乗馬クラブでニンジンあげた馬が中央5勝してたのでウマ娘にした   作:CK/旧七式敢行

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トレセン学園第61期生

「私たち新入生全員でデビューし、レースに勝つだけでなくファンの皆さんに夢を与えられるようなウマ娘を目指して頑張ります!」

新入生代表のサトノダイヤモンドが新入生挨拶をそう締めくくって一礼すると、在校生のウマ娘をはじめ会場から大きな拍手が送られた。

今年は352人のウマ娘がトレセン学園に入学してきた。

新入生が退場してから在校生、最後に俺たちトレーナーと職員がホールを後にする。

トレーナーのたまり場である休憩室に戻ると、早くも新入生のプロフィールや入学試験での成績がのった新入生名簿を広げて期待の集まるウマ娘の話でもちきりになる。

「サトノダイヤモンドちゃんかぁ。あんな強そうな子、一度でいいから担当してみたいな」

新入生代表に選ばれるだけあって、入学試験でのタイムはぶっちぎりだった。

「無理無理。サトノさんとこの超がつくお嬢様だろ、僕らみたいなペーペーには縁がないさ」

「あーあ、オレもめちゃくちゃ強い子の担当になりてぇ」

当然ながら良家の出だったり良血のウマ娘の競争率は高い。

それどころか、メジロやシンボリといった家の子にもなるとデビュー前からあらかじめ組むトレーナーが決まっているような子もいる。

「はは、若いのは夢があっていいな」

「富岡さん」

肩を叩かれた俺が振り向くと、今は教官としてデビュー前のウマ娘の基礎トレーニングを担当している富岡ささんが立っていた。

現役時代はオークスウマ娘や日本初のグランドナショナル完走ウマ娘を担当してきたベテランだ。

「トミさんもまたトレーナーやりましょうよ、障害グランドスラム達成してないじゃないですか」

俺の言葉に「芦毛の暴風」——そう称されたウマ娘のトレーナーから夫になった富岡さんは苦笑した。

「バカ言え、そんなことやったら嫁に袋叩きにされるっての。いいか、アイツはな……」

ちなみに、かなりの愛妻家でも知られる。

「あーあ、トミさんのノロケが来るぞぉ」

大げさに同期の入津が耳をふさぐジェスチャーをする。

「せっかく嫁自慢をしてやろうと思ったのに……今年もあいつらには基礎をみっちり叩き込む。そっからどう伸ばすかはお前らの頑張り次第だ。がんばれよ」

トレセン学園に入学したウマ娘たちは本格化を自覚するまでは教官たちがまとめて基礎トレーニングをつける。

「トミさん、芦毛の子を贔屓しちゃだめっすよ?」

「入津、お前には今度芦毛の良さをたっぷり教え込んでやるから覚悟しとけ」

すかさず茶化した入津に富岡さんのツッコミが入る。

すぐに最初の選抜レースがやってくる。早い子はダービーの翌週から組まれるメイクデビューに出走することになる。

 

 

入学式を終えて教室に戻ってきた私は、座席表で割り振られた席に腰を下ろした。

机の上には「学園生活の手引き」「困ったときは」「生徒会会員募集」といったタイトルのプリントや冊子が薄緑の手提げ袋にまとめて入っていた。

「こんにちは、これからよろしくね!」

遅れて教室に入ってきた黒鹿毛の子は私の隣の机に腰を下ろすなり声をかけてきた。

私と同じ紅白の名札には「スマートオーディン」と書かれている。

「カフェブリッツです。よろしくお願いします」

「じゃあリッちゃんだ。私スマートオーディン! 長かったらオーちゃんでもおでんでもいいよ!」

お母さんと同じ呼び方をされたことより、私はスマートオーディンさんの愛称に驚いた。

「おでん……?」

「オーディンだから『おでん』面白いでしょ?」

にっと白い歯を見せて笑うと、スマートオーディンさんは反対側のウマ娘に話かけていった。

「キミ名前は? 私スマートオーディン!」

「はい、皆さん席に戻ってください」

担任の先生が入室すると教室のざわめきが収まり、他のウマ娘たちも席に戻った。

 

 

2時間ほどのオリエンテーションを終えた私たちは寮長のフジキセキさんに連れられて寮に向かった。

「栗東寮はこっち、美浦寮が奥だよ。建物が似てるから間違えないようにね」

「すごい……」

「リッちゃんまた明日~!」

「うん、また明日」

B棟に向かうスマートオーディンさんに手を振り、A棟の玄関をくぐる。

203号室のネームプレートに「サトノアラジン」の下に私の名前があるのを確かめてドアをノックした。

「どうぞー」

ドアを開けてくれたのは私と同じ鹿毛の先輩だ。

「こんにちは、カフェブリッツです。これからよろしくお願いします」

「はじめまして、カフェブリッツさん。私はサトノアラジン」

「荷物はこれでそろってる?」

先に送っておいた荷物は綺麗に整えられたベッドのそばに置かれている。

「多分、大丈夫だと思います」

「何か必要なものあったら言ってね」

ベッドのそばに積まれたダンボールの一番上にある「すぐ使う」と赤いマジックで書いた梱包を開き、部屋着や洗面道具といった身の回り品を取り出す。

教科書やノートも棚に収め、最後にデスクの上に写真を置く。

お小遣いを前借りして買ったマンハッタンカフェさんのデジフォトだ。

「これマンハッタンカフェさんだよね。ってことは、菊花賞?」

写真を覗き込んだアラジン先輩がゴール板の装飾に気づいた。

「はい。初めて生でレースを見に行ったのが菊花賞だったんです」

「実はね、私も去年走ったんだよ。菊花賞」

「ええっ!?」

まさか同室の先輩が菊花賞を走っていたなんて。

「ほら」

アラジン先輩がスマホのロック画面を見せてくれた。

「ほんとだ! すごいです!」

画面には勝負服姿のアラジン先輩とトレーナーさんが京都レース場のパドックで並んで立つ姿が映っている。

「まぁ、掲示板にものれなかったんだけどね……」

そうこぼしたアラジン先輩の表情がかげった。

「でも夏までに、絶対また勝つから」

アラジン先輩がこぶしを握り締める音が、私にははっきりと聞こえた。

壁に貼られたカレンダーの三週目の日曜日には大きな赤丸がつけられている。

4月19日。クラシック一冠目、皐月賞と同じ日だ。

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