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花の御所が襲われたその日、一匹の犬が地下深くに埋められた死体を見つけた。
見つかったのがただの死体であったり、見つけたのがただの犬であれば問題が無かっただろう。見つかった死体は『顔が焼かれ』ており、犬は輝虎自ら『押井七房』と名前付けた忍犬で、太田資正より訓練された凄腕である。犬ながらに常備軍の第三大隊に一席設けようかと冗談めかして語れるくらいには賢かった。
そして検死に連れて来られたのは望月吉棟。
望月甲賀守の末裔として、才能豊かではあるが感受性が明敏過ぎて荒事には向かぬと言われ、今では魔法学院の教師になった男である。
「頭領。この死体、何者でしょうか。顔が焼かれておりますが」
「死人を見慣れた七房が、ただの死体を掘り起こすとは思えぬ」
「本来死ぬべきでない男であろうな。顔を焼いたのは入れ替わる為か」
「ふむ。身は軽くそれでいて足腰の筋には張りがある。相当に達者な猿飛の使い手と見た」
吉棟はまず状況証拠から変装の為と見た。
影武者などが己の痕跡を消すために自ら潰す可能性も有るが、味方の忍者にその様な者はいない。また七房がいかに優れていようと、無関係の相手だと判別は付け難いだろう。ゆえに顔見知りの忍者であり、死ぬはずがない者が死んだので、不憫に思って掘り出したのだと思われる。弔って埋められたのであればともかく、証拠を消すために埋めたならば七房も躊躇うまい。
そう思って推理を次の段階に進ませると、体付きが独特であった。
スパイ活動を行うために陰に潜む事こそが忍びの本質であるが、派手に動く陽忍とでも言うべき荒事役は存在する。こういった男たちは自分の得意技を元に特化することが多いのだ。ならば特定は難しくあるまい。
「我らの見知った男で猿飛の……まさか唐沢玄蕃か?」
「玄蕃ほどの男をこうも容易く仕留めるとは……」
「いや、待て! 玄蕃になり替わっている男は誰だ? 何を目論んでいる!?」
「玄蕃はどのような任務に就いている? 急げ! もしやすると大事やもしれぬ!」
吉棟の指示で伝令が飛んだ。だがその結果はともかく、内容が芳しくない。
まず殺された玄蕃が率いていた小隊の行方が知れず、七房を連れて探せばその死体まで見つかる始末。そして本来就くべき役目は、輝虎の護衛班の一つである。玄蕃班はフィールドワーク向きの忍者だったので、外周部の警護と言うのが良くも悪くも問題を決定付けた。
輝虎の近くで侍って守る役目ではないので、直接の危険はない。だが、その分外回りゆえに外部の人間を引き入れ易いのだ。流石に軍勢などは無理だろうが、剣客であれ忍者の類であれ……十分に可能やもしれぬ。
「だが、なんだこの違和感は……まだあの死体から感じられるものが残っている?」
「玄蕃を殺せる腕前。……いや、玄蕃に成り代わって見破れぬ相手……」
「我らを出し抜くほどの人遁の使い手とは厄介な。それでいて玄蕃を倒せる腕を持つか、あるいは……」
「いかんな。どちらにせよ弾正様の元に駆けつけねば危うい。『死人語り』が使える法術師が居るか尋ねておけ、我らは弾正様の元へ駆けつけるぞ!」
輝虎を狙った相手は、戦場打倒することを早々に諦めたに違いあるまい。
老人から大人まで、老若男女の区別なく忠実な兵士に変える魔法の使い手なのだ。戦場で殺せと言う方が無理難題であろう。極論を言えば京の市民全てを率いて、近隣の領国を制圧できるだけの無法な戦闘力を有しているのである。輝虎が三千にも満たない精鋭の身を率いるのは、舐めプというよりは、経済効率・移動効率の結果でしかない。
だからこそ黒幕は、入念な計画の元に暗殺計画を立てたのであろう。
表の世界では弘治の変、裏の世界では輝虎暗殺帖と呼ばれる、陰の戦いが始まろうとしていた。
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花の御所の中でも、妙心寺の境内では閉じ込められた兵士たちが右往左往している。
元から広く作られ、壁も壮麗で用水路を堀として使った瀟洒な造りだ。あちこちに花や木々が植えられているが、そのせいで別区画へ行くための道を封鎖されると動き難いのである。そして上層部を閉じ込めたこのエリアには不思議と敵も入っては来ない。
そんな中で、祈祷所への道を守る武芸者たち。
そして彼らを抹殺して輝虎を目指す忍者たちの戦いが、人知れず行われていた。
「木っ端忍者どもめ、掛かって来い!」
「はっはっは! 田楽刺しにしてくれるぞ!」
「貴公ら。アレが始まるまでは迂闊に出るなよ、数で攻められると面倒だ」
「まあ弾正様が祈祷を終えられるまでは時間稼ぎよなあ!」
武芸者たちは数人ごとにまとまって祈祷所周辺をガードしている。
要所要所はカンスト組が守っているが、そんな連中の数が多いわけではない。だが、頂上の頂には及ばないものの、彼らもまた腕利きには違いが無かった。
ある者は太刀から闇を放って槍の様に斬撃を延ばし、別のある者は太刀や小太刀を磁力の様に使って蛇腹剣の様にして振り回す。あるいは鎖鎌から雷電を迸らせ……と、それぞれが得意な魔法を絞り、それを剣術に組み合わせる武芸の達人でもあった。
「流石は弾正の精兵。聞きしに勝るわ」
「ここで時間を掛けるのも上手くは無いな」
「ここはワシが行こう。役目は済ませたゆえ好きにして構うまい?」
「「……」」
襲撃者側の頭目格が三人。その内の一人が前に出た。
その男は『唐沢玄蕃』の顔をしており、配下の忍者たちを此処まで導いた者である。忍びの数はそう多くはないが、二人の頭目だけで御釣りが来よう。輝虎配下の常備軍が精鋭ならば、攻める方もまた精鋭だけが居れば良い。
そして残る二人は別方向に別れた。
一人は攪乱を兼ねて義輝たちの元へ向かい、もう一人は輝虎を目指している。一人目は忍者の中でも魔法使いの部類であり、もう一人は……まあ直ぐに判るだろう。
「お前たちは下がれ」
「援護も要らん、怪我人が増える」
「ですが!」
「そう思うならば小太郎の元へ迎え。奴には数が居るが、ワシにはむしろ数は足手まといよ」
偽玄蕃は手下たちに声を掛けると、大きな鉄扇を拡げる。
そしてもう片方の手で、煌びやかな色合いの扇子を掲げたのだ。その風流な姿は彼の戦仕度であり、部下たちも渋々ながら退散していく。既に倒された仲間の仇を討ちたいのであろうが、忍術に巻き込まれるのを避けたのであろう。
「行かせると思うか?」
「時間稼ぎに徹しておいて良くも言う」
「まあ時間稼ぎをしていたのはこちらもだがな」
「何っ!?」
ここで武芸者たちが足止めに出ようとする。
輝虎を守り聖戦発動まで時間稼ぎをする為だったが、彼らを無視して輝虎を目指すというならば話が変わってしまう。腕利きらしき頭目格だけならカンスト組に任せたと言えるが、雑魚を行かせるのは勝手が違うのであろう。だが、それはこの偽玄蕃も同じことだった。
ある目的の為に時間稼ぎをしていたが、同時に頭目たちを辿り着かせねばならないのである。
「うぬらには聞く耳は不要であろう」
「さて、見るがよい我が芸を」
「ぬっ! 扇子が宙を舞うだと……」
「それだけではないぞ。一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚……」
偽玄蕃が煌びやかな扇子を投げると、手裏剣のような鋭さで空を舞った。
いや、この場にいる者は知らないであろうが、ブーメランを思わせる機動で戻って来るのだ。それを高速でジャグリングさせていくと、無数の扇子手裏剣が宙を舞って武芸者たちに襲い掛かる!
だが武芸者たちもさるもの、咄嗟に背中合わせになると宙を舞う奇怪な扇子を撃ち落としていったのだ!
「私に任せろ!」
「なんの、貴様だけが得手と思うなよ」
(む……簡単過ぎて妙だな。それにこの匂い……)
鎖鎌や魔法で延長された刃が次々に扇子を撃ち落とす。
そのたびに煌びやかな扇子は切り裂かれ、あるいは撃ち落とされながら光を乱反射させていく。しかしこれでは大道芸であると武芸者の一人が思った時、奇妙な匂いが周囲に立ち込め始めた。そう、ここまでの段取りはただの仕込みに過ぎないのだ。
「迂闊! 息を止めて風上に回れ! 幻魔の毒だ!」
「ひ、卑怯な!」
「馬鹿め。風下に立ったうぬらが不覚よ」
「それに風上だと? そのような物はないぞ!」
幻術だか薬学に心得のある者の叫びで武芸者全員が走る。
しかし時既に遅く、魔薬がまき散らされていた。いや、それだけではない! 偽玄蕃が巨大な鉄扇を仰ぐと、風がコントロ-ルされて武芸者たちの周囲を舞ったのである。残った扇子数枚もまた鳥か何かの様にコントロールされ、武芸者たちの周囲を追随していった。
「卑怯者め! 尋常の勝負を致せ!」
「忍びに勝負とは愚かな。だが良かろう」
「これで良いかな!」
「ひ、人が宙を舞う扇子の上に飛び乗るだと!? 妖怪変化か!?」
口元を抑えて太刀を振り回す武芸者の言葉に偽玄蕃が乗った。
だが乗ったのは言葉ではない! 扇子の上に飛び乗って、宙を舞いながら一同を見下ろしているのだ! 何という奇怪な! なんという忍びの技か! 扇子の上に飛び乗り、蹴り出すようにしてその勢いを高める。そして自らは扇子を選った衝撃で別の扇子に。扇子から扇子に飛び移り、扇子の方は紐を絡めた独楽の様に加速していくではないか!
高速回転する扇子に切り裂かれ、あるいはキリキリ舞いする扇子の美しさに目を奪われていく。
「なんと不甲斐ない。掛かって来いと言ったのはうぬらでは無いか」
「いつまで地べたに這い回っておるのだ? ククカカカカ!!」
「そうか! 判ったぞ! 目くらましの技に、これほどの猿飛の技!」
「さては飛び加藤! 加藤段蔵かああ!」
高速で飛来する扇子はまさしく手裏剣の如し。
魔薬をまかれ、空を舞う偽玄蕃に武芸者はまともに戦う事が出来ない。一人、また一人と地に伏し始めた。幻覚剤の類であっても大量に吸い込めば危険。その中で手裏剣を食らって牽制されればこうもなろう。だが、あまりの冴えに、その正体が発覚する!
風間小太郎の弟子の一人、加藤段蔵。
幻術を操り強烈な体術で空を舞うとすら言われた凄腕の忍者である。彼が相手では唐沢玄蕃も危うかったのかもしれない。武芸者が弱いという訳ではないが、魔薬を焚かれてから挑んだのでは勝負にもならぬ!
「キャッキャ! 面白い大道芸だね!」
「糸の上か何かに乗ってるのかな? かな?」
「上から見てると丸判りなんだけどさ~。あいつらの顔、面白れえよなあ」
「……小童。儂の術を見抜いたか」
だがその時、屋根の上から声が掛かった。
武芸者たちに道の封鎖を任せて、何もせずにボーっとしていたクソガキである。あくまで段蔵の目くらましは催眠術であり、真正の幻術ではない。角度を変えて視点を変えられたら、言う程に効果はないのだ。煌びやかな扇子の色合い、それを投げて視線を誘導し、魔薬を風上から焚き染め、扇子にも仕込んで撃ち落とさせる。一連の行動を他人事として眺めていたのだった。
クソガキも興福寺攻めより歳を重ねて少年めいた姿に成長した。
加護の問題もあるので筋骨隆々とは言わないが、しなやかな筋肉を毛皮で包む姿はマシラかさもなければ猟師の類であろう。しかし、この少年はれっきとした武芸者なのだ。
「名乗れ小童。この段蔵が名前を敷いておいてやろう」
「今はねえよそんな上等なモン。だけど将来の名前は決まってんぜ」
「鬼と伝えられし大剣豪。伝鬼坊たあ、俺のことだ!」
段蔵は巨大な鉄扇を構えて屋根の上に立つ少年に相対する。
足元には細い糸が張り巡らされ、上に立つはずの少年と同じ目線に見えた。だが少年は笑って太刀を右手一本で担ぐと、左手を突き出して名乗りを上げたのであった。
こうして恐るべき三忍と呼ばれた、加藤段蔵との本格的な戦いが始まる!
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ここで少し整理しておこう。襲撃側が優位に立てた理由は三つある。
一つ目は壁・堀・別房などの構造によって守備兵を分断した事、彼らは妙心寺の造営完了をあえて待っていたという訳だ。二つ目は輝虎が黒幕だと騙って命令系統の混乱を図った事、輝虎を疑う者も居るし逆に彼女が支配者になることを望む者もいるだろう。その相反する両者を同時に煽り、兵士たちが積極的に動かない土壌を作り上げたのだ。下剋上の時代ゆえに強い方に付くことはおかしくないし、将軍と三好長慶の両方を同時に手中に治めるチャンスに見えなくもなかったのも影響しているだろう。
三つ目はそれらの複合により、信頼できる手持ちの兵のみに絞らせたことである。
誰も彼もが信用できないのであれば、最終的に直衛である十数名ほどの勝負にならざるを得ないのだ。その上で狙うは輝虎ただ一人、いや、倒せずとも『この機に輝虎を除いた方が良いのでは?』と足利義輝ほか上層部に追わせれば勝ちだと言えた。下剋上の時代だから上を除くのが当然であるならば、ゆえあれば上が下を除く事もあろう。
「ど、どうすべきでござろうか?」
「山内様からは弾正様が御謀反とも……」
「うろたえるな、こぞうども!」
「か、上泉殿……!?」
同じ関東出身の剣士が上泉伊勢守信綱に内緒話を始めた。
だが信綱は怒号を上げ、周辺で様子見をする仲間達を諫める。常備軍の第一大隊に所属する者の中には、山内上杉憲政から『輝虎が謀反を計画しているようだ、備えて将軍家を守れ』と伝えられていたのだ。憲政の使者がセレモニー訪れるまで待って確認しようとしていたところで、突如として弘治の変が始まってしまい焦ったのである。
そしてヒソヒソと声を潜める同郷の仲間を信綱は叱った。
「うぬら! 弾正様の何を見ておったか!」
「あの方は清廉潔白! 野心の欠片も持たれぬお方ぞ!」
「御謀反? ありえぬ! 将軍家を打倒するだけならば、何時でも出来た!」
「そのような野心が無いからこそ、大樹様は御心の支えとされたのだ! 亡き上皇様は何と仰せであったか!? 天晴れ神兵よと! 我ら田舎者を神兵とお呼び為されたのだぞ!」
信綱はあえて声を上げることで話題を誘導した。
彼もまた輝虎の兵と疑われて居よう、また越後以来の者には関東からの者とも思われている。真相に近い居る位置からは、憲政の息が掛かっているのではないかとも疑われているかもしれない。だからこそ、ここで話を事件収束へと向けたのだ。疑いたいなら疑えば良い、だが下剋上はならぬと声を上げたのである。
もちろん信綱とて一切悩まぬわけではなかった。
憲政の心根を知っているがゆえに真相に近いだろう。そして国人ゆえに山内上杉家に付くか、越後上杉家……いや、輝虎に付くかも迷った。だが、ロマンチストの輝虎に付き合ううちに……彼もまたロマンに目覚めたのである。
「今こそ一天万乗の君に従う神兵を名乗る時ぞ!」
「乱世を終わらせようとする大樹様に危機が迫っておる」
「今立ち上がらずしていつ立ち上がるのか? ここで立てば神兵、座れば腑抜けよ」
「ただの武辺者で終わるか? それとも神兵を名乗り軍神に付き従うか? ここで弾正様と共に大樹様を守れば乱世が終わる、富も名誉も後から付いてくるわ!」
ゆえに信綱は旗幟を鮮明にした。誰あろう、輝虎に付くと決めたのだ。
ただの女ではない、大大名でもない、自分たちに途方もない名誉と頭がおかしい程の高禄を約束してくれる軍神だ。誰を恐れるか、御家の存続に九族が路頭に迷わぬだけの金。そして日本一の神兵よと名乗れる名誉の全てがそこにあるのだ。その先に謀反などありえず、誰かを守るために此処に来たのではないかと武芸者たちに喝を入れたのである。
その時、彼方から掛けられた声がある。
それは遠くから来るのに、不思議と耳元で聞こえたような気がする。その姿は走れば千里を駆け、その耳は三里先に落ちた針の音すら拾うと言う……恐るべき三忍の一人だ。
「流石は剣聖。野心多き武芸者どもをまとめたか……」
「何奴!」
「……風間小太郎。まかり越して候」
「不埒者め!」
そこに居たのは頭巾を被った怪しい男。
フードのようなぼろ布を体に巻き付け、風に流離う風神かさもなければ死地に佇む幽鬼の如く。先ほどの加藤段蔵より若い声であり、おそらくは代替わりした若当主としての小太郎であろう。
そこへ間髪入れず、数名の武芸者が剣を片手に打ち掛かるのだが……。斬り掛かった瞬間に、グニャリと崩れて黒い靄が周囲に立ち込めていく。
「なんだこれは!?」
「奇怪な! 妖怪だと!」
「いや、違うぞ! これは……羽虫の群れだ!」
「左様。風間が富士の霊峰にて育てた符蟲道……味おうて見るが良い」
人間の体が容易く崩れる筈がない、怪しげな姿は最初から虫の塊だったのだ。
そう考えれば声が届いた理由も判る。虫の塊を眠らせておき、フードを被せて囮としたのだのだろう。ならば本体はもっと手前だろうと信綱たちは近場を見据えて油断なく構える。
「上泉様、我らが切り込みましょうぞ」
「我らが頑迷をよくぞ打ち砕いてくれましたな」
「おぬしら……」
「上泉様は弾正様を! 我ら神兵の技をごろうじよ!」
武芸者の技が初見殺しならば、忍者の術もまた必殺。
それを承知で武芸者たちは前に出た。同じ死ぬならば自分達が先行きであり、要の信綱は死ぬべきではないと語ったのだ。彼らはみんな地方の武士であり、所詮は田舎者よと嘲笑れて来た。だからこそ神兵として生き、負けても満足して死ねるこの瞬間を何より喜んだのであろう。
「待てい! そういう事ならば我ら風間一党が相手しようぞ」
「名だたる剣聖ならいざ知らず、木っ端武者に小太郎さまは討たせぬ」
「小太郎さま! まずは我らにお任せを!」
「ならば死ね。そして半刻ほど時を稼げ。それでこちら側の術が完成する」
ここで段蔵が送り込んだ忍者たちが追い付いた。
所詮は忍者、武芸者に叶うはずも無し。それゆえに小太郎は死ぬことで時間稼ぎを命じたのだ。この任務に参加した者は誰もが生きて帰る事を考えてはいない。彼らは里に紛れ、旅人として、あるいは薬師や猟師として相模から甲斐・駿河と渡って来た一族であり、保護していた北条家が凋落したことでその生存権を大きく脅かされた者たちであった。そして北条家の将には世話になった者も多い、ここで死ぬ覚悟を皆決めていた。
だからこそ、小太郎が持つ秘術『瘧神』の礎になったのである。
(すまぬな。忍法『瘧神』の礎と成れ)
(さすれば暗黒拳とは言わずとも、二撃決殺か七年殺しのいずれかが成ろう)
(血の刃、肉の弾として砕け散れ。是即ち本日の務め成り)
(我らが死すとも弾正は、あの外道はいずれ殺す。此度の忍務……後はあの外法師に任せるしかないのが悔しいがな)
下忍たちに向けた最後の言葉、あれはワザとだ。
忍者には言葉に出して敵に教えるようなロマンなど存在しない。あえて時間稼ぎをしている事をバラして、乱戦に持ち込ませたのである。そして自らもまた『贄』として使うために、信綱の攻撃を避けながら輝虎を目指すという苦難に向かったのであった。
今回はネタ回で山田風太郎とか横山光輝の世界です。
『弘治の変』がそれなりに採算を見込めたこと、輝虎ちゃんを何とかするチャンスがあるという解説回とも言います。
●恐るべき三忍
『加藤段蔵』
催眠術と猿飛を駆使する詐欺師型忍者。
二代目小太郎の弟子で三代目と同期、今回出て来た四代目の相談役。
光学催眠・薬物・心理誘導など様々なトリックで相手を騙し、場合によっては逃げる・攻撃すると見せかけて魔薬を散布する。
『風間小太郎』
四代目の小太郎で蟲分身や『瘧神』という秘術を使う符蟲道の法術師。
サモン・インセクトとかコントロール・インセクトとかあるので何とか地方で生き残っている。
ただし富士の霊峰とかあっての物なので、その内に衰退する秘術であろう。
面倒くさいので次回死にます。
『?』
三人目の忍者で、こいつだけ風間一党とは関係ない。
虫使いの小太郎から見てすら外法師であり、真正の忍者とは言い難い。
面倒くさいので以下略。
●オマケ
『斎藤伝鬼坊』
クソガキ。成長したことで少しだけスラっとしている。
敏捷で刀を扱える加護なので、卜伝の弟子たちの中では最初にカンストに届いた。
一撃に欠ける欠点を持つが、今回は相手が忍者なので特に問題視していない。
『唐沢玄蕃』
ナレ死。
『押井七房』
忍犬。名前は当然、里見八犬伝の八房を参考としている、模様が七つある犬。
もちろん花の様に見えるも模様ばかりではないので、実際には七房と呼べるかも怪しい。
育てられたタイプとしては賢さと嗅覚全フリの探知犬、別に強くはない。