1-4 回復期 汚泥とフラッシュ
ああ、おかえりなさい。
ん?どうしたの?私が寝ているのが不思議?
そうね、少し休んでいたわ。でも、本に夢中だったから、結局睡眠は取っていないの。
今日は少し趣向を変えて、物語に身を委ねてみましょうか。
あるところにね。それはそれは美しい姿の、古本屋でアルバイトをしている人がいたの。
ふふ、これだけしか説明が無いのがまた面白いわよね。そう、この人はね、美しいけど女ではなくて、でも戸籍上は、そろそろ若くない歳の妊婦だったの。
意味が分からない?ごめんね。もう少しだけ我慢していて。
アルバイトだから、辞めるのは簡単だし、でも、一言で処理できるそれかと言えばまた違うでしょう?
でもね、その人は働けなくなってしまったの。
とにかく、つわりがひどくてね――
そしてね、なんと驚いた事に、奇跡みたいな事が、とある時に起こったのよ。
その人はね、死んでしまったの。
ね?びっくりじゃない?まさか死ぬと思っていなかったから。
それで、お話は終わってしまったの。
何か、感想、抱いた?正直に語って。
そう。
何も、感じないのね。そうかもね。良い話ではないし、じゃあ悪い話かと言えば、どちらかと言えば《変な》話だものね。
もう少しだけ、聞いてくれる?
その人はね、つわりに耐えつつ、頑張って生活していたの。でもね、最終的な死因は栄養失調だったのよ。
分かるかしら。
つまりね、最後まで吐けなかったのよ。
汚い話かも知れないけれど、その人はそういう体調不良も含めて、一心不乱に出産に向かっていたのよ。なのに、それが途切れてしまった。体が先に壊れてしまった。
その本を読んでね、私は頭がクラクラした。
多分ね、それは衝動。本能。理屈じゃなくて。
本能的に、リプレイをしていた。自傷によって意識を飛ばそうとしていた。
なんでそんな事するかって?簡単な事よ。あまりにもリンクしていたの。
あなたに、深い傷を作ってしまった。
罪悪感から解放されたくて、痛みで失神して、楽になりたかったのよ。
でも、それで少し疲れてしまったから、ゆっくり体を休めていたの。
何だか時系列がおかしい報告かしら。きっとね、ところどころ私も錯乱していたの。
あなたを解析している時は、至ってまとも、問題は無かったのにね。
でも、もう大丈夫。肉体は存在が極めて明確だから。物質的に死なない限りは自我の存在は三人称で保証される。
だから、いい。狂っても戻って来ればいい。
大丈夫だからね。私は大丈夫だから。
ほら、泣かないで?深呼吸して、楽しい事考えて?
私は、エスだから。
また、おいで。
私がベッドから起きたら、またその時は、次の診断をしてみましょう。
何がいいのか。駄目なのか。そうでもないのか。そんな気がするのか。
あまり考えずに、私に教えて。
姿勢が良ければ、窒息は防げるからね。