いずれお前もこうなるTS転生者   作:まさみゃ〜(柾雅)

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はっぴぃばれんたいん
前話の掲示板回から読むのをお勧めします


その想いはカカオの如く

 先生に連れられてミレニアムの校舎へ訪れる。

 本来なら近寄りたくなかったが、先生の必死の頼み込みは拒否するのが心苦しいと思わせるほどのものだった。

 だが、その話を受ける際はこの一回きりであると伝えておく。

 だってエルザとはまだ顔を合わせたくなかったんだもん。

 

「本当にあの頼み方での了承はこれっきりだからな! ……ただ、コレ以外のお願いなら吝かでは無いと思っちまうのがムカつく……!!

「本当にごめん! ただ流石に今回エルザが脅しに使った私に関する根も葉も無い噂の内容が耐えられないものだったから……」

 

 ……ちょー気になるなソレ。

 けれど先生は教えてくれなかった。別に本当の事じゃ無いんだから減るもんじゃないだろうに……ケチ!!

 

 そうしているうちにもエルザの収容される部屋は近くなる。

 相変わらずの金庫のような扉。

 それが重々しく開かれるとそこには一面生徒の写真ばかりが飾られていた。

 認識できるのは褐色の肌と赤色のメッシュがある白っぽい髪。

 多分オレの写真なのだろう。

 

「あ、ヒカルちゃん!」

 

 彼女はオレを認識した瞬間抱きついてくる。

 以前のような気持ち悪さはないが離れた後の手付きがいやらしいぞおい。

 

「おい、どさくさに紛れて胸に手を伸ばすんじゃねぇ」

「え〜、ちょっとした成長確認じゃない」

 

 胸へ伸びた手を軽く叩き、先生の方を向く。

 顔を合わせない為にそう行ったのだが、彼女は照れだと思ったのか背後から抱きしめて来た。

 

「ねぇ、もう襲ったの?」

「はぁっ!? な、何のことだよ! それに抱きつくなあつk――」

 

 暑苦しい、そう言おうと思ったがオレの両肩を掴む継ぎ接ぎの手は冷たい。

 それに背中には彼女の感触はあるが体温は感じ無い。

 

「冷たい、でしょ?」

 

 耳元で囁かれるが、その息に熱はない。

 いちおう背中越しではあるが心臓が動いているのは分かるが、彼女の身体は熱を生み出してい無いのだ。

 

「……その状態でどうして生きているんだ?」

 

 オレがそう訊くと、彼女はくすりと笑い離れる。

 振り返ると彼女は自分の頭上、ヘイローを指差していた。

 

「コレの所為、だよ」

 

 ボヤけた円状の浮かぶソレ。

 記憶が正しければ林檎のような形状を模していた筈だが最近は視認が難しくなっている。

 と言うか彼女に限定せず、最近はユウカやノア、コユキのヘイロー、つまり他の生徒でも彼女たちの頭上に浮かぶヘイローの認識が怪しい時があるのだ。

 理由は分からないが、どうしてかそれを当たり前だと考えている時がありそれも悩みの種の一つとなっている。

 まぁ1番は先生関連だけどな!

 

「ヘイロー……だっけか」

「コイツが壊れない限りは私達は死なない……いえ、死ねないの」

 

 まだ謎の多いヘイロー。

 プレイヤーだった前世でもまだその謎が明かされていなかったソレが原因だと彼女は、エルザは言う。

 

「えっと……仲が良いのはとても良い事だと思うんだけど一応長めに時間をとっているとはいえ制限時間があるから本題に入ったらどうかな?」

「はぁあ!? コレのどこが仲良く見え――」

「はーい、せんせっ♪」

 

 やっとエルザが離れる。

 どうやら本題は別にあるようだ。

 彼女はおそらく持ち込んだであろう私物のドリッパーでコーヒーを人数分淹れながら話し始める。

 

「うーんとそうだなぁ……何から話そう。

 とりあえずヒカルちゃんのアレについてが良いかな?」

「……アレって何だよ」

「先生なら見たことあるんじゃない? 多分形容するなら『神秘の暴走』って言ったら分かる?」

「っ!?」

 

 先生の驚いた様子がなんとなく空気感でわかる。

 そしてオレの方も向いた。

 人数分のコーヒーを淹れたカップを丁寧にテーブルに置きながらエルザはそのまま話し続ける。

 

「多分先生は黒い服の男の人と面識があるはずだから『神秘』についてはある程度情報があると思うんだけど……ヒカルちゃんは大丈夫?」

「……一応」

 

 ブルアカ既プレイの転生者だから知っている。

 けれどその事は転生者の制約みたいなものによって言えない。

 勝手に転生させておいてコレは無いと思うんだけどな!!!!

 

「じゃあ話は早いね! 簡単に言えば私とエルザちゃんの神秘には混ざり込んだ何かがあるの!」

「待て待て待て待て!! どうして自分の神秘が分かるんだ!? てかよく何かが混ざってるって分かったなおい!!」

 

 ゲームならば第三者の視点やゲマトリア陣営の台詞などで予測は出来る。

 しかし、生徒であるはずのエルザが自分が何の神秘なのかを予測することが出来たのか分からない。

 

「何故って……ヒカルちゃんなら知っているはずだよ?」

 

 笑みを浮かべたような声色で彼女は答える。

 オレが理由を知っている……?

 そこで思い出したのが彼女が潜伏していたであろう第二のラボ。

 あそこでは確か破られたあの名刺があった。

 

「……接触があったんだったな」

「乙女の部屋にノック無しで2回も訪れたデリカシーのない大人だったけどね♪」

 

 彼女は初めて黒服との邂逅の事を話し始める。

 初めはオレ……でなく西ヒカルが西ヒカルだった頃なのだろう。

 つまりオレたちがミレニアムサイエンススクールに入学する前に一度目の接触があったようだ。

 その時に黒服が溢した「何かが混じっている」という言葉にエルザは引っかかりを覚えたのである。

 そこから彼女はその『何か』に対して酷く恐怖を覚えると同時に、その『何か』への興味がヒシヒシと湧き上がっていたのだ。

 まずは他の生徒の観察、そして自分自身の特異的な何かを探し始めた。

 それを長く続けるとミレニアムサイエンススクールへの入学では何か一つの特異的な才能が必須である事を知る。そしてその才能には神秘が関連するのではないかと言う推測を立てるのはそこまで時間はかかならなかった。

 つまり自分の才能=自分の神秘であると言う仮説を建てたのだ。

 彼女の才能は生物学に関するもの。

 その生物の範囲には当然自分自身も含まれる。

 彼女の特技は自分の体内に発生させる静電気を意図的に操作できる。

 そしてそれは触れた生物にもその静電気を届けさせることが可能なようだ。

 故に彼女は自身の神秘はコレなのだろうと理解した。

 

「……でもそれじゃその『何か』はどうやって……?」

「もう、先生ったらせっかちなんだから……。まぁ時間は有限なのに長々ともったいぶって話した私が悪いわね。

 簡潔にいえば私は昔から死に近かったの。道を歩けば必ず動物の死骸を見つけるし目の前で散る様を何度も見ていた。

 だからのそ『死』が鍵なのだろうと私は考えた」

「……それが混ざりこんだ何かってやつか」

「そっ。でも完全に正体を暴いたわけじゃないから推測の域を出ないのよね」

 

 って完全にエルザの話になってないか?

 確かオレの持つ神秘についてに話だったよな?

 

「それで私は確証を得る為にヒカルちゃんの観察を始めたの」

「……What?」

 

 どうしてそうなる????

 と言うのも黒服が言っていた対象はどうやらエルザだけでなく、オレ……というか西ヒカルの方も見て溢れたものだったようだ。

 

「それでね、ヒカルちゃんってどっらかというと何かの開発に関しては飛び抜けてるじゃない?」

「そうだね。私もヒカルの技術には驚くばかりだよ」

「タネも仕掛けもねぇぞ。なんか出来るんだからしょうがないだろ」

「まぁソレがヒカルちゃんの神秘と仮定したら自然とヒカルちゃんの神秘に混じる何かに思い至れたの」

 

 どうやら西ヒカルは幼い頃から放浪癖とでも言うのだろうか、目を話した隙に何処かへ行ったり、逆にそこに居なかったというのにいつの間にか居たりと言う奇妙な所があったようだ。

 さらに言うなら突然現れる時は決まって冷たい風の流れもあったようで、その冷たい風については先生はどこか納得したように相槌をうつ。

 

「とまぁ先生やヒカルちゃんに伝えたいヒカルちゃんの事はコレぐらいかな。

 ……あ、あと一つ、それほど大事な事じゃないけど忘れてた」

 

 いつのまにかそろそろ面会時間が終わる頃、すでにコップの中は空。

 そこで彼女は一つの学校の名を挙げた。

 

「調べてたらある時【アーカム隠秘学院】って学校から手紙の形式で接触があったんだよね。

 その時はヒカルちゃんのかんさt……神秘関連の方で調べるのに集中してたから無視したんだけど」

 

 原作では一度も聞いたことのない学校。

 というかアーカムってクトゥルフ神話関係やんけ!!

 厄介ごとの臭いしかしないんだが?

 

「そんな学校が……。でも連邦生徒会の資料じゃ一度も見たことなかったよ?」

「まぁ私も手紙を貰って初めて知った学校だからね。

 それにただの黒い服の変態のイタズラの可能性もあるし」

 

 深きものといい屍食鬼といい……ちょっとお腹痛くなって来たからとりあえず考えるのはやめておこう。

 とりあえずはエルザがオレに教えたかったのはオレの神秘とそれに混じる何かの能力、それとその何か関連と思われる学校が存在するという事か。

 

「……っと、そろそろ時間だね。多分バレンタインは忙しくなると思うし先に2人に……はい、チョコレート」

 

 オレには丁寧にラッピングされたハート型の、先生には『黒雷』の一目で義理だとわかると書かれたパッケージのチョコレートをエルザは渡してきた。

 いや普通は逆だろ。

 まぁ貰えるもんは貰っとくか。

 前世じゃ高校3年の時に母親から貰ったきりだったし。

 

「義理でも嬉しいよ、えっと……」

「もうっ! エルザで良いよ、せーんせっ♪」

 

 うわぁ……。

 前に「さようなら」って言いながら殺しにかかって来た奴の言う台詞に見えねぇぞおい。

 

「あ、もう時間だ。

 それじゃまたね、先生! ヒカルちゃん!」

 

 

 

 

 

 それから数日後の2月13日。

 エルザからもらったヒントでなんか知らんけどワープが任意で出来るようになった。

 と言うか身体の感覚的にコレが正常だったようでとてもしっくりくる。

 

「さてと、そろそろ逃げるのもウザったくなったし腹パァンのお礼も含めてカイザーくんとこ遊びに行くか」

 

 というわけでやってまいりましたカイザーくんの研究室のあるビル。

 この情報の出所はエルザからなので間違いはないはず。

 色々とカイザーくんへのプレゼントを用意してたせいでバレンタインの前日になってしまったが別に誰かにチョコを渡す予定はなかったからええか。

 

 そしてオレはすでに研究室の資料を一通り回収した所である。

 というか警備雑じゃない?

 監視カメラも簡単に映像ループさせられたしそもそも研究室に人いないし資料を保管してるセキュリティもチープだし。

 あとは爆薬を仕掛ける段階になってるし本当にあのカイザーくんが抱えている研究室なんかここ?

 念の為社内PCでも色々と情報探ったけどここしか研究室無かったし。

 

「ま、ことがうまく運ぶ分にはいっか!」

 

 大方爆薬を敷き詰め終えるとすぐに窓から出られるようにしておく。

 高さはおおよそ85階ぐらいだろうか?

 ガラスカッターでカットした窓から入り込むビル風が強い。

 

「さてと、消えるべき資料はデジタルやアナログ含め破棄は問題無いし、なんか面白いネタも見つけたからそれの回収も出来たな」

 

 忘れ物はないか一度指差しで確認する。

 某ヘルメットを被った猫もやっていた指差し確認を終えてあとは点火するのみ。

 点火といってもスプリンクラーが反応しないように爆弾に銃弾を打ち込んで起爆させるだけなんだけどね。

 そして爆発の起点を狙って引き金を引く。

 発射された銃弾は問題なく爆薬に目掛けて飛び出した。

 爆音と共に強い衝撃が襲いかかってくる。

 

「あ、やべ、火薬の量ミスっt――」

 

 予想よりも強い熱風と衝撃に己のやらかしに気付く。

 だが火は既に着いてしまった。

 連鎖的に発生する爆破の衝撃に脳が身体と共に揺らされながらオレはビルから放り投げられる。

 そして落下している中、かろうじて残っていた意識で転移を試みるが安定せず、オレはそのまま意識を失った。

 

 

 

「――誰がテメェに金を貸すかボケェ!!」

 

 川の向こうで学生の頃に金を貸したっきり返さなかったまま転校してったクズが見えた気がする。

 てかあれきりで疎遠になったからそもそもあのクズは生きてるんか?

 とまぁ、また川を渡りそうになったところで目が覚めた。

 

「……この懐かしい空気感、もしや我が故郷の矯正局の独房か?」

「……目覚めての第一声がそれですか」

 

 お、その声は我が友(と勝手に思ってる)カンナさんではないか!

 というか何故オレは収容されているんだ……?

 というか今日明日は非番の予定だって聞いてたんだけど。

 

「ええ今日と明日は休暇届を出していましたよ? なかなか取る機会が少なかったのですんなりと通りました」

 

 どこか怒気を孕んでいるような声色だ?

 というかその隣にいるのは……先生か?

 

「ま、まぁヒカルは多分経緯が分かっていないと思うし説明してあげよう? ね?」

「しかし彼女はせ、先生を、お、おお押し倒したんですよ!!」

 

 よく見ればカンナさんの装いはいつもの制服ではなく着飾っている。

 髪の毛も少し遊ばせているようでとても気合の入った印象を受ける。

 ……待て、今誰が誰を押し倒した?

 

「……すまん、記憶にないことなんだが詳しく教えてくれ先生」

「ええと……簡潔に言えば私とカンナが並んで歩いているところで突然強い風が吹いたかと思ったらヒカルが私を押し倒した状態で気絶していたんだよね」

「おうふ……」

 

 どうりでさっきから狂犬の威圧を感じってわけだ。

 でもコレばかりはオレ悪くね?

 

「カイザーくんのビルを爆破したから入れられたってなら分かるがコレばかりは不可抗力だろ!!」

「……今、なんと?」

「ヒカル?」

 

 あっ、やべ、言っちった。

 先生とカンナさんの協議の結果、このまま収容されることとなった。

 

 

 2人が離れて暇な時間が訪れる。

 今回は銃や道具類は取り上げられてしまったので大人しくする。

 が、やけに外が騒がしい。

 掲示板でちょうどスレを立てたところでの騒ぎなので流石に様子を見るべきか。

 

「ヒュッ」

 

 扉の格子窓から外を覗くと丁度、狐のお面が覗き込んでいた。

 こえーよ、おい。

 ワカモの象徴である狐面から嫌な予感がして離れると独房の扉が勢い良く吹き飛ぶ。

 

「お久しぶりですね」

「は、はい」

 

 警報がけたたましく鳴り響く。

 しばらくお互いに沈黙が訪れる。

 

「不本意ですが貴女のお力をお借りしたく扉を開けさせていただきました」

 

 先に口を開いたのはワカモだった。

 彼女はオレの返答を待たずに襟首を掴むと走り出す。

 

「ちょ、くび、締まって――」

 

 

 

「くび、しまっ、とまっ、ぐぼぇっ――」

 

 何度かコミカルに俺は地面に叩きつけられながらワカモと矯正局を駆け回されている。

 何度か通路を曲がり、たまに鎮圧のために飛んでくる銃弾を弾いていると、ワカモがあまり使用されていないような部屋に逃げ込む。

 やっと息が吸えるぜ……というかモモトークの通知が五月蝿えなおい!!

 

「くっそめっちゃ着信がウゼェ!!」

「シッ、もう少し声を小さくしてくれますぅ!?」

 

 携帯端末を取り出して送り主を確認する。

 そこにはユウカやカンナさんからのメッセージだらけである。

 まぁ1番多いのは先生からなのだが。

 そんなに信用ないかオレ?

 この状況でメッセージを入力する手間を考えると面倒なのでさっさと通話をかける。

 ワンコール以内に先生は通話に出たのでさっさと要件を聞こうか。

 

「あーもう、もしもし今絶賛修羅場中なんだけど!?」

「追手が過ぎ去ったとはいえもう少し声のボリュームを抑えてくださいません!?」

 

 通話越しに慌ただしく指示を出しているカンナさんの声が入り込んでいる。

 いや本当にこの厄災狐様はどれほどの被害出したんだよ。

 

『ヒカル! 今矯正局が大変なことになっているらしいけれど大丈夫!?』

 

 通話のために携帯端末を耳に当てているせいで、普段よりも大きな先生の声が頭に響く。

 ヤベェ……なんかアドレナリンが急激に分泌されてる感じがするわ……。

 あ、今、先生の声を聞いた途端良い考えが思い浮かんだ。

 

「矯正局が大変なことになってるけど大丈夫かって?

 あー、こっちはだいじょ」

「せ、せせ先生!?」

 

 通話音声から漏れた先生の声にワカモが反応する。

 良い案が思い浮かんだは良いが、携帯端末で片手が塞がるのが面倒だったのでちょうど良い。

 俺は通話をビデオ通話に変更してワカモに端末を渡す。

 

「すまんがちょっと準備するからケータイ持っといて」

「あ、ちょ、いきな、せ、せせせ先生!? な、何故ビデオ通話になっているのですか!?」

 

 端末の画面に先生の横顔が写っているらしく大きく動揺するワカモ。

 俺は彼女を少し微笑ましく思いながら必要な材料をかき集める。

 

『あはは……落ち着いてワカモ、ちゃんと私だよ。それにしてもヒカルと一緒だなんて珍しいね』

「そ、それわその……」

 

 おおかた欲しい素材は集まった。

 それらを抱えて預けている端末の方へ戻る。

 

「そんじゃまぁ……ここから脱出するか。

 ……これとこれをこうしてこうじゃ」

「……今何をしました?」

 

 あっという間に掘削ドリルを作り上げる。

 スレ民がなんか言ってるけど出来るもんは出来るんだよ。

 あと、いちいち気にしてたら禿げるぞと言おうと思ったが流石にやめておいた。

 

「コレで直下掘りすっぞ!」

「あ、いえ、な、何でもありませんわ、先生。

 そ、それよりも先生が良ければ明日、お時間を――」

 

 流石にエンジン機構は時間的に無理だったので手回しだが、代わりに歯車の方でちょっと楽ができる様にしたのでひと回転させるだけでもすいすいと床に穴を開けられる。

 コンクリートの基盤も簡単に掘り進められるのでやはりドリル、ドリルしか勝たん。

 あ、多分キヴォトス人の身体機能だから簡単に掘り進められているだけで先生みたいな一般ヒューマンは多分ハンドルを回せないなコレ。

 まあ一緒に閉じ込められるとかないだろうしそうなったとしてもオレがドリルを操作すれば良いし気にしなくても良いか。

 

 

 

 数分間直下掘りをしていると地下の用水路に出る。

 幸い水深は浅かった為、用水路の水に身体が落ちる前にドリルを捨てて横の通路と思われる場所に飛び移れた。

 ワカモが降りて来るのを確認した後、辺りを観察する。

 ただの薄暗い用水路。

 だが少し臭い。

 下水の臭いと言うにはどこか違う気がする。

 携帯端末のライトで周囲を照らしているとある一箇所で動く影を見つけた。

 それは爬虫類の様に地に這う姿勢をしており、皮膚はところどころ破れている。

 破れた皮膚の隙間からはピンク色の肉や黄ばんだ骨が見え、また、一部にはカビの様なものも見えた。

 そして頭部だが、大きく裂けた口に不揃いな牙、眼球がさまざまな箇所にある。

 

「……ワニ?」

「どう見てもワニではありませんよね!? さっさと逃げますよ!!」

 

 ワカモがオレの手を引っ張ってワニ(仮)とは真逆の方向へ走る。

 しかしそれが彼の本能を刺激したのか、背を向けて逃げるオレたちを追いかけてきた。

 亡者を連想させる様な悲鳴混じりの咆哮。

 おそらくこのまま逃げるのは良くない。

 

「とりま通話止めて……」

「こんな状況で何しているんですか!?」

 

 足を止めてワニ(仮)とツーショットを撮る。

 そしてそれを先ほどまで通話していた先生に送っておいた。

 

「そしてウェストンくん招☆喚!」

 

 懐から取り出したスイッチを押せばどこからともなくウェストンくんが馳せ参じる。

 そしてスイッチのもう一つのボタンを押して彼の新形態のお披露目だ。

 

「ウェストンくん、アームズモードってなぁ!!」

 

 槍の形状になった彼は槍先のドデカいドリルの他にその四方に小型のドリルが伸びている。

 コレで振り回した際に横のドリルが当たる事で槍先近くでは変わらず刺突ダメージになるのだ!

 

「貴女、まさかアレと戦う気ですか!?」

「奴さんがどうも逃してくれそうにないんでねぇ!!」

 

 流石に壁走は出来ないが、代わりに壁を蹴ってワニ(仮)の周囲を飛び回る。

 そして近くを通過する際はドリルを叩きつける。

 

「おっしゃ早速尻尾切断完了じゃい!!」

 

 あとおまけに近距離で銃の引き金を引く。

 至近距離ならエイム関係無しに必中だからね。

 

 痛覚が存在しているのが悲鳴をあげるワニ(仮)。

 大暴れする度に肉片が飛び散っている。

 

「てかクッセェ!! あと蛆湧いてんじゃねぇか!!」

「ちょ、なぜ言うんですか!?」

 

 あ、もしかして虫苦手?

 だったらごめんね?

 

 次からは肉片が飛び散らない様に通常弾から焼夷弾に変更する。

 ただ、場所が場所だし空間も全体的に湿っているから火はなかなか効いている感じがしないんだよなぁ……。

 それでも蛆はなんとか燃やせているのでヨシッ。

 

 

 

 

 あれから30分経った。

 やっとワニ(仮)は動かなくなる。

 

「案外キヴォトス人に敵はないのでは……?」

「何を呑気なことを……」

 

 服が汚れていないか確認しながらワカモが呆れた様に言う。

 実際一匹でも不快なのにそれが集合していると吐き気がすごいもんな……。

 ウェストンくんの消毒も終えてワニ(仮)を調べる。

 

「薄々思ってはいたけどやっぱアレかこいつ……」

 

 ゴム手袋でワニ(仮)の肉などを退かしながら奥に何かあるか探る。

 先ほどまで動いていた故か若干肉がまだ生暖かい。

 それにネチャネチャと触れた箇所からゴム手袋を離せば糸ができる。

 あ、臭いも酷い腐臭だわ。

 

「てか中身腐肉の集合体でワニ要素一つもねぇじゃねぇか。ちょっくらホーさんらに対処してもらうか」

「……詳しい事は聞かないでおきますね」

 

 タクミにメッセージを送ればすぐに既読がつく。

 ホーさんは通信機器の類いを持っていなかった為に彼女が俺との連絡役となったのだ。

 ちなみに写真と座標、注文への返答は不細工な猫のスタンプだった。

 

「おし、座標送ったしそろそろ離れるか」

「その……ショッピングモールへ向かう前に一度シャワーを浴びたいのですが……」

 

 まぁ確かにここ臭いもんなぁ……。

 あと、汗もかいたしちょっとスッキリしたい。

 

「んじゃ一旦銭湯向かうか」

「代金はアナタ持ちでお願いしますね」

「……へい」

 

 それにしても先ほどのワニ(仮)討伐でもそうだったけどワカモは異次元とでも言える様な強さだった。

 もしかして七囚人ってこんなばっかなん?

 ……今のうちにゴマ擦ったほうがいいか。

 

「あ、姐御! 地図的にこっちの方行けば銭湯へ着きやす!!」

「その呼び方やめて貰えます!?」

 

 地図アプリで現在地を確認して銭湯への道のりを見つける。

 なるべく裏路地あたりのマンホールから出られるように俺たちは用水路を進む。

 数分もすればすぐに地上へ出られるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ……サッパリした」

 

 湯上がりで当たる扇風機の風が心地良い。

 まさかこんな和テイストな銭湯があるとは思わなかったよね。

 しかもコーヒー牛乳も売ってたし完璧すぎる……。

 ただ、1つだけ面倒だったのは髪の手入れだった。

 

「やっぱ手入れ面倒いしやらなくて良くない……?」

「ダメです。それに貴女は先生によく見てもらいたくないのですか?」

 

 何言い返せねぇ……。

 否定したいけど、ああ言われるとつい先生が自分の髪の毛に触れる場面を想像してしまう。

 ただ、これ以上考えると頭が先生のことだらけになっておかしくなりそうだから話題を変えよう。

 

「んで、姐御は先生に渡すチョコは大丈夫そうッスか?」

「何をおっしゃっていますか? それは私が貴女に聞きたい事ですよ?」

「いや、別に渡す予定無いし……」

 

 すると一気に彼女の方から冷たい視線を感じるようになった。

 表情は分からないがなんとなくジト目になっている気がするな……。

 しばらくの静寂の後、ワカモが口を開く。

 

「……それは良くありません。ええ、良くありませんわ」

「……わ、ワカモ殿?」

「今すぐ貴女の作る分の材料も買って作りますよ」

「ちょ、いきなり襟はやm ――ぐべらp」

 

 再び襟を掴まれ引き摺られる。

 と言うか何故俺も作らされるんだ!?

 先生にチョコを渡す人数減ったほうが好都合だろ!?

 ……まぁチョコを渡さない代わりにちょっとお高めのコーヒー豆を渡す予定だったんだけど。

 ただ、こうされて彼女の厚意を無意にするのは流石に申し訳ない。

 ここは彼女と一緒にチョコを作るか……。

 

 

 

 まず連れて来られたのはチョコを専門に取り扱っている店。

 店内に入ればバレンタインに向けてフェアを開催していたらしく、オススメのチョコレートにはポップが飾られている。

 俺とワカモは色々とチョコレートを見て回っていたがそこで乱暴に店の扉が蹴り開けられた。

 

「オラオラァ!! 私らはカカオ79%党だ!! 金とゲロ甘チョコレート出せ!!」

 

 銃を天井に向けて発砲する覆面の生徒。

 突然の発泡で店内はパニックになる。

 しかしそこで俺の隣から強い威圧感が放たれた。

 

「おら何ぼさっと――」

 

 リーダーらしき人物が店員に詰め寄る所で一つの発砲音が店内に鳴り響く。

 そう、我らがワカモの姐御がカカオ79%党の頭目に一発お見舞いしたのである。

 距離が距離である為、ワカモの姐御の放った銃弾は覆面と易々と貫通させてカカオ79%党の頭目を気絶させた。

 

「店員さん、お会計をお願いします」

「は、ハイィィッ!!」

 

 残るカカオ79%党のメンバーを片手で処理する姐御。

 ただ、倒すだけで放置するのはいかがなものかと。

 オレは慌てて支払い分の自分が選んだ商品分のお金を出してから気絶したカカオ79%党のメンバーらを縄で縛る。

 ちょっと猪突猛進過ぎやしませんかね。

 それでもワカモには一言言っておこう。

 

「流石ッス、姐御」

 

 

 

 

 続いてデコレーション用の雑貨店。

 ここでは作ったチョコレートを入れる箱を買いに来た。

 そしていざ会計へと向かった時にそれはやってきた。

 

「明日のバレンタインデーは中止だオラァア!!」

 

 ハート型の箱と金を出せと機関銃を乱射する覆面の集団。

 ちょっと君らタイミングが最悪だぞ。

 ワカモの姐御が自身の銃へと手を伸ばすのが見える。

 そして一発の発砲だけで彼女らを制圧してしまった。

 

「まさか跳弾で全員仕留めるとは……流石ッス姐御……」

 

 ちなみに今回もオレが全員縄で縛っておいた。

 

 

 

「私らは――」

「騒がしいですよ」

 

 最後に訪れたお店。

 そう言えばチョコレートを固めるための型を買い忘れていたことに気がついて寄ったら案の定強盗である。

 しかし、この店に来る前に入った店全てに似た様なことがあったので姐御は彼女達が名乗る前に制圧してしまう様になった。

 哀れ、名も知らぬ集団。

 たとえ、カカオ79%党やらハート型撲滅団やら果糖衆やら変な名前でなかったとしてもワカモの姐御の前で道を阻んでしまったが君達の活動の最後だ。

 

「では時間は有限ですし早速作りましょうか」

「……へい」

 

 そして現在、我が家(マイラボ)のキッチンである。

 まぁキッチンとは名ばかりで実験器具置き場になってたんですけどね。

 あ、そのビーカーはコーヒー淹れる用なんで仕舞わなくて大丈夫ッス姐御。

 

「さて、作りますよ」

「へ、へい」

 

 机の上に並べられる材料。

 いざ作るとなると恥ずかしさよりも何故かワクワクと言える様な高揚感が湧き上がる。

 

「……妙に慣れていますね」

「へへっ、あっしは手先が器用なもんで……姐御」

 

 レシピ本通りに製作をしていると褒められる

 まぁ返答で三下ムーブかましたら聖剣:緋之奇の暴(ただの紙を筒状にしただけ)で頭を軽く叩かれたんだけど。

 

「うっし、あとは冷ますだけか」

「お疲れ様です。

 ……ふあぁ」

 

 いやワカモの姐御の方がお疲れ様ですだよ。

 思い返せば原作でも先生にチョコレートを渡そうとすればことごとく邪魔が入って、しかも日頃の行いの所為で変に怪しまれたりと……。

 今回はオレもその地味な不幸体質に巻き込まれていたんだけど思い返せばいつもとは違う体験な気がしてとても有意義だったと思える。

 というかなかなか強盗の現場に遭遇するとか無いからね。

 キヴォトスだと普通に起きそうな感じがするのに。

 

「……お疲れの様子で」

「買い物をしただけですのに妙に疲れましたから……」

「そう言う日もあるッスよ、姐御」

 

 スパンッと再び聖剣:緋之奇の暴がオレの頭部を襲う。

 いたい。

 聖剣:緋之奇の暴で叩かれた箇所を摩りながら現在の時刻を確認するともう日の入りだった。

 そろそろ寝る準備でもするかー。

 

「あ、ここ、シャワールームありますんで勝手に使っていいッスよ。

 あと、最近使ってないッスが自分の寝室あるんでそこで寝て構わないッス。

 オレはソファーで雑魚寝するんで」

「流石に家主よりも良待遇は申し訳ないのですが……」

「その家主が良いって言ってるんで」

 

 そのあと少しだけ姐御は抵抗したが最終的に折れてくれた。

 そして彼女はそのままシャワーを浴びに行く。

 

 さて、ワカモがシャワーを浴びに行ったが未だに掲示板の方ではオレのライブモードは今もなお終了できない。

 結構な時間が経ったというのに不具合が発生しているため終了ボタンが反応しないのだ。

 幸い配信の機能の中で映像中断やミュートなどが出来るので助かったが、もしこれらも反応しなかったら今日一日中の臭いを落とせなかったぜ……。

 しかし本当にどうやって終了できるんだコレ……。

 

 

「……どうやって?」

「では寝床をお借りしますね」

「あ、どうぞどうぞ」

 

 色々とスレで駄弁っているとつい口に出して返答してしまう。

 幸いワカモには聞かれなかったが十分気をつけないとなぁ……。

 

「明日はおそらくシャーレの周辺は大荒れすると思いますので早めに寝た方がよろしいかと?」

「あー、少ししたらテキトーにソファで寝るんで気にしないでいいッス姐御」

 

 あ、なんかスレが嫌な方向に流れてきているな。

 ここはさっさとミュート&映像暗転して就寝に入りますか……。

 その前にピコハン回収してからシャワーを浴びるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ……おはようございます」

「おはッス姐御」

 

 朝食の準備は万全である。

 と言っても時刻的にはもうブランチなのだが。

 姐御は朝はお茶派だと思ったので淹れておいたが……どうやらそれで正解の様だ。

 どこか悔しそうな雰囲気を感じたが……まあ気の所為だろう。

 

「てな訳でお手を拝借……」

「……何をするつもりですか?」

 

 ブランチを終えていざ先生のところへ向かうとしよう。

 ただ、この時間は何処にいるのか分からないので一度シャーレで先生の予定を確認する。

 その為に跳ぶ準備をオレはしている。

 てかワカモの姐御のお手手すべすべなんだが??

 あ、あとなんか程よく甘い良い香りがする。

 ……気持ち悪いなオレ。

 

「んじゃ跳びますよ……っと」

 

 自分の中にある何かが蠢く様な感覚を想像する。

 それは皮膚の下を這い回り、時に空気が触れる肌に冷たい風を撫でさせる。

 目には徐々に熱を帯びるが同時に宇宙(ソラ)や訪れたことのないはずの場所の景色が見え始める。

 そして白い風がオレとワカモを囲い……。

 

「どう言うことですかコレは!?」

「あー……トンネル効果ってやつッスよ」

 

 気が付けばオレたちはシャーレのオフィスの中に立っていた。

 スレ民の視点ではどうやらオレのヘイローはこの移動方法を行う際、元の形から変形し触手の如く蠢いていたらしい。

 今や認識が難しくなっている為、どの様な変化がわからないのが悔しい。

 今度絵に描いてもらおうかねぇ……。

 いや、なんか余計なイラストも投下されそうだしやめとこう。

 あとなんかこう、負けた気分になる。

 そういえば今日はユウカが当番だったんだ。

 

「――とりあえず後でゆっくりできる時に頂くね、ミネ。あ、良ければコーヒーでも淹れるけどゆっくりしていく?」

「い、いえ、その、まだ救護が必要な方々が居ると思うので――」

 

 ちょうど良いタイミングで来たみたいだ。

 ミネ団長と一緒にだけれど。

 

「あ、ちょ、なんでオレの背中に隠れて」

 

 急に恥ずかしくなったのかワカモがオレの背後に隠れる。

 そしてオレの背中に両手を這わせたかと思うと突然彼女はオレを先生の方へ突き飛ばした。

 

「ワカモと……ヒカル? どうしたの?」

「せ、先生……コレを……」

 

 そして流れる様にオレの隣へ移動したかと思うといつの間にか取り出していたチョコレートを先生に差し出していた。

 と言うか急に先生との物理的な距離が縮まったから、あらかじめ考えていたプレゼントの仕方が吹っ飛んだんだが???????

 

「あ、え、っと、こ、ここコレ、やる」

 

 取り繕う様に先生の方へチョコレートを突き出す。

 正直受け取ってもらえるか心配だったが、チョコレートを持っていた手が軽くなったことに安堵した。

 

「私に? ……ありがとう、嬉しいよ」

 

 ヤバい。

 先生のその言葉でオレの顔が熱くなる。

 た、多分暖房が効き過ぎているのだろう。

 けれど何故だが身体の方は寒さを感じる。

 それに心臓の鼓動が首の筋からか耳の裏にかけて聞こえてくる。

 

「やはり貴女も好きじゃ無いですか」

 

 隣でワカモが呟いた。

 その言葉を耳が拾い、オレは咄嗟に叫んでしまう。

 

「は、ハァ!? バ、バババ、バーバーカバーバー! バーバーカバーバー! バーカ! カカ! カバー! バーバーバーカバー! バーカバーカカ! バーカ! カカ! バーバー! カカカバー! バーバーバーカ! カバーカカ! カカ!!」

 

 転移を忘れて出口へと駆ける。

 今、この場に残っていたら頭がおかしくなる、そう思った。

 そしてミネ団長の隣を過ぎる瞬間、オレの思考は途切れた。




ブクマ・感想・ここ好きいつもありがとうございます……!!
本来ならもっと早く完成していたはずだと言うのに2/13ギリギリまで書いていました……
コレも全てはフラッシュタイミングでCPUが遅延行為をしたり、魔を刻むデモンスミスが実装されたり、VV8が欲しいのにミラダンテが来たり、トチ狂ったのか架空TCGものを書き始めたり、リビドーに負けて異種恋愛を書いてしまったのが悪いんや……!!
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