一話 渇き
とある広い公園。外れの方にある荒んだベンチに座りながら、少し離れたところで遊ぶ子供達を死んだ目で眺める一人の青年がいた。
彼の名は比企谷八幡。喰種捜査官である。
「おい比企谷一等」
誰かが背後から呼びかけた。比企谷は特に焦る様子もなく、コーヒーを一口飲んでから面倒くさそうに振り返った。
「相変わらずサボりか?この不良者が」
そう言って小馬鹿にしたように鼻で笑う彼女の名は平塚静。比企谷の上司にあたる上等捜査官である。
「子供は喰種の好物だからこうやって見てれば自ずと怪しい奴に目星が付くんすよ」
「その怪しい奴として目星がつけられたのが貴様だ。先ほど通報があったと警察からウチに通報があったんだ」
呆れたように言う平塚に、比企谷は何一つ悪びれも無いように舌打ちした。
「お前が捜査官になり一年。職業上不審者として警察に顔を覚えられる者は少なからず居るが、一年で覚えられた奴は私が知る限りお前が初めてだ」
「だからと言って捜査官としての資格と業務を放棄する気はありませんよ」
「ああ、それはごもっともだ。私はお前を説教に来たわけではなく少しでも不審者感を軽減してやろうと思い来た訳だからな」
「ハァ……余計なお世話ですよまったく」
比企谷は不機嫌そうに頭を掻きむしり、胸ポケットからタバコを取り出す。これを見て、平塚もタバコを取り出して加えた。
「まあここは都内でも数少ない、禁煙指定のされていない公園だからな。お前がここを選ぶのも頷けるよ」
火を付けた比企谷を追う様に、平塚も火を付けて比企谷の隣に腰を下ろした。
暫くして、比企谷と平塚は決して焦る事はなく火を消して、自然に立ち上がる。
「お前は勘がいいな、私は五年はかかったぞ」
「まぁ、俺も五年前から訓練してるんで」
「……そうだったな」
二人の視線の先は同じく、子供達を横目に歩く三十代半ば程の男。二人の勘が、その男を喰種だと嗅ぎつけたようだ。
五分ほど追跡した所で、付けていた男がソワソワとし始めた。どうやら付けられているのを察したようだ。間髪をいれず、比企谷は短刀型のクインケを二本投擲。それは丁度その男が逃げ出そう走り出した瞬間だった。二つの短刀は男の脹脛と膝の裏に突き刺さり、踏ん張りが効かなくなって転倒する。
「これが簡単に通る様じゃたかが知れてるな」
急いで立ち上がった男は身構えると同時に赫眼し赫子を出現させる。間違いなく喰種だ。
お構いなしに歩いて詰め寄る比企谷。手に持っていたホワイトケースが変形し、刀剣となる。
クインケ。喰種捜査官が持つ、対喰種兵器。
「油断は禁物だぞ、比企谷」
平塚の言葉をよそに、比企谷はそのまま近付く。喰種が叫び声を上げて赫子を伸ばす。それと同時に比企谷は一気に踏み込み、赫子を正面から切り伏せると一瞬のうちに喰種の胴体を切り裂いた。
絶命こそしていないものの、喰種は力無くその場に膝を付いて胸を押さえる。
「一応聞くが、龍について何か知っているか?」
喰種の顔面に刃を突き付けて比企谷が問う。血を吐きながら荒々しく呼吸をする喰種は、暫く黙り込んだのちに口を開こうとするが、比企谷は喰種の首を落とした。
「……何か言おうとしていたぞ」
「命欲しさの戯言なんかノイズでしか無い。こんなBレート程度の喰種に最初から何も期待してないですよ」
そう吐き捨てると比企谷はスマホを取り出して喰種死体処理を要請する。
命のやり取りにすら、生きる上での全てに渇ききっている。そんな比企谷の背中を、平塚はどこか憐れむような目で眺めていた。
五年前、突如現れた巨大な怪物が一時間にも満たぬ間に千人以上の民間人を虐殺した。数十名の捜査官が駆け付けるも手も足も出ず一方的に打ちのめされ、それ以来一切の情報を掴めずにいる。
その怪物の名は龍。
SSSレート指定の喰種であり、比企谷の妹は龍に命を奪われている。
ーーー
喰種
日本は世界で最も喰種が多く潜み、常にその脅威にさらされている。龍出現との因果は不明だが、Sレート以上の特定指定喰種の個体数が過去最多の危険な状態にある。
比企谷八幡
一等捜査官 175cm 19歳
クインケ
量産型クインケ 刀剣型 Bレート
量産型クインケ 短剣型 Bレート
(二本所持)
性格 無気力捻くれ者
好物 タバコ、甘いコーヒー(甘い物全般)
よろしくお願いします。