マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

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晴元追討令

●side 朝倉

 足利義藤の細川晴元追討令が降った。

まずは若狭武田に朝倉家が攻め込み、主将は若き当主である朝倉延景が、軍監を朝倉宗滴が務めている。これはまだ若い当主に経験と実績を積ませる為であり、年老いた宗滴の先を見据えた物であった。また、これまで一向一揆警戒のために動かせなかった全力を振るっており、若狭東部に武田家は主力を集めて対抗せざるを得なかったのだ。

 

この後、僅かに時を遅らせて丹後の一色家が旧領回復に向かう。

一色義幸は正式な跡継ぎではなく一門をまとめられて居なかった。先代親子の戦死による弟流繰り上げでしかなく、武田に奪われた守護の地位を奪還したばかりで、それほど余力が無いと見られていたのだ。しかし義幸は旧領どころか、若狭に攻め入る気配すら見せていたのである。

 

「弾正殿から急報とは、いかがでございましたか?」

「どうやら丹後に向かう援軍を捕捉。打ち破ったらしい。話半分にしても好機であろうよ」

 預けられた細工物を眺めていた延景に家臣たちの注目が集まる。

それはゴーレム技術の一部を使ったもので、『遠くのゴーレムに指示を出す』能力しか与えられていない小物であった。これは船同士の通信を狙って考案された実験機であり、一つ一つの傀儡は遠距離にある棒を動かす程度の能力しかない。景虎はこれを何器かリレーさせた上で、複数組み合わせ、略文を即座に朝倉家に送れるようにしていたのである。

 

もちろんそんな新しい概念の代物を並の武将が理解はできない。

まだ若く、文化的でむしろ文弱とすら思われている延景であるからこそ、使いこなせたのだろう。

 

「誤報やもしれませぬが?」

「以前に確認したことがある。やって置け、損には成らぬ」

「いやいや、実に素晴らしい絡繰りですな。確実な情報であれば絶好の潮目でございまする。若返って一向一揆との戦い辺りからやり直せればと思いますわい」

 延景が侮られているのもあるが、若狭横断通信に懐疑的なのは仕方がない。

不機嫌になりそうな当主を宥め、そして実績として認知させるために宗滴は若い世代が羨ましいとすら評した。実際には複数台のゴーレムで指令をコピーさせ、情報自体も無数の忍者を派遣しなければ確実とは言えない。だが、これほどの速度で通信が可能ならば、戦いがやり易いのは確かであろう。

 

何しろ睨み合う敵が暫くすれば勝手に撤退すると判っているのだ。

追撃戦の準備をするなり、一部を城へ退却できないように回しておくだけで、この後の戦いがずっと楽になるのだから。

 

「宗滴。この後はいかがなると思う?」

「武田に関してはいかようにでも。おそらくは大樹様に降って家を長らえるでしょうな。管領に付きおうて家を滅ぼすなどあってはならぬ事。丹後勢は丹波攻略に備え、我らは越前から南と東へ睨みを利かす役でござろう」

 既に若狭に関しては終わったも同然だ。

手元に残していた兵を丹後へ送り、それが壊滅した時点で先はない。仮に打撃を受けた程度であっても、篭城している間に他を切り取られて終わる。後は出来るだけ傷が少ない間に、将軍家に願い出て降伏を認められて家名だけは存続と言うのが落としどころだと宗滴は語る。最後まで戦い続けても援軍など来ないし、管領である細川晴元自身が叛徒扱いであれば、取りなせる状態ではないのだ。

 

いずれにせよ若狭の東部と守護職は朝倉家に与えられることが決まっており、宗滴としてはこれまでの忠勤がようやく認められたかと安堵する思いだ。戦国中期の最強武将とも称される彼をしても、将軍家から朝倉家の褒章は家格の上昇以外にはもたらされなかったのである。越前を斯波家から奪い、反乱の褒章として与えられてはいるが、元より守護代であり所詮は追認に過ぎなかった。

 

「宗滴でもそう考えるか……。仮に既に武田が滅んで居る場合は?」

「そのような場合、北近江の浅井に手を貸すことになるかと。折を見て大樹様が六角が話を付けることになっておりますが、こちらに余裕があれば機を逃すことはありませぬ。戦わずに交渉で済ませる場合と、こちらが削り取った状態で降るのでは訳が違いまする」

 この時代、『一戦して様子を見る』というのが常道だ。

お互いに適当な所で話を付け、優勢であれば僅かに領土を融通して終わる事が多い。もし朝倉家が予定通りに若狭攻めを続行する場合、一向宗の抑えに戻る必要もあるので連戦は出来ない。だが、既に決着がついており、追撃戦でほとんどが済んでしまう時などは話が違って来る。

 

だが、その場合は大前提の初期状態が異なるのだ。

近江全土を六角が抑えたままだと、反乱分子である北近江を手放して終りになる。その場合、六角は名目だけの支配を失うだけで、座から入る矢銭が減る程度でしかない。だが、北近江を失陥した状態で領土交渉が始まる場合、本領である南近江を守るために他を捨てることに成ってしまうのである。地位を失うか、それとも北伊勢などから手を引くことになるか?

 

「殿? もしや……」

「そうだ。弾正殿の話には追伸があった。これより小浜を攻めるとな。流石に誤訳であろうと思い話さなんだ」

 長尾勢は総勢で二千と聞いているが、先ほどの情報の解釈が違うのだ。

最初はそれら全てを使用して奮戦し、勝利を大袈裟に伝えたのだと思った。だから勝利している事自体は間違いないが、流石に小浜攻めは『その気がある!』程度の心意気を伝え、自分を大きく見せているのだと判断したのだ。しかし、それが真実であればどうだろうか? 若狭から丹後に向かう武田勢を横合いから奇襲できたとしたら? それならば一部でも敵を壊乱するだけならば出来る。

 

別に援軍に向かうつもりで油断している敵を蹴散らす事は簡単だからだ。だが、そこから壊滅させるには兵が居る。しかし、そういったセオリーをすべて無視して、残りの千二百が小浜にある後瀬山城を攻める事が出来るだろう。

 

「殿。よき判断を為されましたな。知って居るのと知らぬのでは大きく違いまする」

「その可能性を突き詰め、この後の事を算段いたしましょうぞ。さすれば殿の功績」

「足早の隊を一つ、長尾殿への援軍として追撃無用で進発。残りは追撃ですな」

「それでどう転ぼうとこちらの勇戦は喧伝出来ましょう。殿はこの一連の戦で、しかと先を見通して命を下していくとの動きを見せることが可能ですぞ。大樹様が成し遂げた実績と同じく、殿がこれから家臣を従えていく力強い証しと成りもうそう」

 もし、あの場で全て語って居れば家臣たちの態度が違っていたはずだ。

少なくとも妄言を信じる馬鹿殿扱いされた上、終わって見たら強かったのは景虎であることにされてしまう。だが、しっかりと計算した上で、越後勢の動きを予測して今後を睨んだ行動を強い態度で出し続ければ話が変って来るのだ。若造である延景の事を見直す者が出て来るだろうし、その時に宗滴と相談して何とかひねり出すのと、自信をもって答えるのではまるで結果が違うのである。

 

そして最初の見解を、延景が自ら判断した事に宗滴は満足する。

文弱の当主として見られていても、その知性と判断力は確かなものだ。後は実績さえ作って行けば、年老いた宗滴が支え続ける必要はなく、危ぶんでいた朝倉家の未来に光が差すであろう。

 

 若狭の国にある小浜の後瀬山城が武田家の本拠であった。

しかし朝倉の本隊がやって来た時、それは無残な物であったという。風上から丁寧に焼き払われており、周囲には油の残り臭いがするほどであったという。

 

この様子を見れば何があったかはある程度の想像がつく。

越後軍は瓶か何かで油を山ほど投擲し、そこへ火矢でも掛けたのであろう。余人であれば中間過程が判らなかったが、教養の深く一部の秘密を知っている朝倉延景や宗滴には察する事が出来たのである。

 

「弾正殿……少しは加減と言う物を」

「いやいや。時は金なりという言葉がありましてな。この場合は銭とも、装飾用の金でも構いませぬ。その稼いだ時間で何が出来るかが重要なのです。今回は相手の被害を考慮する必要が無かっただけのこと」

 僅かに年下の延景が苦言を呈すると景虎は切り返した。

この時代には存在もしない格言を用い、話をでっちあげて適当に流す。重要なのはこれからであり、焼け落ちた後瀬山城もそこに居た武田軍もその礎でしかない。これからの大きな成果が舞鶴港だけならば景虎だってそこまでしなかっただろう。多分。

 

ただ、時は金なりと言う比喩には間違いが無いというだけの事である。

 

「殿。弾正様の仰せの通りです。ここで費やすはずであった三カ月が無ければ、いかようにでも領土を切り採れましょう」

「宗滴殿のおっしゃる通りですよ。ただ、訂正するならば領土だけではなく、日ノ本の明日であり平穏があるからこそですけれどね」

「理解はする……理解は」

 宗滴は以前から、武士と言う者は勝利が全てと言っていた。

勝たなければ何も得られないし、負けてしまえば全てを奪われる。だからこそ、何かを言う前に、勝利してこそ武士。犬畜生と罵られようが勝たねばならないのだと言っていた。ゆえに判る、誰もが予想もしていない三カ月と言う時間が、今後にどのような影響を与えるか理解できてしまったのだ。

 

だが、延景が理解できないのは朝倉軍が到着するまでに整えられた湊である。喫水線が違う船に合わせて複数の高さが用意された桟橋、鶴の首の様な傀儡で持ち上げられる荷物。ここまでの整備が必要であったかどうかだ。

 

「では、この湊は何のために……銭ごときではありますまい?」

「続々と諸国の兵と米を出入りさせる為でありますよ。今建設中の塔は灯台と言って、夜間でも灯火を点けて船が迷わぬようにするためのもの。同様な港を近淡海(琵琶湖)や摂津でも造り、将軍家の兵が動き易くしまする。必要ならば福原であろうと何処であろうとです」

 やろうと思えば景虎は諸国から米を買い上げることが出来る。

その米を舞鶴と名前を付けた丹後の新湊に集め、協力を約束した諸大名からの増援を呼び寄せ、あるいは送り出していくと告げた。所詮は沿岸部だけの話に過ぎないが、同様の整備は内陸でもやる気である。いわば軍隊用語でいう『デポ』みたいなものであり、ソレが軍団の動きを素早くするであろう。少なくとも越後から更に兵を呼び、協力を約束した大名にもよるが信濃などから呼び寄せることも、逆に瀬戸内海に送り込むことが出来るであろう。

 

そして内陸でも同様の拠点を得るための場所を切り取り、将軍家の直轄領にするのだ。

 

「ひとまず我が朝倉軍は北近江に赴けば良いので?」

「左様です。この三カ月を使えば、六角は守り切る事が出来ぬでしょう。ならば交渉は何を代価に? かの管領代ならばむざと六角を逆賊にせず、こちらに着こうと損切りを為される筈。北近江の追認だけでは足らぬ、思い切った譲歩をされるかと」

 延景がおそるおそる既定路線を尋ねると景虎は頷いた。

その上で六角定頼という大人物の手腕を高く見積もっている。彼ならばいつまでも落ち目の細川晴元にはつかず、反骨心の強い北近江を捨てた上で、他に材料を持ち出すものだと思われた。

 

そうなれば伊勢なり伊賀甲賀を差し出すか、あるいは六角軍を将軍家の片腕にしようと口では『先手を承る』と言い出すだろう。そこまで申し出れば義藤でも受け入れるしかないし、豊かな南近江の援助があれば、色々と動き易くなるのだから。

 

「……承知仕った。時に弾正殿は次はどちらへ? 丹波にござろうか」

「いえ。おそらくは安芸になるかと。どうも西国で変事が起きた様で……ああ、この三カ月で命運が変ったとも言えますな。急いだ甲斐がござった。武田殿も泉下で満足しておられよう」

 延景は内心で、おおよその流れを言い当てた宗滴に感謝する。

バケモノのような景虎の眼光にも屈しないでいられるのは、宗滴の推測の延長上であるからだ。しかし丹波や因幡はともかく、安芸の国というのは突拍子もない気がした。話の筋的に、大内家でナニカが起きたのは間違いないのであろうが……。

 

天文二十年八月、大寧寺の変が勃発。

大内義隆を始めとして、山口に避難していた多くの公家が無くなった。その中には上位貴族である公卿たちもおり、西国一の大名であり『応仁の変の勝者』たる大内家の没落が始まったのである。




 と言う訳で畿内の話は適当に切り上げて本命に向かいます。
頑張って早回ししたけど、大内家の内乱には間に合わなかった感じですね。
とはいえ正念場なので安芸の国へと移動する感じ。

●通信技術
丁字暗号の組み合わせとか「1-1は、あ」みたいな簡単な暗号での通信です。
実際には最初に持たせておいた内容の文章で、どれを実行します。くらいしか無理ですが。
ただ、それでも「作戦の転機が、成功・失敗した」「タイミングは何時」というのが判るので十分ですけど。

ちなみに技術としては成功でも、製品としては失敗。
中継器が多過ぎるので、信用のおける忍者を高速移動させた方が早いかと思います。
ただし、本来は船の上で通信する技術の開発なので、十分ですが。

●若狭攻め
 少数で潜んで、川を渡って横から攻める。
後は櫓を造って風上から、瓶に入った油を投げて火矢。
そんな感じで叩き潰しましたが、城攻めの方は中途半端に終わって、当主以外は降伏して居ます。
なんでかというと、菜種油はあんまりもえないそうで……瓶に入れて投げるのでは無理ですね。
石油を見つけて精製するか、吐龍車(ポンプ車)で油を霧吹きして、火を点けないと駄目でしょう。
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