『ウィィィィィス!!どうもぉジャムでぇす!!』 作:ジャムキンTV
強大な嵐が渦巻く海上、その中心に存在するロケット団が放棄した島ニューアイランド。嵐の中心は雨一粒降る事はなく、風すら微風程度も吹いていなかった。“原作通り”に島に辿り着いた3人のトレーナーは奥へと案内されていた。
「ていうか、どうして招待状を貰ってない人がいるのかしら?」
「ここはなんだか気味が悪いぜ……」
「こっちはこれからバトルするって集中してるのに……呑気にキョロキョロ見渡しやがって」
「ア、サーセン……ウッス……」
しかし島に辿り着いた者は他にもいた。我らが大物TraiTube“r”ジャムさんである。招待状を贈られた者しか場所を知らず、立ち入る事さえ許されない島にイレギュラーな4人目として滞在していた。“主人公一行”の代わりと驕っている訳ではなく、ただ危険な事があれば防ぎたいという親切心でここまでやって来たジャムは黒のレインコートを深く被り正体を明かさず、そんな謎のトレーナー(仮)を訝しむ3人という構図が出来上がり少しばかり場違いだなと感じていた。
正式な手順を踏み辿り着いた3人は不審者を警戒していたが、案内人との話し合いの結果この島の主人から立ち入りの許可を得てしまった為、不審者の正体に触れる機会を逃していた。
3人の後ろを歩くジャムは声を掛けられ性格:陰キャを発揮しながらも周囲を観察し続けていた。幼少期に観たもう二度と見返すことの出来ない映画の舞台にいるという事実がジャムをワクワクさせていた。どのくらいワクワクしていたかというと、初めてポケモンと対面した時くらいのワクワクであった。
前を行く3人はバトルする気満々といった様子だが、少なからずあの嵐を突破するのに疲弊しており、一旦自身も手持ちも休ませたいとも思っていた。
「お前、疲れてねぇのか?」
「……こう見えても私はタフですから、タフ」
「何も見えねぇよ」
「アッアッアッアッ」
嵐を超える以外にも溺れそうなトレーナー達を探し出しテレポートで救い出していたというのに、ジャムは普段と変わりない様子でいた。海から上がった際には息切れすらしておらず、すぐに案内人にハキハキと喋り掛け交渉をしていた。その姿を見て、前を行く3人は内心ヤベー奴だと思っていた。
長い廊下を歩きながら話をしていた4人は客間らしき場所に通された。独特なセンスによって作られた城の内装に気味悪さを感じながら、各自席に着く。
「主人が来るまでの間お寛ぎください」
トレーナー達が席に着くのを見計らい声を掛けた案内人が奥へと消えていく。それを見送り会話を再開する4人。
「最強を自称するトレーナーとはどの様な人物なのか」「どんなポケモンを使うのか」「何故この島は嵐の中心にあるのか」「他のトレーナー達はどうなったのか」「そもそもお前は誰なのか」
一部どころか全ての疑問に答えられるジャムは曖昧な返事を返しながらも腰にぶら下げたボールを指でなぞる。育てたポケモン達の中から選んだ6匹が出番はまだかとボールを揺らす。
テーブルの上に備えられた果物や飲み物を摂り、手持ちのポケモン達の様子を見ながら過ごす事数十分。案内人が再度現れた。
「皆様、落ち着かれましたでしょうか?これからこの島の主人がお越しになられます。皆様はこのままお待ちくださいませ」
「どんなトレーナーなのかしらねぇ本当に」
「チャンピオンや四天王を差し置いて最強なんて騙ってんだ、弱かったら容赦しねぇぜ」
「ふぅん、どの程度やるのか楽しみだよ」
「……」
闘志を燃え上がらせる3人を眺めながらもジャムはここに来ているであろうと最後の来訪者を思い浮かべる。
「……言う事成す事過激派なアイツはどこだぁ?」
島に到着した際に視界の隅で見えたピンクは案内されて以降現れる事はない。どこかに居る筈と探し続けていたが結局見つからずにここまで来てしまった。「媚の一つでも売って味方してもらおうと思っていたのに」と内心どくづきながらジャムも最強のトレーナーの登場を待つ。
カントーポケモンリーグチャンピオンであるレッドは歓喜していた。リーグを抜け出しのんびり空を散歩していた際に突如グリーンから連絡が入った。デスクワークを放棄した事を怒られるのだろうと思っていたが、出てみれば不可思議な現象が起きていると伝えられた。
海上に現れた大型の嵐の情報収集をしていたリーグスタッフからネット掲示板で異常気象に関係がありそうな情報が挙がり連絡をして来たのだとか。そのネット掲示板とやらを覗くと面白い事が書かれていた。
『港に集められたトレーナー達』
『最強を名乗るトレーナーからの招待状』
『嵐の中心にある島が目的地』
他の地方にまで名の知られたトレーナーである自身を差し置いて“最強”を名乗る輩。そんなトレーナーに興味が湧き海へ向かった。
そこで行われていたのは複数のポケモンによるバトル。フィールド中で行われるバトルで砂埃が舞う。そこでポケモンと共に奮起するトレーナー達の姿を確認出来た。
「ちぃ!なんだってこんな事に!」
「唯一の救いはこっちの方が数が多い事だな」
「ちょっキャッ!もう、こんなんじゃまともに指示も出せないわよ!」
「ぺリッパーはなみのり!ルカリオははどうだん!イルカマン!連続でジェットパンチ!」
腕を組み戦況を見つめる“最強のトレーナー”の前に降り立つ。こちらを見るその視線の強さと威圧感に最強を名乗るだけはあると感じさせられた。
「ほう、貴様の事は知っている。奴らを打ち倒した貴様はその功績に免じて見逃してやろう。消えろ」
「………………」
「何?バトルしろだと?人間風情が私に挑もうと言うのか?」
「………………」
「ポケモンに縋るしか戦う術を持たぬ矮小な存在が私に挑むその愚かさ、貴様の命で以て知るが良い!我が名はミュウツー、貴様ら人間へ逆襲する者だ!!」
「………………」
こんなにも胸が高鳴るのは何年振りだろうか。ジョウトからやってきたあの少年とのバトル以来だろうか。かつて無敗を誇り、敗北を知って更に強くなった自分と仲間達。他の地方のチャンピオンレベルでなくては満足出来なくなった自分達が全力を出さなくては勝てない、そう思わせてくれる相手。普段上がる事のない口角が上がっているのを感じながら、レッドはいつかはバトルしたいと願っている神(アルセウス)へ、この出会いを感謝していた。
レッドは知る事になる、最強のトレーナーの実力を。
ミュウツーは知る事になる、相対する存在達の絆を。
ジャムは思い知っている、レッドさんが来るならカントー地方に来なくて良かったのではと。
原作のモブトレーナー3人のオマケ程度であったジャムは混乱の境地にいた。ミュウツーに喧嘩を売ったトレーナーがサイコキネシスで噴水に投げられたり、コピーポケモンと本物ポケモンのバトルでコピーに軍配が上がったり、ミュウツーボールで捕えられたポケモン達を救い出したり、そこから乱戦が始まったり。怒涛の展開がジャムを襲っていた。
自身の手持ちのコピーを防ぐ事は出来たが、コピー達は本物よりも少しだけ強いらしく、他のトレーナーのサポートまでする事10分。6匹分数で有利だと考え頑張ってはいるがもう滅茶苦茶であった。
そんな時、空から救世主が現れた。カントーチャンピオン、我らがレッドさんだ。「来た!レッドさん来た!これで勝つる!」と拳を振り上げ喜んではみたものの、よくよく考えると本来はミュウとミュウツーが空中戦を繰り広げる筈のここでレッドさんが来て良いのだろうか?そう疑問に思ったが、この際どうでも良いかとすぐに開き直る。
「リザードン、かえんほうしゃ!」
「……」
空中戦を始めたリザードン達、吐き出された灼熱の炎を互いに避け続けられ、一向に当たる様子はない。痺れを切らしたコピーリザードンがレッドのリザードンに組み付き、ちきゅうなげで地面へと叩き付けようとするが、落下中に振り払われ不発に終わった。
「行け、カメックス。ハイドロポンプ」
「……!」
「カメェ!……グァッ!?」
「グワァラァ!!」
ミュウツーがポケモンを交代。水技によって弱点を突こうとするも、リザードンは炎を纏い真正面から突撃、ハイドロポンプの中を突き進みカメックスを弾き飛ばした。
「あれはフレアドライブ!?しかもかなりの威力があるハイドロポンプを貫きながら当てるとか、どんな威力してんだ!!」
「こいついきなり饒舌になったんだけど!?」
強者同士のバトルに素性を隠している事を忘れ叫んでしまうジャム。伝説のトレーナーと伝説のポケモンによるバトルにジャムさんも我を忘れていた。
「バトル見てないでこっちに集中してよ!アンタが居なきゃこっちがヤバいんだって!」
「ッ!イルカマン、ドレインパンチ!ピカチュウはボルテッカーで突っ込め!」
周りにせっつかれ指示を出しながら、意識は最強同士のバトルから離れられない。ピリピリと肌を刺す緊迫感が増し続けているフィールドの中央での戦いを観たいと思いながら指示を飛ばし続ける。
「……!」
「貴様のリザードン、強敵であった。しかし倒せぬ道理は無い。コピーが本物に劣ると誰が決めた?」
「……」
「貴様から発せられる全てを焼き尽くさんばかりの熱き想い……それが貴様の根源か。それを真正面から打ち倒し、私は名実共に最強となろう!」
フィールド上に生み出された雨雲から落とされたかみなりが直撃し倒れ伏すリザードン。そのかみなりは強力であり、フィールドに直撃した際の地響きで周りのポケモン達の動きが止まる程であった。ジャムのペリッパーの特性で生み出された雨雲を利用したとはいえかなりの威力があった。
御三家の次に繰り出された4匹目、強力な一撃を放ったそのポケモンを見上げたジャムの思考は数秒止まった。その後口からポツリと言葉が漏れ出た。
「…………“サンダー”。なんでそいつをコピー出来てんだよ……!」