「拠点というからやくざの事務所みたいなものを想定していたのだけど……」
プローブに案内された拠点にまで来てみれば、そこはシャッターの閉まった二階建ての店舗だった。
住居は二階、一階が店舗となっており、その業務内容というのが意外や意外、雑貨店である。
かわいらしい小物がこまごまと並べられており、これらを丁寧に並べたのがプローブ含め強面の彼らなのだと思うとちょっと面白い。
「君たちみんな薄緑のパーカーを着てるから、あるいはカラーギャングかと思ってたよ」
「こりゃここの制服だな」
私が最初に彼らから奪ったオーバーサイズのパーカーだが、薄緑色である。
プローブ含め全員似た色のパーカーを着ていたため、なんらかの集団に属しているのだとは思っていたが、まさかの雑貨屋。
店長はプローブ、弟分は従業員とのこと。
店の中ではエプロンをつけており、こうしてみるとまあ、きちんと雑貨屋店員だ。やはり少々強面だが。
「まだ開業前だがな! オレはこういう店がやりたくて故郷で金を貯めてこっちまででてきたんだ」
「夢があるのはいいことだよ。てっきり君には喧嘩しか楽しみがないのかと思っていたさ」
「喧嘩も好きだぜ!」
大丈夫かこの店。
いや、大丈夫でないから周辺住民ともめているのか。まいったな。
「弟分たちはここに来る途中で拾った」
そういわれた3人の弟分たちは、口々に言い分を述べた。
「拾われたっつーか、スリしたらバレてぶん殴られただけなんすけど……」
「オレはカツアゲしようとしたら返り討ちにされただけっすね……」
「俺たちゃてっきり兄貴は龍門で天下とるもんだと思ってたんすけどね……」
「馬鹿野郎、この店の売り上げで天下取ってやらぁ」
戦闘民族ってすごいな。意外とコミュニケーションって暴力でもいいんだ。
プローブとその弟分たちの間で雑貨店経営に関する認識違いもあったようだが、現状うまくいっているのなら問題ない。
弟分たちもなんだかんだいいつつ、ここで働くことに希望を持っていそうな様子だ。
「オレたちはアングラなことやってしか生きてけねぇと思ってた。道を示してくれた兄貴に一生ついてくって決めてるんス」
「目的があるのはいいことだ。改めて、殴って悪かったね。お金もいずれ返すからさ」
「いいんスよ。強いやつが絶対なんで」
戦闘民族の思考に染まっている。
途中で拾ったと言っていたので彼らはプローブと同じ出身地ではなさそうなのだが、文化で殴ると人はこうなるのか。
「私の記憶がどうにかなるまで面倒を見てくれると助かるな。対価として、このあたりの住民と仲良くなるのに協力しよう」
「そりゃ助かるぜ兄弟。アンタがいりゃ百人力だ」
協力を申し出るとプローブが顔を輝かせたので、私はそれを制した。
「待て、絶対に誤解がある。そういう意味で手を貸すのではないよ、抗争はしないからね」
あからさまにがっかりした顔をするな、プローブ。
「私が思うに、龍門の文化と君の故郷の文化との違いで、すれ違いが起きている」
「記憶もねぇのにわかんのか?」
「たしかに……」
「おい」
「私が今思っている常識がどこのものかわからないが、それに乗っ取ると、人は喧嘩を通じて仲良くならない」
「俺とアンタはなったじゃねえか」
「私は例外としてくれ」
「弟分たちとも喧嘩で仲良くなったぜ」
「成功例が多すぎる」
今までうまいことやれてきたのが仇となっている。
このままでは仲良くなりたいという純粋な暴力がこの街を襲う。いやうん、もう襲ってる。
「君たちはきっと誤解されてるんだ。なんだろう、やくざかマフィアかギャングとかに……」
「一緒じゃねぇか」
「私がその誤解を解いてみせよう。君たちはチンピラだってね」
「一緒じゃねぇか」
「間違えた。善良なチンピラだってね……」
「おう! 頼んだぜ!」
それでいいんだ。
「さて、まずは周辺の視察に行こう。周りの建物がなんなのか、どのあたりに住んでる人と喧嘩済みなのか、いろいろ聞きながら回りたい」
「うっし、任せとけ! 大体全員と知り合いだぜ!」
大体全員と喧嘩済みだった。前途多難である。
弟分たちを連れて行くと、カラーギャングの行進と化してしまうため、プローブにだけ同行を頼む。
彼らははたきで陳列棚をパタパタしながら見送ってくれた。
記憶を失いながらも、衣食住をすべてそろえてしまった。
すべてプローブたちに依存しているため、長期となるとどうなるかわからない。
ひとまずは恩を売って、立場を盤石なものにしておくに越したことはない。
早々に周辺住民と和解せねば、拠点が襲撃されて仮宿を失う羽目になりかねん。
プローブの拠点周辺を歩いて数分、誰ともすれ違わない。
もともと人通りが少ないのなら今後の経営が心配になるが、これがプローブが出歩いているからとみんな引きこもっているのだとしても心配になる。災害扱いされているのか?
人通りが少ないからこそ、向かいからやってくる人影が目立った。
背の高い男性だ。ガタイがいいわけではないが、身長だけなら、大柄なプローブと比べても遜色ないだろう。
近づくにつれ容姿がよく見える。
全体的に黒を基調とした服に、黄色のストールと手袋、アクセサリーで差し色にするおしゃれ具合だ。
よく見ればコートには豪奢な刺繍が施されている。なにかの魚だろうか。
顔としっぽを見れば、今のところこの龍門で見たことのない種族的特徴を持っていた。
顔を注視したからか、その男性とサングラス越しにばっちり目があった。
眠たげだった目がわずかに見開かれるのがわかる。あちゃあ、と思い不自然でない程度に目をそらすが手遅れだろうか。
まいったな、いちゃもんをつけられた場合、私でプローブを止められるかどうか――そう考えていたが、男が発したのは罵声ではなかった。
「
私は即座に「へえ」と声を上げ、隣のプローブを見上げた。
「君、ずいぶん賢そうな通り名があるんだな」
「「いやいや」」
両名から首を横に振られた。
……なるほど。