『ウィィィィィス!!どうもぉジャムでぇす!!』 作:ジャムキンTV
「うわああああああ!!!」
「た、助け、助けてくれぇ!!」
「おい!ポケモンやられた奴はさっさと回復して来い!」
「お前ら行くぞ!!!」
「「「オォォオオオォォ!!!!」」」
ボウルタウンから北に進んだ先にあるスター団ほのお組アジト。勉強机などでバリケードを作り、どこから持ってきたのか不明な自販機やテントまで完備されたそこは混沌と化していた。
悲鳴と怒号が絶え間なく聞こえ、ポケモンの技による衝撃で土煙が上がっては消し飛ばされる。50を超えるポケモンとトレーナー達によってアジトは文字通り戦場となっていた。
「くそっ!ボスが定例会で居ないって時に来やがって!」
「左から攻めろ!左!左だって!!」
「ボスには連絡済みだ!帰ってくるまで耐えろ!!」
ポケモンに指示を出しながら『どうしてこうなったのか』と団員達は皆一応に考えていた。ほんの少し前まで昨日と変わらない日常があった、しかしそれは侵入者によって崩れ去ってしまったのだ。
ほのお組のボスが居ない事を除いて普段と変わらない日であり、殆どの団員がのんきに過ごしていた。そんな時に見張りの団員から声が上がった。
「おい!誰か来たぞ!」
「バリケードの所、誰でも良いから来てくれ!」
数ヶ月前までジュンサーさんやアカデミーの教師が来る事はあった、しかし何度か来ると無意味だと分かったのか来なくなった。たまに来るのは命知らずの冷やかしのみ。
ここは自分達の居場所なのだ、唯一心休まるこの場所は誰も侵入させない。その思いを胸に数人の団員が入り口に向かおうとした瞬間──
ドギャッッ!!バガァオン!!
バリケードがひしゃげて弾け飛んだ。破片を撒き散らし幾つかの塊となり地面を転がり突き刺さる。それから逃げる様に離れた団員達はただ呆然とそれを見る事しか出来なかった。
「おっと、やり過ぎてしまった様ですね」
バリケードがあった場所から男の声が聞こえ団員達が目を向ける。土煙の中にこの惨状を生み出した何者かが居る。団員達はボールを手に取り手持ちのポケモン達を取り出し、いつ指示が出せても良い様に備える。
「突然の事で驚いている事でしょう。壁が吹き飛んできたら誰でも驚く!ええ、普通の反応です。しかし……すぐにポケモンを出して戦闘態勢になり、いつでも指示出し可能となっている。素晴らしい!」
土煙の中から歩いて出てきたのは黒のカソックを着た金髪眼鏡の男。温和そうな顔に笑みを浮かべるその男が発する只者ではない雰囲気。どうするべきかと団員達が視線で会話をする間も男は喋り続けた。
「しかし、私はただ会話をしに来たのではないのです。これは罪に対する罰なのです」
「罪に罰ぅ?なぁに言ってんだテメェ!」
「突然壁吹っ飛ばしやがって!これ作るの大変だったんだぞ!」
「ザッケンナコラー!!」
何様だと団員達から声が上がるが男は涼しい顔をして団員とポケモン達を見渡すのみ。その後、やれやれと首を振るう様子も見せた事で更に怒りが膨れ上がった団員達へ向けて、何故ここに来たのかを話し始めた。
「私はパルデア支部カトリコス司教協議会より派遣されました、アンデルセン。気安くアンデルセン神父とお呼びください。今回は貴方達を“救い”に参りました」
「す、救い?」
「えぇ、えぇ。私達は『救われぬ者に救いの手を』という言葉をモットーにしております。今回は大司教様からの要請で派遣された次第。どうかこの手をお取りください」
手を伸ばし笑みを浮かべる男が言う救いという言葉。団員達はどう考えても胡散臭過ぎる言葉に動けなかった。
カトリコスとはアルセウス教の一派の一つでありかなりの規模の存在。神父を名乗る男が本物だとしてどうして今更来たのか。
“救おうとしない大人”に対して忌避感を抱く“救われなかった子供達”からすれば男の存在は信じられるものではなかった。
「俺達に救いなんていらない」
「ほう……?」
「俺達はもう自分達で救われてるんだ」
「なるほど」
「だから出ていけ!」
「……」
「可哀想に」
雰囲気が変わった。先程まで手を伸ばし笑みを浮かべていた男から表情が抜け落ちた。向けられる冷たい視線は団員達を射抜き震え上がらせた。
「貴方達は大人に頼る事が出来なかった。これは学園の教師と親が悪いのでしょう。それによって救いを拒んでしまっている。誰にも頼れず、誰もが敵だと認識し、自分達で肩を寄せ合い耐える日々。さぞや苦しかったでしょう」
言葉が発せられる度にまるで強力なポケモンのプレッシャーを受けた時の様に体が重くなる。団員達だけではなくポケモン達も警戒しガチガチと歯を慣らしている。
「しかし、だからこそそんな貴方達を救わせていただきます。本来の目的では近くの教会で話を聞かせてもらおうかと思っていましたが……ここでやらせてもらいましょう!貴方達の罪に罰を与えましょう。罰を受けた時、貴方達は救われるのです」
カソックの中から取り出した二つのボールからポケモンが現れる。ズシンと地面を揺らし現れたのはバンギラスとメタグロス、二匹は周りを見渡し今回の相手を認識すると一歩前に出る。
「今回は拒否されてしまった為にこの様な“対応”をしてしまいますが、次のアジトでは平和に“お話し”が出来れば良いのですが……」
多勢に無勢、という言葉がある。辞書を引けば『大勢に対して少数である事』と出るだろう。二匹のポケモンに対して50を超えるポケモン達が相手になっている。ただのポケモンではなく、少し前からスター団のリーダー達によって訓練のレベルが上がり一般トレーナーでは相手にならないレベルになっている。
そんな軍勢に対して二匹のポケモンは真っ直ぐに向かった。
「バンギラス、地震。メタグロス、ヘビーボンバー」
「「ッ!!」」
大地が波打ちポケモン達が吹き飛ぶ。動けなくなったポケモン達に巨体が襲い掛かる。たった2回の攻撃で30を超えるポケモン達が戦闘不能となった。
「ケンタロス!インファイト!!」
「ヘルガー、火炎放射!」
ほのお組は手持ちを炎タイプメインにしている為に地面タイプに弱い。バンギラスは無視して鋼タイプのメタグロスに照準を絞り、弱点を突く技で攻め立てる。
「メタグロス、守る。バンギラス、ストーンエッジ」
しかし技がぶつかる直前に壁が出現して完全に防がれる。その横から岩の礫が飛び出し、ケンタロスとヘルガーを纏めて吹き飛ばす。
「オイオイオイオイ、あいつらのポケモンはボスも認める強い奴だぞ!」
「マジでヤバい……」
「俺逃げても良いかなぁ!?」
今も複数のポケモンが挑み、その度に戦闘不能にさせられてしまっている。倒されたポケモンは回復に回され、その間に次のポケモン達が飛び出す。そしてすぐに倒されまた新しいポケモン達が呼び出される。
「てかこいつジャムの配信に出てた奴だろ!」
「生徒会長追い込んでた奴かよ……」
「チャンピオンクラスじゃねぇか!!」
団員とポケモンは懸命に戦ったが、圧倒的な力による蹂躙により次第に攻勢は弱まっていった。今まで鍛えたポケモンとトレーナーとしての技術が通じず、少しずつ体力も精神も削られていく。
「で、テメーはそうやって団員達を痛めつけたと?」
「痛めつける?そこまで攻撃はしていませんよ、お嬢さん。最低限の攻撃で倒させていただきました。罪と言いましたが彼らの罪は僅かばかり、自身のポケモンが傷付く事で彼らも反省した様子です。貴方はどうしますか?」
「うっせぇしウッゼェな。これだから大人って奴は嫌いなんだよ」
団員達の心が折れ抵抗できなくなった時、ほのお組のボスである“メロコ”が現れた。
団員からの緊急の連絡が入ったメロコは手持ちのウインディの背中に乗り込むと、真っ直ぐ自身のアジトに向かった。川を飛び越えアジト近くの大岩の上に飛び乗ったメロコが見たのは滅茶苦茶になったほのお組のアジト。
地面は掘り返され、足場やテントが無惨な姿で潰されている。少し前まで平和だった居場所を壊されメロコの心は怒りで満ちていた。
「連絡は途中で何度か来てたから知ってるぜ、テメーは救いがどうたら罪と罰がどうたら言って襲ってきたんだろ?」
「確かにこちらからバトルを仕掛けました。それは対話を拒否されたからです。しかしそれによって罪は精算されました。しかしこのまま見過ごしては同じことの繰り返し、彼らは保護させていただきます」
「オレ達にそんなもんは必要ない。今更だろ?」
メロコ達は何度も助けを求めた、その度に拒否され続けた。だからこそ自ら行動を起こした。
自分達の救済の為に動き出したスター団には今更大人達の助けなど必要ない、自分達で生きていける。そう思い今までやってきた。
「子供達で生きていく?その先に待っているのを理解しているのですか?今はどうにかなっているかもしれませんが、除籍された時貴方達は学生でなくなるのです。職に付かずズルズルとその生活を続ければどうなるか」
「……」
メロコや他のボス達、一般団員達も気付いている。今のまま停滞し続けても待っているのは暗い未来だけだ。だけど、周りから拒絶され一歩踏み出してしまったスター団には今更後戻りなど出来ない。
「テメーはオレを怒らせた」
「やれやれ、話は平行線ですか。まぁ良いでしょう、やる事は変わりません。複数を相手にするバトルは得難い体験でした。これは次の大会で活かせますね……んん、ではお相手願いましょう!」
「オレらに喧嘩売った事後悔させてやる!派手に爆ぜろや!!」