マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】外伝開始   作:ノイラーテム

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守護代への就任

 当主交代は早過ぎず遅すぎず、適正な時間を置いて行われた。

あくまで穏当な交代であり、強硬なものではないと示すために、そして新当主の行動力を示すために入念な準備期間で実施される。天文十四年の半ばより十五年の末までジックリと周知されていったのだ。

 

その間に各家の権威と貢献に配慮し、酒や酒肴にも差をつけ用意された。

酒と言えば景虎の肝入りであるが、同じように常備兵の計画もゆっくりと進行し、精鋭はまだ数百ながら、一般兵レベルの戦闘工兵を組み合わせるという妥協案で少しずつ拡充されていくことになった。

 

「景虎よ。守護としてそなたを守護代として定める」

「また、朝廷よりそなたに弾正少忠の官を与えるとも言われて居る」

「これより守護代、長尾弾正景虎として越後を守るのじゃ」

「ははあ!」

 明けて天文十六年、越後守護である上杉定実より目録と刀が渡された。

名ばかりであっても守護は守護、そして朝廷は朝廷である。また御家人の家系である揚北衆などは権威を重視しており、こういった儀式は非常に重要であった。また官位も史実の弾正少弼より低い地位ではあるが守護代就任に合わせたことを考えればかなり早い任官と言えよう。

 

「平三殿。弾正少忠への任官。誠に祝着至極に存ずる」

「弾正様! まずは我らにお下知を!」

「うむ」

 姉婿である長尾政景、あるいは揚北衆の中条藤資ら数名が声をかける。

彼らは一族や家臣団としては上位に位置し、さらに上位に当たる者の代わりに上奏したという態である。この辺りはお互いにいがみ合う者たちであり、先に手を上げただの後からしゃしゃり出ただの言い出したので、苦心してそういう事になったと言えるだろう。だが史実では政景であったり、揚北の黒川家などは戦ってから従っている。根回しと官位が効いた形であろう。

 

「二度と越後の内で争わぬ。戦いが起きるとすれば外だ」

「自儘に兵を起こそうとは思わぬが、戦いにおいては自ら鍛えた雇い兵を前面に押し立てる」

「みなは協力しても良いし、手元不如意の者があらば家中の誰ぞを送り込んでも良いぞ」

 景虎の決意表明は明確であった。

一つの強い越後を作り上げ、外敵に対してまとまるという従来の姿勢を強固にしたものだ。もっともそこには景虎独自の兵は用意するし、各家が個別に協力しても構わないという姿勢である。もちろん国を挙げての動員令と成れば話は違って来るし、御恩と奉公はその段になれば関わって来る。

 

そしてこれに対し諸将からは小さな笑いの気配が籠った。

乱世ゆえに利益を求めて戦わぬ宣言などありえぬし、自分の欲得で攻める時は先頭に立つという宣言をしても実行などありえない。むしろ元服して間も無い若君が、何やら勇んでらっしゃるぞという暖かい笑いである。普通なら生暖かい蔑みの笑みになるし、笑われた方も怒り狂うものだが……それが普通なくらいに越後は修羅の巷であった。

 

「領地の運営に対して私は一つの注文しかせぬ」

「越後を貫く太き道を作る。誰かが攻められれば、その道を通って景虎が駆けつけよう」

「協力する者には銭を出す。必要ならば工兵を貸すが、時が余れば開墾や治水につこうても良い」

「無論、嫌だという者がおれば無理に協力せよとは言わぬ。だが、道を作るのは景虎の本意とだけ覚えよ」

 国家運営に関して国道整備のみを運営方針とした。

それは軍道であり、商道である。兵を送るスピードが速くなり、商いの移動に使う時間が短縮される。地味ながらそれだけで全体が向上すると言えるだろう。もちろん時間は掛かるし、目に見えた効果はあまりない。それでいて、敵が侵入すれば逆用されるので危険ではあった。

 

それでもなお、たった一つの内政チートに景虎が選んだ理由は簡単だ。

常備兵のうち、弱い方の戦闘工兵は戦闘力が一般人レベルしかない。そんな連中を戦いの無い時に雇って居てももったいないので、道を作ることで鍛えさせるというローマ式の古い考えであった。開墾に使うから屯田兵でも良いのだが。

 

「弾正様! 我らが道行きはいずこでありましょうや?」

「弾正様! 戦うべき先をお示しくだされ」

 次に揚北衆である本庄実乃や、いまや越後一の武名と成った柿崎景家が声をかける。

二人は早い段階で景虎の才能を見込んだ人物であり、権威ではなくその戦闘力に従うという判り易い態度であった。家を継いだり新たに起こすことを認められた山吉孫二郎・孫四郎の兄弟がこれに続く。

 

「それは越中である!」

「亡き父、長尾為景は請われて越中へと援兵を出した」

「その結果はなんだ? 皆も知っていよう。お家争いのついでとばかりに殺されたのだ」

「切り取りに行って負けたなら武家の習いと納得もしよう。だが、これでは道理に合わぬ!」

 景虎にとって判り易い目標が越中であった。

父も祖父も越中で一向宗との戦いで死んでいるが、直近の出来事として父為景が謀殺されていた。これを放置しては全越後から舐められることになるし、実際、兄晴景の株はそれで下がっていたと言えよう。明確に越中に攻め込むという宣言は、諸将にも納得できる話であった。

 

「ゆえに明年、越中へ兵を出す」

「神保に宣戦を布告せよ。景虎が直々に挨拶するとな!」

「景虎よ。管領家との折衝は儂がやっておこう。存分に本懐を遂げて参れ」

「ははあ! 守護様の御厚情。決して忘れませぬ!」

 戦うに際して上杉定実より言葉を受けた。

これは非常に重要な事であり、同時に諸将が心配していると同時に、欲目を抱いている事であった。関東管領である山内上杉家とは越後上杉家の問題で戦った事があり、父為景の時代に討ち取っても居たのだ。この問題は伊勢氏(後北条)の台頭やそれに対する逆襲を優先(北条氏綱が死んだばかり)して後回しにされてはいるが、両家にシコリとして残っているのは確実であった。

 

長年の禍根を絶つと同時に、暖かな上野へ攻め取って切り取る可能性の排除。

それは非常に重要な事であり……後に和解した山内上杉家から使者が駆け込んで来る事態の呼び水となるのであった。

 

「甘粕長重。これまでよく私を支えてくれた。景の一字を与える」

「その方は運気も持っておる。ゆえに景持と名乗れ」

「はっ、甘粕景持。これより殿の為に命懸けで、一所懸命に働く所存であります!」

 よーやく色々面倒な公式行事が終わりました!

そんで私事の最初の仕事として、甘粕君に私の名前の一字をあげる訳ね。これを『偏諱』するというのだけれど、ここに至るまでの流れと、順番とか権威付けがスッゴイ面倒くさい訳よ!

 

お願いしたお酒関連がとても評判で、資金面でも朝廷関連でも重要な立場になったのは判るかな?

でも若造が重臣となるのも問題だし、先を越されて悔しいから……って理由で、彼は公式行事ではなく私事としての最初にすることになった感じになるかな? 私が当主について最初の一人だけど、同時に公式的な守護代としては別の人になる予定なんだとか。誰が最初とか後とかそんなんで意地はるなんて面倒くさい人たちだよね。

 

「それで景持。哪吒どもの調子はどうだ?」

「御仏の加護が判明した者を中心に鍛えております。夜叉・羅刹いずれかに相応しく育つかと」

 ここで出て来た哪吒・夜叉・羅刹というのは毘沙門天様関連の名前だよ。

そんで漫画とか見た人は想像できると思うけど、哪吒というのは常備兵とかお侍の子供たちを鍛えてる場所ね。いわゆる『虎の穴』で、才能が発揮できるようになるまでカンヅメにして鍛えておきます。そんで夜叉と羅刹が常備兵の中で強い人たち。脳筋だけどまともな人たちが夜叉で、ちょっと人には会わせられないくらい脳筋な人が羅刹くらいに思っててくれると判り易いかな。

 

「まさか学び舎まで作って鍛えられるとは思いもしませんでした」

「なに。この景虎もまた御仏の加護を知り、自らを鍛える方針が変わったのよ」

「ならば皆にもその喜びを味おうてもらおうと思っただけの事じゃ」

「いまでも戦いの役には立とうが、入れ替わりが起きる頃にはそれなりの精鋭と呼べよるようになろう」

 これは小説の冒険者ギルドとか思い出したので付け加えたのね。

小説とかでよくあったけど、自分の加護を自覚してちゃんと鍛えた主人公は強くなることが多い。でも、何となく戦って、それで十分だと戦ってる人ってそんなに成長しないのよね。まあ小説とリアルじゃ違うと思うけど、どうせなら強い方が良いじゃん? あ、『入れ替わり』というのは精鋭部隊は千人までの定員制なのです! やっぱ『何番隊』とか『席次』とか設定見ると燃えない? 新選組とかオサレ師匠の漫画とかカッケーよね!

 

「定満。越中の方はどうなっておる?」

「神保だけならばいつでも。他の連中や一向宗が出て来れば話は別ですがな」

「やはり椎名を動かすか。奴にも責任の一端はあろうが……戦いは早期に収めねばな」

 琵琶島定行は隠居したことで正式に宇佐美定満になりました!

いやーこれで記憶違いとか混乱しなくて済むよね。仕事は前からやってる忍者による情報管理で、専門の分析チームとかを任せてます。だってその辺考えるのが面倒じゃない? 甘粕君もだけど側近たちはこんな感じで基本的にプロジェクトリーダーであり、特に重役ではない扱いね。みんなの嫉妬が面倒くさいのと、責任はやぱり私が持ちたいのもある。

 

「豊守。港と鉱山以外は全てくれてやると伝えろ」

「……随分と太っ腹ですな。理由を伺っても?」

「景虎は依怙によって弓矢を取らぬ。それに椎名も味方は欲しかろう」

「なるほど。その範囲で切り崩し味方を増やせということですね。承知いたしました」

 山吉の孫次郎君は成人して豊守と名乗ってます。

難所をくぐり抜ける才能と、人当たりが良い性格もあるので彼には外交官として働いてもらってるのね。ちなみに土地が要らないってのは管理が面倒くさいから。誰を裏切らせて誰に土地を与えてって、頭抱えちゃうよ! そんなんだったら全部任せちゃえば良いの。私ってあったまいーでしょ?

 

「しかし越後の諸将に与える恩賞はいかがいたしますか?」

「言ったぞ、まずは景虎が自ら参るとな」

「まさか! 本領の兵を合わせても二千にも足らぬ兵力でございますぞ!?」

「戦い方次第だ。兵法は詭道なりと言うであろう。余計な者は引き連れずに春先より攻め立てる」

 とりあえず必要なのは越中を攻めるという事実なのよね。

越後の皆が納得するだけの事をすれば良い訳で、別に戦って皆殺しにする必要はない訳。パパの仇を討ちに行って、相手が『参りました。もう許してね』と行ってくるまで戦えば良いだけだ。望んで人殺しをしたいわけではなく、政治的なポーズってやつかな。後は秋から冬にかけて、越後のみんなや越中で私に味方したい人が来れば何とかなるっしょ!

 

「春先に!? まさか雇った兵のみで攻めると」

「そうじゃ。相手が防御を固め、兵を集める前に片を付ける。いや、神保以外は放置して良い」

「なんと……。いえ、それでも危険ですぞ。せめて、何かしらの吉報が入るまでお待ちください」

 正直な話、みんなに『集まれー!』って言って戦うのは時間が掛かるのよね。

常備兵の精鋭が数百で、戦闘工作兵を合わせて千人くらいしかない。だから側近の皆は反対してるんだけど、それだけ居れば神保の人だけなら倒せちゃうのよね。気が付かれたら城に籠られるけど、その時は別の場所を攻めれば良いわけだし。そういうことをやるなら、逆に常備兵以外が居ると足手まといなんだよね。

 

とはいえみんなが反対してるのを押し切るのも問題かもしれない。

我儘言いたいわけでもないし、必ず勝てるって訳でもないので納得することにしました。でも、ちゃんと聞いたからね? 何か良い事あったら攻めていいってさ!




 と言う訳でさっさと守護代・当主に就任しました。
面倒くさいので次回、越中を攻略します。

ちなみに越後の石高x飢饉・水害で、二十万石強くらいで計算してます。
越中も飢饉と水害を換算して、二十万石弱くらいの計算ですね。
じゃけん港や鉱山からの収入と、青苧・お酒販売でなんとかしようね~。
と言う感じで領地についてはゲット考えてない感じ。

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