「武田や今川も怪しいですが、この三名はほっとくと面目も地位も失います」
「特に伊勢さんはバタフライエフェクトで横領発覚してますしねえ」
「親戚の北条さんは大変な目に合わされたそうですね」
「でも一色さんは動機が薄くないですか?」
「今までだったら絶対にイエスという状況で、いきなり馬鹿にされましたしね」
「あと、見下していた山名さんが自分より上に立ちそうなのも腹を立てたのかと」

 テレビ番組だったらこんな企画やってる感じですかね。
それこそ「え? こいつ、何でこんなことしたの?」
「明智光秀が本能寺で謀反起こすようなもんじゃない? チャンスあったからだよ」
って感じですかね。
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