※今回の話には暴力表現が含まれるので読む際はご注意下さい。
「……さて、決まったのは1ヶ月後にEXスキル的なのを使う、か」
言語化が難しいのだが、これだと思えるものがある。
それは敵にダメージを与えるものではなく、どちらかというと補助に部類されるものだ。
俺はベッドに腰掛けながらボーッと大雑把な脱獄の計画を練る。
「……
「おや、もうそんな時間か」
ちょうど思考の海から帰ってきた頃に声をかけられる。
午後に捕まって日付が変わり、体内時計が正しければ現在は午前11時頃、一つの部屋に拘束されたまま連れられる。
そこには昨日俺を捕まえたであろう人物が座っていた。
ヘイローを確認すると記憶にあるものと同じ。
「どうも、今日もヨロシク。カンナさん」
「こちらとしてはさっさと例の物の在り処を教えていただきたいんですがねぇ……」
俺の記憶にない事だから捜査が進展できない。
この人も被害者なところがあると思うが、記憶がない俺にはどうすることもできなかった。
と言っても、助ける義理もないのだが。
「昨日も言ってた通り何も覚えてねぇよ」
「そうなんですよねぇ……」
眉間にシワがよっていのか、それをほぐすために彼女の腕が動く。
顔が認識できないという感覚はとても不思議だ。
顔のパーツは分かるのに理解が出来ない。
その為、顔に関する動作も分からなくなる時があるのだ。
「お疲れのようだねぇ……良ければ俺が愚痴でも聞くぜ?」
「西ヒカル……!!」
「よせ」
激昂しかける生徒をカンナさんが宥める。
溜息をつく彼女に俺はとある単語を投げかけた。
「先生」
ピクリと目の前に座る彼女の耳が跳ねる。
釣り餌にかかった事を確信した俺は続けるように世間話を始めた。
「良い人だよな、あの人。
今朝、雨に濡れそうになったところに傘を差してくれたんだ」
目の前のカンナさんはただジッと此方を見つめているだけ。
けれど、先生に関する話題を出して共感を求めていると、次第に彼女は同意してくる。
そこからは早かった。
「へー、だからあの時すぐに現れたんだ」
「ええ、先生は何処か抜けている所がありますからね。
ですから陰ながら護衛をさせていただいています」
「え、マジで? そりゃあすごいな。
撃たれどころが悪かったら最悪死んでたじゃん、先生」
「本当にそうなんですよ……!!
我々が御守りしなければならない立場だというのに……」
「カンナさんも可愛い所あるじゃなないっすか。
因みに物は今も持ってる感じ?」
「お、お世辞はやめて下さい。
……一応疲れた時に直ぐに補充できるように此方に」
そんなこんなで脱獄決行日まであと半月ほどになった。
いつもの尋問室とは別の場所へ案内される。
その部屋には機械頭の男らがいた。
「やぁ、初めまして、西ヒカル。
今日の尋問は我々が担当することとなった。よろしく頼むよ」
「……どーも」
やべぇ、音が部屋に反響してて誰が喋っているのか分からん。
多分目の前にいるやつが動き的に今話をしている人物なのだろう。
「まぁそんなに気を張らずにそこの椅子にかけたまえ」
嫌な予感がするが、大人しく促されるままパイプ椅子に腰をかける。
すると、一人の男が俺の目の前に立ちはだかった。
「単刀直入に聞こう、例の薬は何処だ?」
「例の薬……? しら――」
気が付くと俺は床に頭を強くぶつけていた。
眼鏡は外れ、右の頬が熱く、唾液が口の中に溢れ出てきている。
目の前に立っていたやつに殴られたのだろう。
「――ペッ、知らねぇよ。んなもん」
痛みに堪えながら途切れていた返答の続きを吐く。
口の中に微かに鉄の味がした。
「もう一度聞こうか。例の薬は何処だ?」
「記憶がねぇ……――ガフッ」
鳩尾を蹴られた。
一瞬だけ視界が白く塗られて、呼吸を忘れる。
蹴られた衝撃で壁にぶつかったのもあり、視界が揺れる。
「――ゴフッ。――ゴフッ……ハァ……ァ……ハァ……ァ……」
「すまない、聞こえなかったからもう一度答えてくれるかな?」
無理矢理立たされ、パイプ椅子に座り直させられた。
まだ視界が眩む。
「……薬って言われてもどの薬の事を言ってるのか分からん限り答えられねぇよ」
「待て。それはすまないね。次からははっきり聞こう」
左頬を殴られそうになった時、質問者が拳を止めさせる。
そして彼は再び俺に問いかけた。
「
やっと知りたかった物を俺は認識した。
確かにそれはゲームチェンジャーになり得るだろう。
しかし、それならばどうしてバレた?
「蘇生薬……ねぇ。それを手に入れてどうす――ガッ」
発砲音と同時に腹部に鈍い痛みが連続する。
ゴム弾を至近距離でぶつけられた様な痛みだ。
ご丁寧に反動で背中から椅子ごと倒れそうになった俺を、もう一人の男が支えてる。
「質問に答えてくれるかな?」
折れそうな心を無理やり補強し押し込める。
あと数日もすれば脱獄するんだ。
だから今は耐えろ。
「知ら――ッ!!」
右の脛を撃たれた。
右肩を撃たれた。
喉を撃たれた。
右頰を殴られた。
重点的に身体の右側に痛みを与えられる。
項垂れると右側の髪を引っ張られまた殴られる。
肉体が痛みを訴え疲れた所に再び痛みを与えられ、休む暇は許されない。
二度目以降に与えられた痛みは、先に受けたものよりも激しさを増す。
次に意識が戻った時は俺以外に部屋には人がおらず、床には俺の吐いた血液混じりの唾と身体に撃たれた銃弾とその薬莢が散乱していた。
「……い…………り……!!」
誰かが顔を覗き込んでいる。
「……カフッ…………カフッ……………………」
答えようにも喉の中が塩っぱくて、少しネバネバして、それが口へ登る。
そしてそれが口の中に現れた時に、吹くように吐き捨てた。
「おい、しっかりしろ!!!!」
聴き覚えのある声だ。
部屋の明かりが逆光になって、シルエットでその人物を認識する。
「カ……ンナ……」
「とりあえず頭を動かすなよ、今担架を用意してもらっている!!」
焦り混じりの声色。
担架を運び込んで来た生徒らの足音。
ゆっくりと、頭を揺らさないように丁寧に俺は担架に乗せられる。
そして迅速に医務室へと運ばれた。
漂白剤の香るベッドの上に寝かされ、手当を受ける。
幸い骨折は無かったが、それでもベッドの上で安静にするように注意を受けた。
けれどこの日、一番印象的だったのは自身の無力さを悔やみながら俺の腕に包帯を巻く尾刃カンナの姿だった。
さて、今日は収容されてから1ヶ月……つまり脱獄決行日だ。
怪我も回復して、元の独房に俺は居る。
といっても戻って来れたのはつい3日前のことなのだが。
「EXスキル……ゲームだと発動する時ってなんか決め台詞やエフェクト的なのあったよな」
現実じゃそんな演出なんて無いんだけど。
溜息交じりに俺は隠し持っていた物の一つ、薬品の入った注射器を取り出す。
「早速安価実行すっか」
針が出てくる面を首に当て、引き金を引く。
チクリ、と冷たいものが刺さる感触と同時に中の薬品が体内に入って来た。
一歩、一歩、格子戸へ足を進める。
そして格子に手を伸ばすと、その手はスルリと通り抜けた。
「ゲームなら体力少量回復と一定時間の火力上昇と回避率が100%になったってところだな」
夜間の巡回の生徒をうまく躱しながら外に出る。
悠々とはいかないが、余裕をもって俺は収容されていた施設の敷地から出ることができた。
出来たのだが……。
「やぁ、待っていたよ西ヒカル」
「……何で居んだよ」
銃を構えた機械頭の集団。
幸いまだ効果時間内だが、それでも全員捌いている間に効果が切れるだろう。
けれど迷っている暇はない。
俺は片手に握っていた愛銃……M1911で彼らに応戦した。
「無駄な抵抗はやめて大人しくついて来て欲しいのだがね?」
一斉に彼らのアサルトライフルが火を噴く。
今のところ避ける必要は無いのだが、効果が切れた瞬間にハチの巣になってしまうのでなるべく遮蔽物に身を隠しながら一人一人無力化させていった。
「こんな歓迎の仕方じゃ俺は靡かねぇぜ?」
「チッ、相手は一人だぞ!! 何時間をかけている!!」
急な軽い倦怠感が薬品の効果が切れたことを知らせる。
それでも俺は応戦した。
「……流石にジリ貧だな。ここは腹を括って――」
突撃を考えたが、自分の勝利条件をよくよく考えると全員倒さなくてもいいことに気付く。
周囲の環境を観察し、俺は近くに川があることを発見した。
「俺の勝利条件は脱獄、及び逃走の成功。ならば――!!」
一つのフラスコを取り出し、投擲する。
投げたフラスコが撃ち抜かれると、瞬く間に辺りは白煙に包まれた。
これに乗じて俺は川まで駆け寄り飛び込む。
その際に運が悪かったのか、俺は足と肩に銃弾を受けてしまった。
そして体勢を崩してしまい、頭から落ちた。
窓から陽が差し込む部屋。
「………………」
目が覚めると知らない天井が真っ先に目に入った。
体を起こそうと力を入れると、右肩と右足に激痛が走る。
よくよく自分の身体を観察すると、あの時に撃たれた箇所には包帯が巻かれており、誰かが処置を行ったことが分かる。
また、着ていた服も自分の物ではなくおそらく溺れていた俺を介抱してくれた人のものだろう。
「ココドコ……」
痛みで起き上がることができず、目だけで部屋の特徴を観察する。
俺が寝かされているのはソファーの上。
壁には一日一惡と書かれた習字の作品。
清潔感のある雰囲気からしてどこかの事務所だろう。
「……うん? 一日一惡?」
既視感のあるアイテム。
その考えが正しいことを裏付ける足音が聞こえる。
ガチャリ、という音が足元の方からして誰かが入ってきた。
「ふあぁ……まさか川に怪我人が流れてるとは思わなかったわ……」
クシャクシャと鳴るビニール袋の音。
その音がこちらに近付てくる。
「あら? もう起きていたのね、具合はどうかしら?」
足音の主が顔を覗き込みながら声を掛けてきた。
モコとした暑そうなコートを羽織った女性。
「傷口がクソ痛ぇ……」
「え゛、だ、大丈夫かしら? 一応傷口の中に残ってた銃弾は取り出したし消毒も行ったから大丈夫よね? よね?」
先ほどまでクールビューティーのような雰囲気が吹き飛び、良く知るキャラクターがそこに居る。
「問題ねぇよ……助かった。で、アンタは?」
「そ、そう、良かったわ……。
私は陸八魔アル、ここ便利屋68の社長よ!」
うん、元気のいい挨拶、心が洗われるね。
顔は認識できないけれど、笑顔を浮かべていることが良く分かる。
「俺は西ヒカル、しがないミレニアムの生徒だ。改めて川に流れていた俺を助けてくれて感謝する」
「ふふんっ、アウトローとして当然の事をしたまでよ!」
両手を腰に当てて胸を張っているが、両手に持っているビニール袋の所為で少々可笑しく見えた。
痛みを歯を食いしばって無理矢理起き上がる。
「ちょ、ちょっと、横になっていた方が良いわよ?」
「いや、大丈夫だ。それよりもその手に持っているのは何だ?」
彼女が心配そうにこちらを見つめるが、俺は彼女の手に持つ物に話題を逸らす。
すると彼女はビニール袋からあるものを取り出した。
「造血剤よ。アナタ、血を流したまま川に浸かってたわけだしね。
でも、どうやったら肉体がこんなにボロボロになるのよ……?」
「それは……知らない方が良い話だな。ただ、助けてくれたことに関しては本当に感謝してる」
多分上手く作れていない笑顔を彼女に向ける。
少々不満そうな雰囲気があったが、彼女が口を開く前に事務所の扉が開かれた。
「あれ? 社長、もう起きてたんだ…………ハァ、元の場所へ返してあげな」
「なっ、ち、違うわよ!!
この人はたまたま朝早く起きたから散歩してたら、血を流しながら川に流されているのを発見したの! 治療してあげてたの!!」
アル社長の知り合いだろう。
優しい、落ち着いた雰囲気の声だ。
「どうも、西ヒカルです。川に流されていたところを彼女に助けられました」
「……私は鬼方カヨコ。アナタがそういうならそうなんだね」
「ほ、ほら……って、アナタなんでカヨコには敬語なのよ!?」
雰囲気の問題だと思うし、実際カヨコさんは年上だし……。
え? カンナさんはタメだった?
そりゃ、俺とカンナさんはもうマブみたいな関係だし。
「おっはよー!!」
「お、おはようございますアル様……」
続々と現れる便利屋のメンバー。
浅黄ムツキと伊草ハルカとも挨拶を交わし、俺の扱いについては怪我が完治するまで事務所に居座っていいということとなった。
――3週間後。
怪我が治ったのに一向に解放される気配がしないのは気の所為だろうか?
【念のための補足】
本作品のEXスキルの解釈としては、ゲームの様なカットインなどは無く、銃火器や爆弾、戦車などの戦う際の手札の一つという感じです。
カットインがスキップされている戦闘画面が一番イメージに近いと思います。
ただ、通常の攻撃とは違ってヘイローからのバックアップを受けた技という個人解釈設定なのでバカスカ発動は出来ません。
『蘇生薬』
ヘイローが壊れても投薬すれば何事もなかったかの様に生き返るまさにゲームチェンジャーなアイテム。
しかし効果があるのはキヴォトスの住民のみだが、それでも十分過ぎる。
現状その存在を知っているのは一部の組織とその関係者だが、自然の理に背くものがマトモなものであるはずはなく、得られる結果は悲惨なものになるだろう。
ブクマ、誤字報告、感想、評価ありがとうございます。
感想は全て目を通しています。
なるべく感想には返信をしたいのですが、貰えた嬉しさのあまり語彙力が溶けてしまいなかなか出来なくて本当に申し訳ない……