『ウィィィィィス!!どうもぉジャムでぇす!!』 作:ジャムキンTV
快晴なれども風強し。夏の訪れを感じさせる湿気た風が流れる中、校庭で始まった校長の有難い言葉を聞き流し、宝探し開始の宣誓を受けた生徒達がアカデミーから旅立っていった。
アカデミー前でアオイとネモが互いの予定について話をしていると謎の人物“カシオペア”からの連絡が入り、補給係の“ペパー”がやってきた。
一度灯台で出会っており顔見知りであったアオイはネモとペパーを交互に紹介して「これから仲良くしよう」と語り掛けた。結構緊張していたペパーもこれには毒気を抜かれた。
「おいおいおい、あんたら突然スター団とバトルしろって言われたのに……性格のんきちゃんか?」
「でも大勢とバトルできるんでしょ?連戦はそこまでした事ないから楽しみ」
「これ!私も!私もやって良いんだよね!?」
「……」
そんな二人の言い分に思わず天を仰ぎ見たペパーは「アルセウスの母よ、スター団に救いを」と内心神に祈っていた。これから厄災が降り掛かるであろうスター団に涙を呑んだ。
三人で情報の交換をしている途中、アオイの手持ちポケモンの一匹である“あるポケモン”の話となった。あのポケモンは本来研究所にいるのを知っていたペパーはどうして外に出て来たのかを知りたがった。
「あれは私が家に忘れた物を取りに帰った時の事……」
「いや、いきなりどうした?語り部ちゃんか?」
「体力トレーニングとしてアカデミーから家まで走って帰ったんだけど、結構距離があってかなり疲れたんだよね。でもジャムさんが『トレーナーには体力が必要』って話をしてたから頑張ったんだ」
「どこで会ったのかだけ話してくれ、それ以外は話さなくていいから」
「家でご飯を食べて休憩してから家を出たんだ、その時お母さんがサンドイッチを作ってくれて後で食べようと思って来た道を戻っていった」
その時、崖下からポケモンの鳴き声が聞こえた為近寄ると崖が崩れてしまった。アオイは冷静に手持ちの飛行タイプのポケモンをボールから出す事で何とか怪我をせずに済んだ。
崖下に着陸したアオイが見たのは逃げていくデルビル達と初めて見る謎のポケモン。寝転がるポケモンが空腹である事を見て取ったアオイはサンドイッチを差し出せば一瞬で食べられてしまった。これが一人と一匹の運命の出会いであった。
「で、そのポケモンを連れて洞窟を通って崖の上に戻ろうとしたの。でも洞窟の中はかなり入り組んでてなかなか出口に辿り着けなかった。それに加えてデルビル達がいっぱいいて、その群れのボスのヘルガーがいたの。その洞窟を根城にしてたみたいですっごい警戒してたからバトルで倒して通してもらったんだよね」
「……あそこのヘルガーって俺が子供の頃からいる結構強いやつだった気がするけど」
「うん!そこそこ強かったよ」
「……」
物怖じせずに未知の洞窟に入りバトルまでやってのけたと語るアオイの姿に一瞬ジャムの姿を見たペパー。「アクティブなバトルジャンキーなのはジャムの影響か?それとも元からなのか?」と疑問に思いながらも後は頼んだと二人から離れた。
「で、これからどうするの?予定通りジムは巡るでしょ?スター団は後にする?」
「いやジムを回りながらスター団のアジトに行く。南2番エリアからぐるっと回る」
「じゃあ私は逆に南3番エリアからアジトを回ろうかな。そのまま北エリアに向かうね」
パルデアを一周して最終的に南1番エリアで残りのアジトとジムをクリアすると断言するアオイ。予定外の目標が出来てしまったがそれがバトルなら構わない、何なら逆に嬉しいぐらいだと笑みを浮かべる。
「それじゃあまたね」
「ジム巡り頑張ってね!私の二人目のライバル!」
「スター団アジトは早い者勝ちだから」
「それで良いよ!」
広場の中心で握手をして歩き出す。互いに背を向け自分が向かうべき道を進んでいく。
ジム巡りとスター団のボス撃破、それに加えてジャムの配信大会がある。やる事は多いがアオイの胸には熱い炎が灯っていた。
「あぁ、アオイだけじゃなくて生徒会長もやってくれるってよ」
「そう」
「一人だけだったら俺も助けに入らなきゃいけないかと思ってたから良かったぜ」
自身の道を進み出した二人を遠くから眺めながら二人の男女が話をしている。ボタンとペパー、二人の共犯者は計画の第一段階が無事に過ぎ去ってくれたと胸を撫で下ろしていた。
「それにしてもとんでもないバトルジャンキー加減だ、ありゃ相手する事になる一般スター団が可哀想になるな」
「あの二人、廊下でジャムの配信大会に出るって言ってたからそれまでに終わらせそうだよね。何ならスターダスト大作戦を大会の為の調整だと思ってそう」
ジャムの配信大会はパルデアチップを規定数集める事で次のステージに進む事が出来る。大勢の相手と連続してバトルする事となる事を考えればスター団の団員とバトルをするのは予行演習になる。バトルジャンキー達ならそう考えても不思議ではないだろう。
「団員の無事でも祈っとこう」
「そだね」
スターダスト大作戦はボス達の敗北では終わらない、その先でマジボスが倒されなくてはいけない。そこで初めて正式な解散を宣言が出来る。
「それは良いんだけどさ……」
「うん?」
「あのアオイって子、既に知り合いだったみたいだけど……どこで会ったの?うち何も聞いてないんだけど!?」
「うぇ!?あ、言ってなかったっけ?」
「何も聞いてないんだけど!」
スターダスト大作戦もそうだが今ボタンの頭の容量の大部分を占めているのは『自身の共犯者であるペパーが利用する相手であるアオイと知り合いであった』という事であった。
「知り合いなら知り合いと先に言ってくれれば良かったのに」「知り合いだから推してきたのか」「まだ自分に隠してる事ないよね」。そういった感情がボタンの心にふつふつと湧き始めていた。
「いや、別に隠してたとかじゃなくて!言う事でもないかな〜って思ってさ!」
「ただ少し喋っただけの相手だから言わなくて良いと思ったの?」
「そうそう!結構仲良くしてるボタンが相手ならともかく、アオイと話したの今日で二回目だから!」
「……そう、なら良いや」
不機嫌から一転して落ち着いたボタンの様子にどうしたと言いたくなったが、藪を突いてアーボが出て来ても困るとペパーは口を噤んだ。ペパーにもそのくらいの空気は読めた。
「それはそうと俺達も宝探し行こうぜ、あいつらがアジトに挑戦するまで日にちはあると思うからその間に終わらせそう」
「ちゃっちゃと終わらせよう」
「……あのさ」
「どしたん?」
他の生徒の様に街の外に向かいながらペパーはボタンに問い掛けた。ジャムのファンで影響を受けている二人のジャンキーを見てふと疑問が浮かんだのだ。
「二人以外にもアジトで腕試ししようとする奴が出て来ないか?ジャムのファンてヤバいトレーナーいるだろ?」
「……いやまさか、いやいやいや……そんなまさかね……」
「……そうだよな、そんな無茶するような奴あの二人以外いないよな……ハハハ」
「そうだよ……は、ハハハ」
パルデアの初夏の空に二人の乾いた笑い声が消え入った。