『ウィィィィィス!!どうもぉジャムでぇす!!』 作:ジャムキンTV
アオイのパルデア生活はアカデミーとテーブルシティで完結していた。ちょっとした買い物なら購買、服やポケモンの道具はテーブルシティで済む。初登校と忘れ物を取りに帰った時を除けば外に出た事はなく、宝探しの期間になって初めて他の場所を見て回る事となる。
ジャムの配信で何度も「高低差が激しく徒歩による移動が大変」「レベルの高いポケモンが群生する危険地帯あり」「標高の高い雪山の山頂にジム作るな」という言葉を聞いたアオイは不安を抱きながらもそれを上回るワクワクを胸に歩み出した。
「気温は高いけどカラッとしていて過ごし易いねぇ」
南2番エリアは初夏にも関わらず過ごしやすい気候であった。新しい仲間となったニャオハと草原を進みながら、野生のポケモンやトレーナーとバトルをして経験を積んでいく。夜になる前にポケモンセンター近くの宿泊施設へ到着し、休息を取ったアオイは昼間に出会った初めて見るポケモン達の事を思い出しながら眠りに就いた。
二日目になり草原を抜けた先にあったのは広大なオリーブ畑。高台の上を登った先、見回す限りの畑に目を奪われたアオイは少しの間手持ちのポケモン達とオリーブ畑を眺めていた。
パルデア十景“オリーブ大農園”。パルデアを象徴する産業の一つであるオリーブはここから全国へ出荷されていく。パルデアでは色々な料理にこのオリーブが使われてきた。
このオリーブを求めて野生のポケモンもやってくるが、そのポケモン達の協力によってここは大農園へとなった。
「あらあら、確か宝探しは昨日始まった筈……もうここまで来たのですか?」
「はい」
大農園近くの農村“セルクルタウン”。その中心部にあるパディスリームクロジにやってきたアオイは店長兼ジムリーダーである“カエデ”を見つけると早速勝負を挑んだ。
「まずはジムテストを受けてから。テストが終わる頃にはこっちの準備は終わると思うの」
「ジムテスト?」
「セルクルタウンのジムテストは“オリーブころがし”。町の外にオリーブころがしのコースがあるから、そこで大きなオリーブを転がすの。コースをクリア出来たらまたここに来てね」
オリーブの収穫の時期に町で行われる“オリーブ収穫祭”では、オリーブの形の大きな球を転がすのが慣わしとなっている。それによって来年もオリーブが豊作となるとされきた。
今では観光客も参加するイベントとなっており、それをジムテストとして挑戦者に行わせているという。
「割と楽しかった。ねぇロトム、祭りっていつやるの?……祭りは十月?なら、今度はネモと一緒に来ようかな」
普段からアカデミーを駆け回るアオイは苦戦する事なくコースをクリア出来た。ロトムに調べてもらった祭りの情報にはもっと凄いコースを体験出来ると書かれている。それを見たアオイはネモにもやらせてみようと考えていた。
なお、ネモは勢い良く転がしたオリーブの球が壁で跳ね返り、そのまま球に弾き飛ばされK.Oされた過去がある。
「それじゃあ、今度はみんなの番だよ。先鋒はニャオハ!初めてのジムバトルだけど、みんながいるから安心して?」
「それでアンタも何かしに来たのか?悪いけどこっちは立て込んでる。邪魔だから消えてくれ」
「えぇ〜!折角バトルしに来たのにぃ〜」
「……バトルジャンキーの生徒会長の話は聞いてたけど、この惨状を見て純粋にバトルする気満々とかイカれてるだろ」
ほのお組アジトで行われたバトルはメロコの勝利で幕を閉じた。スターモービルすら大破する程の激戦であった。しかしギリギリで勝利を手にした筈のメロコの表情は優れない。自身が離れている際に団員はやられアジトはボロボロ、負かした相手は「色々と得られました」と笑顔で帰っていった。心の内の炎は今も燻り続けていた。
しかし、そんな時に現れたのが生徒会長“ネモ”。バトルをしに来たと言う少女の純粋な視線を受け、苛立っていたメロコも気が抜けた。
「見ての通り、アジトはボロボロだ。アンタ、バトルジャンキーのネモだろ?穴ボコだらけのフィールドじゃ満足にバトル出来ねぇ、だから今日の所は帰ってくれ」
「そっか……うん、分かった!じゃあ別の場所でやろうよ!」
「いや、場所変えるとかじゃねぇから。オレも今さっきバトルして手持ち全員疲れてる、オレもまともに指示出せねぇ。だから今度にしてくれ」
「じゃあ明日の13時にバトルしよっ!お昼しっかり食べてからね!ね!!」
「う、うるせぇし近い!分かった分かった!明日の昼過ぎにやってやらぁ!!」
「それじゃあ私ボウルタウンにいるから!」
手を振って走り去るネモを見送りメロコは大きな溜息を吐く、どうしてこうも立て続けに問題が起こるのかと。振り返った先では団員達がメロコを見ている。
やれやれと頭を振るい団員達に近付き声を掛ける。地面の穴埋め、テントの立て直し、その他諸々……。やらなくてはいけない事は多い。
「お前ら!負けたのは仕方ねぇ、相手が強かったからな。でもこのまま終わっていいのか?負けたままでいいのか?良くねぇよなぁ?そのまま燻って消えちまっていいのか?」
「……いや、やり返してやりてぇ」
「これで終わらせてやれねぇよ」
「あの野郎絶対許せねぇよ!」
メロコの声に団員達が答える。このままやられっぱなしじゃいられないと団員達の心の内で燻り消え掛けていた炎がまた燃え始めた。
それを見て笑みを浮かべたメロコはアジトの再建の為に指示を出し始めた。このまま終わってやるものか、あの野郎に痛い目見してやると。
「やっぱりあの悪い予感は当たってたな」
「うん……」
二人を見送った後、ボタンとペパーの二人は“ヌシ”と呼ばれるポケモンの棲家を訪れていた。デカくて強いヌシを二人で倒して追い払った所にボタンのスマホロトムが「緊急事態ロト!」とけたたましく叫び始めた。
スター団専用連絡アプリには緊急事態にアラームが鳴るという仕掛けがある。それはボタンも例外ではなかった。アプリ内で団員達の書き込みが矢継ぎ早にされ、二人はアジトが襲撃を受けた事を知った。
「この画像の男、前にジャムの大会に出てた奴だ。滅茶苦茶強くて生徒会長がギリギリで勝つレベル」
「……でもそんな相手に勝つなんて、みんな凄い強くなってる」
「まぁあの二人ならボス達にも勝てるだろ」
「だと良いけど……」
襲撃を受けたアジトはほのお組団員達が総出で再建に尽力している。しかし過去に類を見ないレベルの被害は他のアジトにも少なくない影響を及ぼしており、自分達も被害を受けるかもしれないという不安が広がっていた。
「“スパイス”の効果がある事は分かった。幾つあるのかは分からないけど、もっと集めなくちゃ完全には回復しない。俺達も頑張らなくちゃな」
「……ヌシの居場所は何ヶ所か分かってるけどかなり離れた場所にある。サクッと回らなくちゃね」
ペパーの目的は“秘伝スパイス”の確保。手元にある本に載っていたスパイスはパルデアの大穴のみ存在するとされていたが、それが外にもあると知ったペパーはボタンを連れてその確保に乗り出していた。
その裏でスター団が襲撃を受けたと知ったボタンはショックを受けていたが、あの五人なら大丈夫だと自分に言い聞かせペパーの手助けを優先した。
しかし。
「ロトロトロト!他のアジトでも何か起きてるみたいロト!」
「ッ!?」
「な、何が……」
立て続けに行われた書き込みを見てみれば、ほのおアジトだけではなく他のアジトにもスター団と関係のないトレーナーが現れたという。
あの神父の様に無理矢理仕掛けてくる訳ではなく「バトルをしてほしい」と普通に挑まれた結果、団員達がバトルを始めてしまっていた。
挑まれたからには勝負を受けるのがスター団の流儀、他四ヶ所のアジトの周囲やアジト内でバトルが勃発している。
「オイオイオイオイ……どうすんだボタン」
「まさかあの二人以外こんなにスター団に挑戦するトレーナーがいるなんて……てかなんで宝探し期間になって突然挑み始めたし!これみんなアカデミーの生徒なわけ!?」
頭を掻き毟りながら叫ぶボタン、そんなボタンに「髪の毛が痛むからそれ止めろ」と櫛で髪をとかすペパー。
矢継ぎ早に起きる騒動に胃を痛める二人に平穏は訪れるのだろうか……。