マジカル戦国大名、謙信ちゃん【完】   作:ノイラーテム

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勝って兜より先に、足元を固めよ

 厳島の戦いを契機に、西国の様相は落ち着いた。

大きな権威と国力差もあり、九州三国志は大寧寺の変で大内家が滅びなければ起きなかった筈だからだ。そう言えば事件の重要性が判るであろうが、重要なのは竜造寺も島津も大きくなる前と言う事である。大友家も順調に大きくなっている段階で、陶を利用して大内・大友連合という看板で、九州を制覇しようと目論んだところであった。

 

彼らが大きくなる前に機先を制したことで、出し抜かれたとしても西国は安定するだろう。

 

「大内家肥前差配人であった竜造寺隆信を守護代に処する。陰日向に将軍家へ反意無く忠実と認められれば、数年後には肥前東半国の国主。いずれは肥前一国を任せる。励めよ」

「はっ! 竜造寺家の全力でこの地を守って見せまするぞ」

 景虎は居場所を無くした竜造寺隆信を雇用した。

彼は大内家の代官になることで、奪われた領地を取り戻そうとしていたのだ。その半ばで後ろ盾を失い危険な状態であったが、景虎率いる船団が平戸を強襲。松浦家ほか周囲の豪族を討ち取った。今度は将軍家の直参として出直すつもりなのであろう。

 

景虎としても肥前の国や他の九州諸国に口を出す気はない。

地元の人間である竜造寺を復興させ、その統治を助けるレベルに抑え、余力は佐世保鎮守府の設営に充てたかったのである。

 

「大友は陶家に着いておったゆえ、出遅れた。一部を回収して終りであろう」

「南は島津が復権を果たしておるところか? 旧領までは将軍家も目を瞑られる」

「その方には肥前の他、肥後での盟と被官を受ける事を許す。大友と島津を抑えよ」

「筑紫島の安定に動くのじゃ。人質は要らぬが、一族の誰ぞを送って寄こすのは構わぬ。与力の見返りには金でも米でも必要なだけ言うが良い。普請を始めた佐世保に幾らでも用意しようぞ。将軍家の権威と十分な援助があればあえてこちらと戦う者もおるまい」

 景虎は方針だけを決め、従っている内は援助を絶やさぬと約束した。

竜造寺家が余計な事をしない限り、佐世保鎮守府は整備し続けられる。呉鎮守府も既に着工しており、三好家が四国に強い影響を与えているので瀬戸内海も収まるものと思われた。このまま問題が無ければ、西国に関しては安定するだろう。

 

後は毛利と尼子がどこまで争うか次第だが……。

山名家が復興して因幡攻めを開始し、毛利家も停戦命令までに石見銀山を確保する為に向かっている筈だ。適当な所で尼子家が幕府に降り、それ以上の侵攻が収まるのではないかと期待されている。

 

「委細承知いたしました。して、弾正様はその後はいかに?」

「佐世保と呉に鎮守府を設営しておる所だからな。目途が立つまでは動けん。対馬の宗家を相手する程度であろうよ。あそこは重宝する立場であるが、同時に勝手も多いでな」

 隆信の質問に景虎としては肩をすくめる他はない。

二つの鎮守府が整えば、そこに駐留する兵力と船で西国の何処にでも出撃できる。そうなれば『西国の平定』作業も終わりを迎えるだろう。だが、それまでは迂闊に離れられない。何しろ戦国大名と言う者は、隙あれば侵略をするものだ。国人たちが命令を好き勝手に解釈するのに対し、大名たちは理屈をつけて侵攻をしたがる。それも戦乱の無い世の中の為ならばともかく、『相手に隙があるから攻める』などと言う始末だ。景虎が弾正台の職責を利用して、介入をすると見せねば、せっかく見え始めた戦乱も再発しかねなかった。

 

対馬の宗家と言えば、本土側には大して力が無いが、外に対しては話が別であった。

 

「あそこは朝鮮の国との交易で儲けておりまするからなあ」

「それで済めば良いのだがな。実際はあちらにも被官する両属な上、倭寇の姿と日ノ本の使者の両方を偽造しておるのよ。大内家の凋落につけ込み、本土を切り取ろうとしたことなど可愛いものだ」

 此処で言う被官を受けるというのは、『貴方に仕えます』という宣言である。

宗家は日本国に所属する大名であるが、書類上では朝鮮国の支配を受けている。実際には『宗家の部下が勝手に我が家の名前を名乗って被官している』とか『朝鮮側の部下が勝手に宗家の名前を騙る者の被官の話を受けた』というだけで、対馬に朝鮮国は何も命令できないし、精々が『倭寇を討伐するように』とか『日本国へ使者を出して、討伐要請をするように』と言う程度でしかない。それでも(捏造ではあるが)返事や戦果が返ってくるため、両者の体面が成り立つのだ。

 

この話で面倒なのは、お互いに嘘だと判っているが『そう言う事になっている事』と、朝鮮経由で銅銭や木綿など日本では貴重な物を仕入れている事である。

 

「宗家だけなら他国へ阿った謀反とでも言えるが……毛利を抑えるには迂闊な事も出来ぬ。大内の全てを与えてはおらぬが、博多も与えることになりそうじゃからの」

「博多商人は明とも交易しておりますでな。互いに見張らせますか」

 全てが予想通りだったわけではない。

謀神と呼ばれた毛利元就は景虎の思惑を超えて、一気に豊前・筑前を抑えるためにこそ陶隆房追討令を使ったのだ。景虎の手勢が博多と平戸を抑えるのに前後して、『こちらの味方に成れば、陶の味方とは扱わぬ』と、陶家に味方した武将たちに掌返しをさせたのである。

 

そのタイミングで景虎は将軍家の命令で周囲を抑えに掛かっており、こちらの味方面をする事で陶家側であった大友家の反撃を抑え込んだと言えるだろう。

 

 西国攻めの功罪が色々と明らかに成って来た。

基本的には成功しているのだが、必ずしも景虎や将軍家の為になっていないことがあるのだ。自分達だけでは攻めていないし、大義名分を用意して他の大名を利用している事の限界であろう。命じた事に前後する事ならば、多少は範疇を越えても問題ないだろうと動かれているのだ。

 

それは毛利家への陶隆房追討令であり、宗家への帰属問題への説明要請でもある。

 

(毛利だけでなく宗に出し抜かれてマス。油断は禁物デスネ)

(彼らは謀略や外交に関して、こちらよりも経験値がアリマス)

(通訳を抱き込まれて間で嘘を吐かれたり、外交問題を起こされても……)

(嘘は承知で『朝鮮国に喧嘩売るのか?』と言われて、大樹サマの指示なしに喧嘩売れないのですよネ。大体、国土が疲弊してて美味しくない上に、紅茶も産出しないのでどーでも良いデス)

 景虎は全ての分野で他者に勝てるとは思ってはいない。

元就は平然と彼女の上を行ったし、宗家は情報を集めてる最中なのに、何が真実かも判らない。伊賀の忍が商人や護衛として海外の知識を手に入れて来るのも、まだまだ先の事だろう。現状では朝鮮との交易に口を出さないし、大宝寺や朝倉が独自に行っている貿易に関して、喧嘩しないように取り持つ程度であろう。

 

そういう訳で朝鮮や中国との貿易にも侵略にも興味がない景虎ではあるが、一つだけ関心事があった。

 

(そういえば白磁のティーカップやポットが欲しいデスネ。向こうの技術者を引き抜く機会があったら、ついでに連れて来てもらいまショー)

 大寧寺の変で銅銭が手に入らず困っているという話は聞いた。

その辺りの是正のために、いずれ技術者を来料に引き抜く話は出るだろう。仮に引き抜くとしたら大国である明の国ではなく、朝鮮の国だろうな~と思うのが景虎の限界であった。まあ……金山銀山を山ほど抱え、塩や油で儲けている彼女にとってはそんなものであろう。

 

そんな風に反省して行く中で景虎にも新たな目標が出て来た。

正確には当初の目的を見つめ直すと出て来る粗への対策と、残りの目標への布石である。

 

(よく考えたら関東管領が逃げてないのがおかしいデスネ)

(銭や塩で援助はしていますがそれだけ。国交回復中なだけデス)

(それなのに伊勢……北条家が山内上杉を圧倒していないはずはナイ)

(これはこちらを警戒してゆっくり確実に攻めている為と見るべきでしょうネ。……調子に乗って手の内を見せ過ぎマシタ。今までの戦法は殆ど見抜かれて居ると考えるべきデース。それに……鎮守府が順調だからこそ、見直しも必要デス。気が付いたら他人のモノとか、冗談ではありまセーン)

 転生して何年も経ってるの細かい事なんか覚えていない。

それでも武田を破り西国まで遠征しているのに、北条家がまったく動かない事などあり得ない。景虎が援助していたと言っても戦力は派遣していないのだ、北条側が手控えていると見えるべきだろう。それを己の実力と勘違いした上杉憲政が関東管領の地位を奪われまいと、越後に援軍を要請していないという方があり得るだろう。憲政が実力で何とかしているならば名声も高まるだろうが、北条の都合であるならばむしろ調略の材料にされるだけである。

 

そして問題なのは北条の調略が上杉だけではない場合……越後にも手が伸びている可能性があるのだ。気が付いていないのは憲政どころか自分もであり、ある日いきなり権力を失う事すらあり得た。いや、越後などもはやどうでも良いが、四大鎮守府にリーチが掛かり、外征を行うことが見えてきた今やられては、何のために頑張っているか分からないではないか!

 

(一番困るのが『地位と身分を渡すから、湊くらい他の者にやれ』と言われる事デス。大樹サマと意思疎通を図って置く必要がありますネ。領地を貰っても嬉しく無いですし、それが政情不安な場所なら猶更デース。むしろ積極的に将軍家や朝廷に回して、利権を抑えておくべきでしょう。地位はその為の名分でしかなく、むしろ本国である越後も切り離して置くべきかもしれまセーン)

 一色義幸はともかく足利義藤とは腹を割って話していない。

将軍家に着く方が利益も名声も得られるから良いだろう……くらいに思っている筈だ。その場合、役にも立たない地位や身分なり、切り取った場所へ領地を渡されて終わりと言う事もある。それこそ九州全土を『いずれ』やるから、他の領地と湊を手放せとか言われかねないのだ。殆どの重要な湊を持つ事での利権とか、海軍力による統制とか理解されている時代でもないのだから。

 

ゆえに、ここで再統制してから北条攻めに移るべきだろう。

 

(最優先はトロフィーとしての鎮守府であり、戦力と金の源泉となる湊デス)

(佐渡に作った造船所と鉱山も重要デス。しかし越後は二次的な物)

(強力な国主であり、戦力を持っているという背景は重要ですけどネ)

(少し早いデスガ、景勝……喜平次クンに譲りますかねー。越後守護にもそろそろ任命されますし、家督は譲って守護として命令……うん。それで良いカモ。鎮守府を抑える役割として、鎮西将軍に大樹サマの弟のどっちか……ワタシは副官のみたいな感じで鎮南将軍を作ってもらいますカネ? あとは大宰府の現地長官に就いて、大内の後継者は毛利には渡さない……くらいで良いデショウ)

 地位と言うものはあまり要らないが、利用はできる。それは自分もであり他人もだ。

大内義隆は大宰大弐の地位についてその権威で北九州全体の国人を味方に付けていた。それで大友家の野望は半分閉ざされたようなものだったが、そのルートを踏襲しひとまず大宰小弐の地位に就くことにした。鎮南将軍という地位は存在しないが、鎮西将軍は存在するので大宰小弐に就いてから称すれば良いのだ。官位も従五位下とそれほど高い物ではないので、そこから大弐を目指すという事にしておけば朝廷も他の連中へ渡しはしないだろう。そして長尾家の当主としての地位を親族に渡すという事は、領地に固執していないと示せるのである。

 

これらの流れを踏まえて義藤を通し、朝廷に献金して行けば良い。場合によっては荘園も一部渡す必要があるかもしれないが、どうせ景虎は領地が要らないので、切り取った場所をそのまま右から左に流すだけである。このまま放置すると毛利家が大宰府のある筑前も分捕るので、博多を渡すのと引き換えに丁度良いかもしれない。景虎自身が抑えてしまうとスタイルの問題に齟齬が出てしまうのもあった。

 

(この流れを徹底すれば、鎮守府を含めた湊を奪われることもないデショウ。後は北条と戦う時の為の切り札を考えないと……今までの切り札は見抜かれてるでしょうしネー)

 先ほど結論を出した考えは、あくまで足元を固める為だ。

勝って勝ち続けて見落としていた部分を見直したに過ぎない。要するに北条家を倒すための算段はまるで考えていないのだ。これまで用意してきた策は、甲斐武田や若狭武田を叩く為に使ったので調べられていると思うべきであろう。とはいえ、順番変えて向こうを先に潰していては、これほど素早く西国を制覇することは不可能だったはずである。外征も考慮することを考え得れば、間違ったルートを進んでいない自覚はあった。

 

国内での集大成として、景虎は北条家に勝てるだけのゴーレムを考察し始めるのであった。




 九州三国志終了! いや、陶さんが大内義隆を殺したのが悪いんや。
誰もが大内の顔を伺っていたので、大寧寺の変が無ければ西国は安定していたのでは? と言う考え方もありますね。

それはそれとして、おかしなことに関東で情勢変化が無いので景虎さんも、してやられいたことに気が付いた様です。真面目な話、山内上杉弱いのでここまでに噂も無いのはおかしな話でした。

今回はその辺に着目して将来のピンチを防ぎつつ、北条攻めに切り札を用意する感じですね。
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