リーとは二手に分かれた。
未だ彼を信用できないというのは理由の一つではあるが、そのほうが効率的だからだ。
つまり、彼はここに住んで長いし、持参に最適なうまい菓子折りの店を知っているということである。
プローブが言うに、まだ喧嘩をしていないご近所さんが数名いるようなので、そちらからなんとかすることにした。
我々が今向かっているのはそこである。
私の役目は、プローブが喧嘩以外でコミュニケーションをとれるか見張る係だ。
「ごめんね、ここから先はちょっと行かせられないかな」
早速、障害が立ちはだかった。
「喧嘩をふっかけるのはナシでも、ふっかけられたのに乗っかるのはアリか?」
「難しい話だな。今回は対話可能な気がするから少し待ってくれ」
腕まくりをするプローブを止める。
私たちの前に立ちふさがったのは、盾を持った大柄な男性だ。
額にある一本の赤い角に、白を基調としたもふもふとした毛並み。あらすてき。
「私たちはこの先にある
「その张さんから君たちみたいな人は通さないようにって依頼を受けているんだ。ごめんね」
もしかしなくともプローブ対策だろうか。
完全に有効打になっている。的確な判断だ。私は頷いた。やるな张さん。
「ちなみに私たちみたいなというのは、どういう人だろう」
「薄緑の服を着た裏社会風の、って聞いてたけど」
私は隣に内緒話をした。
「プローブ、私裏社会風かな? 君は裏社会風であってると思う」
「お前もちゃんと裏社会風だ、安心しろ」
安心できねえんだそれ。
声を大にして、青年に抗議する。
「嘘だ。私は君や彼みたいにムキムキじゃないぞ!」
「あれ? 俺も裏社会風の一員になってる?」
とばっちりごめんだけど、もふもふの君からもかすかに裏社会の香りがする。
プローブに質問する。
「参考までに聞きたいんだが、どのあたりだい? どのあたりが私を裏社会風だと思わせる?」
「……目?」
「目か……」
すっ、と両目を片手で覆った状態で、もふもふの彼にも聞く。
「どう思う?」
「……顔?」
「顔か……」
すっ、と両手で顔全部を覆った。誓って泣いていない。
もふもふの彼が「ん?」と不思議そうな声を上げたので、覆うのをやめてそちらを見る。
「ああ、いや……なんでもないよ。俺はここらに根を張り始めてるギャングのトレードマークが、薄緑の服だって聞いたんだけどな」
「ほらプローブ、カラーギャングってのはこうやって知名度を上げてなわばりを作るんだよ。君しっかりやっちゃってるじゃないか」
「やっちまったな! がはは!」
私は挙手して、言い訳を始めた。
「この服は友人から借りたものであって、私は誓ってそのギャングではありません」
「そんな都合のいい話があるかな?」
「ごめんなさい嘘をつきました。本当は友人ではなく知人です」
「嘘の箇所そこ!? 友達がいない話をさせてしまってごめんね?」
「あと借りていると言いましたが正直返すつもりもないです」
「だから友達がいないんじゃないか?」
今のは有効打だった。やるなもふもふの君。
でもこの
その事情を話したら余計に信頼を失いそうなので黙るしかない。
「兄弟、オレはダチだと思ってるぜ!」
「ありがとうプローブ、話がややこしくなるから黙っててくれ」
「だから友達がいないんじゃないか……?」
違うんだ、私に血も涙もないからプローブを黙らせたわけじゃないんだ。
口を開けば開戦の合図になりそうだからというだけなんだ、信じてくれもふもふの君。
「確かにこっちの彼は少し乱暴なところもあるが、悪い奴じゃないんだ。近くのガラス屋のガラスを割ったのも、善意からくる暴力なんだ……」
「善意からくる暴力……?」
宇宙の果てを見たような顔をさせてしまった。
「要するに喧嘩が仲良くなるために一番の手段、という文化圏から来たということなんだ。彼はみんなと仲良くなりたいだけなんだよ」
「そうだったのか。それは悲しいすれ違いが起きているね」
彼は眉を下げて、盾から手を離した。
交渉手段としていくつか小細工を考えていたが、実行する必要はなさそうだ。
実直に真実を話すというのが、最も有効なことも、ままある。
「外から来たのならそういうこともあるかもしれない。龍門にようこそ。ここになじむための手伝いが出来たらうれしいな」
差し出された手を握り返し、ちらとプローブを見る。
握手という文化が存在しているか不安だったが、「よろしくな!」ともふもふの彼の手を握り返したのを見て安心した。
ひとまず争いは避けられそうだ。
もふもふの彼もやり手に見えるので、いざ戦いとなれば無事では済まないだろう。主に周囲の建造物なんかが。
「最初から君がついていたら、ここまで事は大きくならなかったんじゃないかな?」
「ここまで事が大きくなってなかったら、たぶん私も彼に殴られていない」
「ああ、君も彼流挨拶の被害者だったんだね。悪かったよ。俺はウン」
「君、ウンというのか」
「ああ、そうだよ。何か気になることでも?」
「よかったじゃないかプローブ。彼、君のお客さんだ」
「結構な押し売りだなぁ。それも文化かい?」
そうでなく。リーの話をすると、彼はポンと手を打った。
「ああ! あの空き店舗! そうか、君たちが……確かに料理人には見えないから、賭けは俺の負けだね」
「あの賭けは成立しているのか? 飲食店とそれ以外じゃ、それ以外の範囲がデカすぎやしないかな」
「ハハッ、いいんだよ。どちらにしろ興味本位で事務所の誰かは行くことになる。その時食べ物の目利きだったら、リー先生に任せるのが一番だからさ」
なるほどリーはグルメらしい。
だから菓子折りにも詳しいのか。私は頷いた。
「そうだ、リーの知り合いということはドクターとも知り合いかい?」
「ああ、そうだけど」
「ドクターって……」
待て、どう聞けばいい?
リーは私をドクターと呼んだが、そのドクターの知り合いであるというウンは、今のところ私をドクターとは認識していない。
これは一体どういうことか。
――ドクターって何人もいるのかな?
そりゃいるだろ、これだけ大きい街なら医者くらい。大学があるのならもっと
――ドクターって私かな?
単刀直入だが、芋ずる式に私が記憶喪失であるという話もしなければならないな。
ウンは善人に見えるが、リーとつながっているとなると安心できない。
彼からうっすらとするアングラな香りが、私をためらわせる。
私は一旦、手札を伏せることにした。
「ドクターのこと好き?」
「ああ。事務所のみんなと同じくらいにね」
輝く笑顔だった。
もう私がドクターでいいのかもしれない。
ウンくんはまだ昇進1なのでキャラを把握しきれていないかもしれません