渋谷のとある人気クラブ。週末につき、広いフロアは大勢の客で賑わっている。その隅の方のテーブルに、平塚班が居た。
葉山と戸部がフロアを歩き、とりあえず良い具合に目立つ。そしてそれを残りの面々が遠くから観察し、怪しい人物を察知する。それが平塚班の作戦だった。
「今すぐにでも帰りたいわ」
「まぁまぁ雪ノ下、これも仕事の一環だ。お前もまだ若いんだから少しは遊ばないとダメだぞ?私がお前らくらいの歳の頃なんか毎日遊び歩いて……。チッ」
「勝手に語り始めて勝手に地雷踏んで勝手にキレないでください」
あからさまに不機嫌になりながら酒を飲む平塚と、呆れた様子の雪ノ下。
「あぁ‼︎ あの女今隼人に色目使ったんだけど‼︎何アイツ⁉︎ アイツ絶対女狐っしょ!」
「優美子私情挟みすぎ」
店内に入ってから絶え間なく葉山の近くを通る女性に敵意を剥き出しにする三浦と、それを軽く遇らう海老名。由比ヶ浜はそんな同僚たちを見てながら笑いしていた。
そもそもここに来るのは葉山と戸部だけで良かったのだが、三浦の提案、もとい葉山を監視したいというワガママで全員で来ることになったのだ。
そんな彼女たちの元に男性グループが近づく。
「ねえお姉さんたち、俺らと飲まない?奢るよ」
下心丸出しのコワモテな男たち。同じ遊び人でも、物腰柔らかい戸部とか大違いだ。
「あ?話しかけないであっち行ってくんない?あーし今忙しいんですけど。見てわかんないの?」
「貴方たちの様な低俗で品性下劣な下等人種が話しかけないでくれる?人生が汚れるので」
そんな男たちは、三浦と雪ノ下の強烈なチクチク言葉に打ちのめされる。流石にそこまで言われれば女が相手といえど黙っていない輩もいる。
「なんだテメェら⁉︎」
男たちの一人が声を荒げる。EDMの音響にかき消されながらも、その一角周囲に緊張が走るが、喰種との命のやり取りに身を置いている捜査官はこの程度の事では何一つ動じない。
今にも暴れ出しそうな男の肩を、背後から何者かが優しく叩く。比企谷だ。
「お客様どうかなされましたか?極力揉め事は控えてもらいたいんですけど。ましてや女性を相手に」
スタッフのなりきりをする比企谷に、男たちは不満気ながら立ち去った。
「比企谷助かったぞ、お前なかなかやるな」
「そろそろ潮時でしょ。雪ノ下と三浦がストレスの限界で爆発寸前です。それに、こんなビジュの良い女達が誰と喋るわけでもなく長時間居座るなんて明らかに不自然ですよ」
「ビ、ビジュが良いって、ヒッキー⁉︎」
「お、お前どさくさに紛れて何を言ってるんだ……」
照れる由比ヶ浜と平塚に、比企谷は意味不明そう眉を顰める。そういうところだぞ、と言った様子で雪ノ下と海老名は溜息を吐いた。
「比企谷くんに賛成よ、良い加減帰りましょう。ここの空気はもうウンザリよ」
クラブを出て平塚班メンバーは少し涼しい風を浴びようととある公園に訪れていた。
「それらしい相手は見つからなかったな」
「と言うより、候補が多すぎて分からないね……」
「てか隼人くん、女の子に絡まれすぎっしょ。マジ羨ましいわ〜。今度また二人で行かね?」
「ふざけんな戸部。隼人に悪い虫が付いたらどうすんだし」
三浦と戸部はほろ酔いと言った様子だ。一番酷いのは平塚で、完全に酔っ払っている。
「良いなぁ貴様らは若くて!もう私はな、戻れないんだよ。畜生‼︎」
「無意味に私たちに当たらないでください」
「そんなの、私が一番分かってんだよこの馬鹿野郎‼︎お前頭良いくせにそんなのも分からないのかこの馬鹿!」
「平塚先生、落ち着いて落ち着いて」
呆れた様子の雪ノ下と、酔い潰れた平塚を宥める由比ヶ浜。近くの自動販売機で水を買ってきた比企谷が、それを平塚に渡すが、平塚はそれを払いのける。
「なんだぁ貴様〜!私を憐んでいるのか?憐んでいるんだよ!この……」
そのままリバースしてしまう。最悪と言った表情で首を振る雪ノ下と、慌てて背中をさする由比ヶ浜。
「もう手遅れでしょうけど酔い止めでも飲んだ方がいいですよ」
そう言って比企谷が平塚の手を引き、駄々をこねる平塚を半ば引きずる様な形でコンビニへと向かっていくのだった。
「ヒッキー、素っ気ないし無愛想だけどすごく気配り上手だよね」
「生まれつきの女たらしって感じだね」
「はぁ?何言ってんの姫菜。あの仏頂面なんか相手にする女、結衣くらいっしょ」
「ちょ、優美子うるさい!」
「はぁ〜?本当のことじゃんー」
おちょくる三浦と、食い下がる由比ヶ浜。それを葉山、戸部、海老名が微笑ましい様子で眺め、雪ノ下は我関せずといった様子で星を眺める。
「あのぉ、そのアッシュケース何ですか?ひょっとして皆さんお金持ちだったりして」
気配無く急に現れたその少女に雪ノ下達は一瞬驚く。栗色の髪をした、非常に可愛らしい少女。見るからに、男に強い女といった印象だ。
「ていうか、さっきアポムに居ましたよね?声かけようか迷ってたんですぅ。女の子が多くてタイミング見つからなくて……でも我慢できず追いかけてきちゃいました」
少女はそう言って葉山に詰め寄る。間髪入れずに敵意剥き出しで反応する三浦だが、少女はそんなのは御構い無しと言った所だ。
葉山は、呆気に取られた様子で苦笑いすることしかできずに居た。
「やっぱり鳩だったんですね」
少女がそう言った瞬間、雪ノ下が量産型クインケ/拳銃型を取り出し、少女の頭に向けて発砲する。
一瞬反応に遅れつつも、全員咄嗟に距離を取りクインケを展開。応戦体制に入った。
「わぁ、凄い判断力。只者じゃないですねそこの綺麗なお姉さん」
少女の脳天に空いた三つの穴から弾丸がメリメリと排出されてカランカランと地面に落ちる。
凄まじい再生力。
雪ノ下達は、その少女が並外れた力を持つ喰種である事をすぐに理解した。否、理解させられた。
「一応、名前を聞いても良いかしら」
「名前ですか?えっとぉ……女狐?」
女狐、Sレート以上。奇しくもこの若い捜査官達の想定は的中する。
ただ一つ、女狐が想定外の力を持つという事を除いて。