ノアに倒されてから次の景色は無機質な部屋だった。
俺はベッドに寝かされていたようだが、特にこれと言った強固な拘束はされておらず、そのまま手首に装着されていたベッドに繋がる手錠を外す。
「窓はナシ。荷物はあのキャリーケース以外没収されてるものはない、か」
起き上がって周囲を確認するが、トリニティと違って必要最低限のものしか置いていない。
空間は広過ぎず狭過ぎないちょうど良い塩梅だ。
ただ、欠点を挙げるならばずっと電灯がついてるところだろう。
実際俺が気絶から意識を取り戻した要因は瞼越しに感じた眩しさなわけだし。
「総評としては星3.4だな。寝てる時ぐらいは光度を落として欲しい」
「……何を言っているんですかヒカルちゃん」
口にしたレヴューをちょうど入室してきたノアに聞かれる。
てかちゃん付けはやめてくれ。
「レビューかな。今んところシャーレの地下にあった独房が最高得点の星4.6」
「……少し先生とお話しをするべきでしょうか……?」
「いや俺が勝手に探索してただけだから実際は入れられてないぞ」
ちょっと嫌な予感がしたから先生のフォローをしておく。
よくよく考えれば俺の言動一つでも先生喰われるじゃん。
「そうですか。ところでヒカルちゃんは最近よく先生と一緒に行動していたみたいだけど変なことされてない?
先生の週の平均自慰の回数的に結構スタミナがすごいみたいなのだけど……」
ユウカもそうなら当たり前にノアもそうだろうよなぁ……。
てか普通に下ネタじゃねーか。
いや昔女子の下ネタは男子よりもえげつないって聞いたけどコレがそれなのか?
「す、すまん。何のことかわからん。
ところでここから出――られねぇのか」
出ても問題ないか聞こうとしたら、頭を握りつぶされそうな気配がしたので諦める。
まぁそれでも後で実行するんだけどね!!
「とにかく、しばらくはこの部屋で大人しくしてくださいね」
「わーってるよ」
ノアを見送って、気配が離れるのを待つ。
とりあえず脱獄をするのは決定事項として、流石にずっと起きていたから眠い。
スマホの時計だとミレニアムに到着してからそこまで時間は経っていない。
けれど、カジノ船では色々あったから疲れた。
ベッドに横になり、瞼を閉じる。
瞼の裏の血管が見えるぐらいに明るいため、疲れていなかったら眠れなかっただろう。
しかし、先ほども言った通り疲れているので、リラックスできる姿勢になった途端一気に眠気が襲いかかって来る。
そして俺は……そのまま眠りについた。
部屋の明かりの眩しさに目を覚ます。
若干疲れが残っているが、寝る前よりは大分爽快な気分だ。
「……さて、金庫みたいなこの扉を破りますかねぇ」
「ダメだからね、ヒカルちゃん?」
真隣から聞き覚えのある声がした。
恐る恐るそちらの方を見ると、全体的に白い印象で記憶していたノアが居た。
「アイェェエエ! ノア!? ノアナンデ!?」
「まるで化け物を見たような反応……ひどいです……」
思わず驚いて叫んでしまったが、ノアはわざとらしくシクシクと言いながら悲しむそぶりをしている。
けれど肩の震え的には笑うのを堪えているようだ。
完全に場の主導権を握られそうになる。
が、今回は秘策があるのだよ。
「す、すまんって、これで許してくれねぇか?」
そう言って俺は、スマホの画面にとある写真を表示させてノアに見せるた。
彼女はその画像を目に入れた瞬間、両手で口を覆いながら固まる。
そこに畳み掛けるように俺は彼女に近づいて耳元で囁いた。
「さらにもう一枚の写真と汗の染みたハンカチがある。これで手を打たないか?」
「……写真は現像でお願いしても?」
「許してくれるならもちろん喜んで用意させて貰う」
初めて使ってみたけどやはりキヴォトス女子にはこの手に限る。
チャイニーズマフィア……ここで言うなら山海経マフィアか?そのコスチュームの先生の写真、それが今回の餌である。
自分でもなんで撮ったのか分からないけど、使えるものだしそこまで深く考えなくても良いだろう。
しばらくノアは考えていたが、結論が出たのか俺に監視カメラがメンテで止まるからくれぐれも出るなと釘を刺してきた。
「さて、ここから出たらとりあえず近くで身を潜められそうな場所を探さなきゃな。
そんで復旧したカメラや巡回を避けながら外に出る……出るなら上からの方が良さそうだけど今回はついでにゲーム部によりたいんだよなぁ……」
本当はスルーしたかったけれど、本格的に対処しないと今後面倒な事になりそうだからね。
そうしていると、部屋の電気が一瞬だけ点滅する。
その隙に俺は金庫のような扉の部屋から出てテキトーな部屋に隠れた。
その部屋は冷却ファンの音が響く薄暗い部屋だった。
そして侵入者に気付いた部屋の主と思われるエルフ耳がこちらを見ている。
「……お邪魔しまし――」
「おや、
外の騒がしさとは対照に落ち着いたこの空気感に風邪を引きそうだ。
俺が少し黙っていると、彼女が口を開く。
「ちょうど良いタイミングで来てくれましたね。実は貴女に聞きたいことがあるのですがお時間を頂いても?」
病弱系天才清楚ハッカー様から拒否を許容しない雰囲気が漂ってきている。
逃げようにもおそらくすぐに部屋の扉をロックされるだろう。
「……力になれるかは分かりませんがね」
「ありがとうございますっ♪」
そして彼女からとある映像を見せられた。
動く腐肉、継ぎ接ぎ姿のミレニアム生徒、その生徒に追従する異形。
「生物系に明るい貴女なら何か分かると思いまして。それに……」
「
まさかこの人からエルザの容姿を確認できるとは思わなかった。
しかし、映像とはいえ彼女を見ていると何故か身に力が入ってしまう。
俺が……というよりはこの身体が彼女に対して恐怖しているようだ。
「……大丈夫ですか?」
「あ、す、すみません、彼女を見てたら少し身体に力が入ってました」
明星ヒマリから心配されるほど分かりやすくこわばっていたのだろう。
無意識に指を、自身の腕に食い込ませるほど強く二の腕を掴んでいた。
それにしても、彼女の背後を追従していたあの異形は何なのだろう。
複数の動物の要素で人を無理矢理模った化け物……スレ民にも共有してはいるが、誰もこの異形の正体に見当が付いていない。
ミレニアムの科学技術のお陰か、どれだけ拡大しても画像が荒れにくいのは良いのだが、正直もう見たくなくなってきたので俺は映像から目を逸らした。
「あー……、あまり見てて気分の良い映像じゃ無いし消してくれませんか?」
「そう……ですね……。全知の学位を持つ私に理解が出来ないものがあるのは由々しき事態ですが……流石に私も気分が悪くなってきました」
気まずい空気になってきた。
俺としては尸エルザの存在とその所在が把握できた事は大変嬉しいことなのだが、身体から感じる得体の知れない拒否反応がとても引っかかる。
……いっその事、蘇生薬の話を彼女にしてみるか?
俺には何故、西ヒカルと尸エルザが蘇生薬という物を開発しようとしたのか分からない。
ならばこの人の知恵を借りるのもアリ、だろう。
「……おそらくなんですが、彼女に関係する情報を俺は持っています」
「っ!? それは本当ですか!?」
ここまで喰いつくとはおもわず、俺は一歩後退ってしまった。
「す、すみません、そこまで喰いつくとは思わなかったので……。
あ、情報というのは研究資料なのですが……記憶は無いけど俺も参加していた、あまり正気な人に見せるものでは無い代物です」
そう言って俺は、研究資料データの入っているタブレット端末を彼女に渡した。
彼女はそれを受け取るとすぐに目を通す。
その様子を見ていると、やはりと言うのか、彼女の表情こそ大した変化はなかったが、血の気が引いているようだった。
資料……と言うか研究レポートに目を通し終えた彼女は明らかに吐き気を我慢していた。
口元を軽く抑えながらタブレット端末を返してもらったは良いが……とりあえず吐く用の何か袋を渡しておいたほうがいいだろう。
「とりあえず手元にパッと取り出せたものですがこれに吐き出しましょう?」
エチケット袋なら嘔吐物が見えずに済むのだが、生憎すぐに取り出せたものは透明なビニールの袋だった。
彼女が袋に嘔吐している間に、臭い消しや吐瀉物の入ったビニール袋を入れる用の色付きのビニール袋を用意する。
「いやぁ……我ながら酷い実験内容ですよねぇ……覚えてないけど」
「……全くです。
まだ映像の方で死に際にこちらを見ている猫の顔が脳裏に焼き付いてます……」
本格的に気まずい空気になってきたな……。
外の騒がしさも落ち着いてきたしそろそろお暇するべきだろう。
「色々とありがとうございます、ヒマリ先輩。一応連絡先はコレなんで何か分かったら連絡おねがします。
それじゃ――」
「あら、まだお話は終わっていませんよ?」
さっさと部屋を出ようとした時、扉にロックが掛る。
えげつない物を見せられた恨みだろうか?(すっとぼけ)
「もう一つ、お話があります。と言うよりはまだ私は貴女に協力するとは一言も言っていませんよ?
……先生の写真はいくら出せばよろしいでしょうか?」
「ナ、ナンノコトデショウカセンパイ」
どうしてその情報を!?
まだノアにしか開示していないし、監視カメラにも映していないはず。
「貴女の携帯端末にハッキングさせて頂きました。迂闊でしたね」
「学内のWi-Fi経由か! い、嫌だなぁ先輩。偉大なる全知の学位を持つ先輩から金銭を頂くなんて……ヘヘヘッ。
それじゃこの写真を依頼料ってのはどうです?」
誤魔化すよりもいっそ商品にすべきと本能様が仰せられたので交渉に使うことにした。
プライドは無いんかって?
性自認が男と俺が言った時に認めてくれるのならば喜んでスレ民以外のその人物の靴を舐めるぐらいはあるさ。
それからヒマリ先輩と俺でいくつか情報のやり取りを終えてそもまま解散となった。
外の騒がしさは外へ追っ手が回った事で落ち着き、俺はカメラを回避しながらゲーム部の部屋へ向かう。
エレベーターは流石に使えないので非常階段で向かっているが……めっちゃ階層があるな……ここ。
「ヒマリ先輩が言うにこの階層のはずなんだが……あれか」
今だと懐かしく思えるアプリで見かけたゲーム部のマーク。
外から聞き耳を立ててみるが誰もいないのか静かだ。
「そんじゃお邪魔――」
扉を閉める。
聞き耳をもう一度してみるがやはり静かである。
だからさっき入った時にニコニコと笑みを浮かべながらこちらを見ているアリスなんているわけがない。
見間違えじゃなかったなら可愛い通り越してホラーだもんな。
「改めてお邪魔――」
扉を音を立てないようにゆっくり開こうとすると、その隙間から指がガバッと現れる。
そして勢いよく扉が開いた。
「もうっ、アリスを見た瞬間になんで扉を閉めたんですか!」
少し御機嫌斜めな様子。
いや誰だって物音立てずにこちら見ながらニコニコされるのは恐怖でしか無いって。
「おうおう落ち着けって。誰だってあんな出迎えられ方されたら怖いって」
「むぅ……それならば仕方がないです……」
とりあえずアリスにこの部屋に来た要件を一部伏せて伝える。
そのかわりモモイとミドリが今いない間に遊び相手になってほしいとのこと。
ゲームのパッケージが並べてある棚から、目的のものらしきメモの紙がすぐに見つかったので俺は彼女の遊び相手になることを了承した。
「……っとそろそろラボに戻らなきゃ。すまんが――」
「わくわく」
ラボと言う単語に反応したのだろう、アリスが目を輝かせながら、オノマトペを口に出している。
俺は勝手にしろとだけ言ってそのまま部室を出たが、すぐ背後の方に彼女は某有名RPGの様に付いて来た。
ミレニアムの正門?から普通に出たが、特に問題なく廃棄区画近くのエリアまで進められた。
が、今になって一つだけ不安な事がある。
アリスの背負っている光の剣。彼女がこれを振り回した時に俺のラボが消し飛んでしまうかもしれないのである。
研究資料とかは別に塵になってくれるのは大歓迎だが、あそこにはまだウェストンくんとエレキギターがあるのだ。
だから迂闊に彼女を放ってはならない。
「……あー……この辺りは入り組んでるし手でも繋ぐか?」
「むむむ……、迷子になっては大変ですからね、アリスは特殊コマンド手を繋ぐを選択します!」
そう言ってアリスは俺の手を握った。
小さく華奢な手だがしっかりと握られているため、離れることはない……だろう……であってほしい……。
しかし運命とは悲しきかな、哀れなヘルメット団が絡んできた。
「おうおうおう、やっと見つけたぜぇ西ヒカルぅ……」
「大人しくアタシらに付いて来りゃ痛い思いはしねぇぜ?」
一同、合掌。
廃棄区画とは言えまだ健在な建物に新しい傷跡が出来た。
それは銃弾や爆破による亀裂とは違い、溶けるように抉られている。
幸い、俺のラボとは真逆の方向なので倒壊しても問題無いのだが、今いる場所はいつ廃棄されたビルが倒壊するかわからない危険地帯となてしまった。
「お疲れさん。とりあえずここは危ないし移動しようか」
「はい!」
そう言ってアリスは俺の手を再び掴む。
そのあとは特に問題はなかったが、ラボに辿り着いた時に目に入った光景は少し酷いものだと思った。
入口のシャッターが無理矢理開けられた痕跡と乾いて黒くなった血痕、そして腐った小さな肉片。
生臭い鉄の臭いが鼻をかすめていてとても不快である。
「誰か来た跡があるな……」
「この臭いは――」
「布越しで呼吸しとけ」
アリスの鼻と口元を水筒の水で湿らせたハンカチで覆う。
俺とアリスはひしゃげたシャッターの下をくぐり、肉片に足を滑らせない様にゆっくりと地下へ下る階段を進んだ。
カードキーで開く扉も壊され、地上よりも強い鉄臭さが充満していた。
「ちょっとすまんな」
アリスの背後に回り、彼女の目を手で覆う。
照明系統は特に問題なく機能し、血肉でいっぱいの部屋が明かりとともに現れた。
「うーむ、これは酷い。ウェストンくん無事かー?」
部屋に向かって声をかけると、彼はすぐに目の前に現れた。
そして彼は一つの録画ファイルを送ってくれる。
それを受け取った通知をタブレットが報せると俺は、彼に部屋の片付けをしてもらった。
「よーし、もう目を開けても大丈夫だぞアリス。まだ散らかってるけど――あ、こら、ウェストンくんを突っつくな。
ウェストンくんもドリルで威嚇するんじゃない」
その後何故かウェストンくんとアリスは仲良くなった。
造られたもの同士何か意気投合する様な事があったのだろう。
そして例の写真を現像しようと携帯端末を取り出すとユウカと先生からのモモトークで通知がいっぱいだった。
……内容の確認は現像作業が終わってからでいいか。
現像した写真を手紙の封にハンカチの入ったジップロックと共に入れて、ノアの宛名を記す。
その作業が終わると同時に複数人の階段を下る音が響いた。
「よぉ、ヒカル。カジノ船以来だなぁ?」
「へ、ヘヘヘッ、ネルセンパイ……」
狩猟者の眼差しを感じる。
てかカリンは外か?
アリスは俺の背後に隠れたしどうしようかなこの状況。
「えーと、俺のラボに何用で?」
「モモイたちからアリスを見なかったかって連絡があってね、アリスに連絡をしてみたらヒカルと一緒にいるみたいだったから位置情報で来たんだ」
「え、いつの間に俺にGPSを!? もしかして先生ってそう言うタイプの人間……」
当たり前だが首輪に内蔵されたGPSだろう。
これのジャミングをすっかり忘れてたわ。
「ち、違うから! ネルたちも違うからね? ヒカルの首に付いてるヴァルキューレとミレニアムが共同で開発した首輪の位置情報だから!」
「ワンワンって鳴けって言えば命令通りに鳴くけど?」
「ヒカル!? ややこしくしないで欲しいんだけど!?」
ネル先輩たちのの意識が先生に向く。
アリスには申し訳ないが、今回は囮になってもらおう。
「すまんなアリス、先生がお前を迎えに来たみたいだ」
そう言って先生の方へ軽く突き飛ばす。
それと同時にネル先輩が意識を俺から外した瞬間に袖に忍ばせておいたスモークグレネードを投げる。
それをネル先輩が反射で撃ち抜いたので部屋は一気に白い煙で包まれた。
「チィッ!!」
「あばよとっつぁぁああん!!!! ヒャー⤴︎ホゥ⤵︎!!!!」
防弾仕様のエレキギターでネル先輩の弾幕を対処しつつ出口へ向かう。
階段を登り、空が見える。
一歩踏み出すと目の前ギリギリを銃弾が通り過ぎて行った。
「やっぱ、もう1人は外で監視してたか……!!」
銃弾が飛んできたであろう方向を見る。
また光った。
それに合わせてエレキギターで弾道を逸らし、狙撃手の視界を切る様に俺は建物の陰に隠れた。
「確かこの辺にーっと、あったな」
裏路地のマンホールを開ける。
俺はそのままマンホールの穴に飛び降りた。
ブクマ・感想・評価・誤字脱字報告感謝……!!
何度も推敲してても現れる誤字脱字……逃れられない宿命なのか……
誤字脱字報告をして下さる皆様には足を向けて眠れねぇですへへへ……
-言い訳フェイズ-
一応こちらを書き進めてはいましたがピクシブの方で女先生と生徒男体化の構成でR-18の怪文書を生成してて今日更新になりました申し訳ねぇ
-今後の展開-
あらかじめ宣言しておきます。
エデン条約編、西ヒカル(イッチじゃない方)関係が同時に動きます。
そしてシリアスが増えると思いますが、コメディからは逃れられないです。だって博士モチーフだから。
-協力のお願い-
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