Rocket Queen   作:酢味噌ニアン博物館

4 / 17
はむきたす崩壊の序曲


第4話 青 リョウ編

あれからしばらくして私達の前のバンドの出番がそろそろ終わる頃、私は舞台袖の控え室で肩からベースを下げメンバー達と

乗り気でもない円陣を組まされて

 

メンバーの一人が「今日もいつも通り頑張ろう!」と

口上を言い、それに呼応して

「おぉー」なんて柄でもないことをしていた。

 

そうして迫る時間を浪費しているうちに前のバンドのラストナンバーが終わり、ステージと繋がる控え室のドアが開き

暗転した空間の色と一緒に甘ったるい香水の匂いと煙草の匂いが

私を包むかのように、緊張で強張った体を突き刺してきた。

 

 

そう、遂に私達ざ・はむきたすの出番が来た。

 

事務的にいつも通りベースアンプとエフェクターのつまみをイジり、軽く音合わせをしてリハを済ませ

 

(怖くない…何も緊張することはない…)

 

そう心に言い聞かせ、ドラムとギターボーカルの私の3人で

合図を送り

4カウントで曲を始めた。

 

私は光が後ろから降り注ぐこの場所で

ただひたすらに私の世界に入り込み

無の境地との狭間で聞こえるドラムに合わせ

私の放つ音以外聞こえないほど集中していた。

 

ふと目を向けると私達の曲のビートに合わせてリズムに乗ってる虹夏とジョーがそこにいる

 

(さすがは我が友、よくぞ音を聞いてるな音を)

 

そんな風に二人を見ながら再び自分の世界に戻ることにした

 

そうして数曲こなし、いよいよラストナンバーになった。

 

するとうちのギタボが「ついこの間できた曲です!では聞いてください…」

と曲紹介をした。

 

そう…このライブの本当に少し前に出来た曲。そして私に初めて売れる為には?という重大な問題と挫折と絶望を与える原因となる、このバンドの崩壊の序曲となる曲だった。

 

そして、その忌々しい曲の演奏が終わりステージを降りようとしたその時、デカい拍手と声援が送られてきた。

 

私はその客からの"ウケの良さ"にとても驚いた。

そして私達のライブで終始拍手と声を上げていた主が

彼だと分かった瞬間ニヤリと

「してやったぜ」と笑ってみせた。

 

私達の出番が終わったので

さっきの雑談の続きでもしようかと虹夏と彼が来るのを

バーカウンターの前で先に待っていたら

 

メンバーの二人が「リョウ…ちょっといい?」と

机を囲み手招きをする。

 

何を言おうとしてるのか私には何となく察しがついた。

 

「さっきのライブのことなんだけどね、最後の曲あったでしょ?…」

 

「最初の2〜3曲に比べて最後の曲のほうが客のノリが良かったてしょ?」

 

「今の路線よりもっと曲と歌詞を売れ線に寄せていこうと思うんだよね」

 

「そう思ったんだけど、リョウはどう思う?」

 

案の定、そんな空虚なモノによってアイデンティティを失い

私の魂を空虚な"モノ"に売れと言われているような質問だった。

 

でも残念なことに人とコミュニケーションを取るのが苦手な私は

今まで彼女らと書いた私の好きだった

青臭い歌詞を一緒に奏でることが出来た

このバンドくらいしか寄りつけるところがなかった私は

本心とは裏腹に

 

「そうだね…そのほうが売れるならいいと思うよ」と

 

自分の心を押し殺して顔に出さず答えた。

 

そうして空虚な"モノ"の為にした会議は終わり

ふと外の方を見ると、ジョーと虹夏がいた

 

私はそんな空虚な"モノ"より、今は数少ない友人達を選ぼうと

彼らの方へ足を運んだ。

 

するとジョーと虹夏が

「おつかれさま」と優しく声を掛けてくれたので

 

 

そんな彼らの存在感に安心してしまって

 

「ハァ…」と

 

深いため息が出てしまった。

でも何故か本心を見せまいと強がってしまって

 

「ごめん昼にカレー食べてお金ないからあとで近くのラーメン屋でチャーシュー麺奢って」と

 

グスのようなお願いをしてしまった。

すると虹夏が

 

「リョウ!会って初日の人にラーメン奢って貰おうとしないの!」と

 

ごもっともなお叱りを受けてしまった。

けど、そんな虹夏を何故かジョーは首を横に振り

制止させた。

 

(あぁそうか、きっとジョーには私が今何を考えてたのかお見通しなんだろうな。)

 

 

 

#5へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。