乗馬クラブでニンジンあげた馬が中央5勝してたのでウマ娘にした   作:CK/旧七式敢行

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浜辺を駈ける一頭のサラブレッド。
カフェブリッツは時代の狭間を駆け抜け「二度」オープン馬になった。
これは同じ名をもって生まれた一人のウマ娘の物語。





淀の黒い風

私は、浜辺の湿った砂を力強く撒きあげるウマ娘のお姉さんたちを追いかけていた。

「トレセーン!」

「ファイッ!」

「おー!」

「ファイッ!」

「おー!」

夏合宿に来ているトレセン学園のウマ娘のお姉さんたちは掛け声をかけながら浜辺でランニングをしている。

「おー!」

小さく掛け声をあげながら私もそれにならう。

「キャンター!」

速歩から駈歩にスピードアップしたお姉さんたちの背中が離れていく。

私はその背中に追い付こうと必死に後を追う。

けれど差は開くばかり。

「はぁ……はぁ……」

ついに力尽きた私は、砂浜に膝をついた。

遠ざかっていく体操服の後ろ姿に手を伸ばす。

ーーまって、私も一緒に走りたい。

だんだんと景色はぼやけていく。

ーー置いていかないで。

やがて、世界は真っ暗になった。

 

「リッちゃん、起きて」

「んん~……」

お母さんの声で、私は目を覚ました。

「次は淀~淀~。京都レース場はこちらです。列車内及び駅構内が大変混みあっております」

車内のアナウンスがもうすぐ京都レース場の最寄り駅につくことを伝えている。

周りの人達も荷物をまとめたりスポーツ新聞をお尻のポケットに詰め込んだり慌ただしい。

「わぁ......」

改札を出た私は、初めて足を踏み入れたレース場の人と熱気にただただ圧倒されていた。

菊花賞一色の京都レース場には去年の覇者エアシャカールをはじめナリタトップロード、セイウンスカイにマチカネフクキタルなど歴代の菊花賞ウマ娘のポスターが貼り出されている。

「抜けたのはアドマイヤコンドル! アドマイヤコンドル人気に応えて快勝!」

場内放送が今決着したレースの様子を伝えている。

「……あれ?」

売店のニンジン焼きの匂いにつられて足を止めてしまった私はいつのまにかお母さんとはぐれてしまった。

「お母さん?」

あたりを見回してお母さんの姿を探す。

もと来た方もスタンド側の方にも、お母さんの姿は見えない。

「いた!」

芦毛の後ろ姿を見つけた私は駆け寄って手をつかむ。

「お母さん! じゃない……?」

芦毛のお姉さんはわたしに気づくと困ったように耳を畳んだ。

「グレイス、迷子か?」

グレイス、と呼ばれたお姉さんに声をかけたのは両手に紙コップを持ったおじさんだ。

「この子のお母さんも芦毛みたい」

八の字のような変わった耳飾りをつけた芦毛のお姉さんは私と目線の高さが同じなるように腰を落とす。

「最後にお母さんといっしょにいたのはどこ?」

「にんじん焼きのところ……」

にんじん焼きにつられて迷子になったことを告げると、お姉さんとおじさんは顔を見合わせた。

「スリーデイズのとこか、たしかあそこの裏にインフォメーションあったよな?」

「うん、そのはず。ちょっと行ってくる」

お姉さんに連れられてにんじん焼きのお店の壁の反対側にあるデスクところに行くと、私のお母さんが待っていた。

「リッちゃん!」

「娘さんですか?」

「すみません、娘がご迷惑をかけました」

「いいんですよ、メインレースの前に見つかってよかったですね」

「本当にありがとうございます」

何度も頭を下げるお母さんと一緒に私も頭を下げた。

 

ファンファーレが京都レース場に響き渡ると、身体が震えるほどの拍手と歓声でファンが応えた。

「クラシック最終戦、菊花賞。最後の一冠を賭けて15人が挑みます」

「枠入り順調……スタートしました!」

先手をとった人気薄のウマ娘が先頭に立ち、レースを引っ張っていく。

「デスヘッドマイナーがいきました!」

一周目のスタンド前、逃げウマを先頭に地面を揺らしながら15人の出走者が駆け抜ける。

「デスヘッドマイナーが先頭です、そしてタニノトリビュート、ブライトメモリー、エアエミネムそのあとジャングルポケット」

耳が覆いたくなるくらいの歓声を浴びてウマ娘のお姉さんたちがスタンド前を駆けていく。

二週目に入っても先手をとったデスヘッドマイナーが快調に逃げている。

3コーナーから一気に中団の各ウマ娘が動き始める。

「デスヘッドマイナーが先頭! タニノトリビュートも粘っている!」

二番手追走で失速したタニノトリビュートと入れ替わるように

「マンハッタンカフェとエアエミネムも来た」

「ようやくジャングルポケット! 現在4、5番手、ジャングルポケット間に合うか!? 残り100メートル!」

バ場の3分どころに持ち出した真っ黒な勝負服のウマ娘が先頭に迫る。

「マンハッタンカフェがグングン差を詰めてきた、デスヘッドマイナー逃げ切るか!?」

疲れの隠せない逃げたウマ娘とはけた違いの力強いストライド。

「マンハッタンカフェ! 並んでかわしてゴールイン!」

三強と呼ばれたウマ娘のうち、ダービーウマ娘のジャングルポケットは4着。

逃げたウマ娘をゴール板の直前で黒い風のように差し切ったマンハッタンカフェさんの姿は、今も瞼の裏に焼き付いている。

 

昼下がり、リビングのソファーでその時を待っていた私はバイクの音で飛び起きた。

「カフェブリッツさんですね、ハンコかサインをお願いします」

郵便配達のおじさんが大きな封筒と受取票を私に手渡す。

サインを書いて受け取った「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」の文字の入った封筒はずっしりと重い。

「はがきサイズは不合格通知、大きな封筒が来れば合格か補欠合格」

何回も調べたトレセン学園入学の流れの記事にはそう書かれていたけど、開けるまではわからない。

これでダメならローカルを受験してトゥインクルシリーズに移籍するか、更に狭き門の編入試験に掛けるしかない。

封筒の封を開け、中身をおそるおそる取り出す。

「合格通知書 受験番号9-267 カフェブリッツ殿 あなたは今年度トレセン学園入学者選抜試験の結果、本校に合格しましたので通知します」

「や、やった……っ!」

最初に封筒から出てきた紙に書かれた内容を何回も見返して、私はこれまでで一番の胸の高鳴りを感じた。

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