さて、先生が縮んでしまったどうしよう。
さっきまで寝てたらしく、元の大きさの衣服を少年が身に纏っている状態だ。
髪の毛が若干長いのか、前髪をかき上げながら腰のベルトが落ちないように掴んでいたりととても可愛らしい。
もしかして毎回受ける囁きとかによる脱力で力負けも今ならあり得ないのでは?
「ねぇヒカル、ちょっと眼つきが怖くなってる気がするんだけど……」
「き、気の所為だよ、センセ」
怯えられて少し傷付く。
無意識に手を伸ばしてしまっていたようだ。
慌てて伸ばしていた腕を空いていた手で掴み引っ込める。
「それにしてもまぁ……結構縮んだなぁ先生?」
彼の頭の上に手を乗せて、ポンポンと軽く叩く。
オレの身長の約半分くらい。
「本当にどうしよう……まだ仕事が残ってるんだけど……」
「それ以前に他の生徒に見られたら不味いとオレは思うんだけど」
「うっ……」
現在地はシャーレのオフィス内。
たまたまオレが一番乗りに見つけたから良かったな!
「……」
「ヒカル……?」
それにしても本当にこの愛くるしさを感じさせる生物は本当にオレたちと同じなのか?
いや、キヴォトス人では無いから違うのは当たり前何だけれど、それ以前に生物としての愛しさを強く刺激するこの魔性の存在は何なんだ?
「……うん、ここは危険だし元の姿に戻るまではオレんとこに保護するかそうしよう」
「ヒカル!?」
有無を言わせずオレは彼を持ち上げる。
俺の力では成人男性なんて持ち上げられないはずだが、今の先生は小学4年生ぐらいの背丈故に容易に抱えられる。
小さい身体で暴れているが無駄無駄。
「ヒカル、今止めるなら怒らないから降ろして!」
「しー、センセ、今騒ぐと他の生徒にバレるかもしれんぞ?
なぁに、元の姿に戻るまで面倒見てやるからさ、な? 大人しく一緒にラボへ帰ろ?」
腕に座らせるように抱えると先生はさらに暴れる。
おい、落ちて頭ぶつけたらとか考えないのかこの人は。
「こーら、暴れると落ちて頭ぶつけんぞ、先生? 別にオレは取って喰おうなんて思ってないんだからさ」
それにたまにはサボろうや。
「いやそれでも今日やらないといけない仕事が」
「仕事仕事って……もしかして先生の今のトレンドカラーは黒ってか?
今の状況は完全にトラブルなんだからサボっても言い訳になるって」
「ねぇヒカル、最近おかしいよ? どうかしたの?」
いたって冷静であると言うのにそれは酷い。
それにオレはいつもこうだったはずだぞ。
「それに、あの時もしばらく顔を合わせることが無かったから心配だったし……」
「あの時って……ああ、エルザの件以降か」
オレが不覚にもエルザに捕まり救出され、そしてこの人に不本意ながらも惚れてしまった事。
その日以降しばらく一時の勘違いの可能性を考えて距離を取っていただけである。
まぁ、エルザの遺したものの処理とかも同時にやってたんだけど。
「……別に心配される様なことはして無いとは言える」
「…………まぁ元気だったのなら良かったよ。
でもね、何も言わずにここに連れてくる必要はなかったんじゃ無いかな????????」
先生はオレの腕に座らされながらマイラボへ移動していたのだ!
それに、誰にも見られてないから無問題なのである。
「フッ、安心しろ先生。誰にも見られてないからバレてねぇ」
「いやこれはれっきとした拉致だからね????」
マイラボのソファに腰をかけて、オレの膝の上に先生を座らせる。
抜け出そうともがいてて可愛い……。
なるほど……これが母性とやらか、と思う。
「……仕方ないからこのままあの事を話すか」
「……先生?」
急に真面目な雰囲気を感じる。
先程まで暴れていた先生が大人しくオレの膝の上に座っている。
「エルザの事なんだけど彼女からはヒカルは何か聞いてる?」
オレがいるというのに他の女の名前を出すなんて……!
という冗談は口に出さず正直に答える。
「いんや、何も。それに生憎だが矯正局から抜け出してからの記憶しかないから昔の事も分からん」
「……抜け出した云々は今は触れないでおくね。
彼女と何度か話したんだけどさ、あの子、エデン条約の時にも動いてたんだね」
一瞬、あの地下のカタコンベのことかと思った。
しかし、それはどうやら違う様子。
「トリニティのティーパーティー、百合園セイアはヒカルは知っているかな?」
「なんで急にその人の名前を?」
原作ではヘイローを破壊されて昏睡状態になった()キャラクター。
でもここでは急にそんな展開になって驚いたが……待って、この話題を出すってまさか――。
「エデン条約の件の裏で彼女も動いていたみたい」
「動いてたのは知ってる。てか、ゾンビと地下の方はオレ当事者だし」
「待って? それ初耳なんだけど?
……ま、まぁ、今は置いておくね。それでエルザはヘイローの破壊とまではいかなかったけれど彼女はセイアを昏睡状態にさせた」
どうやらアズサ……というよりアリウスはそもそも関わっていなかった様だ。
そしてそれを行った経緯としてはやはり、セイアが未来を観測できるからだったのだろう。
「ミネがあの時乱入しなかったら今頃は……って言っても良いぐらい酷い状態だったらしいよ」
「あー……なんとなくエルザならそんな芸当出来る気がするわ」
先生はエルザの戦闘能力が高いのかと思っているみたいだが、おそらくそれは違う。
というか彼女の素の戦闘能力は多分そこまで高くない。
「先生が考えてるほどアイツはそこまで強く無いと思うぞ。まぁスカルペル……メスの使い方はキヴォトスの中で1番だとは思うけど」
「そうなんだ……。でも、どうしてエルザは……」
「先生は知らんくてもいい。というか何も調べないでくれ、頼む」
無理矢理奪われたオレの唇を思い出す。
たまに夢に出てくるぐらいトラウマからガチで知られたく無い。
思わず抱き締める力を強めてしまった様で、先生の後頭部がオレの胸に軽くぶつかる。
「わ、分かったから力緩めて!」
「……ほほーん」
力を緩める代わりに頭の上にソレが乗る様にする。
すると先生は更に慌てる。
本当に可愛くなったなぁ……。
でもこのまま襲って距離を取られるようになったら普通に凹むし心が折れる。
あと、最悪なケースで他の生徒にバレて死ぬ事になりそうでそんな行動をする勇気が出ない。
そんなこんなでオレが先生を襲うか襲わないか迷っていると、助言を求めたブルアカ転生者専用のスレで見覚えのある人物の書き込みが目に留まった。
『今日も惨敗』というコテハンの人物。
割り振られた個別IDは以前オレのスレで百合バースなブルアカ世界の先生転生者と同じ。
容姿を知らなかったので画像が載せられたが、寝癖混じりの黒髪長髪でボンッキュッボンッの草臥れた大人の女性。
目の下は若干クマがあるみたいだ。
また、その大きなブツの所為でボタンで止められないためか開かれてるワイシャツの胸元からはチラ見えする黒いブラと谷間の黒子。
そして自撮りに慣れていないようで若干引け腰のぎこちないピースと笑顔。
……あんた、そんな見た目はあかんやろ!!
ってなんで顔が認識できるんだ???????
思わず見惚れてしまったが他の「……ふぅ」というレスで一気に冷静になる。
なるほど、これは危うい。
と言うかあの時百合バース尊いとか言ってた時の面影はドコやねん。
「ヒカル? 急にボーッとしてどうしたの?
それとそろそろ離してくれないかな?」
「……いんや、ちょっと遠いとこにいる知り合いが心配になっただけ。あと離すのはまだヤダ」
他のスレ民はなんか画像が出た瞬間賢者モードなってるし、ナウで襲われてるみたいだし助けないと廃人なるのでは?
助けに行きたいのは山々だが、今は先生から目を離したくない。
けれど知り合いが壊れるのを見るのは嫌だなぁ……。
ダメ元で教えてもらった申請フォームで先生と一緒に異世界を渡る許可を求める。
すると、予想外の事に許可が降りた。
ただし、帰ってきたら先生の異世界を渡った記憶は消すらしい。
まぁしょうがないよね。
「……ヒカル? なんか寒くない?
っ!? ヘイローがなんかまた大変な事になってるよ!?」
「……すまん先生、コレは予想外だった」
次の瞬間、景色が変わった。
目の前には襲われた後のような格好の草臥れた女性。
いや、確定で襲われた後だなコレ。
「ひっ!?」
「あー……惨敗ネキ?」
「ご、ごめんなさい、急に目の前に現れてびっくりしちゃった……」
背丈は大き方なのに猫背なせいで小動物に見えるな。
先生を片腕で座らせるように抱えながら惨敗ネキに歩み寄る。
「えっと、この人は?」
「俺の知り合いみたいなもんだよ、先生」
「えへへ……久々に見る生ショタだ……」
この人助けるのやめようかな?(震え)
と言うか先生もこの人をあまり見ないで、目が潰れる(嘘)からさ。
「惨敗ネキ、今オレはあんたの生殺与奪の権利を握っているに等しいんだ。
巫山戯たり先生に色目使ったりしたらハイエナの巣に放り込むからな」
一旦先生を降ろしてから背後から抱き締めるように抱え直す。
オレの胸に頭が軽く埋まったようで先生は暴れる。
「ふひひ……当たり前じゃ無いですかぁTえs、ヒカルちゃん……。
それにyesロリショタnoタッチが信条の淑女かつカプ厨ですよ私は……ふひひ……」
「ひ、ヒカル!?」
先生は渡さんと警戒するが、どうやら襲うタイプでは無い様子。
そしてある程度回復して立てるようになったのか、彼女は荒らされた装いを正す。
「……とりあえず行くぞ」
「ま、待って! まだ靴ちゃんと履けてない!」
なるべく人目の、特に生徒が居ない道を選びながらシャーレ本部へ向かった結果……。
「な、何事もなく辿り着けてしもうた……ゆ、夢ぇ……? 起きたらまた襲われたりしない……?」
「おうおう、これは現実だぞ惨敗ネキ。あとさっさと入らんと生徒が通りかかるかもしれんぞ」
「苦労してるんだね……」
建物の中に入るとやはりと言うか、元のいた世界の内装と同じである。
いや、ただ一つ違うのはなんか抑制薬みたいなのを来訪者は接種しないといけないようだ。
「面倒だと思うけど一応お願いね……」
「いや、こればかりはしょうがないだろ」
先生と一緒に薬を打ち、シャーレの深くへ進む。
そして問題なくオフィスに到着した。
「あ、先生お戻りになられたんですね……って誰ですかそこの人たちは?」
こちらの世界のユウカが怪訝そうな雰囲気でオレと先生を見る。
とりあえず惨敗ネキの説明のおかげで戦闘になることはないが一応保険をかけておくか。
「あー別にオレはざんp、先生に対して好感はあるが好意は抱いてねぇから安心しろ。今は訳ありでこんなナリになっちまったがオレはこの人が好きだから」
「ひ、ヒカル!?」
「あ、ら、LoveじゃなくてLikeな! か、勘違いすんなよ!?」
危ねぇ。
オレでも告白する時はやっぱムードは気にするからな。
それと惨敗ネキはこっち向きながら涎垂らしながら拝むんじゃ無い。
「……嘘はないようですね。
あ、もうそろそろ時間。すみません先生、もっと側でお手伝いがしたかったのですがこれで失礼しますね」
「ごめんね、ユウカ。でも、しばらくは外には出ないと思うから大丈夫だよ!」
「先生っ! で、ではまた明日もよろしくお願いしますねっ!」
そう言うとこやぞ惨敗ネキ。
軽い足取りのユウカを見送ると今度はオレの番のようだった。
足元から冷たい風の流れを感じる。
「あー……惨敗ネキ、こっちも時間みたいだ。それにちょうど先生も船を漕ぎ始めちまったし」
「いやぁ〜ヒカルちゃんも助かったよ本当に……マジで」
いつも帰り道でも襲われていたためか、今回のような平和な帰宅は久しぶりだったらしい。
というかそもそもなんで独りで出歩いてるんだこの人は。
「本当は護衛も欲しいんだけどあの入場に使った薬の効果時間がまだ改善の余地があってね……」
「あー……って事はユウカが退出したのは時間切れが近かったからって事か」
「そういう事。もし時間切れまで残ってたら強制的に外に放り出されるようにもなってるのよね」
次第に風が濃くなり、オレを中心に竜巻のような白い風の壁が見えてくる。
先生が冷えない様に白衣を片袖だけ脱ぎ、それで包む様に抱え直す。
「とりあえず戻ってからオレ式だけどステルスの方法送っとくわ」
「マジ? 助かるわ〜。それと先生と付き合えると良いわね〜」
「はぁっ!? 何言っ――」
気が付くとラボに戻っていた。
先生は既に夢の中。
オレは言い返したかった悔しさを一旦置いて、彼を起こさない様にベッドに寝かせる。
すやすやと穏やかな先生の寝息にオレも眠気を感じてきた。
「……これぐらいは問題ないよな?」
幼い彼の横に自分も寝転がる。
頬に触れれば子供特有の若干高い体温を感じる。
それにムニムニと癖になるような弾力感。
匂いも……嗅いでて落ち着く。
次第に意識が溶けているような感覚になる。
「ハッ!?」
どうやらいつの間にか寝ていたらしい。
目の前には程よい大きさの胸板。
退こうにも先生は今まで抱き枕を抱いて寝ていたのか、オレの腰に手がいつの間にか回っており抜け出せない。
それに少し寝汗をかいていたのか、先生に意識が向いていく。
スン、と嗅げば一気に脳に刺激が広がる。
先生の香り。
本当は起きたのならすぐに退くべきだろうが、先生に捕まってしまっているためこれは致し方ない事。
そう、だから匂いを嗅いでしまうのも不可抗力なのである。
断じてこの匂いが好きで嗅いでて落ち着くからではない。
「……ヤッベ、癖になる……コレ…………」
胎がムズムズするような感覚も出てきた。
というかこの人の寝息エッチでは?
それに耳元に息がかかってるんだけどコレはもうOKのサインやろ。
……いいいいややまま待ててておオオレレレおおおち落ち着けけけけ。
そうだ、このまま勢いのまま襲っては後が恐ろしいことになる。
つまり今はそう、先生の匂いを大人しく堪能しよう。
「被告人、前へ♪」
目の間には裁判官の装いをした生塩ノア。
検察側に立つは早瀬ユウカ。
弁護側はおそらく弁護する気の無いであろう黒崎コユキが先生の膝の上に座っている。お前あとで2人に詰められると思うぞ。
「待て生塩ノア、コレには深い訳が――」
「被告人は指示があるまで口を開かないでください♪」
力強く叩かれるガベル。
若干軋むような音が聞こえたのは気のせいでは無いだろう。
否応無しに黙らされる。
「ではヒカルちゃんの罪状を述べます。
貴女は山海経高級中学校2年、錬丹術研究会所属の薬師サヤの栄養剤によって少年まで若返ってしまったシャーレの先生の誘拐です。被告人、コレに間違えはありませんか?」
「お、大有りだ!!」
反論しようとすると目の前からさらにプレッシャーを感じて思わず「はい」と答えてしまう。
納得のいく返答が得られるとそのプレッシャーは収まり、言論統制とはこの事かと思わされる。
いや完全に言論統制だろコレ。
何故このようなことになってしまったかというと、先生の匂いを嗅いでいたのが先生にバレてしまい、先生がちゃんとした服に着替える前に逃げ出したところ運悪くノアに捕まってしまったのである。
ちなみにこの時はただバッタリと出会っただけで特に詰められるような事はなかったのだが、予想以上に先生の着替えが早くノアの前で捕まってしまい、終いには先生の口からショタ化した際の話(惨敗ネキのとこへ行ったのは覚えていない)をノアが知ってしまったのだ。
その為OHANASHIと称して連行され今に至るという。
「……という事です!」
弁護する気の無いコユキの弁護が終わり判決待ち。
発言を許されず、ボーッとしていたらここまできていた。
「……では主文後回――」
「おい待て確定演出やめろ」
慌てて止めに入ると強いプレッシャーを浴びせられる。
お、オレにも考えがあるぞ……。
オレはおもむろに懐から薬品を取り出した。
それは先生が飲んでしまった栄養剤のもう1本。
そう、栄養剤はまだあったのである! こっそり回収しておいて正解だった……。
「コレは先生が飲んだ栄養剤……の2本目だ」
「「「っ!!!!!!」」」
「ヒカルが持ってたの!?」
少女たち3人の視線は栄養剤に向いている。
ガハハ、勝ったなこれは。
「サンプルが取れる分を分けてくれるならコレをお前らに渡そう。だからオレの言いたい事は分かるな?」
「……サンプル分の用途は?」
「……ふっ」
量産させるための研究に決まっているだろ。
すると3人は電流が走ったのかお互いの顔を見合わせる。
「さ、3人とも……?」
「……ニコッ」
やっぱ司法は善良な市民の味方なんだなって思いました、まる。
誤字脱字報告・ブクマ・感想・ここ好き、圧倒的感謝……!!
もう足を向けて眠れませんよ本当に……(推敲ちゃんとやれ)
そして惨敗ネキは我ながら癖を詰め込みすぎたと反省ですね
それでも私は止めませんが
さて、超不定期のタグを付けてはいますが大幅に開いた言い訳です
現在本作の主人公?が登場するブルアカの二次創作小説を制作しつつ、趣味でモンスターパニック系の微ホラゲーを制作中のため投稿が開いてしまいました
どちらも色々とデザインを考えているうちにここまで開いてしまったというわけです
二次創作小説の方ですが第一段階として活動報告にオリジナル学校の学校ロゴとラフデザインのその所属の生徒を載せてあるので興味があればご確認下さい
次のお話が上がるまでまた期間が空いてしまうと思いますが本作品をよろしくお願いします
P.S.完結ラインはエルザと主人公が心の底から和解した所を予定しております
新作に登場予定のオリキャラ→
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本編で出す機会がないやつ兼質問受付場所→
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