この世界は間違っている。   作:ジェローラモ藤

2 / 5
第二話  平塚班

 

 

 CCG江戸川区支部。比企谷八幡はそこに所属している。

 局内にて平塚静率いる平塚班の面々が集合していた。捜査官は基本的に班決めされており、こうして一日一回、ミーティングを行うのが規則である。

 

「てか暑くない?冷房もっと効かせて欲しいんですけど」

 

「マジそれな〜平塚上等おなしゃす!」

 

「ダメだお前ら、CCGは絶賛省エネ運動実施中につき局内の空調は22度の風量1で固定だ」

 

「ああ〜熱中症なるっつーのー」

 

「はぁ、三浦さん。そんなに嫌なら今すぐ帰って良いわよ。病欠にしておいてあげる」

 

「はぁ⁉︎ そんなん規則違反でしょ!」

 

「なら大人しく規則に従って22度の風量1で我慢しなさい」

 

「ま、まあまあゆきのん落ち着いて」

 

「優美子も落ち着け、後でアイスでも食べよう」

 

 

 この様に特に何か大事な話をするわけでもなくただ規則と言うことで集まっている状態である。

 喰種というものは死に物狂いで自身の尻尾を隠す。手掛かりは中々見付からないし大きい事件を起こすことも滅多にない。故に班会議がこの様に井戸端会議状態になるのは捜査官の常であった。

 

 

「おーいお前達、肝心な喰種の話をしないと我々は国民を守る英雄ではなく税金泥棒に成り下がってしまうぞ」

 

「今この瞬間は間違いなく税金泥棒ですよ、平塚先生」

 

「かぁ〜あの真面目な雪ノ下少女がこの会議時間を平然と読書タイムと割り切る人間になってしまうだなんて、やるせないな」

 

 少しむっとする雪ノ下を、由比ヶ浜が宥める。平塚班は総勢八名。平塚上等を班長に副班長に雪ノ下雪乃、第三席に葉山隼人。平班員として由比ヶ浜結衣、三浦優美子、海老名姫菜、戸部翔、そして比企谷八幡。

 

 

「しかし一番問題なのはお前だ比企谷。読書もおしゃべりもスマホで動画を見るのもまだ良い」

 

 由比ヶ浜と戸部は焦り気味にスマホを机に置くが、三浦は平然とスマホを触り続ける。雪ノ下と三浦はというと当然の様に読書。それを苦笑いで眺める葉山。

 

「比企谷、寝るのに関しては本物の税金泥棒だぞ貴様」

 

 椅子に深く座り顔にハンカチを被せたまま比企谷は反応しない。呆れた様に溜息を吐いて平塚はタバコに火をつける。雪ノ下が局内は禁煙だと指摘するがお構い無し。

 

「たまにはお前の意見も聞かせてみろ。この中身のない腐ったルーティンに新しい風を吹かせてみたらどうだ」

 

 少しの沈黙を経て、比企谷は顔からハンカチを取り姿勢を正す。彼もさも当然という様子でタバコに火をつけると、あからさまに嫌がる雪ノ下を横目に窓際に移動した。

 

「Aレート女狐」

 

「ほう……」

 

 興味深そうにする平塚。喰種はレートで分類されており、Sレートを越える個体は特定指定喰種として強くマークされる。逆に言えば、Aレートはそこまで気に掛ける存在ではない。以前、民間人にとって危険な存在であることには変わりないが、優先順位は特定指定喰種に比べ劣る。

 

 女狐は大体三年前から存在していると仮定されている。

 

「女狐は面食いです、筋金入りの。イケメンに拘る癖に食い残しも多い。少しでも気に食わない肉……箇所は絶対に喰わない偏食家だ」

 

 だからなんだという様子で話を聞く面々の中、雪ノ下、平塚、葉山は表に出しこそしないがなるほどと言った様子。

 

「Aレート如きじゃここまで食に余裕は持てない。Sレートはあると見た方がいいでしょう」

 

「なんだお前やっぱり優等生じゃないか!」

 

 嬉しそうに平塚が言うと、雪ノ下は不服そうに比企谷を睨む。当の比企谷は意に返さない様子。

 

 間も無くしてアラームが鳴った。班会議の義務時間終了の合図だ。比企谷は真っ先に会議室を後にした。それに続いて、葉山、三浦、海老名、戸部も退室した。

 

「はぁ、私は奴が心配だよ」

 

 一人呟く平塚に、雪ノ下が本を閉じる。

 

「彼の仕事には正義が無い」

 

「それは感情論だろ?喰種を駆除し人々の平和に貢献する。結果だけを見れば奴はこの班で一番の仕事人だ」

 

 不服そうに雪ノ下は溜息を吐き、それを苦笑いで宥める由比ヶ浜。

 

「だが、私も同感だ。喰種への復讐、憎悪。そういった感情に燃える捜査官は多いが……奴はそれ以外の人生に興味が無い。あの調子じゃ奴は長生きせんよ」

 

 

 

 

 

 比企谷の管轄は江戸川区だが、その中でも主な活動拠点は三つ。どれも喫煙可能の広めの公園である。子供の肉を好む喰種は多く、比企谷はそれを狙い入隊一年で三十体以上の喰種を駆除した。

 

 だがここ数ヶ月は比企谷が縄張りとしている公園周りは喰種に警戒されてしまっていた。

 

 次はどうしたものかと少し悩む比企谷。

 

 今の彼の目的は上等捜査官に昇進する事。そうする事でより大物の喰種の捜査に携わる事ができ、必然的に龍の情報を掴む機会も増えるからだ。

 

「ヒッキー!」

 

 振り向くとそこにいたのは由比ヶ浜。彼女はアカデミー時代から何かと比企谷を気に掛けている。

 共感能力が高い由比ヶ浜は、比企谷の誰よりも強い復讐心と荒んで枯れた精神を感じとり、自ら死に向かい行く彼を放っておけないでいた。

 

「隣いい?」

 

「いいよ」

 

「ごめんね、邪魔だったら帰るからさ」

 

「好きにしろ」

 

 相変わらずの死んだ目で面倒臭そうにタバコを取り出す比企谷。

 えへへ。と苦笑いしつつもどこか嬉しそうな様子で由比ヶ浜は隣に座った。

 

 暫しの無言。客観的に見れば気不味い事この上無いが比企谷はそう言う人間であり、由比ヶ浜にとっては慣れたものである。

 

「ヒッキーは頭が良いし察しも良いし何でも出来て凄いから、私も少しご教示?願おうと思いまして」

 

「そういうのは雪ノ下のほうがいいだろ、あいつの方が俺より頭良いし何でも出来る。何と言ってもアカデミー主席の天才だからな」

 

「そうだけど!ヒッキーからも学びたいの!」

 

「平塚上等もお前もそんなんだから、俺は無駄に雪ノ下に敵意を持たれんだよ。あいつはあれでいて嫉妬深い奴だろ、お前しか友達いないし」

 

 あからさまな嫌味だが、間違ったことは言っていないため由比ヶ浜は苦笑いする。

 

「ねぇ、ヒッキー。死なないでね」

 

「……この仕事向いてねえよ、お前」

 

 汗を流し遊ぶ純粋な子供達と仕事帰りの人々の重い足取り。夏日の夕焼け空に少しだけ涼しい風が吹く。鎮まりゆく街に虚しく響く蝉の鳴き声。

 その風情の全てが、二人の心の温度差を鏡写しに思えた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

平塚静

上等捜査官 170cm 28歳

クインケ

神ノ河 刀剣型 Aレート

 

性格 気さく親父

好物 タバコ、酒

 

 

 

雪ノ下雪乃 

一等捜査官 163cm 19歳

クインケ

量産型クインケ 刀剣型 Bレート

 

性格 生真面目負けず嫌い

好物 紅茶、甘味

 

 

 

由比ヶ浜結衣 

三等捜査官 158cm 19歳

クインケ

量産型クインケ 刀剣型 Bレート

 

性格 陽気温厚心配性

好物 スイーツ、ぬいぐるみ

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。