※1万文字ぐらいあるので時間があるときに読むのをお勧めします。
さて、アカネと先生とユウカの三人のブリーフィングイベントにちゃっかり参加して現在、例のカジノ船に潜入ししたところである。
そして……。
「そろそろ聞いていいか?」
「あー……なんて答えよう……」
ネル先輩……もとい美甘ネルに銃を突きつけられている。
そして、掲示板のライブモードの起動をしている間に言いどもっていたら彼女は痺れを切らして、俺は組み伏せられてしまった。
「つーかなんで先生もいんだよ」
「あのぉ、そーろそろ銃口を下ろしてくれませんかねぇセンパイ」
答えとしてコツンと頭に銃口が当たる。
当社比ではまったく彼女に対して何かやらかした記憶がない。
だからそのことを伝えると、舌打ちはされたが俺は解放された。
やっぱなんやかんや言って優しいなこの人。
「それで俺と先生が同行する理由なんだが……俺が言ってもいいよな先生?」
「ヒカルに任せるよ」
許可が得られたのでざっと答える。
俺は利害の一致、先生は彼女たちの監視役としてここにいるという事。
ただ、言い方がまずかったのか、俺は再びネル先輩に銃口を突きつけされた。
「き、記憶喪失なのは本当だって! なんならここ最近の記憶を遡るとしよう。あれは俺がまだ矯正局の独房で目が覚めたばかりの時――。
……そして夕陽が反射する渚で――。……
――というわけで本当に何も覚えてないんですすみません許してください」
「はぁ……よくもまぁそこまで口が回るなぁお前。
とりあえず記憶喪失なのはわーったよ」
やったなんとか解放された!
「へへ、ありがとうございやす」
何とか許されて解放されたのはいいけど、スレ民にキチ●イ博士言われててキレそう。
そしてネル先輩が「破壊は最小限に。そんでスマートに、だっけか?」と確認を取ろうとした時、バニーガードが現れた。
そして間髪入れずにネル先輩は彼女を撃って気絶させる。
警報が鳴り響き、俺たちは散り散りに逃げることとなった。
幸先が不安である。
「さーて、何処よここ」
途中までは先導?していたアスナ先輩の後を走っていたけれど、気が付いたら彼女は視界から消えていた。
そして先生たちからも逸れてしまったので現在1人である。
だからスレ民に相談しようをした時、1人のバニーガードが声をかけてきた。
まだ怪しまれている段階なので、応援を呼ばれる前に制圧したほうがいいだろう。
「あー、とりあえずすまん」
「なっ――」
彼女が応援を呼ぼうとする前に接近し、これに反応して引き金に指をかける前に銃口を上に逸らさせる。
発砲されて銃身が若干熱くなったが、まぁキヴォトスボディなら余裕で耐えられた。
そして彼女が慌てて銃を手放そうとする前に背後に回り込んで、その首を絞めあげた。
結構暴れられたが、うまく決まったので彼女は拘束から抜け出すことはできず気絶する。
気絶した後は簡単、テキトーな部屋に担いで身ぐるみ(ウサ耳カチューシャ)を剥ぐのじゃよ。
配信の映像の方を一旦停止して着替えを開始する。
目の前にはちょうどいい反射具合の鉄板があったのでそれを鏡代わりにした。
その為、胸で見えにくい腹あたりのボタンもスムーズにかけることが出来る。
真っ暗闇画面でシャツとかを脱ぐ時に鳴る布の擦れる音は「些かスレ民には刺激が強かったのでは?」と思ったが、まぁ俺は今見て無いから反応は知らん。
「いや〜ディーラー服用意しておいた甲斐があったわ」
そう、現在俺が着ているのはディーラー服である。
バニースーツといえば例の露出が多い方を想像するだろうが、ディーラー服もちゃんとした
スレ民にはボロクソ言われたが、一部には刺さっているようで笑える。
「まぁなんだ。精神はまだ男だからな、好き好んであんな露出多いやつ誰が着れるかってんだ」
それにしても……我ながらよく似合ってる。
元の素材がいいってのもあるが、着崩しても違和感が無いルックスだからというのもあるだろう。
「それはそれとして……とりあえずカジノ行けば合流できるか?」
スレ民に確認を取ろうと呟く。
が、その後にすぐに大きな音と同時に船体が大きく揺れた。
「……そういえば爆弾魔がいるの忘れてたわ」
ちゃんと清掃が行き届いてい無いようで天井から若干埃が舞落ちてきて気分が憂鬱になりかける。
まぁ他校でもほぼ無法に近い場所だししょうがないのだろう。
「ま、目的地はそのまま変更せず会場に潜入するわ」
しばらく廊下を進むと、バニーガードと一つの扉が見えてくる。
どうやら会場の入り口らしい。
ただ、一定のランクに到達してないと通してくれないようで、丁寧に俺が入れる場所まで案内してくれた。
俺たちの侵入はそこまでバレていないようで、難なく会場入りが完了する。
「さーて、まずは金策も兼ねて情報収集の為のゲームをするか」
見渡すとスロットやルーレット、バカラなどのカードゲームを行なっているテーブル、そしてダーツにビンゴなどのさまざまなゲームが見える。
スロットは完全に機械相手なのでナシとして……まずはブラックで良いか。
以前サクラコさんとやったリベンジみたいなノリでやろう。
「あー、ゲームの席まだ空いてるか?」
「ええ、ちょうど締め切る前でしたがどうぞ」
「すまんね」
チラッと競争相手を確認する。
全員が動物の頭をしている。
つまりここに参加しているのは俺とディーラー以外は大人か。
デッキの方は……6デッキ分かな?
「嬢ちゃんはこういう場は初めてかい? ヒット」
「ゲーム自体は知ってるが、この船のルールはまだ理解しきれてなくてね。スタンド」
「はっはっはっ、遊びにでも来たのかな? ああ、私もヒットだ」
柴犬とパグのおじさんと談笑しながらゲームが開始する。
けれど、序盤からちょっと挙動が怪しい人がいるみたいだ。
その人物は気にしていない様子だが、どこか焦っている様子。
「あーおじ、失礼、おじさま方はやっぱり目的が?」
「まぁね。そう言うお嬢ちゃんもそうだろう?」
「おや、分かります? ちょっと人と逸れちまってなぁ」
「そりゃ大変だ。つまりその為の情報が欲しいのかな?」
多分そう言う世界にいた人たちなのだろう。
会話でお互いの腹を探っている空気に少々胃が痛くなってきた。
「んー、それもあるけど、それはそれとしてゲームを楽しもうかなって気持ちもありますよ」
まだゲームは始まったばかりである。
残り2デッキぐらいまでは情報収集をメインに遊ぶとしよう。
……消極的なプレイングなのは作戦やぞ、分かってないなぁ諸君(スレ民)。
山札が残り2デッキぐらいになった頃。
集まった情報は、この船に伝説のSが何かこう……あるらしい。
そしてピンク髪のツインテールの白い兎も見かけた事があると。
後はあの会社の裏には何ちゃらがー、とかそう言うゴシップ系の話。
それと何か挙動不審だった人が2回くらいイカサマで袖からカードを入れ替えてたね。
時計を確認している仕草はそれだったのか。
とは言えよく同じ柄のトランプを用意できたなと感心する。
「まぁここは……ダブル・ダウン」
確率の計算を始めてそろそろ頃合いだろうと思い、ここで札を確認せずに俺は勝負に出た。
1枚引いただけの札は『♣︎Q』『♦︎K』『♠︎A』の3枚。
そこで挙動不審だった男が声を荒げながらテーブルを強く叩いて立ち上がる。
いやイカサマしてたのはお前もだろと言いたい。
幸い、他のおじさんやディーラーの人も擁護してくれたので、挙動不審だった男のイカサマをバラしてから俺はブラックジャックから撤退した。
てかよく俺が見てたのに札を交換したよなあの人。
まぁ、気にしてたのはディーラーの視線だけで、他の客の視線に関しては考えていなかったのだろう。
そして俺を擁護するときに他のおじさんたちは彼のイカサマに気付いていた口ぶりだった
そう考えると、イカサマをあえてスルーしていたあのおじさんたちがちょっとだけ怖いと思った。
次に俺が向かったゲームはビリヤード。
久しぶりに行った安価の結果だが、スペースに着いたのに何か変な匂いがした。
若干感じる甘さと、人の汗の匂い。
よく見渡してみると不自然に扉の前に立つマスクをした男がいる。
「なぁ、俺と勝負しねぇか?」
辺りを見渡しながら歩いていると、1人の男に声をかけられた。
狸頭の若干膨よかな体型の男。
「俺とか? 良いけどここに来たばかりの初心者だぜ?」
「ヘヘッ、なら俺が手取り足取り教えてやる」
舐め回すような視線を感じて、やや気持ち悪い。
なるほど、こう言うことが視線を感じると言うのかと思うと同時に、少々苛立ってきた。
おそらく散布されているこの甘い香りの薬品はそう言う目的のものなのだろう。
早めに違和感に気付いて予防しておいて正解だった。
まぁ即効性のある分効果は数時間しか続かないんだけど。
「ゲームの内容はナインボールだ。ルールは大丈夫か?」
「問題ねぇぜ。ただ、打ち方がわからんだけだ」
「ヘヘッ、なら俺が手本を見せてやるよ」
そう言って狸はさり気なく俺から先行をとってゲームを始めた。
一気に広がるボールだけれど、その挙動に俺は違和感を覚える。
運良く1番のボールがポケットに入って男は次の番号を落としにかかっていた。
しかし4番のボールを落とそうとして彼はそれに失敗し俺に番が回る。
「チッ、上手くいかねぇもんだ」
「俺の番だな。およそは分かったし何とかなるか」
ポケットの近くではあるが、複数の球に囲われている4番。
跳躍させて直接ぶつけるのも良いけれど、加減を間違えて場外に出すのは嫌だし、他の球のぶつけて落としたほうがいいだろう。
結果はうまく落とせた。
けれど、残りの球の位置は予想していた盤面と若干場所が異なっている。
やはり何かあるのだろう。
「次は5番だな」
それから順調に俺はポケットにポールを落としていく。
そして最後に9番のボールが残った。
「おい、イカサマでもしてんのか?」
急に肩を掴まれた。
突然のことで驚いたが、丁度いいし気になったことがあったからカマをかけてみるか。
「イカサマぁ? 出来るわけねぇだろこんなので……」
「な、なぜバレた!?」
ビィンゴ!!
罠発――じゃなかった、ボールの挙動がおかしかったから明言はせずに詰めてみたらすぐにボロ出したぞこの狸。
さーて、おっさんが固まっている間に――。
「ヒカル?」
「うひゃあ!? せ、先生!?」
構える前に声をかけられたのは良いけど、突然のことで変な声が出た。
それに、露出が少ない格好ではあるがウサミミ姿を見られるのは少し恥ずかしい。
「こんな所にいたんだ」
「ま、まぁ……てかC&Cはどうしたんだよ。先生居ないとまたいっぱい壊してユウカにドヤされるんじゃねぇの?」
「今はそれぞれ情報収集中かな。
それに、みんな私のお願いにはちゃんと耳を傾けてくれるから心配ないと思うよ」
ほーん、と相槌を打っていたらここに散布されている薬品のことを思い出す。
先生にも薬品に対する免疫を持たせたほうがいいだろうと思い、カプセル錠を渡した。
それを先生は何の警戒無しに受け取り飲み込んだ。
この人警戒心チワワかなんかかな?
気を取り直して残りの9番を落とそうと、俺はもう一度テーブルに視線を戻した。
「……めっちゃ動き回るやんキミ」
そこにはゴロゴロと走り回る元気な9番のボールの姿があった。
もう何も隠さなくなったな。
まぁ不規則に動いていてもこの身体のスペックならある程度予測はできるからね、普通にぶつけて落とせた。
ぶつかった衝撃で何やら機械が壊れたような音が聞こえたのは気のせいだろう。
ゲームは終了した。
だから唖然としている狸のおじさんに声をかける。
「なぁおにーさん。そう言えば勝った時の賭けの内容無かったよな?」
「な、何が言いたい……」
「イカサマで勝って俺の身体を愉しもうとしたとかは無い、そうだよな?」
否定はさせないよう睨みつける。
彼は一歩後ろに退いたが、欲しかった返答が帰ってきた。
「あ、ああ……」
言わなくても良いことではあるが、わざわざ口にしたのは簡単に言えばムカついたからだ。
狸のおじさんにではなくスレ民に。
俺は先生に惚れてなんかいない。
あれはバイト先に知人や友人が冷やかしにきたときのような感覚だ。
だから、先生にこの姿を見られた事が恥ずかしいわけが……いや恥ずかしいけど好意を持っているから恥ずかしいのではないはず。
まぁ、長々と述べていたら言い訳になってしまったが簡単に言ってしまえば八つ当たりだ。
「すみませんが、少々お時間いただけますか?」
怒気を孕んだ声色で先生は男に話しかける。
「な、なんだんだよ急に――ヒィイッ!?」
「失礼、私はこう言う者です」
スレ民曰く先生はどうやら開眼しているらしい。
てか開眼って普段は糸目なんかあの人の顔。
そういえばスレでちょくちょく糸目先生とか言われてたわ忘れてた。
……今更だけど俺は認識できないのに俺の視界を共有した映像は他人からは普通に認識できるんだな。
あれかな、脳が違うからか?
そうなると視覚情報を処理する前の段階でスレ民に画像や映像が共有されているのだろうか?
でも、記憶の追想でエルザという人物は……いや、あれは逆光でよく分からなかったんだった。
っと、狸のおじさんとのお話は終わったようだ。
「さて、他のところに移るか……って先生大丈夫か?」
息を荒げながら彼はこちらに歩み寄ってくる。
それに若干だけど歩みもフラフラとしてて怪しい。
先生に近づくと、先生の匂いが凄く……凄い……。
香水で誤魔化していたようだけれど、この発汗量ではタオルなどで拭えば匂いが取れてしまうだろう。
そして、香水で隠されていた先生の本来の匂いが――待て、今俺は何を考えていた?
急いで先生を近くにあったベンチに座らせて、水を取ってくる。
幸い、近くにバーがあったので先生の症状を伝えると、快く水を渡してくれた。
「ほれ、汗かいた分の水分と塩分補給しとけ、先生」
「ありがとう、ヒカル。だいぶ楽になったよ」
「それで先生はコユキ……白兎に関する情報は得られたのか?
俺は全然なんだが」
それらしき話はいくつかあったけど、主に掘れるのはビジネス関係の話。
先生たちの方もそう言った話が多かったようだ。
……それにしても首筋に伝ってる汗がなんかこう……エロいな。
それに、汗で衣類が張り付いていて先生の肉付きの良い身体が見えている。
こんなに先生ってスケベな雰囲気あったか?
いや落ち着け俺、とりあえずスレ民にはまだ気付かれてないって言うかスレ民も先生に意識が向いているからまだバレる心配は無いな。
「……らしき後ろ姿が今見えるんだが」
ずっと見ているとおかしくなりそうだった為、視線をそらすと先生から貰った情報に合致するバニーの後ろ姿が目に入った。
その人物は現在進行形でスロットを回しているようだが、時々台に掴み掛かったりしている。
「ごめん、私はまだ動けない……」
「そりゃそうだろうな、多分逃げられるだろうけど行ってくる」
ゆっくりと彼女に近付き、その肩に手を置く。
しかし、熱中しているのか気付かれない。
だから軽く揺するが、スロットの方を向いたまま彼女は少し嫌そうに抵抗するだけ。
……Hay! Girl!!
最後に強く揺すると、とうとう彼女はこちらを向いた。
「あーもう誰です――って、ぇぇええ!?
ななな、何でヒカル先輩が此処に!?
と言うか矯正局に居たんじゃ!?」
「あー……脱獄してきた」
ここまで驚かれるとは思わなかったが、予想通り西ヒカルとコユキは少なからず顔見知りで合っているようだ。
ユウカと西ヒカルも知り合い……と言うか矯正局入りまで同級生だから交流はあっただろうし、セミナーでコユキとユウカが知り合っているなら……と言った推測の域だったが、当たって良かった。
「こ、こうなったら逃ぐへぇ――」
「まぁまぁ、せっかくの再会だしスロットの続きでもしながらゆっくり話そうや」
逃げようとするコユキの肩に腕を回し、彼女の座る椅子のふちに寄りかかる。
この行動の所為で変に勘違いされたのか、彼女は抵抗するのをやめた。
「に、煮るなり焼くなりす、好きにしてください……」
「別に取って喰おうなんざしてねぇって。ちょっとばかし訊きたいことがあってだな」
「き、訊きたいことですか……?」
「おうよ。だがその前にひとつだけ言ってお来たいことがあって、俺って此処最近の記憶しかないんだわ。だから情報が欲しくてだな……」
あえて自分から記憶喪失とは明言しない。
俺と西ヒカルは全くの別人であるから記憶喪失という表現は違う気がするからだ。
けれど側から見れば記憶喪失と思われそうなのでそれに誘導させている。
「そ、それって記憶喪失って事ですか?」
「そんなところだな。だからまずはお前の持つ俺のイメージを教えてくれ」
「そう言う事なら……。
私が持つ先輩のイメージですがちょっと不気味な先輩でしたね。前々からキチ●イとか言われてたのでいざあった時に前評判と違ってたのを覚えてます。
こう、何かに執着している、みたいな?
あとはよくユウカ先輩に私と同じくらい襟首掴まれて引き摺られてましたよ」
「ほーん……てかキチ●イって」
ユウカによく襟首掴まれて引き摺られてたんか……。
それでもキチ●イという評価は誠に遺憾と言うやつなのだが。
「あ、今は前あったよりそんなに不気味さは無いです! 口調が若干変わってますが、先輩にはよくある事ですし」
人間口調が安定しないなんて良くあることだし特に変じゃ無いな、ヨシッ。
……それはそれとして、今持っている情報だとやっぱり以前確認した実験の記録映像の空白期間が重要なのだろう。
その期間の前後で明らかに人が減っていたし、西ヒカルの正確に変化が生じるほどの出来事があったはず。
「んじゃ次、エルザって人物は知ってるか?」
「知ってるも何もミレニアムで知らない人は多分いないですよ。悪い意味で」
「悪い意味で?」
「ええ、だってその人、ネット新聞の死亡記事に載りましたから」
まさかの単語が出て驚いてしまった。
だけどまだ聞きたい事があるからそれを抑えて話を続ける。
「死亡……って、原因は分かるのか?」
「結構昔の話なので覚えてないですが、確か部活動中の事故だったはずです」
「事故死……」
「確かバイオエンジニア部でしたっけ。
あ、あとあの時その死亡記事読んで引っかかったことがあったんでした」
バイオエンジニア部。
それが西ヒカルとエルザが所属していたであろう部活。
バイオエンジニアといえばたしかバイオテクノロジーを使ってなんかするやつだよな?
「爆発事故でご遺体が無かったんですって。
普通、爆発事故で木っ端微塵になったとしても言い方は悪いですが肉片とかありますし。
まぁ私は普段、ニュース記事とか読まなかったので覚えているのはこのぐらいですかね」
「……そうか、ってお前ジャックポット当たったやん」
色々と初見の情報が出てきて少し頭がくらくらしてきた。
そんな中、ふと視線を前に向けるとスロットが丁度『7』『7』『7』で止まった瞬間だった。
「あ、ホントだ!! さっきまで来てもおかしくない時に来なかったのに何でぇ!?」
コイツ、話している間も回してたみたいだけど、やっとジャックポットが当たったのか……。
いや、そもそもジャックポットは当たりにくいものなんだけどもしかして理論値換算でそろそろきそうだったのか?
そうなると結構長時間まわしてることになるんだけどこの子。
ジャックポットに興奮しているコユキを尻目に、彼女が話してくれた例の記事を検索する。
すると、すぐにその記事は見つかった。
-【速報】ミレニアム学園 爆発事故で死傷者1名か-
クロノス校が運営するネットニュース記事。
内容としてはXXXX年のX月中旬頃にミレニアムサイエンススクールの自治区内で大きな爆発事故があったらしく、当初は場所的にゲヘナ学院の温泉開発部が事件に関与しているのではないのかと噂されていたが、捜査を進めていると部活動中の事故であったことが判明したという。
そして俺……西ヒカルは運よく瓦礫で作られた空間に居た為怪我はなく、彼女の証言でもう一人の部員が居たはずだが、遺体などが事故後の捜索にて発見できず行方不明の後死亡と処理された。
「……まだ記事が残ってたんだ」
今から大体3年くらい前になるのか。
「やっぱ先輩の近くにいるとなんか引きが強くなるった気がします!!
なのでよろしければ次のゲームでもご一緒してもらえま――」
嬉々とこちらを向いたコユキの鼻先を、銃弾がかすめてスロットマシンにそれが埋まる。
そして聞き馴染みのある声がホールに響いた。
「ヒカル! そいつを抑えておけ!!」
「ヒカル先輩!? これってどう言う――」
「悪いけど俺はアッチ側。言い忘れてたわすまんな」
「なんでぇ!?」
コユキに衝撃の真実を明かしてそのまま彼女を組み伏せる。
抵抗が激しいがなんとか行動の制限ぐらいは出来た。
「うわぁ〜ん!! まだ伝説の「S」にも到達してないのにぃ〜!!
こ、こうなったら……!!」
そこにケツとタッパのデカい、女王様の様なバニーが現れた。
いやデカイな。
胸も背丈もハスミには及ばないがそれでもデカイ……。
「船内での乱闘はお控えいただきたい」
彼女の登場でコユキに隙を与えてしまったのが原因だろう。
俺の拘束から抜け出したコユキが一目散に女王様バニーの横を通り過ぎて逃げていく。
しばらくお互いが睨み合う状況が発生したが、それはネル先輩の近距離発砲で崩れた。
動きが速くて分かりにくかったが、女王様バニーに蹴りを喰らわすために跳躍し、彼女がネル先輩の蹴りをライフルで受けたと同時に先輩は女王様バニーの腹にめがけて引き金を引いたのだろう。
「吹っ飛んじまいな!!」
「わぁお、流石ネルパイセン」
「くっ――!!」
俺は彼女たちC&Cにバニーガードが集中している間にコユキの追跡を行うことにした。
コユキが向かった方向と船内マップを確認し、彼女が逃げ込みそうな場所を推測する。
「さてコユキはあっち方面に逃げたから……マップを見るにあっちかな」
「ハハッ! アタシを止められると思うな!!」
……やっぱネル先輩は敵に回したくないわ。
流石はキヴォトスの最強格と思う。
「やっぱ俺の予測は間違ってなかったようだな」
「うげぇ!?」
「あ、ヒカルちゃん! ナイスタイミング!」
少し艦内が騒がしいが、まぁコユキの捕縛作戦が大詰め段階まで行ったからそっちを優先しよう。
まさかアスナ先輩が彼女を追ってくれていたのは良かったし、立ち位置的にも彼女の退路を制限できているのでありがたい。
「さぁコユキ、大人しくお縄に――」
あっぶな!?
今目の前を三又の槍が横切ったんだけど!?
「な、何事ですか!?」
気が付くと磯臭さが部屋一帯に充満していた。
そして二階部分から三又の槍を投げたと思しき影が飛び降りてくる。
「おいおい流石に深きものは笑えねぇぞ……」
「ひ、ヒカル先輩」
「アハハ、結構ピンチだねこれは……」
部屋の中心部まで追いやられるほどにそれは湧き出て来た。
2足歩行するギョロ目魚頭の人間。
局部を隠す程度に衣類は身に纏い、露出する肌は人の様な部分もあれば、鱗で覆われている箇所もある。
更にそれらは同じ姿をしているのではなく、また鱗のになっている箇所が個体によってバラバラだ。
先生の方に救援の連絡を送ったが、どうやら向こうにも現れたらしい。
てかこの先生ちゃっかりバニーガードと協力して対処してるって行ってるんだけどもしかしてまた落とした?
「先輩、一応先生に救援送りましたから応援が到着するまで耐久しましょう。
コユキ、ここは一時休戦でお前も手伝え」
「本当になんなんですかコレ……。見た事ないですよぉ……」
初めて見る異形にコユキは血の気が引いている様子。
俺も現物は初めて見るけど確かに目に入れたくない容姿だよなぁ……。
特に瞬きができないこのギョロ目魚は、口も若干空いてるため涎が溢れているんだよね。
しかも全体的に人間の肌のような箇所の方が少ないから普段使ってる銃はそこまで効かないだろう。
「あんまし使い勝手が良いもんじゃないけどコレ使うか」
ショットガンが本当は欲しいけど、今あるものでジャムりにくいのはこのリボルバーだけだった。
まぁそこはお手製の銃弾でなんとかなるだろう。
飛んでくる槍を捌きつつ、試しに1発深きものに撃ち込む。
心配してた鱗の強度だが、ギリギリ貫通してくれた。
普段使ってるハンドガンだとそこまで行かなかっただろう。
あと純粋に殴る時の鈍器に使っても壊れにくい。
「リロードちょっと遅くなるけど確実だな」
「ひぇっ! また槍が!」
また俺に目掛けて槍が飛んでくる。
近くにコユキがいるため、避ける方向には気をつけねばならないだろう。
「ヒカルちゃん!」
「ぶなっ!?」
いやさっきから俺を狙いすぎでしょ!!
俺、君たちに対して一度も何も悪い事した記憶ないんだけど!?
それに俺にめがけてシャンデリアを落とそうとしてくるしもしかして嫌われてる……?
「っ! 応援到着!」
先生の指揮があれば百人力や!! コレで勝つる!!
安心感をお覚える声の後に今度は銃声が響く。
「ネル先輩!」
「急にわんさか出て来やがって……すまん遅れちまった!」
いやギリギリ耐えてたところだったから来てくれただけ助かる。
それにそろそろコユキがへばり……あ、今気絶した。
「あーもう数が多い!」
アスナ先輩が定期的に深きものを複数体巻き込んで爆破させてくれてはいるが、空間ができたらそれを埋める様にまた押し寄せてくる。
完全に懐に入られた時は思わず銃身で殴ってしまった。
「磯臭い顔を近づけんなっつってんだろ!!」
「ヒカル! あと10秒だけ持ちこたえて!」
先生の声が響く。
何かいい案があるらしい。
体内で10秒計りながら、アスナ先輩とともに押し寄せる深きものを捌く。
そろそろ捌くのに限界になって来た頃、やっと10秒が経過した。
「避けろ!」
発砲と同時に爆発が起こる。
発砲は右にそれて避けたから背後に1体が接近していたことが分かったけど、それでも爆破は聞いてない。
「ちょっ!? どう考えてもニトロ、って何処からそんなもんを――」
爆発音とともに床が崩れ落ちる。
俺もそれに巻き込まれたが、周囲を爆破したようで運良く怪我はなかった。
1階分の落下で尻餅ついたからケツがいてぇ。
そしてネル先輩が降りてくると俺の方に銃口を向けて、俺が驚く間も無く彼女は引き金を引いた。
「コレで最後だな」
どうやらまだ倒せていない個体が1人いたらしい。
それでもビビるから1声は欲しかった。
バニーガードと協力して深きものらを拘束しつつ、先生とC&Cのやり取りを眺める。
なんか詰められてるみたいだし、変な契約でもしたのか?
聞こえてくる情報から色々と推測はしてみるが、結論としては1週間はシャーレに近寄らないほうがいいと思った。
「さて、気絶したコユキもトランクに入れたしあとはミレニアムに向かうか」
行きに使ったものは先生たちが使うとして、俺は適当に船でも作ってそこから帰るとしよう。
それにしても少し胸辺りにもの寂しさを感じるのは何故だろうか。
……きっと、さっきまで深きものの所為でわちゃわちゃしてたからだろう。
俺はコユキを入れたキャリーケースと共にカジノ船から夜の海へ出た。
ノアには勝てなかったよ……。
ブクマ・感想・ここ好き(あと誤字脱字報告)圧倒的感謝……!!
そつぎょうけんきゅうたいへんなのじゃ
調べてる間は知識欲が刺激されてHighになれるんですがねぇ……