『ウィィィィィス!!どうもぉジャムでぇす!!』   作:ジャムキンTV

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トップオモダカの暴走

「……最近オモダカさんが残業し過ぎてる?」

「えぇ、その様です。来月の“配信”関係以外にも色々と動いているのだとか」

「へー、なんやアオキさんあの人の事よう見とるやん」

「……一応、上司ですから」

 

 ポケモンリーグ内、偶然休憩が重なった四天王であるチリとアオキが職員用カフェテリアにて昼食を摂っていた。会話に出てきたのはリーグ運営トップのオモダカ。

 最近のオモダカは多忙であった。数多くの改革に乗り出して数年。ここ数ヶ月は業務も少なくなった筈だが、今になって忙しなく動き回る様子をチラホラと見掛ける様になった。

 

「一応上司って……。まぁあの人は志が高いから、バトルに関しては並々ならん想いがあるし」

「えぇ、そのせいで三足の草鞋を履く事になりましたから」

「……リーマン、ジムリーダー、四天王。兼任し過ぎやわ」

 

 オモダカがバトルに掛ける想いは強い。強過ぎるあまり何でもやるという気概を感じさせる。あの古臭かったアカデミーを改造もとい改築してしまう程だ。学生の為、エントランスに一番力を入れたと話をしていたが、あれもパルデアの未来を担うトレーナーの育成の為という隠された目的があってこそ。まぁ身内にはバレているのだが。

 そんなオモダカが最近残業までしている。どうしてか?バトル以外に理由は無いだろう事は明白であった。

 

「また無茶振りをされるかもしれないと思うと憂鬱です」

「そらそうですわ。チョイチョイ無茶振りしてくるから、たまに「ド突いたろか!」ってなりますから」

「突然仕事を増やされる身にもなってほしいものです」

 

 時折思い付きで「〜をしてきてください」やら「〜で〜をお願いします」と頼まれる(基本断れない)事がある。特にアオキは小言も添えられる事もあり、なんだかなぁと思いながら鞄を手にし慣れた手付きでタクシーを呼ぶのが習慣化していた。

 まぁその分給料は出るのでやる事はやるのだが、それは別の話。

 

「随分と楽しげに話をしていますが、何を話しているのですか?」

 

「ほんで、あの人この間──」

「ッ!?」

 

「えぇ、何やら楽しげに話していたので立ち聞きしてしまいました。私もご一緒させていただいても」

 

「「え、えぇ」」

 

 二人に声を掛けたのは話題の中心になっていたトップ。いつの間にか接近していた上司に驚きを隠せずに首を縦に振る二人、それに対して笑みを浮かべながらテーブルに着くオモダカ。

 

「アオキ、何故私が座ってから横にズレたのですか?」

「体が勝手に動きました」

「アオキ……」

 

 隣に座ってきたオモダカに無意識で距離を取ったアオキ。

 避ける様に席を移動したアオキを無表情でじっと見つめるオモダカ。

 そんな二人に対して額に手を当てやれやれと首を振るチリ。

 何とも言えない雰囲気に、カフェ内の職員が距離を取る。

 

「先程の話ですが──」

「──いや聞ぃとったんかい」

「チリ?」

「……ナンデモナイデス」

 

 ツッコミが口から出てしまった。自身がジョウト出身である事を恨みながら『いや最初に何話してた聞いたんは嘘かい』と内心毒突く。

 視界の端で黙々と昼食に集中し始めたアオキの頭を引っ叩いてやろうかと思いながら、チリは話を聞く態度を取る。

 

「んん、先程の忙しくなったという話ですが。私も影響を受けまして、色々と働き掛けているのです」

「影響……もしかして例の?」

「えぇ、彼は興味深い。彼の視聴者の中にいるトレーナーはかなり腕が立つとか。この間の配信で見ましたが、皆一様にトレーナーとして一定以上の技量を持っているのが窺えました。それをどうにか利用できないかと。彼はジム巡りを終えてはいますが、まだリーグに挑戦していないのが悔やまれる。そこで彼をチャンピオンクラスとして迎え入れ、パルデアの礎に──」

「──ちょ、ちょい落ち着きましょ?ね、アオキさんからも何か──」

「──ご馳走様でした。それでは私はこれで……」

「あ、はい。ってなんでやねん!ちょっと待ちいや!」

「最近ポピーからミミズズの話を聞きまして」

「みがわりか!しっぽきりしてウチをみがわりに使うなんてええ度胸や!」

「手を離してください私には仕事があるのです」

 

 席を立とうとするアオキに縋るチリ、突然の奇行に他の職員はどよめくも「いつものやつ」と視線を逸らし食事に集中し始めた。下手に関わると面倒な事に巻き込まれると分かっている為である。

 騒ぐ三人はなんだかんだ会話をし、それから30分後に解散した。口では色々と言いながらも律儀に会話をする辺り、根は真面目であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「学生時代の彼を見出せなかったのは、私の失敗。彼を手元に置ければ、トレーナーの育成が効率的になった」

 

 学生時代は他の学生と変わらない生活を送りながらバイトに明け暮れていたジャム。卒業してから活動を始めたのだから、それは無理な話だ。しかしオモダカは本当に残念に思っていた、彼を部下に出来ていればと。

 自室のパソコン画面に映るのはジャムが開催したオフイベントのトーナメントの映像であり、専用のファイルには全ての試合映像の録画データが収められている。

 

「ここ最近のバッジ取得率の伸び、調べてみれば彼がバトルに関して触れる様になってから増えている。彼の影響によって引き起こされているのは明白。動画の試合を見ればチャンピオンクラスと同等かそれ以上の能力を持ったトレーナーもいた」

 

 あのイベントによって頭角を表した者も少なくない。リーグが確認出来ていないだけでこれ程の実力者がいた、それを知った時のオモダカの驚きと喜びはトーナメントに参加したネモと同等であった。資料を持ってきた秘書が悲鳴を上げる程の笑みを浮かべていたのはここだけの秘密。

 

「……さて、彼をどうやって引き抜きましょうか。以前配信で『トップに相談してみる』と言っていたのに、その連絡は無いですし。ここでこちらからリーグに挑むかを聞くのも、催促している様ですし……」

 

 そもそも彼をリーグ職員にしたとして、オモダカの考え通りに動いてくれるかは分からない。配信者として自由に配信をしているからこそ、今の地位を確立し影響を与えている。それをこちらの意思で変えて成功するだろうかとリスクを考えるオモダカ。

 

「時間を掛けてコメントでバトルをする様に誘導してきた事で、配信でバトルについて話す様になった。このままバトルオンリーでやってほしいのですが」

 

 チャンピオンクラスの中にも彼のファンがいる。彼のおかげでレベルが上がったと話をしていた者がいた。その辺りにも話をして役立ってもらおう。

 

「それにしても、何故食品レビューを推すのでしょうか?流石にこれは……」

 

 ネット掲示板で食品レビューを過激に推している光景を見た事で、世界には色々な人間がいる事を改めて思い知らされたトップであった。


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