『ウィィィィィス!!どうもぉジャムでぇす!!』 作:ジャムキンTV
「てめぇ様は、何をしてくれちゃってんだスギ?」
会場となった街に響き渡る“第一予選突破者”のアナウンスに皆一様に驚いていた。大会が始まって3時間も経っておらず、そろそろ昼食でも食べようか何て呑気にしていた所にこの放送である。バトル中だというのに指示を出す事すら止めてしまい、ポケモンから抗議の視線を向けられるトレーナーもいた。
そんな中一人の男が呟いた。街の喧騒の中では誰にも聞かれずに立ち消える程の音量であったそれに続き、更に言葉が溢れ出る。
「なっ……お前やりませんねぇスギィ!!!!ポッチャマはんコイツ倒しましょうよ!!」
「ポッチャマ……」
怒りに震えながらも勇ましくもある言葉に足元にいる手持ちポケモンが応える。二人(一人+一匹)(二匹かもしれん)は拳を握り、けたたましく鳴り続けるスピーカーへ誠に遺憾ですという視線を向けた。その先にいる一位通過者を倒してみせるという強き意思発見伝!
そして二人は更なる獲物を探し求め、野獣の眼光で辺りを見渡した。
「でももう時間が時間だから、みんな店入ってますよぉ〜」
「ポッチャマ……」
昼の時間となった事でトレーナー達は食事処を求め姿を消してしまった。いや、普通に人はいるのだが、皆同じ目的を持って歩いている為「どいつがトレーナーなのだよ」という状態になっていた。
「ホラホラホラ、ちょっと腕見せい腕」
「ポッチャマ……」
雑踏の中、必死に目を凝らす二人だがバックルなのかTDN装飾なのか分からない。相手がトレーナーだと分かっても「あ、これから飯なんで」と袖にされてしまう始末。
「目が合ったらバトルってそれ一番言われてるから、お前らトレーナーダルルォが!?」
「パルデアでは目が合っても強制バトルではないゾ」
「キェェェェェェェェェェアァァァァァァァァァァシャァベッタァァァァ!!!」
「あっやべ……ポッチャマ……」
怒髪天から一転、長年時を共にしてきた相棒の突然の人語に思わず甲高い声を上げてしまったトレーナーを誰が責められよう。これぞ一転攻勢なり。
男とポッチャマの出会いは、くっそ激烈に汚い川に捨てられていたポッチャマを男が拾ったという所から始まるのだが、今は詮無き事……。
「……んまぁそう、やっぱり俺達も飯行きましょうかねぇ!メシメシ!(飯処【田所】)」
「ポッチャマ……」
一位通過を狙って必死こいてバトルしてた彼らは疲労困憊。吹けば飛ぶという体たらく。まぁもう一位通過は出来ないんですけどね、と開き直りここはラーメンでも食べましょうよとマップアプリで周辺のラーメン屋を調べ始めてしまった野獣。
そんなトレーナーを見上げながら「やれやれだぜ」とクールに呆れながらも腹の虫が鳴り続けているMUR。
3勝2敗(パルデアチップ2個)(差し引き不敗)で停滞する彼らの未来は……!?
「ヒャッハー!パルデアチップ3個目だァ!!」
「俺は4個目だもんねぇ!!」
「「ギャハハハ!!」」
アカデミーの制服に身を包んだモヒカン二人の声が響く。身長が2メートルあるのではないかという巨体と厳つい顔で他の参加者が萎縮する一方、そんなの関係ないと挑んでくる者達がいた。そんなトレーナー達を男二人は悉く捩じ伏せパルデアチップを確実に集めていた。
互いにチップを見せ合いゲラゲラと笑う二人。そんな二人の後ろにはこれまた厳つい“漢”がいた。筋骨隆々な肉体に耐えられなかったカッターシャツは弾け飛び、今は肩に掛けたブレザーのみが上半身にあった。
「……」
「お、兄貴が“闘気”を練ってるぜぇ?」
「あの放送で兄貴もエンジン掛かったみてぇだな」
二人の目線の先で静かに座す漢の周りの空間は歪み、地面に散らばる塵芥が浮かび上がる。
瞼は閉じられどの様な考えをしているのかは分からないが、きっとこの漢も熱い思いを抱いているのだと舎弟二人はただ見守っていた。
「(そんな訳がなかろう)」
しかし、キラキラとした目で見てくる舎弟二人に内心でそう呟く“兄貴”。本来漢は参加するつもりはなかった。いつの間にか出来ていた舎弟がいつの間にか申し込んでいた大会に参加する事となっていたのだ。
最初は鬱陶しいと思っていた二人が漢の世話を焼き続け、漢は役に立ち都合が良いと放置していた。その為に今回の参加が決まってしまった。普段の漢なら拒否していたが、舎弟二人の熱視線に耐えかねて参加してしまった手前、今更後に引けなくなってしまっていた。
「やれやれだぜ」
「お、兄貴の“やれやれだぜ”が出たー!!」
「やる時はやる、って時の合図だぜェ!」!
それにしてもこの二人、喧し過ぎである。心の中で再度やれやれだと呆れながらも手の中で転がるチップを見る。
パルデアチップ、6個。凶悪な人相をしている漢へ挑んだ勇者達の数である。
漢は見た目だけでなく、トレーナーとしても強かった。手持ちは物理を得意とするポケモンばかりであったが、物理耐久型から搦手型まで色々なポケモン達をその力で打ち果たしてきた。
「兄貴兄貴!ちょっと向こうにトレーナーがいるんでバトルしてきやす!」
「俺もちょっと離れた所にいる奴とバトってくるんで!」
「……おう」
意気揚々と自身から離れる舎弟を見送りどうするかと考える。時間まで呑気に待ってるのも退屈で面倒、さっさと勝ち進んでも明日も参加する事になる。
「だが、負けてやるのも癪だ」
一度は負ける事も考えたが「そんな俺にも譲れない物はある」という思いがすぐに浮かんだ事に自身でも笑ってしまった。面倒だと思いながらもわざと負ける事は矜持が許さないのだ。
「ままならんものだな」
遠くでバトルを始めた二人を見ながら視線を横に向ける。漢はジャムの配信はバトルだけ見ていた。チャンピオンクラスのトレーナーやチャンピオンクラスではないが強いトレーナーを見てきた。
その一人がこちらに向かってきていた。視線が交差する。腹が減ってきていたがそんな事は関係ないと相手に向かって歩いていく。
これからどうするのか方針は決まっていないが、挑まれたからには応えねばならないとボールを手に取った。
「は????キレそうなんですけど????」
公式の放送であの女とジャムが楽しそうに喋っているのを見て、思わずスマホロトムを握り潰しそうになってしまった。手の中でロトムのローちゃん♡が暴れている。
一位通過は出来なくても、上位で進出してジャムにアピールしようとしていたのに!
「前のリーグ公式放送であれだけ言ったのに……こいつは、本当に不愉快ねェ!!」
あの放送でのバトルは負けてしまった。あれだけ言った上で負けてしまった。それによってただでさえマウント取れなくてムカついているのに、界隈での自分の立場は危ういものとなっていた。今まで自由にやってきたのにあの負けの所為でカーストは下がり続けた。あれもこれも全てあの女のせいだ。
「……まぁいっか♡ここで悩んでももう遅いし、あの女は後で〆ればいいし♡私はジャムのおかげで更に強くなってるから、絶対負けないだろうね♡」
したくもない努力を乗り越えて、私は強くなった。もうあの苦い思い出を味わうつもりはない。
「それじゃあちゃっとバトルしてパルデアチップ?を巻き上げましょ♡さーて、次の相手はどこかな〜?♡」
少し離れた場所でトレーナーらしき人達がいるのが見える、あの人達にバトルを挑もうかな……ん?
「うわ、あれ前の配信で揉めてたやべー奴じゃん」
「リーグのやつ?あれヤバかったよねぇ」
「放送事故ですやん、あんなん」
「……」
ちょっとだけ本気出そうかな♡みんなボコすから♡