マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

52 / 62
外伝。越後開拓計画(ゴーレムで)

●白い粉

 御仏の加護を授かった虎千代はメリハリをつけて修業した。

元もと飽きっぽい事もあり、集中して武将としての勉学に励んだ後、何のかんのと理由を付けて人形遊びを始める。はた目からは子供らしい部分と、利発で真面目なお子様と言う評判を勝ち得ていた。そして『加護を授かった祝い』に何が欲しいかと聞かれ、海辺の小屋を貰って遠乗りで往復する日々を始めたのである。

 

こうして冬には雪だるまを造り、夏には泥遊びに川遊びと称して泥人形を造る。そうすることで材料購入から始める常人の、何倍ものペースで、ゴーレムに関する修業を積んでいたのだ。

 

「塩梅はどうだ?」

「恐ろしい程の量が作られております。『元』が元ですので、いかほどの利があるか判りませぬ」

 ある日、小屋を訪れた虎千代の前に『白い山』があった。

ゴーレム魔法を検証する内に可能になった成果を試すついでに、金を得る手段を一つ思い付いたのだ。ゴーレムとも言えぬちょっとした機材を造るだけで、右から左に商品が出来上がるという訳である。ゴーレムはあくまで労力を短縮するだけなのでノーコストとはいかないが、秘密も守れてwin-winと言えるだろう。

 

そしてこの白い塊は酒粕などではない。

 

「この『塩』を父上に届け、この漁村を直轄としていただけ。秘密は漏れるものだ」

「はっ! 既に小屋を任せておった小者が善意で村の者に塩を分けておりました。叱責はしましたが、村ぐるみで秘密を守るべきかと」

 それは海水を汲み上げて砂の上で乾かし、煮詰めて得た塩である。

そして成果に満足すると次の段階に入った。何というか、この当時のモラルはよろしくない。村人は殆ど親戚みたいなものであるし、村長なり有力者の分家みたいなものだ。それゆえに『これは秘密だぞ』と言っても、親族にお裾分けするくらいは良いだろうと、『情報のみを秘密』として、塩を無償で分けていたらしい。それでは早晩、ここの秘密はバレてしまうだろう。

 

虎千代は現段階の成果を持って、父親である長尾為景に報告することにした。自分用に欲しくなればこの小屋と同じことは他でもできるし、長尾家の財として献上して秘密を守らせることにしたのだ。目の前の小姓が父親に知らせていないとは思えないし、どこぞの武将が見つけて奪われても困る。

 

「それと、これ以上増やすのは薪の面で難しいやもしれませぬ」

「所詮漁村であるか。……そうだな、竹から炭でも作って見よ。無理なら火の法術を扱える者を雇うべきだな。元がタダ同然なのだ、少々の出費は構わぬ。代わりに良質の塩を目指して工夫して見るが良い。ああ、それと……これは無理なら良いのじゃが、竹で紙が作れるかをやってみてくれ。竹を潰すのはこちらでやらせる」

 海水を乾かすのは時間経過や天日でも良い。

だが、そこから窯を煮るのにどうしても薪が居る。だがこの村はあくまで父親に『海辺の小屋』をねだる(・・・)だけの過程であり、特に木々が多い場所では無かったのだ。それゆえに、その辺に生えている竹の利用を、成長が早いという理由だけで申しつける。また、植物繊維から紙が作られるという事を思い出したこともあり、労力も考えずに気軽に命令してしまった。

 

本来ならば、それは悪手であろう。人手を分けるからだ。

だが、虎千代にはゴーレムという手段がある。パワーしか芸の無いゴーレムを作って置いて、石臼でも挽かせればよいのだと判断したのである。いや、石臼そのものがゴーレムと言うべきか。

 

「承知しました。可能な範囲と言う事であれば、村を抱えた後で試させまする」

「頼んだぞ」

 上手く行けば良質の塩と安価な紙が得られ、無理でも塩の増産だけなら可能。

虎千代は計画が上手く進行したことに満足すると、改良案を色々考えていく。例えば幾らでもある砂を媒介に使っているが、竹の成長が早いなら竹でも良いのだ。そちらの方がよほど軽かろう。青竹の香りが良いならば、塩に匂いも付けられるやもしれぬ。また、竹炭が無理であった場合は火の法術の使い手を雇用するのだが、効率よく温めて天日よりも早く干せるだろう。その時は小屋も改良して、暖かい部屋で同時に作業させるのもと良いかもしれない……と他愛ない事を考えていたのである。

 

こうして虎千代は幼いころから長尾家に貢献する事となった。

紙はともかく塩は資金以上に重要である。能登から流れて来る塩の中間売買をせずとも、良質の塩が得られるようになった。そして信濃や上野などの内陸では採れぬ塩は、戦略物資足り得る。この二つの国は越後から見れば良くも悪くも縁深い場所でもある。虎千代は間接的に、影響を与えていたのであった。

 

●ゴーレムは弱いモノである

 虎千代は人型ゴーレムの他、水車型・コンベアー型・石臼型を作った。

それは人型の研究の余禄であり、同時に人型の運用に行き詰った息抜きでもあった。何というか、和尚に言われていた問題がここに来て立ち塞がっているのである。

 

具体的に言うと、戦えないほどに弱く、改良しようにも研究がされてないので、手探りで解決策を見つけねばならなかったのだ。

 

(人形。傀儡。そしてまだ見ぬ大鎧。どれも戦には堪えませんネー)

(精々が三人力。手を抜いたら二人力と言うのでは量産しても雑魚デース)

(資材を集めてもらっても意味はアーリマセン。これなら作業用の方が良いデスネ)

(その点では水車と石臼は思わぬ成功デシタ。ここからは呪文の考察と、改良レシピのデータブックを作らねば。元服したらこんな余裕はもう二度とないかもデース)

 書物でゴーレムのランクが三つ程度あるのは判ったが、それだけだ。

小さな人形を動かし、命令する程度の扱い。そして戦闘は出来るが、対して強くもないのに素材が沢山必要な傀儡。そして書物には『それなりの強さ』と言われているが、虎千代が作れない大鎧の存在があった。しかし、傀儡は最大限に魔力を込めても、三人分くらいの戦闘力しか無い。その辺の武芸者と同じくらいで、豪傑に五人力の弓を放たれたり、勇猛な武将が部下と共に囲んだら瞬殺なのだ。これでは時間をかけて資材を集め、十体くらい作っても、戦闘にはまるで意味をなさないのである。仮に無茶して千体造っても、一会戦で大半を壊し尽くしてしまうであろう。

 

一方で、段々とゴーレム魔法と言う物が判って来た。

そしてその呪文に関する大きな問題が見えて来たので、どんな塩梅で用いるかという課題も見えて来たと言える。現時点では、少なくとも戦闘よりは作業に使った方が費用対効果が大きく違う事は判明したと言える。

 

(これまで研究すら難しかったのは第一に戦闘力。第二に、効果の未整理デース)

(ゴーレムの製造と改良。ゴーレムへの命令と強化。まさかその全てが同じ呪文トハ)

(代わりに地水火風の属性が別々の呪文で、全て別の概念とは困りマシタ)

(これでは研究するのも面倒デスシ、肝心の傀儡が弱いのでは、誰も研究するはずがアーリマセン。仕方ないデスネ……当面は特化しながら作業用を造りマショウ。それでレシピ造りデース。追加魔力を仮に合計10として、配分率を1・2・3・4の組み合わせで意識的に割り振ってみマース)

 一つの呪文を鍛えるだけで、一系統が揃ってくれるのはありがたい。

しかし、逆に言えば分化して居れば簡単に覚えられた魔法が、一つの呪文のままであるがゆえに成長させ難いのだ。もし分化した呪文になって居れば、虎千代でも強力な大鎧を建造できたかもしれない。また、自分以外の者に覚えさせて、大量のゴーレム軍団を作れたかもしれなかった。もちろん米帝戦術が嫌いな中の人の事、そこでヘソを曲げたかもしれないが、少なくとも魔法の成長と技術発展の恩恵は得られたであろう。

 

そして、厄介さを増しているのは地水火風の四系統の呪文がある事だった。それぞれ属性を持つゴーレムを造るのなら一系統に絞れば良いので簡単なのだが、ゴーレムを上手く扱う為の概念を、それぞれ所有しているのである。即ち、良いゴーレムを造ろうと思ったら、これらを複合して唱えねばならないのである。ここまで来たら、そこも複合したままにしておけよと思わなくもなかった。とりあえず、もし自分が弟子を取る時は、一系統ずつの魔法として極めさせようと思う。

 

(今の所、人型は強くしようとして、閾値が出来てしまってマース)

(これに対して、水車型や石臼型は特化することに成功しマシタ)

(特化型でも最低限の能力を持ってますので、その部分が振り分ける所デスカネ)

(火の呪文が動力。基本的なパワーの設定、パワーの強化。動くという概念の付与……アレ? もう一つはなんでショウカ? それとも属性によって無い物がアル? とりあえず空欄にしておいて……検証してみまショウ)

 こんな風に、いちいち確かめながら付与して行く。

板や紙に書いて考えるだけならば簡単であるが、この検証自体が『雪でスノーゴーレムを造り、泥でクレイゴーレムを造る』という節約術を思いつかなければ、検証できなかったのだ。いかにゴーレム魔法というものが研究し難いかが伺えるであろう。この状態で傀儡が強くないのだ。裕福な領主階級ですら、ゴーレムを揃えようなどと酔狂な事を考えない事が判ろうものである。

 

なお、残りの属性は水がゴーレムという概念そのもの(構造決定・基礎プログラム)。地が耐久性(維持・硬度含む)で、風がエネルギーと命令伝達系と思われた。格の高いゴーレムを造ったり、解呪呪文への抵抗向上が水の魔力。壊れ難く硬くタフになるのが地で、周囲からエネルギーを集める範囲や、命令できる距離を延ばすのが風になる。土属性をおざなりにすると雪だるまが柔らかかったり、直ぐに溶ける(気合入れても夏には溶けるが)。あるいは他の能力を盛っても、水が低ければ強化しきれない。あるいは風を増やさないと、エネルギーが尽きてしまうなど、少しずつ検証して行ったのである。

 

こうして、呪文を少しずつ研究していた虎千代であるが……一足早い元服と戦国武将デビューが彼女を待っていたのである。

 

●幼年期の終わりに

 ある寒い冬に、その悲劇が起こった。

父親である長尾為景が、越中の国を治める能登畠山氏に請われて出陣していた。だが越中守護の争いと、その部下である守護代同士の争いに巻き込まれて殺されてしまったのである。塩の製造に関わっていた小姓が成長して甘粕長重と名乗っていたが、急遽、虎千代の元へやって来たのである。

 

おりしも、兄の晴景はその政治力を活かして反対方向の揚北へ赴いている所であった。

 

「金津は兄上たちとの連絡を取り、葬儀の準備を勧めよ。甘粕は任せておいた塩を持って参れ。諸将に配るモノだけではないゆえに、多目に持って来るのじゃ」

「では新兵衛めは城に参ります」

「長重、心得えてございます」

 乳母の夫である金津新兵衛と長重は虎千代派と言えた。

元服前に声を掛けても動かせる人間は少なく、枇杷島(宇佐美)定行の息子である弥七郎には、人質であると同時に自分の凄さをアピールする目的があるので動かせない。畢竟、元服もしてないこの時点で出来ることは少なかった。精々が菩提寺である林泉寺を固めて、父親の遺体を守って葬儀を整えるのが限界であると言えた。

 

ただ、そのためにやっておくことはある。

 

「弥三郎と弥七郎には雪傀儡を与える。この寺の周りに壁を作り、塩水を打って固めておけ」

「「はっ!!」」

 雪傀儡は扱い慣れたもので、何度も作って練習材料にしていた。

作業用に能力を特化させ、『手長』『足長』『首長』などと除雪や高所作業で用いれるようにしていた(アームショベルやクレーン)のだ。性能は低いがパワー特化で作り上げており、林泉寺の周囲に雪で壁を作るくらいは訳はない。長重に持って来させた塩を雪の壁にふりまけば、それだけで氷と化すだろう。この辺りも氷のゴーレムを造る過程で練習しており、小姓たちもまた慣れたものである。

 

そして塩には本来の使い道がある。

穢れ払いであると同時に繁盛の象徴でもあり、戦略物資でもある塩は使い勝手が良い。最近は褒美として配る事もあったので、仏事の返礼に持たせて帰らせることに意味があった。塩の差配は既に虎千代が抑えたというアピールであり、長尾家から奪う事が出来ないし、虎千代に経済基盤があるという事を諸将にそれとなく認識させる事が出来るのだ。

 

(デモンストレーションには不足デスガ……予行演習には十分デスネ)

(権勢をふるっていた当主の死亡。誰かが反乱を起こしかねマセーン)

(いずれ何処かの城を任されるデショウ。その時に備えておきましょうカ)

(今の間に使い勝手を研究しておけば、イザという時に困りませんネ。少しずつ城を拡張しておけば、ゴーレムが弱くても何とかなりマース。備えがあったら嬉しいデスネー)

 転生者のみならず、戦の気配を感じ取ることは難しくないだろう。

何しろ剛腕を振るって守護の越後上杉から実権を奪っていた為景が死んだのである。不満に思っていた者たちには反乱を起こすチャンスであり、そうでない者たちにとっても発言権を拡充させるチャンスであった。虎千代もまたその機会を狙っていると言えたが……。自分に自信のある虎千代にとっては、むしろ反乱を起こす者を待っていたと言える。

 

肌の白いダークエルフが『予期出来るトラブルは収めるのではなく、利用するもの』と言っていたような気がするが、まさしくその通りであろう。表向きは殊勝な顔で、裏ではこんな事を考えるあたり実にブリカスである。

 

 

「虎千代。以後は平三景虎を名乗り、我らが府内長尾家を支えるのだ」

「はっ。兄上を支えるべく精進いたしまする!」

 そして、その時は意外に早くやって来た。

長兄である晴景は、剛腕であった父の代わりに武力を欲した。そこで虎千代を元服させて、武将として周囲を固める気になったのである。晴景は暗君どころか交渉能力のある武将なのだが、この時代は腕力こそがパワーという武断の時代である。文治派は惰弱と侮られて肩身が狭いのだ。

 

それはそれとして、外交分野には長けているので愚かではない。

 

「そなたは栃尾城を復して三条の残党に備えよ。上田には婚姻をちらつかせる」

「承知いたしました。栖吉の御爺様と共に三条を抑えまする」

 長尾氏の分家は仲が良い者も居れば悪い者も居る。

府内長尾家を本家とする体制造りの過程で、三条長尾家と争いこれを潰していた。また栖吉長尾家から虎千代……景虎の母を娶っている。そして姉を上田長尾家へ『いずれ』嫁がせるという名目で、二度に渡っていう事を効かせるタイミングを狙っていた。もし、このまま推移すれば晴景の権勢は整ったかもしれない。

 

だが、それは上手く行けばの話だ。

文弱な若当主が強くなるのを黙って見ているわけが無かった。そしてこの世は戦国である。晴景の程近くから火の手が上がったのであった。

 

●起て、景虎!

 虎千代が平三景虎と名乗って暫くは栃尾城に関わっていた。

この城は以前に破却されており、城跡と化していたのだ。そこで人手を栖吉長尾の祖父に借り受け、ゴーレムを預けて一気に造成したのである。そのついでとばかりに道を整えたり、逆に枇杷島定行の知恵を借りて誘導ルートを用意しておくという悪辣さであった。

 

そんな中で、直ぐ上の兄である平蔵景康が死んだという報告が飛び込んで来た。

 

「黒田和泉守、御謀反!」

「平蔵景康様が防がれたため、春日山のお城そのものは無事との事ですが……」

「城を攻めあぐね、平蔵景康様を討ち取った事を契機に、撤退を始めたとのこと!」

「おのれ! 和泉守は兄上の家老であろうに……許さぬぞ!」

 守護代である長尾家は、守護の越後上杉家に下剋上をしている。

その為か、あるいは乱世であることもあってか、越後ではたびたび反乱が起きていた。中でも今回の乱は突発的な物でありながら、家老が反乱を起こしてあわや落城という危険な状況にあった。それを防げたのは、兄の平蔵景康が槍を取って二の丸までで防ぎ留めたのである。だが多勢に無勢、景康は討ち取られて黒田勢は所領まで撤退中であるという。

 

景虎はこういった流れ自体は予測していたが、流石に兄が殺されるとまでは思っても見なかった。春日山城が堅城でもあり、町を焼かれることはあっても守り切れると判断していたのだ。だが実際には、信頼していたはずの家老までが裏切ったことで、落城し掛ける有様だったのである。この辺りの甘さが転生者であり、戦国での経験が薄い事にあるだろう。

 

 

ただ、この事は景虎の情操と名目に上手く機能した。

兄を殺され、しかも謀反という非常手段で世を騒がしたことに正義の心で挑むことが出来る。仇討ちは武士にとって自然な事であり、大義名分の方から転がり込んで来たと言えるだろう。

 

「殿よりの御言葉では、平三様は城を堅く守って……」

「不要! 謀反人は我が手で引導を渡してくれる! いや、黒田の領地まで攻め入り、上から下まで耕してくれるわ! 地図を持て!」

 ショックではあったが、この時代は兄弟でも滅多に会わない

落ち着きを取り戻すと、この機会を最大級に利用するために動くことにした。守備を固めれば確かに自分は無事であろう。しかし、その後にやり難くなるのは間違いがない。それに、今ならば黒田領を勝手に開墾したり治水を整えることが出来るのだ。この時代は国人たちの領土に手を付けることが出来ないので、この機に街道を整備し湿原を田畑に変えるつもりであった。

 

そう、兄を殺された以外は景虎の思惑通りなのだ。

ならば殺された兄には手を合わせて拝んで置き、徹底的にこの大義名分を利用し尽くすべきであろう。それこそが何よりの弔いと考えることが出来るところが、中の人のサイコパスぶりであり、ブリカスを標榜する外道ぶりであった。

 

「じゃがの、敵は柿崎や三条にも声を掛けておる。それに父である胎田常陸介も動こう」

「それは逆よ、本庄殿。まだ当方は囲まれてはおらぬ。むしろ各個撃破の好機と見る」

 そこに苦言を呈したのは、揚北衆の一人である本庄美作守だ。

彼は栖吉長尾家の家老でもあり、ある意味で黒田和泉守と似たような立場にあった。仕える家というか報酬や権威と引き替えに、協力している相手が違うだけとも言えた。それだけに黒田勢が何を考えているか良く判っていたのだ。ただ、差があるとすれば揚北衆は源頼朝以来と自負する御家人の家系である。武門の長として相応しい剛毅さを持つ、景虎の気質自体には好感を抱いていた。

 

そう言った事が判るがゆえに、景虎は地図を出して理論を元に口説く事にしたのだ。

 

「こういう場合は時と場所が肝要」

「そして、敵は示し合わせて蜂起したわけではない」

「つまり、合力してこの城を攻めるのではなく、三々五々に駆けつけるのだ」

「三条勢は残党に過ぎず、迷っていた柿崎勢は勝てる方の尻馬に乗るつもりだろう。ならば倒すべきは黒田勢と胎田勢のみ。移動途中でこれを阻み、あるいは横撃して彼奴等が勝る勢いを潰す! この地図を見られい、ワシはここにある川へ、『橋』を用意できる」

 景虎は四つの勢力を駒で示し、術で動かした。

等速で動く四つの駒の二つを手で塞いで壁を作る。そして自軍を示す駒を配置して、同じような速度で合流しようとする敵の駒へぶつけたのである。その地図自体は美作守も協力して作った物であり、間違っていない事は承知の上だ。

 

もし予測通りの速度で動いているならば、確かに栃尾に籠るよりも、打って出た方が有利に見えるのだ。

 

「それは確かに……。橋、橋か。それはもしや……」

「弥七郎! 枇杷島勢に三条残党を抑えていただけ! 弥三郎には新造の傀儡『川上猛』を授ける。近隣の山吉勢と共に胎田攻めの先鋒に立て!」

「「はっ!!」」

 それは後の世に三つのシモベと呼ばれる切り札であった。

背中に階段を背負った、雲梯型のゴーレムである。戦闘には全く向かず、指示があったら階段または橋となるように背中の建築物を動かす事しかできない。だがしかし、このような時には非常に力があった。この当時の越後は川と湿原で分断されており、自分達だけが一方的にスムーズに動けるのだから有利になるのは当然である。

 

そう、先ほどの地図での計測には欠点があった。

所詮地図は平面、子供の考える事よと美作守は注意しようと思っていたのだ。だが、実際には『その先』を考えていたのは景虎の方である。春日山から街道を引き上げる黒田勢はともかく、本領から駆けつけて来る胎田勢はこの速度で攻められるなど予想もしていないであろう。

 

●やるなら徹底的に

 暫くして、栃尾城を目指し柿崎勢がやって来た。

当主の柿崎景家は女将ならがらも優秀であり、晴景も幼馴染とあって優遇していた。だが、それでも文弱な晴景側につくか、それとも政治的妥協を要求するかを迷っていたのだ。そんな中で黒田和泉守が反乱を起こしたと聞き、協力するにしても取引をするにしても、これ以上ない機会だと動いたのである。

 

そして彼女が迷った僅か数日、それが命運を分けるとは思っても見なかったのである。

 

「黒田領を攻めるのにお手前の力が借りたい」

「はん。和泉守の軍勢くらい、なんとかしてみせな。本庄や山吉だけじゃなく、枇杷島勢も居るんだろ?」

 景虎の言葉を景家は勘違いした。

枇杷島駿河守定行が青い顔をしている事もあり、栃尾城が落城寸前で脱出して来たと思ったのだ。こんな短時間で城を落とされるなど、どれほどマズイ指揮をとったのかと疑ったほどである。まだ若い景虎が主将で、言う事を聞かずに城を出て勝てなかったのだろうと早合点した。

 

確かに忠告を置き去りにして討って出はしたが……その勝敗は真逆である。

 

「いや……。その、和泉守はもうおらぬ」

「は? 何を言ってるんだい駿河。それなら、あたしの力は不要だろ?」

「……ふふふ。これは我らの言いようが悪かった。黒田和泉守も胎田常陸介も討ち取ったと言うておるのだ。この世にはおらんと駿河守殿が言いたかったに違いあるまい。そしてこの景虎が借りたいのはな……黒田の土地を徹底的に掘り返すためじゃ」

 景家は当初、何を言われているか分からなかった。

それもそのはず。戦力的に劣勢だったのに、戦いがそんなに早く決着がつくはずがない。一発逆転で攻めるにしろ、黒田勢と胎田勢を同時撃破など不可能だ。仮に各個撃破したとしても、片方がやられている間にもう片方が攻めて来るなり、逃げ出すかするだろう。

 

また、彼らを倒したのであれば柿崎勢の力は不要な筈なのである。

 

「この際じゃから、黒田家の田畑を隠し田も含めて掘り返して統合してしまう」

「街道も水路も太く真っ直ぐにしてしまうかの。それで収穫がいかほどになるか」

「逆らう者は全て討ち取るとして、従った者に統合した田畑をやるつもりじゃ」

「時が許せば胎田の土地も同様に行う。さて、良き土地になった領地を見て、残った者がどれほど逆らうかのう? ワシはもうこのような愚かな謀反は止めたいのじゃよ。しかし、そのためには手が要ろう。そのために柿崎勢の力も借りたいのよ」

 景虎に躊躇など最初からなかった。

最初から黒田の謀反をしゃぶりつくし、後の中央集権と土地改革の礎になってもらうつもりでいた。この時代、隣村ですら信用できずに、隙あれば刈田狼藉を行う時代だ。街道は真っ直ぐではないし、橋も掛かっていないことが多い。加えて川の領有や水利権で争う事は当然である。しかし、黒田領で常識が徹底的に破壊されたらどうだろうか? 従えば豊かな土地が与えられる。だが逆らえば一族は殺されてしまうのだ。

 

そのためにはゴーレムを造る為の資材が必要だった。

ソレさえあれば、川に橋を架けて移動するのも、田畑を掘り返して一つにするのも簡単なのだ。パワーしかないゴーレムでも、そのくらいの役には立つ。そして柿崎勢の力は、その資材の切り出しと掘り返した田を耕す役目なのだ。

 

「駿河……若君は本気なのか?」

「この上なく本気であらせられる。確かに黒田と胎田の有様を見れば、二度と長尾家には逆らうまいよ。あの揚北衆ですらもな。そして、そのくらいせねばこの越後は……いやこの戦国の世はまとまるまい」

 驚いた顔で景家が尋ねると定行は青い顔で頷いた。

彼は景虎の才覚を見せつけられた一人であり、今回の徹底的なやり方にある種の納得を覚えていた。越後の国は湿原と川が多く、我の強い者ばかりでまとまりがない。さらに言えば越後最強の揚北衆はその血筋を自負して従う者が少ないのだ。だが、今回の騒動を知れば旗幟を明確にするだろう。

 

だが……そのためには一つだけ重要な事がある。

 

「俄にゃ信じがたいが……てーことわ、だ。あの件も必要だぞ」

「うむ。神五郎にはこちらで話を付ける。『我らの殿』により越後を一つにまとまった強い国にするのだ」

 ここに至り、景家はようやく定行の顔が青い理由に察した付いた。

そう、文弱な晴景では越後がまとまることはない。適当に日が経てば反乱が起きるし、場合によっては景虎と争う事になるだろう。だが逆に景虎を担ぐ場合、その迷いのない態度と明哲な軍略は頼もしさを越えて畏れすら感じる物であった。そして、そう考えるらば、むしろ先んじてやっておくべきことがあるのだ。

 

こうして直江神五郎定綱を加えて図り、傀儡である上杉定実に話を付け、当主交代劇を一気に推し進めるのであった。




 既に通って来た道を、酒と常備兵ではなく、塩とゴーレムで突破。
当時の越後は米処ではなく不便な場所なので、ブルトーザーとクレーンで土を運び、耕運機で耕す感じです。
また、良質の塩は能登半島から運ばれた物を中間貿易してますが、これを自家生産。
何も無かったところに突如生えてきた産物なので、かなり儲かります。
長尾家は繊維と銀鉱山(まだ佐渡の金山はない)で儲け、金貸しに出資しているので、ウハウハな経済状況と言えるでしょう。

●ゴーレム魔法
 難易度は普通~やや難しいくらい。
『人形』戦闘力はない
『傀儡』二人力(強化なし)~三人力(フル強化)
『大鎧』?(まだ作れない)
くらいの戦闘力で、ゴーレムの操作では経験値は少なく、建造の方で経験値が沢山もらえる。
なので、この時代では研究は頓挫して居る感じになりますね。

呪文効果はゴーレム付与して強化・ゴーレムの質を上げる・ゴーレムに命令・瞬間強化。
これらが複合されており、1つで済む代わりに個別の精査・指示が必要。
発展途中ゆえで、西洋だったら別々の呪文となっていて、難易度が少し下がっています。

作中にも書いていますが、景虎ちゃんの認識としては
『ゴーレム/地の呪文』耐久・装甲強化、維持モード・防御強化
『ゴーレム/水の呪文』構造決定(抵抗)・プログラム、受動防御態勢・抵抗強化
『ゴーレム/火の呪文』動力付与・動作付与、パワー強化
『ゴーレム/風の呪文』エネルギー収集・命令可能距離、エネルギー吸収・命令伝達
くらいの認識で、ところどころ間違って居たり、混同もあります。
これらはたくさん作ることで、徐々に修正されていくでしょう。

●ゴーレムの作例
『手長』パワーショベルタイプ
『足長』高所作業用
『首長』いわゆるクレーン

『越後の塩』水車で海水巻き上げ、コンベアーで砂を輸送
『竹獲の翁』石臼で竹を粉砕する

『川上猛』雲梯型ゴーレム。このシリーズは三つのシモベと呼ばれる傑作機に発展する
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。