恋愛要素はまだ出てきません。
読む際はシリーズの注意点を読んでからお楽しみください。
「じゃあ行ってきます!」
「はい、気を付けてくださいねレイラ」
「うん!」
ヒノエの言葉に元気よく返事をすると、レイラ…カムラの里の新人ハンターは疾翔けであっという間に飛んでいく。すると、ヒノエの元にフゲンが入れ違いに訪れる。
「ちょうどレイラが出発したところか」
「里長」
「今回は…寒冷群島でヨツミワドウの討伐だったな」
「アケノシルムを討伐したレイラなら問題ないかと」
「カムラの里の期待の星だな」
「…ただ、やはり不安です」
「オトモを連れていないからか?」
「それもありますが…最近モンスターの動きが不安定なのも気にかかります」
「その報告はウツシとカゲロウからも聞いている、今まで確認されなかった場所に出現するモンスターが多いとな」
「百竜夜行の前兆…なのでしょうか」
「分からん、だが警戒するに越したことは無い…あれから50年、また起きてもおかしくはない」
そう言いながらフゲンは空を見上げる。広い青空に雲が一つ、ゆっくりと流れている。寒冷群島の方向へと。
ーーーーーーーーーーーーーーー
寒冷群島、洞窟前の場所。
「わわっ、風船みたいに膨らんだ!?」
腹部を大きく膨らませたヨツミワドウに驚いて距離を取るのは新人ハンター、レイラ・ネージュ。カムラノ装に身を包み、片手剣…カムラノ鉄片刃で戦っているようだ。特徴的なのは肩まで伸びた雪のように白い髪と真っ赤な目。カムラの里のハンターにしては珍しい名前と見た目だ。
「グェェェ!」
距離を取ったレイラに対し、ヨツミワドウは唸り声を上げながらその巨体で押し潰そうと迫る。
「やっ!」
しかしレイラは軽やかに疾翔けですれ違いながら無防備な横腹を片手剣で斬りつける。
「グェ…グェェェ!」
痛みは感じているようだが、血は流れず赤く滲むだけで終わる。
「やっぱり、片手剣じゃ傷が浅い…って」
レイラは急いで武器をしまい駆け出す。目の前のモンスターが突然跳んだからである。
「その見た目で跳ぶのは反則でしょ!?」
そう叫ぶも目の前のモンスターに通じる訳も無く。仮に通じたとしても無意味だろうが…。ドゴォン、と鈍い音と共にヨツミワドウが着地する。
「あっぶない…」
衝撃で多少よろめきはしたものの、直撃は何とか避けることが出来た。着地したヨツミワドウも反動がきたのか動きが鈍っている。
「やるなら今…!」
飛影…疾翔けをしながら斬りつける、片手剣の軽さだからこそできる鉄蟲糸技だ。
ヨツミワドウの顔面を斬りつけ、駆け上がり…盾で頭上から叩きつける!
「グェ…ェ…」
片手剣とはいえ、落下の勢いと体重をかけた盾の一撃はスタンさせるのには十分な一撃となる。
「大きくなるのはびっくりしたけど…お腹が丸出しだよ!」
スタンで意識が朦朧としているヨツミワドウにレイラは遠慮なく斬撃を浴びせる。膨らんだ腹に切傷が徐々に増えていき、赤い血が流れていく。そしてついに限界を迎えたのか…。
「グェェェ…」
まるで風船から空気が抜けるような声と共にヨツミワドウの口から大量の水などが吐き出され、後ろに転がっていく。よろよろと起き上がるとレイラを見ることなく洞窟へ逃げ出す。
「あ、逃げた!」
疾翔けで後を追いかけ洞窟に入る。レイラは寒冷群島に何回か訪れたが、この洞窟に入るのは初めてだ。しばらく進むと開けた場所に出る。天井には大穴が開いており、光が水場を照らしている。
「綺麗…」
幻想的な光景に目を奪われつつも、目標であるヨツミワドウを探すと更に洞窟の奥へ逃げようとしていた。
「あ、逃がさないよ!」
飛影で素早く距離を詰めると背中まで駆けあがり、鉄蟲糸をヨツミワドウへ絡める。
「グェ…!?」
突然絡まった糸に驚き暴れ出すが鉄蟲糸は簡単に切れない。それどころかレイラが鉄蟲糸をぐいっ、と引っ張ると無理矢理移動させられる。そう、操竜である。そして洞窟の壁に何度も何度もぶつけさせる。レイラが離脱する頃にはヨツミワドウは瀕死になっていた。逃げようともがくが、鉄蟲糸が絡まって思うように動けていない。
そんなヨツミワドウにレイラは近づく。ヨツミワドウの頭部を守るはずの皿は度重なる衝撃で割れている。片手剣を振り上げ…一思いに脳天目掛けて突き刺す。頭骨が阻みはしたが、それも嫌な音と感触と共にしっかりと突き刺さる。何度か痙攣した後、ヨツミワドウは完全に静止した。討伐完了である。
「終わっ…たぁ…」
安心感からかへたり、と地面に座り込む。
ヨツミワドウは動きが分かりやすく、後隙も多かったので戦いやすかった。が、それでも危険度2のモンスター。レイラにとって強敵なのは変わらない。
「そろそろ武器の強化しないとだね…」
カムラノ鉄片刃をしまいながら呟く。防具に関しては既にハモンに相談してある。里に戻ったらちょうど完成している頃だろう。
ひとまず里に帰ろう。そう思い立ち上がり…。
「…?雨?」
足元にぽたぽたと何か液体が垂れている。しかしここは洞窟の中。大穴が天井に開いてはいるが、それは向こうの水場だ。不思議に思い、上を向く。
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時は少し戻り、レイラが里を出発してしばらく経った頃。フゲンは縁台に座るヒノエと雑談に興じていた。すると屋根からウツシが飛び降りてくる。
「ウツシか、どうした」
「里長、報告です…寒冷群島にて未知のモンスターを発見したとの情報が」
「詳しく話してくれ」
「はい、先程里に着いた行商人の話によると寒冷群島を通った際に巨大な蜘蛛を見かけたようです」
「蜘蛛?ヤツカダキがいるだろ…いやヤツカダキが寒冷群島に出現したのも十分大事だが」
「いえ、それが…糸を纏っておらず、ツケヒバキを見ることも無かったそうです」
「ま、待ってください!」
ヒノエが慌てたように立ち上がる。
「寒冷群島にはレイラが…レイラがヨツミワドウの討伐をしています…!」
「…不味いな、仮にヤツカダキだとしたら危険度は7だぞ」
「ッ、俺が向かいます!モンスターはゴコク様に引き続き調査を頼んでいます!」
レイラ…自分の愛弟子が危険と知るなりウツシはフゲンの制止も聞かず…いや、言う暇すら与えずに翔蟲で屋根まで飛ぶと走り去る。
「全く…ヒノエ、俺たちは集会所に向かうぞ」
「分かりました…」
「心配なのは分かるが、ウツシが行ってくれている…俺たちは未知のモンスターを調べるんだ」
「…はい!」
「その心配はいらんゲコ」
「ゴコク殿」
「ギルドから連絡が来たゲコ、蜘蛛…鋏角種の大型モンスターは亜種を除いてヤツカダキ含め二種類しか確認されてないゲコよ」
「となるとそのもう一種類が寒冷群島に出現したということか?」
「それがゲコね…そやつはバルバレやドンドルマの辺りに生息するモンスターゲコ」
「バルバレ、ドンドルマ…もしかしてバルバレクォーツやドンドルマリンの交易元ですか?」
「そうゲコよ、そんなところから来たなんてとても考えれないゲコ…しかし、それ以外に思い当たるモンスターもいないゲコよ」
そう言いながらフゲンに一枚の紙を渡す。
「ネルスキュラ、別名影蜘蛛…」
紙に描かれていたのは不気味な蜘蛛の絵。ヤツカダキは自分の糸を身に纏うが、ネルスキュラはゲリョスというモンスターの皮を纏うようだ。
「危険度は4…か」
ヤツカダキより断然低いが、それでも今のレイラにとって危険度4は逃げなければいけないレベルのモンスターだ。しかも遥か遠くから来たということは何かしら通常種と異なる可能性もある。
「私はミノトとネルスキュラに関して情報を探してきます」
「頼んだゲコよ、儂はギルドと引き続き連絡を取るゲコ」
「なら俺はこのことを里に伝えておこう…万が一のこともあるからな」
その万が一が何なのか、わざわざ聞かずとも分かる二人はただ頷いた。そしてその懸念は現実となる…が、それはまだもう少し先の話…。
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「…え?」
上を向いたまま、レイラは思わずフリーズしてしまう。それもそうだろう。いつの間にか天井に大型モンスターが張り付いていたのだから。そしてその隙をモンスターは逃がさない。白く長い首が伸び、レイラを丸呑みにしようと口を大きく開く。
「っ!?」
我に返り回避しようと試みるが、左足を噛まれる。じゅう、と防具が溶ける音がする。唾液が強酸性なのだろう。このままでは肉まで溶かされてしまう。
「離して!」
懐からクナイを取り出し、何本も頭に投げつける。クナイが突き刺さりうっとおしいのか左足を離し、伸びた首が元に戻って行く。
「っ、連続狩猟はまだ無理…しかもフルフル…!」
奇怪竜フルフル。危険度は2だが、それはあくまで危険度。普段は洞窟に生息している為、里に被害が出にくいので危険度は低めに設定されている。が、戦闘能力だけで言えば危険度は3から4でも不思議ではない。そんな相手にヨツミワドウを討伐し疲弊した体で立ち向かえるわけもなく。
「ここは撤退するしか…」
そう判断し翔蟲を出そうとした瞬間。
「ヴェェァァアアアアア!!!」
咆哮…というには甲高い不気味な奇声にレイラは思わず両手で耳を塞ぐ。咆哮が終わり、ホッとしたのも束の間。フルフルが天井から飛び降り、襲いかかる。
「きゃっ!」
何とか転がり回避したが、フルフルの攻撃は止まらない。頭を下げたかと思うと、口から三つの雷球…電気ブレスを吐いてくる。すり抜けるのは厳しい、ならば…。
「お願い!」
翔蟲で空中に飛び上がり、ブレスを回避する。そして反撃しようと片手剣を取り出そうとし…。
「あ…」
フルフルの目の無い顔がこちらを見ていることに気づく。その口からは既に一つの雷球が吐き出されており…空中で避けようが無いレイラに命中する。
「…っ!?」
バチィ、という音と共に地面に撃ち落される。落ちた衝撃で体が痛むが、それどころではない。動けないのだ。レイラの体はビクビクと痙攣を繰り返すだけで自分の意志で動かすことが出来ない。麻痺状態である。レイラは仰向けの状態で無防備に地面に転がっていた。
レイラの視界の端には涎を垂らしながら近づいてくる捕食者…フルフルの姿が映る。フルフルがレイラに覆い被さると、笑っているようにも見える不気味なフルフルの顔が大きく口を開く。意識があるまま喰われる、という事実がレイラの心臓の鼓動を速める。
「ヤ…」
声を上げようとするが、口からは蚊の鳴くような声しか出ない。体は未だに自分の意志を反映せず、痙攣するだけ。
大きく開かれたフルフルの口が、レイラの頭を吞み込もうとする。
(痛く、ないといいなぁ…)
どこか諦めたようにレイラはそれを見ていた。見ることしかできなかった。瞬きすらできない状況で、ふとレイラは気づく。
(天井に…"何か"いる…?)
レイラからはフルフルが視界の大半を占めているのでよく見えないが、天井に何かが張り付いている。大きさからしてモンスターなのは間違いないが、フルフルは気づいていないようだ。そのまま奇襲して争ってくれれば逃げれるかもしれない…。そう思った瞬間。
「ヴェァア!?」
フルフルが突然奇声を上げながら退く。レイラは突然の出来事に困惑したが、フルフルの口から紫色の液体が垂れているのを見るに毒状態にされたのだろう。
(でも…寒冷群島に毒を扱う大型モンスターは生息してないんじゃ…)
レイラの疑問は正しく的を得ていた。フルフルが退いたのでモンスターの全体像が目に映る。白い、まるで月の光のような色の蜘蛛。六つの目が赤く輝いている。少なくともレイラはこのようなモンスターを知らない。しかし今はそれどころではない。フルフルは天井から攻撃を受けたのを察したのか首を持ち上げている。モンスター同士で争うのならば、その隙に逃げなければ。
「ヴェァア…」
フルフルは唸りながら天井に飛びかかる。天井は自分のテリトリーだ、と言わんばかりに。皮肉にもそれが災いした。視覚の無いフルフルにはその蜘蛛の付近に糸が張り巡されているのが見えなかったのだ。
「ヴェァアァ…?」
突然の浮遊感にフルフルは困惑する。もがいてもより糸が絡まるだけで脱出できない。そんな光景にレイラは驚きを隠せない。フルフルは確かに小柄だが、それでも大型の飛竜種なのだ。そんなフルフルを簡単に捕らえる強度の糸を持つモンスター…少なくともフルフルよりも脅威度が高いのは間違いない。
(急いで逃げないと…)
幸いなことに痙攣は治ったようだ。指も少しずつ動くようになっている。腕さえ動けば翔蟲で無理矢理移動することもできる。
一方のフルフルはもがいても無駄と察したのかバチッ、バチッ、と体全体を帯電させる。電撃で糸を焼き切ろうとしているのだろう。しかしそれを待っていたかのように蜘蛛のようなモンスターは腹部から糸をフルフルの顔めがけて飛ばす。顔を糸で覆われたフルフルは思わず帯電を止め糸を振りほどこうと首を振るが、それで取れるはずもなく。
「嘘…」
レイラが思わず声を出す。声が出せるほど回復できたのは喜ばしいが、それを素直に喜べない状況が目の前に広がる。"文字通り"。蜘蛛のようなモンスターの頭部…口からフルフルを容易に挟み込めるほどの白い大顎が飛び出たのだ。その大顎は180℃近く大きく開き…断ち切るように一瞬でフルフルの首を挟み込む。
バチンッ
まるでギロチンのようにフルフルの首はあっさりと切られた。悲鳴すら上げさせずに。頭は地面へと転がり落ち、空中に残された体は少しの痙攣の後、動かなくなる。
蜘蛛のようなモンスターは大顎をしまうと鎌のような前脚で糸を切り、フルフルの体も地面へと落とす。そして自分も地面に飛び降り…初めてレイラのことを認識する。レイラは何とか起き上がれるまで回復していたが、肝心の腕に痺れがまだ残っている。翔蟲を使えないどころか、片手剣を取り出すことも難しい。走るのもまだ厳しそうだ。
「………」
「………」
無言の時間が流れる。蜘蛛のようなモンスターを見つめて気づいたのは、先程まで赤く輝いていた目が青色になっていることだ。
(落ち着いてる…のかな?)
少なくとも今すぐにレイラを襲おうというつもりは無いらしい。少し後ずさりをしても、特に反応はしない。ならこのまま歩いてでも逃げるべきか、判断に迷っていると遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。
「愛弟子!どこにいる!返事をしてくれ!」
「教官…!」
思わず声の方向に顔を向け、蜘蛛のようなモンスターから目を離したことに気づき視線を戻す。
「あれ…」
しかし既に姿は無く、天井にもいなかった。フルフルの体を持ち去ったのか、残されたのは頭だけ。
「愛弟子…愛弟子!?無事か!?」
洞窟内で呆然としているレイラを見つけ、ウツシが駆け寄る。
「あ、教官…」
「…何が、あったんだ?」
「えっ…と…」
ウツシの目には、討伐されたヨツミワドウに地面に転がったフルフルの頭…そして所々防具を溶かされてはいるが怪我は無さそうなレイラ。いったい何が起きればこうなるのか。
「ひとまず、里に戻ろう…歩けるか?」
「う、うん…」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ネルスキュラの目が赤く輝く。ようやくフルフルを見つけたからだ。どうやらフルフルは食事をしているらしい。ならば確実に殺すためにも奇襲をしよう。天井に張り付き音も無くフルフルの頭上まで来ると腹部から糸を出し付近に張り巡らせる。そして背中の小さな棘から毒液を滴らせる。大社跡で橙色の中型鳥竜種を捕食した時に摂取した毒だ。少し垂らしただけで棘が無くなる程度しか取れなかったが、フルフルには十分だろう。
「ヴェァア!?」
奇襲を受け毒状態になったフルフルがこちらを見上げてくると、まんまと飛びかかってくる。糸が張り巡らされているとも知らずに。糸にかかりさえすれば、後は簡単だ。帯電するのを待ち、顔に糸を飛ばし抵抗できる手段を無くす。そして殺すだけだ。
普段は隠している大顎を出す。棘は使い切ったので毒は出ないが、問題は無い。バチンッ、とフルフルの首が断ち切られる。これでようやく砂原に向かえる。赤く輝いていた目が青色になりながら糸を切りフルフルの体を地面へ落とす。いい加減自分の巣を作らなくては。そう思いながら自分も地面に飛び降り…。
「………」
「………」
目の前の生き物…人間と見つめ合う羽目になる。恐らくフルフルが食べていたのがこの人間だったのだろう。特に怪我も無く生きていることから食われる寸前にネルスキュラがフルフルを奇襲したようだ。もしこちらを攻撃してくるのなら反撃せざるを得ないが…正直ネルスキュラは一刻も早く戦利品を持ち帰り皮を剥ぎたかった。
そもそも人間は可食部が少なく、皮を剥ぎ取っても旨味が無い。その癖、数は無駄に多く報復しに来ることも多い。実際そうなったモンスターを何体か見ている。なので人間と争わないに越したことは無いのだが…。
目の前の人間が後ずさりをする。逃げてくれるのなら好都合、自分も砂原に向かうのでもう出会うことは無いだろう。
「愛弟子!どこにいる!返事をしてくれ!」
「教官…!」
遠くから別の人間の声が聞こえる。目の前の人間もそれに反応し何か声を上げる。何を言っているのかは分からないが、少なくともここにいて良い事は無さそうだ。
フルフルの体を抱え、さっさとこの場を離れる。
…白に赤、やけに記憶に残るのは自分と似た色だからだろうか。ふとそんなことを考えつつも洞窟の奥へ奥へとネルスキュラは進んでいく。
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「レイラ!」
「わっ…」
里に戻った途端、レイラはヒノエに抱きしめられる。
「無事で…何よりです…」
「ご、ごめんなさい」
思わず謝ってしまう。
「怪我は無いようで何よりだ」
「ヒノエ姉様がずっと心配してましたよ」
「ミノトも心配してたでしょ?」
「…はい」
フゲンとミノトも心配してくれていたようだ。
ふと里を見渡すと何やら慌ただしい。
「何かあったの?」
「天候が大きく荒れたのでその対処に皆さん駆け回ってるんです」
レイラの疑問にヒノエが答えてくれる。
「最近のモンスターの行動も気になるからな…念のためだ」
「それで、何があったんですか」
ミノトが肝心の話を尋ねてくる。ウツシには帰り道に話したことをもう一度三人に話す。
ヨツミワドウの討伐、フルフルの奇襲、そして蜘蛛のようなモンスターの出現…。
「そんなことが…」
「そのモンスターは恐らくネルスキュラだ」
「ネルスキュラ…?」
「あぁ、これだ」
フゲンから一枚の紙を受け取る。確かにそこに描かれているのはレイラが見た蜘蛛のようなモンスターだ。
「レイラから聞いた話だと棘や身に纏う皮が無いのが気になるが…」
「棘は獲物から摂取した毒なので使い切った、身に纏った皮は切らしていたと考えればフルフルを襲ったのにも説明がつきます」
フゲンの疑問にミノトが答える。
「確かにそれなら辻褄が合うな」
「…でも、色が違う」
「ネルスキュラの本来の色は白いそうです」
しかしミノトの言葉をレイラは首を振り否定する。
「全部…全部白かった」
「全部というと…模様も無く真っ白ということか?」
「うん…目だけが赤かったり青かったりしたけど…」
「…里長、もしかして」
ヒノエの言葉にフゲンは唸る。
「砂漠に生息するというネルスキュラ亜種はいますが…白ではなく紫色です」
「となると…新種か?」
「可能性はあります」
そんな会話を聞きながらレイラはふと思い出す。あの蜘蛛のようなモンスター…ネルスキュラの月のような白い色を。
「綺麗…だったな」
ぼそり、と呟かれた言葉は誰にも届かず。
太陽は沈み月が顔を出す。今日も夜は来る。
ここから一人と一匹の物語が始まります。